ISO第3世代 36.更新審査1

22.12.08

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは

コーヒー 認証機関から審査員の受諾伺いが来た。これは認証機関が今度の審査ではこういう人を派遣しますがよろしいですかという事前確認である。
磯原は審査員の名前を見ても面識のある人などいない。数日前に佐久間にどうするか相談したら、あちこち聞いてみるからといったので検討を頼んだ。その結果を打ち合わせ場で佐久間から聞いていると、二人を見たアメリアが脇に座る。

磯原 「アメリアさんを呼ばなかったのは秘密というわけじゃない。特に関わりがないし興味がないと思ってね」

アメリア 「私、ISO審査関係なら興味があります。ご一緒させてください」

佐久間 「これはISO審査の前に、認証機関から派遣する予定の審査員を、こちらが受け入れるか替えてもらうかの事前確認なんだ」

アメリア 「向こうから通知された審査員を受け入れるとは限らないのですか?」

佐久間 「そりゃそうさ、だって同業他社出身者なら元の会社に情報を流すかもしれない、あるいは今まで審査したところで態度が悪い審査員なら、来てほしくないのは当然だ」

アメリア 「納得です。でも業歴はわかるでしょうけど、今まで態度が悪いかどうかどうして分かるんですか?」

佐久間 「当社と関連会社から、毎回のISO審査の報告書のコピーを本社に送ってもらっている。それを見て、このリストにある審査員がいたら、その工場に問い合わせるのさ。トラブルがあったかどうか、何がなくても次回もその審査員を受け入れるかどうか、一般的な感想とか評判を聞くのさ」

アメリア 「今回の候補者はどうでした?」

佐久間 「審査リーダーの候補は、三木という年配の方だ。彼の審査を受けた工場からの情報では、元々は我々が認証を受けている品質環境センターではなく、やはり大手のナガスネ環境認証機構で審査員をしていたが定年退職して一旦引退したそうだ。しかし彼の元上司の誘いで今の認証機関の契約審査員になったそうだ。
三木良介である
三木である
昔の名前で
出ています

言葉使いも応対も柔らかく、穏やかな紳士だという。
ISO規格の解釈もエキセントリックなところもなく、審査を受けた人が反論すると話し合いで双方の見解を一致させるようにしているという。まあISO認証が減っている今時、態度が大きな審査員はめったにいなくなったがね。
俺は良いんじゃないかと思う」

磯原 「佐久間さんがOKなら私は異存ありません」

佐久間 「それじゃリーダー以外のメンバーだが、最上審査員という人は忌避したい」

アメリア 「ということは、何かあったのですか?」

佐久間 「ええとこの審査員は山口工場で2回、大分工場で3回審査している。いずれからも上から目線の態度で、審査結果に抗議しても一切受け入れないと悪評です。でも工場の人は後が怖いので忌避したことはないらしい」

磯原 「こちらが客で高い金払っているのだから、期待以下のサービスなら切るべきだよね」

佐久間 「まあ磯原さんは職階が高いからそう思うのかもしれないが、工場の平担当者から見れば審査員を忌避したら後が怖いと思いますよ。俺だって工場にいたとき忌避したこともあるけど、そりゃ相当の決断だったよ」

アメリア 「そういうのって江戸の敵を長崎で討つっていうんでしょう?」

佐久間 「アハハ、ちょっと違うね。そのことわざは仕返しが筋違いのことを言うんだよ。最上審査員に名前が似ている別の審査員を忌避するようなことかな。
ええと他の2名は見たところでは悪評はない」

磯原 「佐久間さんがOKなら受け入れましょう。
私は誰が来ようと気にもならないよ。不適合と言われたら、その正否を確認して指摘が正当なら受け入れ、そうでなければ受け入れないだけだ」

数日後、品質環境センターから最上審査員の代わりに寒河江審査員の提案があり、再び佐久間はトラブルの有無を調べてOKすると磯原に言ってきたので磯原は異議なしと回答した。

*どうでもいいこと
寒河江川は最上川の支流である。
最上さんに恨みはありません。私が恨み骨髄なのは〇川審査員です。


******

あっという間に時が過ぎ、今日は更新審査第一日目だ。オープニングは本社で行い、その後、支社・営業所に行く審査員と、本社の審査をする人に分かれ4日目に全員が本社に戻りまとめと結果報告となる。
磯原は過去10回以上ISO審査を受けているが、自分が審査に関わったという認識もなく、毎回ほんの10分程度 省エネ活動に聞かれたくらいだ。
だが過去半年近く準備をしてきたので、初めて審査を受けるという感じではない。慣れたというか特段のことではないと思っている。


