ISO第3世代 8.工場に行く

22.08.01

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但し引用文献や書籍名はすべて実在のものです。


ISO 3Gとは

ISO審査で全社の環境行動計画と違うことを見せている工場があるという問題は、割と簡単に解消できた。
山内参与
山内参与
ついでに認証機関に対しても、当社においてISO審査は普通の役務契約にすぎず、その品質はウオッチされていることは伝わっただろう。審査の品質が悪ければいつでも転注しますよという意思も理解されただろう。なにごともフィードバック機構がなければ自浄作用はない。おっとそんなことは1987年のISO9001初版の序文に書いてあったことだ(注1)
山内参与は雨降って地固まるという通り、工場がちょっと悪さをしてくれたおかげで認証機関が身を引き締めただろうとニンマリした。


磯原が本社に転勤してから2か月が経ち6月となった。転勤してきたときは自分の仕事は会社の省エネのとりまとめとか報告の担当と思っていたが、現実はまったくそうではなかった。

磯原
磯原

情報収集や報告書作成の定型的な業務は、情報システムがやってくれる。関連会社を含めたスラッシュ電機グループのエネルギー使用状況の数字の集計は、完全に電子化、自動化されていた。省エネ法に該当する企業や事業所は(注2)毎年7月に前年度の実績を集計し行政報告するのだが、スラッシュ電機グループでは期限までどころか年度明けにはしっかりとデータだけでなく報告の書式ができあがっている。
磯原は提出の催促とか疑問点の問い合わせなどでアタフタすることはまったくない。その数字が適正なのか検討して、問題なければ決裁の伺いをするだけだ。

そしてまた具体的な省エネ策の検討は、生産技術研究所の担当部署が最新技術や市場の新製品などを調査している上に、改善に使えそうなものがあれば研究所が手配して評価している。
もちろん工場で実地試験をする際に、磯原が同席することもあったが、業務のメインはそういうことではなかった。


では磯原が何をしているのかというと、9割は山内参与の手足となって動くことであった。山内参与は省エネ法でいうエネルギー管理企画推進者であるが、それもまた山内参与の仕事の一部でしかない。

大川常務
大川常務
彼の職務は大川常務のスタッフであり、常務から命令されたことを、調査、企画、そして執行することである。まさに師団長(生産技術本部長)である大川常務の参謀(スタッフ)なのである。

大川常務には数名のスタッフがいてそれぞれ役割分担をしている。山内参与の担当は製造と環境に関することである。ほかのスタッフは開発、ロジスティクス、情報システム、などを分担している。
そんなわけで磯原は次に何を指示されるのかと、ハラハラ半分、ワクワク半分で仕事をしている。


毎週1回、朝一に山内参与と磯原は打ち合わせをすることにしている。

磯原 「省エネ法の報告ですが、既にデータはまとまっているのですが、内容を見ているとちょっと引っかかることがあるのです」

山内参与 「どんなことだろう?」

磯原 「昨年度けっこうな額の省エネ投資をしています。投資をした工場では計画通り、電気使用量が減っただろうと期待して見ているのですが、効果が明白でない工場がいくつかあります」

山内参与 「ああ、それは俺も気にしているよ。それと別件だが、省エネの数字が下がっていても、本当に下がっているのか人為的にいじっているのかが分からない。
そもそも当社グループの電力使用状況を毎月把握して是正の早期化そして行政報告の自動作成を目的に情報システムを作ったのだが、あれって信頼できるのかな?
工場が毎月インプットしている数字が正しいという保証はないのだろう?」

磯原 「もちろんインプットする数字は電力量計からオンラインではなく、担当者が打ち込むわけで数字はいじれるでしょう。でも最終的に支払った電気代と使用電力のズレがあれば経理から指摘されるでしょう」

