ISO第3世代 35.審査前3

22.12.05

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは

クリスマスツリー
12月となり、ISOの更新審査もあと1週間となった。
困りごと相談とか模擬監査をしてほしいとか相談があった部門の対応は、ほとんど完了した。今回の審査で揉めるかもと思われる監査部は、何度か打ち合わせをしたが、最後の確認をしてほしいといわれて、今日は磯原一派3人がそろっておじゃました。

監査部に行くといつものように早川と島田が対応だ。監査部長は執行役だから監査部だけでなく知的財産管理や関連会社なども担当しており、多忙につき審査には顔を出せないという。それは問題ないだろう。


早川 島田 磯原 佐久間 アメリア
早川 小島 磯原 佐久間 アメリア
監査部のメンバー 生産技術本部のメンバー

磯原 「もう監査部も準備は完ぺきでしょう。問題がなければ話し合うこともありませんが…」

島田 「いやいや、そう言わないで。監査部に来て半年経ちましたので監査するのは慣れましたが、監査されるのは未経験です。本日はよろしく模擬監査をお願いします」

磯原 「それじゃ、行ってみましょうか。一般論では意味がありませんから、例の宮城工場の事例で行きます。
確認しておきますが、費用の流用問題は認証機関にも話していませんからISO審査で話題になることはありません。そのおつもりで。
ですから宮城工場に関して審査で話題になるとすれば、宮城工場は全社の省エネ計画と異なる計画を見せたが、それを監査部監査で見つけていたのかどうか、どのような対策をしたのかということが論点となります」

島田 「承知しました」

佐久間 「とりあえずアメリアが審査員役をやってみなよ」

アメリア 「それでは監査部のISO審査をやらせていただきます。
今年、御社から、私どもの宮城工場のISO審査で説明を受けた省エネ計画が、御社グループが広報している環境行動計画と齟齬があったことに気づかなかったと苦情を受けました。弊社は、ISO審査でそれを検出しなかったのは審査のミスと受けとめ審査員の教育もしましたし、今回の審査にはそれを反映しているつもりです。

さて御社ではISOで要求している環境の内部監査を、監査部監査をもって充てるとしています。その監査部監査ではその問題を検出していなかったのか検出したのか、どのような是正処置をとったのかについてお話していただけますか」

早川 「ええと、誤解があるかもしれません」

アメリア 「誤解といいますと?」

早川 「私ども監査部監査の目的は、会社の業務において法に抵触することがないかどうか、会社規則を守っているか、逸脱していないかの確認です。
ISO審査用にどのような資料を作ったのか、提示したのかは監査部監査の対象外です」

アメリア 「ISO審査の提示物の内容の点検はしないということですか?」

早川 「ISO審査だけでなく、工場の近隣の小学校が見学に来たとき、何を配布したかなど監査対象ではありません」

アメリア 「となると御社の内部監査では、そもそも外部に提示するものをチェックしないのですか?」

早川 「うーん、チェックしないのかと言われるといささかあれですが……」

島田 「ちょっと待ってください。ISOの内部監査の項番では『規格要求と環境マネジメントのために計画された取決めに適合しているか』『適切に実行されているか・維持されているか』を点検することになっています(ISO14001:2015 4.5.5a)。
私どもの監査項目はそれを満たしていると考えます。ISO審査では不適合とするには該当する項番だけでなく、どのshallが該当するかを示さなければならないとされています。いわゆる罪刑法定主義ですよね。
アメリアさんのおっしゃるのは、規格のどのshallが該当しますか?」

アメリア 「うーん、となると見逃す以前に点検する対象ではないということですか……
しかしISO規格ではアネックスでその組織が属するより広い企業体の方針の枠内でとありまして……それが根拠となるのではないのかしら」

手磯原が手を挙げて参加した。

磯原 「すみません投手交代します。
二つ問題があります。
まずアメリアさんが言ったように、工場の方針や計画は全社の方針や計画と整合していなければなりません。これはISO規格のアネックスにありますからISO審査で不適合にする根拠に十分なるでしょう。