オープニングである。
いままで磯原の前任者は当時の環境部長以下、環境部全員と審査を受ける部門の代表、そして審査を受ける支社からそれぞれ1名の出席を求めていたそうだ。そして支社からきた人は、自分の支社まで審査員をご案内という流れだったそうだ。
役員が何人もいて40名もの出席者の人件費と支社からの往復費用を考えると、認証機関に払う審査料金に匹敵してしまう。

磯原は山内と相談してオープニング出席者は事務局としては、山内、磯原、佐久間、アメリアの4名と本社の審査を受ける部門から1名だけとした。それでも20名になる。これだけの人件費だって目玉が飛び出るくらいになる。まあ一歩前進と思うしかない。

寒河江審査員 宮下審査員 朝倉審査員 三木審査リーダー 山内参与 磯原 佐久間 アメリア
寒河江 宮下 朝倉 三木リーダー 山内参与 磯原 佐久間 アメリア
審査員のメンバー
懐かしい顔です。認証機関を替わったのでしょう
生産技術本部のメンバー

リーダーの三木審査員の挨拶である。

三木 「本日から審査員4名で4日間、審査をさせていただきます。私 三木は本日より本社内の部門を拝見し、寒河江、宮下、朝倉の3名はそれぞれ支社と営業所の審査を行い最終日に本社に集まってまとめをする予定です。

過去の審査において御社の全体的な環境活動を考慮した審査を行っていないというご意見を賜りまして、今回は十分御社の環境活動を予習してまいりました。
また御社のISO審査を受ける考え方として、現実をあるがままという方針に変えられたということを承っております。我々もISO規格用語を使わず、観察から始まるプロセスアプローチで審査を行うよう努めます」


******

オープニングはほんの10分程度で終わり、次は経営者インタビューである。事前に調整した通りマニュアルでは経営者としているのは生産技術本部長であるが出席しない。規格改定でなくなったが管理責任者だが、認証機関から届けるように指示があり、管理責任者として届けている山内だけが対応する。
経営者インタビューは、すべて山内参与が受ける。陪席するのは磯原、佐久間である。アメリアは速記係である。

山内参与 「今日から4日間、審査をよろしくお願いします。まずオープニングで三木さんは意見を賜ったとおっしゃいますが、正確に言えば我々は苦情を申し立てたのです。ニュアンスが異なるかと思います」

注:ISO17021-1:2015参照
「異議」とは審査について依頼者(受査企業)が審査過程に申し立てること。審査員の候補者の変更もそのひとつである(9.2.3.5)。
「苦情」とは誰でも認証について申し立てることができる。
この物語の場合、工場の審査が不適切であると本社が苦情を申し立てたわけで、認証機関は、その件に関して調査し、その結果を回答する義務がある(9.8.8)。
「意見」というものは17021-1にはない。

三木 「左様でしたか、内部の連絡が不十分だったようです。それを伺いまして一層厳に審査を行いたいと思います」

三木審査員と山内参与の応酬を聞いても、磯原はそんなことがあったなあと遠い過去にしか思えない。もっとも審査員たちの様子を見ると、今回は悪いところを見つけてぎゃふんといわせるぞと思ってやってきたのだろうと感じた。

審査員は4名で3名が一人ずつに分かれて支社と営業所の8か所を巡る。支社と営業所は全部で31か所ある。3年間で全部の拠点を審査するような話を聞いたことがあるが、そうでもないのだろうか? それとも二人三人しかいない営業所には行かないのだろうか?

三木 「まず今回、御社ではマネジメントシステムを大きく見直したとあります。そのいきさつについてお話しください」

山内参与 「ええと、マネジメントシステムを見直したという認識はありません。三木さんがマネジメントシステムを見直したとおっしゃいますが、我々からそのようなことを通知した覚えがないのですが?