山内参与 「それは自動的にコンペアされるのだろうか?」

磯原 「それはないですね。ただ工場の月毎の支払いや、年度毎の損益計算では気が付くでしょう」

山内参与 「誰でも気付くものなのか?」

磯原 「難しいですね。例えば月の生産高と電力量はタイムラグもありますし、それに変動要因が多々あります。契約した電力量をオーバーすると電気代が高くなります。その他にも気温の変化もあるし、生産変更もありますし、そんなわけで月々の生産高と電気代が比例していないから異常とは言えません。
少々数字を書き直しても異常に気づくかどうか……まあ1割も違えばだれでも気づくでしょうけど」

山内参与 「さっきの話だが、一番おかしいと思うのはどこだ?」

磯原 「当社の30か所の工場で、昨年度大きな省エネ投資をしたのは8工場あります。そのうち引っかかったところが3工場で、一番おかしいと思うのは宮城工場です。
起業投資企画書には立派な改善効果が書いてありましたが、実績は程遠いです」

山内参与 「まあ計画はいかにも効果があるように書くのは常だからね。
今より少し良くなる程度なら金は出ないから、鉛筆をなめて作文するのは磯原君もしてたんじゃないか?」

磯原 「そうではありますが、どうもそれだけではなさそうです」

山内参与 「どういうこと?」

磯原 「端的に言いますと認許を得たものと違うことをしているのかもしれません」

山内参与 「具体的には?」

磯原 「仮定の話ですが、新設備を導入したい、しかし投資効果などから認められそうにない。ならば今の時代は省エネが至上命令だから、省エネ設備を入れる計画で認許を受けて、そのお金で目的の設備を導入し省エネには少々手を打ってお茶を濁すとか……」

山内参与 「磯原君がそういうことをしてきたような口ぶりだね」

磯原 「え〜、誓ってそんなことはありません」

山内参与 「そういうことは簡単にできるのかね?」

磯原 「担当者レベルでは無理です。少なくても工場長以下関係者が申し合わせてないとできません。注文書、現品の受け入れや工事、固定資産の帳簿などに携わる人が多すぎます」

山内参与 「経理は絶対巻き込まないとできないな」

磯原 「工場の経理は巻き込まないとなりませんね。でも本社経理は細かいことは見てないでしょう」

山内参与 「経理や人事は工場長の命令より、本社の経理部や人事部の指示で動いているのではないのか? ある意味、本社の目付(注3)だからな」

磯原 「でも少々の金額なら工場の裁量範囲と考えるのではないでしょうか?」

山内参与 「少々とは?」

磯原 「まあ〜1憶とかですかね」

山内参与 「おいおい、1億は少々ではないぞ」

磯原 「おっと、今までの話は私の独り言です。忘れてください」

山内参与 「俺も独り言を語るが、君に聞こえてしまうかもしれん。
さっき磯原君が昨年省エネ投資をしたところで、宮城工場が一番問題ありそうと言ってたな。実を言って俺も気になっていた。
投資したが計画通りの成果が出ないとなれば、生産技術研究所などに協力を要請するはずだが、そんな気配もない。となると元々省エネ効果が低いことに投資したのか、それとも投資していないかだ」

磯原 「私が感じたことなど、山内さんは既に把握済だったのですか?」

山内参与 「君はそれに気が付いてなにもしていなかったのか?」

磯原 「今月末に経済産業局に報告してから宮城工場を視察に行こうと考えていました」

山内参与 「今年2月に監査部が宮城工場を監査している。怪しいことがあれば監査部が見つけると思うが」

磯原 「監査部監査では、投資の状況、固定資産の登録、現物の確認などチェックするでしょうけど、現物を見ても内容が理解できないとか、本当に効果があるのか分からないかもしれません」

山内参与 「そうかもしれんね。明後日に宮城工場に行く。君もだよ」

磯原 「明後日? 山内さんは私と話す前から決めていたのですか?」

山内参与 「本来なら省エネ監査とか言いたいところだが、そういう制度はないから、当社のエネルギー管理統括者である大川常務の代理で視察するという公文をさっき俺が出した」