そしてまた会社規則では、当社が社外に広報発表、宣伝広告、資料の提示・配布するときは、法規制や過去の広報と問題のないこと、機密情報でないことを確認することになっています。
となると監査部監査では、工場がISO審査や小学校が見学に来たときでも、提示や配布するものを事前点検しなければならない。つまり監査部監査では工場はISO審査で見せるものを全社の方針や広報したものと整合していることを確認しなければなりません。
これはISO審査対象より範囲が広いことであり、決して狭くありません。
アメリアさんは、その二つの観点で切り込まなければなりません。

アメリア 「なるほど……よく分かりました」

島田 「なるほど非常に論理的だ。しかし磯原さんは会社規則すべてをご存じのようだ」

磯原 では、模擬監査に戻ります。
ええと先ほどの早川さんのご説明では、『会社の業務において法に抵触することがないかどうか、会社規則を守っているか、逸脱していないかの確認』とおっしゃいました。
質問ですが、今のご時勢、どこの会社でも社外に提出あるいは広報する資料は、事前点検をすると思います。御社ではそのルールはありますか?」

早川 「もちろん当社では社外広報規則というものが過去より定めてあり、広報前に総務部のチェックを受けることになっております」

磯原 「それには先ほどおっしゃった法に関わる問題、会社方針、セクハラとかパワハラなど点検項目はありますか?」

早川 「もちろんあります。会社規則の……この規則番号3305の第3章ですね」

磯原 「拝見します……これを見ますと社外に配布・発表・提示するものは、そこの総務部門が事前審査することになっています。宮城工場でも事前審査をしていますか?」

早川 「多分しているでしょうね」

磯原 「であれば監査部監査において、宮城工場の社外広報の事前審査の記録を点検していると思います」

早川 「話の筋はおっしゃる通りです。ちょっと待ってください。過去の記録を持ってきましょう」

早川は立ち上がり、事務所の片面いっぱいに並んでいる書類棚に向かう。

島田 「お断りしておきますが、私ども監査部監査もISO審査と同様に、全数ではなく抜取りで行っております」

磯原 「もちろんそうでしょう。でもISO関連について見ていなくても、広報や社外に提出した記録を見ているのかどうかは確認したいですね。
そしてこの問題は昨年と今年だけでなく、数年前からということですから、その間に行われた監査部監査のすべてでISO関係が漏れていたなら、抜取り方法か抜取り数の見直しが必要かもしれません」

島田 「おっしゃることはわかります」

早川が数冊のパイプファイルを抱えて打ち合わせ場に戻ってきた。

島田 「早川さん、ありましたか?」

早川 「うーん、過去4年間に二回ほど宮城工場の監査を行っていますが、一度も社外広報を審査した記録はありません。社外広報の事前点検の記録がないだけでなく、総括に一行も書いてない。もっと調べればメモ書きレベルはあるかもしれませんが」

島田 「今、調べなくてよいよ。でも本番のときどうするかは考えなくちゃならないね。
磯原さんから業務監査ではすべての業務を点検するはずだといわれた。もちろん抜取りになるわけだが。

磯原さん、お話ありがとうございます。確かにISO審査での提示物も監査対象外ではありませんね。抜取りにしても何回も監査部監査をしていれば一度くらい見てなければおかしい。今後、過去の監査でどのような質疑があったのか調査しましょう。
もし記録がなければ監査部の監査項目のヌケが問題ということになりますか」

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島田 aser.gif
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「いや、参ったねえ〜、簡単ではないねえ〜」

磯原 「監査では、すべて等しく点検するのではなく、その『重要性と前回までの監査の結果を考慮して計画する(ISO14001:2015 4.5.5)』というのが基本です。もし以前の監査で問題がなかったならその後は手薄にするのも当然です。
今回の結果で次回から見直すでよろしいわけです。

ただ見つけて見逃していたとか、いろいろあって記録に残していないなど事情があったなら、その判断とか処理が適正だったのか、考えなければならないでしょうね。
ええと、この問題は別に罰則があるわけではありません。とりあえず監査部としては過去の監査結果を調べてください」

島田 「分かりました。今回は現実に問題が発覚したわけですから、過去の事情調査すると共に次回から監査方法を見直しましょう」


******

アメリア 「では次に移ります。総務部のヒアリングで廃棄物管理に問題があったことの説明を受けました。それについて総務部が是正処置としていろいろ説明を受けました。
また監査部が本社総務部と支社の廃棄物管理について、臨時監査を行ったと伺いました。それについて質問します」