そもそもマネジメントシステムとは会社の仕組みですからISO認証しようとしまいと、ISO規格が改定されようと変わるはずがありません。変わるとすれば事業部制を止めるとか直接販売するとか事業縮小というような変化でもなければマネジメントシステムが変わったといえないように思います」

三木 「今回頂いた環境マニュアルの記載が、前回と全面的に変わっていましたので、マネジメントシステムが変わったのかと思いましたが…」

山内参与 「ああ、そのことですか。従来は虚偽というわけではありませんが、実際の会社の姿ではなく多少ぼかして書いていたということです。
今年春、弊社ではISO担当部署も変わり、関係者が総入れ替えになりました。それで従来の考えを止めて、あるがままを見てもらうということに方針を変えたのです。
従来は弊社の会社規則とISO規格の間にインターフェイス的な文書をダミーでおいて、そのダミー文書をマニュアルに記載して説明していたというのが実態でした。
我々はそういうのは意味がないと考えて廃止しました。直接実際の文書を引用したわけです」

三木 「なるほど、それはまっとうなことですね。でもダミーとおっしゃったのは、単なるインターフェイスではなく実際にはしていないことを記述とかしていませんでしたか?」

山内参与 「確かにそういうきらいはありましたね。泥臭いことをきれいに書いているというのが多々ありました。客観的に見ればまったく意味のないことです」

三木 「具体的にはどういうことがありましたか」

山内参与 「環境側面として審査の際に説明しやすいものを取り上げていたということがあります。本社とはこのビルとか、そこに所在している組織や人ではありません。弊社の事業を決定し指揮する機能のことです。そう解釈すると、本社の環境側面は電気も廃棄物もありますが、最大の環境側面は当然、スラッシュグループの指揮統帥です。

本社の電気とか廃棄物よりも、弊社グループ全体の電気や廃棄物は100倍以上になるでしょう。それをどうするのかという企画や指示命令のほうが大きな環境影響があるのは間違いありません。その環境側面に関わる、法規制、教育、監視・測定、そういったものが抜け落ちていたと言えるでしょう」

三木 「なるほど、それは正論ですね」

山内参与 「正論というのか当たり前というのか。身内を批判するようですが、今までは簡単に審査をやり過ごそうとしていたとしか思えません。
そういう発想でしたから、例えば内部監査もISO14001のために行っていました。当然、マニュアルに書かれた環境側面を見る仕組みだったわけです」

三木 「マニュアルを拝見しますと、今回は監査部監査を内部監査に充てていますね」

山内参与 「会社法などから見て、現実に社内に強制力のある内部監査はそれが基本です」

三木 「これは誠にISO14001のマネジメントシステムの見直しではありませんか?」

山内参与 「どうも三木さんと我々の認識が違っているように思えます。マネジメントシステムは変わっていないのです。今までの審査対応のマネジメントシステムの絵を描いて見せていたのを、あるがままを見せて審査してもらうようにしたということで、弊社のマネジメントシステムは変わっていないのです」

三木 「我々審査する側からすると、頂いたマニュアルに書いてあるものを、その会社のマネジメントシステムと理解しておりますので」

山内参与 「なるほど、確かに書き物から現場を見るならそういう発想になりますね。
ただこの考え方の変更は審査をとても難しくしましたので覚悟はしてください」

三木 「とおっしゃいますと?」

山内参与 「今まではマニュアルを見て審査するのは非常に容易かった。審査の際にマニュアルの項番に書いてある文書の提示をされますから規格要求と会社の文書の対応が明確でしたから。
今回はそうではなく現実・現物をお見せします。そのため規格要求と文書やしていることが1対1でなく、1対複数あるいは複数対1となるものがほとんどです。ですから規格要求との関連は一目ではわからないかもしれない。
審査員は提出されたものを見て、規格要求を満たしているか否かを考えなければなりません」

三木 「まさにプロセスアプローチをしなければならないということですね」

山内参与 「その言葉を存じませんが、規格要求から追うのではなく、現実から規格要求を考えるということならその通りです」

三木 「それは任せていただきます。
では昨年の環境活動から始めましょう。まずはISO認証していた効果などありましたでしょうか?」

山内参与 「認証した効果ですか……実を言いまして、環境目標として挙げているのは法的な規制とか経団連や参加している業界団体が共通の目標としていることなどで、環境側面ごとにどうあるべきかなどと考えて決めたわけではないのです。
企業としてやらなければならないことから、環境に関わるものを環境目標としたというと動機が不純ですが、実情を見ればそうなります。他社さんだって同じでしょうけど。
またオフィスの活動は俗に紙ごみ電気などと言われますが、それも自分たちが種々調査検討をして決めたわけでもありません」

三木 「はあ、そうしますとどのように?」

山内参与 「ビル管理会社からの協力要請です。まあ言い換えると店子の義務ですよ。
内容的には家主が独断専行という感じもありますが、特段反対することもないのですべて受け入れています」