東北新幹線

新幹線で仙台まで2時間少々、そこから在来線で20分のところにスラッシュ電機宮城工場はあった。東日本大震災では建屋が損壊したり危険物保管庫で火災が起きたりしたが、5年経った今はすべて修復されている。ただ事務所棟脇に広い更地があり、以前そこに建物があったことが分かる。

山内と磯原は事務所棟を通り過ぎ、製造管理部を訪れた。対面は工場長、製造管理部長の米山部長、環境管理課長、担当者とそうそうたるメンバーが待っていた。
常務の名前で通知があり、工場長と同格以上の山内参与が来る、それも突然となれば、工場長以下、何ごとがあったと考えるのは当然だ。

工場長は挨拶だけして退席した。忙しい体だ。出席してもらうことはない。

山内参与 「突然なことで大変申し訳ない。昨年度の行政報告案の内容を私どもでチェックしておりました。行政報告する前に不明点を解消しておきたいので今回の訪問となりました。
昨年度は大きな省エネ投資を行った工場は、ここを含めて8工場ありました。いずれも投資効果や老朽化設備の更新などの目的があり行ったわけです。
この工場では省エネ法対応として、受電設備と構内配線の近代化、空調を要する生産施設の断熱とエアコン更新と建屋全体の管理システム導入そして太陽光パネルを400kW設置となっています。
その改善効果は投資計画書に書いてありますが、実績を見ますと計画書ほど効果が出てないようです。それで経済産業局に報告する前に、この工場の実態を確認したい。
まずは投資した現物の実地確認をしてから、状況説明と対策をお聞きしたいと考えております」

米山部長 「まあ予定は未定にして、なかなか計画通りいかないこともあります。ともかくご趣旨はわかりました。それでは私が現地を案内いたしましょう。
あのさ、課長、会議室に投資計画とか実績などを用意しておいてくれないか。他のみんなも課長を手伝ってくれ。現場案内は私一人で大丈夫だ。1時間くらいで戻ると思う」


ヘルメット 米山部長と山内参与そして磯原がヘルメットをかぶって表に出る。投資計画からすると、まずは受電設備だろうか? 工場が古く構内の電力系の配線が継ぎ足し継ぎ足しできており、更に大震災後の復旧がまた応急処置だった。それで将来を見据えて受電施設を更新して、そこから各建屋までの主配線を引き直すということだった。

らせん階段 3階建ての工場建屋で立ち止まり、外壁のらせん階段を屋上まで登るという。部外者がらせん階段を登れないように、階段の周囲に格子が取り付けてあり、入り口に鍵付きのドアがある。
米山部長はドアのカギを開けて階段を登りだす。山内と磯原はそのあとに続く。
屋上に上がると、周囲は手すりしかないので見晴らしがいい。工場は仙台平野の端、山麓にあり片側は山並み、反対側は遠く仙台市街が見える。
屋上の半分に屋上緑化のプランターが並んでいて、残り半分に太陽光パネルが並んでいる。

米山部長 「屋上緑化は震災後の補修工事の際に行いました。今回の対象は太陽光パネルです」

磯原 「私も福島工場で屋上緑化をしましたが、ここはだいぶ寒いでしょう。枯れたりしませんか?」

米山部長 「雪はそれほど積もりませんけど、結構寒いです。この植物は雪も寒さも大丈夫という振れこみでした。設置して3年ですが、いまのところ問題はありません」

磯原 「ええと計画では太陽光パネルは屋上全面で4,000平米でしたが、これを見ると屋上の半分で4,000平米はありませんね?」

米山部長 「ええせっかく屋上緑化しましたので、太陽光は屋根の半分の2,000平米に修整しました。
太陽光の業者は2000平米なら130から200kWといいますが、まあいいとこ100kWですかね。でも太陽光発電の目的は発電よりイメージアップですから。
それに元々この工場が小規模といっても100や200kWでは意味がありません。そんなわけで屋上全部に太陽光パネルを敷くこともないと計画を修正しました」