島田 「はい、どうぞ」

アメリア 「まず監査部が臨時監査を行ったいきさつをお聞きしたい」

島田 「本社総務部でISO審査に向けて自主的な点検を行ったところ、廃棄物処理委託契約書に廃棄物処理法に定めることは記載されていたのですが、一般的な契約書の要件である支払いに関することの記載がないことが判明したのです。また一部に収入印紙の金額不足がありました」

アメリア 「契約書の内容は東京都や商工会議所でひな形を出していますが、それを利用していないのでしょうか?」

島田 「いやまさにそのひな型を利用しているのですよ。しかし普段いろいろな契約書を作っている者から見ると費用の締め日もないし延滞金の定めもない、紛争が起きた時にどの裁判所を使うかも書いてない、ナイナイ尽くしなのです」

アメリア 「とおっしゃいますと、行政の出しているひな型は欠陥だということですか?」

島田 「まあそうは言いませんが……例えばひな形とは別に取引基本契約書のようなものを締結しているのなら問題ないでしょう」

アメリア 「ひな形の契約書だけでは不足なら、それはやはり問題ですね?」

島田 「少なくても当社としては一般的な契約書並みに必要事項を記載しなければならないと判断しました」

アメリア 「しかし……ええと、廃棄物処理法の要求を満たしていたなら、それは問題なのかしら?」

島田 「ISO14001の審査では環境法規制への適合だけを見るのかもしれません。でも契約書に関わる法律といえば印紙税法もありますし、商法もありますし、暴排条項は条例でしたか……いずれにしても契約書に関わる法規制は環境関係だけではありません。

ISO審査で問題なくても、監査部としては日本の法から逸脱することは問題です。もしトラブルが起きれば、民事訴訟になるかもしれません。
お聞きしたいのですが、ISO審査では規格要求と環境法規だけ順守が担保されれば、それ以外に不備とか違法があっても適合なのでしょう?」

アメリア 「うーん……確かにISO14001審査でセクハラを見つけたとして不適合にするとは思えませんね。審査の過程でそういったことが判明しても、審査報告書にコメントとして記載することになるかと思います

但し今のお話を聞くと、行政が出しているひな形が欠陥品ということになると、ほかの会社でどう判断したらよいのか……認証機関内部の検討が必要ですね。というか行政は問題を認識していないのかしら?」

注1:ひな形が欠陥品というのは言い過ぎかもしれないが、私は契約書の要件を満たしていないと考えている。行政の担当官や企業の廃棄物担当者がどう考えているのか知りたい。

注2:ISO審査時に、対象規格に関わらない法違反またはイクイバレントがあったとき、現実にどのような判断がされるのか大いに興味がある。
以前、某大手認証機関の取締役が、ISO14001審査時にセクハラでも横領でも法違反を見つけたらすべて不適合だと言った。まさに歌舞伎で見得を切るようでカッコいいけど、それほど審査員が法律の知識も検出力もあるとは思えない。
それに不適合の根拠をISO規格以外の法令を根拠にすることができるのか? せいぜいコメントとして問題提起するくらいだろう。
まして弁護士でも監督官庁でもないから、違反だと断定できるはずもない。万が一、判断が誤っていたらとんでもないことになる。

島田 「まあISO審査は規格要求だけでしょうな。環境以外の法規制をご存じとは思えない。いや、我々監査部の者もすべての法律を知っているわけありません。監査部には司法試験合格者もいますが、何でも知っているわけじゃありません。下請法、輸出管理、知財、均等法それぞれ専門がおります。今回の廃棄物処理法についての臨時監査では、生産技術本部の協力を得て行いました」

アメリア 「そこまでは分かりました。その結果と対応はどうされたのでしょう?」

島田 「我々の仕事は、当社及び関連会社の法と会社規則の遵守確認が目的です。ですから総務部の問題の水平展開として当社の支社と営業所について点検を行いました」

アメリア 「御社の工場や関連会社については点検を実施しないのですか?」

島田 「工場は日常廃棄物を大量に出していますので、従来より指導も点検もきめ細かく行っております。
打ち合わせ 他方、本社や支社からは廃棄物はあまり出ませんので、指導も点検も不十分でした。