三木 「すると自発的に目標設定したわけではないということですか?」

山内参与 「自発的ではないですね。家主から与えられたものをISOの目標にしたということです。現実問題として賃貸ビルにいる会社はほとんどそうじゃないですか。いえ、悪いことではないですよ。ただ独自に活動項目や改善目標を決めたというところはあまりないと思いますね。独自に目標設定しても目標が二重になってしまうから良くありませんし、
おっと、建前は違うかもしれませんね。自分たちが検討して決めたことにしていると思います。でも指し値を与えられたとしてもいいじゃないですか。ISO的に言えばその他の要求事項でもありますし。

環境目標というとどこも省エネ、廃棄物削減、社会貢献とかでしょう。紙ごみ電気というくらいですから。テーマは似たり寄ったりです。もちろん法的な縛りもありますから悪いわけではありません。
ただISO認証していようといまいと、テーマも同じ、目標も同じということです」

三木 「なるほど、そういう意味では認証の効果はないということですか」

山内参与 「ISO14001の意図は、遵法と汚染の予防と聞きます。その意図は至上であると理解しておりますし、実現しなければなりませんが、ISO認証の有無とは関係ないように思います」

三木 「まあそうだとしても、ISO認証していれば、常なる進捗フォローやフィードバックによって達成する仕組みがあるということですか。認証していることによって達成できるなら効果があるといえるでしょう」

山内参与 「とはいえ法的な規制などは達成しなければペナルティがありますから、ある意味ISOよりも強制力があります」

三木 「なるほど……では先ほど山内さんがおっしゃった環境側面を、工場や関連会社の統制と考えたほうがやりがいがあるということですね」

山内参与 「やりがいというか……それが真実かと思います」

三木 「具体的には、どういう目標になるのでしょうか?」

山内参与 「省エネでしたら弊社グループの環境行動計画で、グループ全体で生産高比で年1.7%減くらいを目標にしています。とはいえこれは全工場、全関連会社一律ではありません。省エネ法でも定めていますが、グループ全体として達成すればよいわけです。
ですから将来性のある分野や工場に投資して省エネを図り、将来性のない事業においては手を打たないということもあります。そういうことのコントロールタワーとしての存在が本社の意義であり、本社の環境側面であり本社の目標であると考えています」

三木 「なるほど、しかしそうなりますと、単に環境という観点で目標の割り振りとか目標値が決まるわけではありませんね」

山内参与 「おっしゃる通り、環境が特別なわけではなく、事業を推進する上での制約条件の一つにすぎません。ですから当社の事業全体というか全側面を考慮して目標とすべきか否かが決まります。もちろん法規制は守らなければなりません」

朝倉 「すみません、質問させてください。環境目標を決める際に事業全体を考慮するという趣旨は良くわかります。とはいえ、そうするとISO14001の範疇では決定できないということになりますね」

山内参与 「もちろんです。グループ全体の電気使用量を生産高比1.7%下げるとしても、弊社グループでは多様な製品を作っていること、その中にはプロダクトライフサイクルのどこにあるかも違いますし、市場における地位も違います。
導入期で第一集団にいる製品もあれば、衰退期のトップもあるし、成長期の落後者もある。そのとき成熟期のメジャーをトップにしようとするのが第一目標ですが、衰退期であれば早期撤退とか落穂拾いとか経営的な判断があります。それによって環境投資も結論が決まります」

朝倉 「おっしゃることは良く分かります。しかしそれはもはや……どうなんでしょうか、経営全体の話となり、環境マネジメントという範疇では何も言えなくなってしまいますね。
簡単な例を挙げればA工場では過去10年間環境投資していないことの是非は、環境問題ではなく経営問題となり、外部の者に判断ができません」

山内参与 「そうなりますね。というかISOに関わりなく、環境の観点だけで決められることなど元々ありません。
省エネは省エネ法がありますから、仕方なくというと語弊がありますが、否が応でも削減するしかない。しかし新しい工場で省エネを図り、古い工場は閉鎖するまで手を打たないといのはISOとは無縁の経営判断です」

宮下 「そうしますと工場での環境側面と、本社で考える環境側面の意味合いは異なるのではありませんか?」

山内参与 「工場の環境側面だって同じことではないでしょうか。いかなるものでも一つのことだけ考えて、対策を決めることなどできません。
ええと……例えば騒音のでる設備があるとしましょう。近隣に迷惑をかけないように防音とか遮音を考えるという発想もありますが、大局的に見ればその製造を山奥の工場に移管するというのもありでしょうし、自分のところで作らず購入にするというのも経営判断です」