山内参与 「なるほど、まあ、そうでしょうねえ〜」

この話を聞いておかしいなと思う人はいるだろうか?
米山部長の話にはおかしなところはない。だが発電した電気が必要な電気の何割になるかという疑問を持たないだろうか?
上に書いてあるように2000平米で130kWということは、平米65Wになる。65Wでいかほどの面積で消費する電力を賄えるのか?
工場の場合は業種によって大きく異なるから、オフィスビルで考えてみよう。一般にオフィスビルで必要な電力は、平米当たり、空調に155W、コンセント50W、照明4W程度といわれる。合計するとオフィスビルの平米当たり必要電力は210Wになる。
つまりオフィスの電気を太陽光発電で賄おうとすると、オフィス面積の3倍の太陽光パネルを必要とする。もちろん太陽が顔を出している場合でだ。
平屋のオフィスビルはない。仮に10階建のオフィスビルとすれば屋上全部に太陽光パネルを敷き詰めても、必要な電力の3%にしかならない。ビル壁面に太陽光パネルを付ける方法もあるが、太陽を向いていないと発電も少しになる(注4)。
これが工場なら機械設備にもよるが賄う割合は更に少ないだろう。
自然エネルギーの現実は厳しい(注5)再生可能エネルギーで化石燃料いらずなんて語っている人は、何を考えているのだろう?

米山部長はしばらく何も語らず屋上を見ていたが、やがて山内参与に真正面に向い口調を変えて話し始めた。

米山部長 「山内さん、あのうお芝居はやめて本音を語りませんか。お二人がどんなご用件で来たかは想像がついております。
昨年太陽光パネルを設置したとき、無断で企画書の半分にしてます。それと建屋の断熱改善工事とエアコン更新はしておりません」

山内参与 「なるほど、それですと1億くらい浮いたはずですね」

米山部長 「三年前に板金の自動化ラインを入れたのですが、製造している製品が変化してNCボール盤などを追加する必要が出てきたのです。加工範囲が大きいものが必要で、トランスファーとかいろいろありました。それで、省エネ投資を転用したのです」

注:トランスファーとは自動機械で工作物の着脱や搬送をする装置。

山内参与 「今年春先に監査部監査がありましたが、そのときはどうしたのですか?
監査部が見つけなかったのか、見逃したのか?」

米山部長 「うーん、どうせ遅かれ早かれ分かってしまうのでしょう……
監査に来た人たちに状況を話して黙認してもらいました。但し監査員だけ決めたのでなく、監査部長に相談して了解を得たと聞いております」

米山部長は経過の概要と、何をやめて何を代わりに行ったかを説明した。
屋上に来たのは人に聞かれたくなかったかららしい。

山内参与 「米山部長、話は分かりました。一応投資計画のあった場所と、それから代わりに導入した現物を確認したい。それから事務所に戻ってそれらについての資料を拝見したい」

その後、工場を歩くのに1時間、資料説明2時間で終了した。
終了時のまとめでは工場長は外出したとのことで欠席である。
山内は予算の転用は看過できないこと、監督部署に報告することを告げて終了した。

東北新幹線

翌日である。山内参与は朝から席におらず、本社のあちこちを歩いているようだ。

翌週になって山内が磯原を呼んだ。
今回の場所は本部長室の中の会議室である。平の磯原にはいささか恐れ多いところだ。
そこには生産技術本部長の大川と磯原の知らない方がもう一人いた。大川常務とは転勤初日に挨拶しただけだ。
大川常務が磯原に、もう一人は法務部の吉田部長だと教えてくれた。大川常務と同じく常務執行役だ。磯原は自分がここにいるのが場違いと感じた。

山内参与 「メンバーそろいましたので報告いたします。 発端は省エネ法に基づく報告からでした。省エネ法では一定以上のエネルギーを使用している事業者は省エネする義務があり、毎年7月までにエネルギーを削減した成果を行政に報告することになっております。また省エネ法では、会社はエネルギー管理体制を作り届出することを定めており、当社ではエネルギー管理統括者として生産技術本部長の大川常務、実行担当のエネルギー管理企画推進者として私を届出ております。