関連会社には臨時の監査を行っておりませんが、社内に比べると関連会社では管理レベルはワンランク落としています。それは別会社ですから当然でしょう。
関連会社には不具合の詳細を記した資料とチェックリストを配布して、自主点検の実施を要請しております」

早川 「ええと今回の維持審査は関連会社の管理までは対象範囲ですが、その管理レベルは社内と同じというわけではありません。会計が連結決算、環境も連結経営といいましても、基本的に別法人ですから社内のように指示命令はできません。レベル差はあります」

アメリア 「関連会社については了解しました。
総務部の監査部監査において今まではどのような点検をしていて見逃したのか、是正処置としてどうするのかのお話がなかったようですが」

早川 「実を言いまして過去2年ほど、本社ビルからは産業廃棄物を出していないのです。それで契約書やマニフェストなどは点検していませんでした。それ以前はまだ環境についての監査部の認識も低く点検のメッシュが粗ったと考えております。
見つかった契約書はそれ以前のものでした。廃棄物処理委託契約書の保存期間は5年となっていますので……」

島田 「従来は行政の廃棄物契約書のひな型などを利用していましたが、費用支払いのことなど抜けておりましたので、この度生産技術本部が廃棄物処理のマニュアルを作成しまして関係部門に配布しています。今後はそれに基づいて契約などを行います」

アメリア 「マニュアルとおっしゃるのは御社の正式文書なのでしょうか? 正式文書というのは、御社の文書体系に位置付けられていて、配布先の管理とか、最新版の維持、法改正の際の対応など決めてありますか?」

島田 「ちょっとタイム 磯原さん。どうなのでしょうか、教えてください」

佐久間 「私から説明します。マニュアルを作ったのは私です。おっしゃるようにそれは会社規則で定める文書体系ではなく、一過性のものです。管理される文書ではありません。
ですから各部門においては、それをそれぞれの部署の文書として登録するか、該当する業務のみを新たに作成して登録採番する必要があります。
法改正があれば各部門で対応しなければなりません」

島田っ、法改正があれば各部門でメンテしなければならないとは、それは大ごとだなあ〜。今回は一斉点検したけど、継続的にはどうすればいいんだ!」

佐久間 「いや工場の文書などはみなそうしているのですよ。言い方を変えれば本社が廃棄物処理の方法を会社規則として定めても、工場によって決裁ルートとか権限が異なりますから、そのままでは使えません。
ともかく監査部の是正処置としては、配布したマニュアルを各部門で適用できる文書にするよう指示をしたことでしょう。そして今後、監査部監査において実際に部門の文書に展開しているか、法改正があればそれを反映して改定しているかを確認することになります」

早川 「それは各部門が法律の改正をウォッチしなければならないというですか?
それはまた難しい話ですね」

磯原 「いやいや、待ってください。そんな手間はかけさせません。工場もそうですが、今まで法改正があった場合は、私どもが全国3か所くらいで説明会を行っております。今までは工場と関連会社に案内を出していずれかの会場で説明を受けてもらっています。そのとき改定版のマニュアルを配布しています。

今後は本社総務部や支社にも案内を出して出席してもらうということにします。ただ当社の規則としては、佐久間が申しましたように、各部門が改定を反映して維持するという表現になるでしょう」

早川 「なるほど、生産技術本部はそういうサービスをしているわけですか?」

磯原 「本社の仕事は統制とサービスですよ。おっとサービスとは余計なことを余分なことをすることじゃありません。形のない役務の提供です。本社が法改正情報を関連会社や工場にすることは会社規則で定めてあります」

島田 「島田さん、法改正情報はそれぞれの法律の担当が決まっていて、そこが当社グループの関係部署に通知することになっている。今回は本社と支社が通知先に漏れていたということだろう」

佐久間 「早川さんと島田さんの方で、今の話を咀嚼してISO審査ではうまいこと説明してください」

島田 「主旨は了解しました。上手に説得できれば良いのですが」

佐久間 「あまり心配することはありません。もめたときは私が助っ人に出ますよ」


うそ800 本日の言い訳

こんなことに3人も行くのかとおっしゃいますか? いやボケのアメリア、ツッコミの佐久間、仲裁の磯原と考えると3人必要かなと……

ところで佐久間の助っ人とはどんなことでしょうかね? 気になります。


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