宮下 「自分のところで作らずよそで作らせるというのは、環境負荷を外に出しただけで、なにか怪しい感じですが」

山内参与 「そんなことないでしょう。作っている会社は遮音とかにお金をかけた設備にしていて、その費用を製品に転嫁していると考えればおかしくない。買う我々はその分高くなっても、自分が設備に投資するよりも良いと考えただけです」

三木 「話を戻すと、本社の環境側面とか設定すべき目標は分かりました。しかしそう考えたとき、工場と本社と別個でなく一体でISO認証すべきではないのでしょうか?」

山内参与 「いやいやマネジメントシステムというものは、ひとつのものではないですかね。ISO規格を良く読めば、環境マネジメントシステムとはシステムではなく、マネジメントシステムの環境部分であると書いてあります。
マネジメントシステムは一体であり分割するなら業務単位が下位システムになるのではないですか。環境マネジメントシステムはマネジメントシステムの下位システムではありません。一部ではありますが」

宮下 「環境マネジメントシステムがマネジメントシステムではないとは不思議なことをおっしゃる」

三木 「いや、私も環境マネジメントシステムとは組織のマネジメントシステムの一部ではあるが、システムではないと考えているよ。規格を良く読むとそうとしか思えない」

注:ISO14001:2015の定義で環境マネジメントシステムとは「マネジメントシステムの一部で、環境側面をマネジメントし、順守義務を満たし、リスク及び機会に取り組むために用いられるもの」である。マネジメントシステムの一部であって、そのものがシステムとは言ってない。
そもそも環境マネジメントシステムに含まれる様々な要素は、お互いに無関係なものも多い。

宮下 「ほう〜、そうなのですか」

山内参与 「環境マネジメントシステムはマネジメントシステムではない。しかし工場は企業のマネジメントシステムの下位システムであることは間違いない。
システムには階層があります。自動車を考えれば、輸送機関としての自動車がある。下に見ていけば駆動システム、エンジン、ミッション、トランスアクセルとなるだろうし、上に見ていけば運行システム、道路のシステム、交通システムとか考えられる。
企業グループを一つのシステムと見てもいいし、企業をシステムと見てもよく、工場とか製品単位でビジネスシステムも考えられる。だから認証する範囲は一意には決まらない」

三木 「なるほど。しかし本社の環境側面が全社の統制であるなら……」

山内参与 「近年、ホールディングカンパニーという形態が流行っているけど、全体の統制だけ独立したほうが業務推進上効率的とかいう事情があるのではないか」

注:ホールディングカンパニー制度のメリットは、親会社は経営戦略を考え、子会社は己のビジネスに専念できるからと言われる。また税金戦略(要するに節税)にメリットがあるそうだ。

三木 「ということはグループ全体をまとめて認証することはないということですか?」

山内参与 「そう思います。今まで地域的な区分で認証されていた理由は、いろいろ考えられる。
一つは元々QMSでもEMSでも顧客あるいは販売する国によって要求されたことから認証は始まった。認証するにも金がかかる。なら最小限で認証したいというのは経営上当然の判断だ。
また今現在、マネジメントシステム規格というものがたくさんある。それぞれ守備範囲が異なり、将来的にはISO26000のようなものに統合されていくだろうと思うのは自然な見方だろう。最終形が見えてないなら、はっきりするまで余計なことをしないのも経営判断だ。

そして現状の地域的に独立した認証形態で、大きな支障はないこともある。
もう一つ私が考えているのは、今までのようによそ行きの姿を見せて認証する方法から、あるがままを見てもらい審査を受けるようになれば、認証範囲など無意味になるだろう。もちろんそのとき審査員は規格から見るのではなく、現実を見て規格適合を判断できなければならない。
そしてそういう発想の延長上にあるのは、ISO認証は必要ないという発想になるように思う」

三木 「そういう発想を進めていけば、認証無用論となりますね。
山内さんはゆくゆくはISO認証を止めるというお考えですか?」

山内参与 「今、弊社の本社・支社の更新審査を受けている。4名で4日、旅費や宿泊などを込みすると審査費用は300万くらいと聞く。もちろんそればかりではない。外部流出費用として弊社の審査対応の旅費や会議室使用料などがあるし、内部費用として人件費だって二三千万いくだろう。
その結果、いかほどのメリットがあるでしょうか?今のご時世、製造業の経常利益率は1%少々ですよ。弊社グループのISO14001認証の費用は社外社内合わせれば数億ですから、売上が500億くらい増えないとペイしません」