当社では各工場や研究所のエネルギー使用状況を月次で本社が把握して、それを取りまとめて経済産業局に報告します。
データは自動的に集計されますが、その数字が過去の実績や省エネ投資などから適正であるか疑問がないかを、私とこの磯原が確認しております。
その結果、宮城工場のデータから投資効果が見られませんでした。確認のため宮城工場で現場確認したところ、認許を得た省エネ設備を導入せず代わりに生産設備の合理化に転用していました。

昨年重点的に省エネ投資を行ったところは8工場あります。その内、宮城工場以外で省エネ投資効果がみられないところが2工場あります。現時点まだこれらには実地調査を行っておりません」

大川常務 「これ以降は我々の範疇ではなく、コンプライアンス部署の職務であると判断した」

吉田法務部長 「それでコンプライアンス担当の法務部に持ってきたと」

山内参与 「そう考えております。なお今年2月に監査部の業務監査があり、そのときに工場側が監査員に対して見逃しをお願いしたということ。監査員だった3名にヒアリングしまして、監査部長の了解を得て工場の要請を了解したとのことです。監査部長にヒアリングしまして、それが事実であることを確認しました」

吉田法務部長 「これから我々の出番ということだな」

山内参与 「私は大川常務のスタッフとして、当社の正しいエネルギー使用状況を報告する義務があります。そして省エネ法対応として認許された予算が、決裁とおり執行されなかったことは問題です。是非の判断をお願いします」

吉田法務部長 「相分かった。山内君の報告を無にしないようにしたい」

話し合いは30分で終了した。磯原は何で自分が出席したのか分からない。常務はもちろん山内も雲の上の人なのに、なんで俺がと思う。


ともかく行政報告は行った。宮城工場が省エネをしようとしまいと、スラッシュ電機グループとしては法の基準を上回る省エネを達成しており、法規制からは問題ない。工場が30もあり、関連会社も多数あるわけで、ひとつふたつの工場が省エネをさぼっても大きな影響はないのだ。
そしてこれは社内の規則違反ではあるが、背任は親告罪だから会社が問題としなければ犯罪にはならない(注6)これからどうなるのだろう?


磯原はその後も、山内から日々さまざまな仕事を指示されているが、宮城工場のことは口の端に上らなかった。

磯原がもう宮城工場など忘れてしまった8月下旬のこと、山内参与から呼ばれた。いつもならドアのない壁際に並んでいる打合せ場なのだが、なぜか小会議室に入ってドアを閉めた。

山内参与 「磯原君にも協力してもらった宮城工場の件だがね、」

磯原 「気にしておりましたが、その後どうなったのでしょう?」

山内参与 「決着がついた。発令は9月1日付けだと思う。
監査部長が認めたとかいろいろ議論があったようだが、監査部にその権限があるわけはないし、悪事であることは間違いない。処分については対象者に執行役もいたから社長まで巻き込んで審議したらしい。もちろん私などは参加していない。
ともかく結論はでた。宮城工場の工場長は工場長解任で子会社に出向だ。監査部長は役員解任だ。おっと形上は辞任だ。

監査部の3人は一階級降格の上、子会社出向。米山部長も同様の処分だ。その他工場の関係課長は減俸処分と聞く。まあ工場の課長なら工場長が指示したら、反対はできないだろうから情状酌量なのかな」

磯原 「他のふたつの工場はどうなったのでしょうか?」

山内参与 「法務部が調査した結果、大きなことをしていないので戒告でおしまいになった。細かくは聞いてないが、あまり大量に処分しては社内を疑心暗鬼にする懸念もあったのだろう」

磯原 「あまりにも影響が大きく驚きました。私たちは黙認すべきだったのですか?」

山内参与 「おい、君の倫理観は大丈夫か? それは事後従犯だ。我々も監査部のメンバーと同罪だぞ。それともし我々が今回の問題に気が付かなければ、何らかの処分はあっただろう」

注:日本では事後従犯は刑法犯にならないようだ。だが社内的に問題であることは間違いない。また見逃しは職務怠慢に当たるだろう。

磯原 「すみません。肝に銘じます」

山内参与 「思ったのだが、うちの会社はまともだと思う。法違反でなくても社内規則に反したことをした場合、コンプライアンス担当に言えば動いてくれるし、まっとうな判断もする。決してブラックではない。
本当に必要な投資ならルール通りすればよいじゃないか。なんで姑息なことをしたのか、愚かとしか言いようがない」

磯原 「でも自動化投資で申請したら認許されないかもしれません」

山内参与 「そうかもしれない、だがそれは当然だ。経営者は経営責任を負っているからね。階層によって考える優先順位が違う。それは視野が違うからだ。経営責任のある人に決定権があるのは当然だ」


うそ800 本日の蛇足

そんなことをしたことがあるのかとお聞きになりますか?
残念ながら、そんなことができるほど偉くなかったです。
ちょっと違いますが、まだ生産していないのに、完成品に計上しているのを見たことがあります(注7)えっ、そんなことはどこでもやっているって?


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注1
PDCAは1996年のISO14001からだと寝ぼけてはいけない。別にフィードバックを求めるとはPDCAの図を描くことではない。1987年のISO9001初版では本文で、プロセスの要所とか定期的/定常的に監視/会議をして、是非を判断して是正しろと記述している。

注2
省エネ法に該当する事業所とは製造業だけでなく、事業所としては大きなオフィスビルとかデパート、レジャー施設なども関わり、また貨物/旅客輸送事業者としてバス会社、運送会社があり、荷主として輸送を依頼する者も関わる。

注3
目付とは掟を守っているかを監視する役目。監視対象によっていろいろあった。戦において軍紀違反、命令違反を監視する軍目付(軍監)とか、主君から任務を命じられた武士に同行して務めを果たしたかどうかを確認、平常時に旗本を監視するなど。

注4
壁面にも太陽光パネルをつけることによって設置面積の1.2倍発電できたという記事があった。つまり壁面の太陽光パネルはあまり発電できないということだ。また壁面設置の場合は近隣に光害が発生しやすいという問題がある。

注5
太陽光発電 太陽光発電の業者は、1kWあたり10〜15平米としている。これは平米70〜100Wになる。だがこれは良さすぎる。
太陽光は平米当たり1kW、変換効率は20%とか言われるから最高は平米200Wになるはずだ。だが夏ならともかく年間通しての日照はそれ以下、さらに太陽光パネルは光線に対して垂直ではなく時刻によって変わる、天候、そしてパネルの汚れ、……と種々要因をかけ合わせると、太陽エネルギーの10%の100Wは取り出せるはずがない。せいぜい下のほうの70Wあるいはもっと少ないだろう。

参考資料
・(財)省エネルギーセンター「オフィスビルの省エネルギー」
・(社)日本ビルエネルギー総合管理協会「建築物エネルギー消費量調査報告」
・空調必要電力 あかりと空調の専門店
・コンセント必要電力 YAHOO 教えて住まいの先生
・照明必要電力 部屋の広さに応じた必要な明るさ

注6
親告罪とは被害者の告訴を必要とする犯罪。名誉棄損罪などがある。強制性交罪(強姦罪)は従来は親告罪だったが、2017年から非親告罪となった。これは被害者の負担軽減のためという。
なお背任罪は親告罪だが、経営上重要な地位にある者の場合は特別背任罪となり、非親告罪で事実が発覚すれば起訴される。

注7
これは粉飾決算に該当すると思われる。もっとも虚偽の影響が社内限定で、社外に示す貸借対照表や損益計算書に影響しないなら犯罪ではないのかな?
さらに言えば、世間では使い物にならない資産を計上しているのはたくさんありそうだ。まあ取得原価方式というのもあるし、悪でもないのか?




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