三木 「まず一つには環境経営度調査などでランキングが高ければ御社のブランドイメージは上がるでしょう」

山内参与 「現実はどこもかしこもISO14001を認証していますから、プラスになることはありませんね。じゃあなければマイナスかといえば、既にISO認証を卒業したと語っている企業もあり、マイナスにもなりそうない。

一般市民がISO認証を見て、購買の参考にするかといえば、まったくない。
三木さんが考えて、ISO認証と売上がリンクしますか? まずありませんね。三木さんの奥様が、ISO認証の有無を見て、スーパーや家電品を選んでいるはずがありません。
環境経営度ランキングなど並みであればよいのであって、1位2位を争うものではありません。そして今時は日経の環境経営度ランキングの影響力はたいしてありません」

朝倉 「ISO認証すれば、法を守り事故が起きにくい評価を得るのではないのですか?」

山内参与 「過去20年間、ISO認証企業が違反をすると、マスコミで叩かれるだけで何のメリットもないようですね。 認証していればこれだけは間違いないというメリットがあるのでしょうか?」

宮下 「審査を受ければ、法違反などをチェックしてくれるとはお考えなさらないのですか?」

佐久間 「口を挟ませてください。弊社で審査を受けるスタンスを変えたトリガーはご存じと思います。オープニングで三木さんがおっしゃったように、弊社の工場が弊社グループの環境行動計画を遵守していない計画をISO審査で提示して、それを不適合としなかったことが発端です。

そういう問題を見逃していること、またISOの登録証には法順守は保証しないと記載されているように、ISO審査は遵法点検ではないのは明白です。
審査で法違反をチェックしているとは言えません」

宮下 「まあ、そうですけど……」

三木 「ということはISO認証はメリットがない、大金がかかるとなると、認証はしないという結論になるわけですか?」

山内参与 「そういう結論になるでしょうね。今回の審査で、私どもが認証をしている意味がある、あるいは審査を受ける意味があると認識するようなものを期待しております」


なし崩し的に経営者インタビューは終わった。
三木がまともな人なら、山内参与の話から何かをつかんだろうとアメリアは思う。彼は既に一度引退していると聞いたが、暇つぶしの小遣い稼ぎならこれを終えたら忘れてしまうだろう。どうなんでしょうか?


うそ800 本日の心境

私は過去、経営者インタビューなるものは100回以上陪席した。
審査員の8割は、有名な工場長とか社長の名刺を押し頂いて、お世辞的な質問をしておしまい。2割は、俺は偉いんだ何でも知っているんだ的な発言をしておしまいだった。
経営者インタビューって実がないね いずれにしても経営なりに役立つようなお話は聞いたことがない。もちろんこんな雑談に近いが、ISO認証の意味を考えるお話などまったくなかった。

受査企業の本音を聞いて、それに見合った審査をするくらいが最低ラインじゃないだろうか。
ウチは認証だけほしいので形だけ見ていただければ結構ですというなら、それに見合った審査をする。規格適合をしっかり見ろよと言われたら、節穴でなく目を土管にして見るとか。
本当は遵法点検をしてほしいところだけど……制度的にも力量的にも無理だよね。


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秋池様からお便りを頂きました(2022.12.08)
先日、ご尊顔を拝しましたが、やはり登場しましたね。
いやあ、三木さんにお会い出来ましたね。
三木さんは素晴らしいスキルをお持ちの紳士ですので、今後の現場での展開が楽しみです。
佐田さんは、登場されないのでしょうか?

おお!私を待ってた
人がいたとは
ありがたいことです

三木
毎度お便りありがとうございます。
過去の作品の設定では、三木さんは2013年に64歳で引退しました。今のお話は2016年の設定ですから、三木さんは67歳、審査員としてはまだ現役でもおかしくない年齢です。
佐田氏は2014年62歳で引退してます。となると2016年では64歳でまだ元気そうですが、審査員でなく一般サラリーマンでは働いているものでしょうか?
どういう状況で出会うのかアイデアあれば教えてください。
年齢設定はそれぞれの物語の目次のグリーン部分に書いてあります。


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