JACO NEWSを読んで

22.06.23

知り合いから「JACO NEWS No.42(注1)というのが送られてきた。彼は私より数歳若く、その分遅く会社をやめたはずだ。 JACO NEWS それでも退職して5・6年になるだろう。いまだISOにこだわっているようではいかん……と書いて気が付いたが、彼は誰かから「JACO NEWS」をもらって、自分はいらないからと私に転送したのかもしれない。
おっと私は引退して10年が過ぎても、まだISOに拘っている未練がましい男だ。
ともかく彼の意思は、私に「JACO NEWS」を読んで勉強せよということと理解する。

JACOとは日本環境認証機構という認証機関の略称である。年に一度くらいJABがまとめて発表している認証機関ごとの認証件数のデータがある(注2)それをみるとJACOは、表に記載されている36認証機関の中では認証件数が上から5番目でシエアは5%である。
21世紀初頭は10数%、2010年でも10%のシエアを持っていたはずだ。私が現役時代は大手認証機関と呼ばれていたが、今は中堅というところか。諸行無常である。

いただいた「JACO NEWS」には6月発行とあるが毎月出すわけでなく、前回は2021年11月で、その前は2021年4月だった。1年に2回くらい発行するのだろう。
斜め読みであるが一通りは読んだ。こういう冊子は見逃せない重要なニュースとか真剣な討論などはない。認証機関のえらいさんのご挨拶があり、認証機関の幹部がISO認証にまつわる話題を提供し、最後にその認証機関から認証を受けている企業の幹部が毒にも薬にもならぬ義理で書いた記事ヨイショが数件載っているというのが定番である。
ちなみに多くの認証機関は同様のものを出しており、例えばJQAの「ISO NETWORK」は不定期であるがほぼ年2回発行で、ボリュームも内容も似たようなものだ。


私も一生懸命書かれた文章に、ケチをつけたり足を引っ張ったりするのは好きではない。本当ですよ!
まあ読み捨てても良かったのですが、実はこれはどうなのかというコンテンツがあったので、それについて論評する。感想文を書くことは、私に「JACO NEWS」を送ってくれた人への 義理 お礼でもある。

そのコンテンツは連載企画と冠した「第2回 課題解決型環境ISO活用法の提案」というものである。書いた人は日本環境認証機構の技師長という方である。
今はもう認証機関で働いている人に私の知り合いはいない。私と面識のある人はみな引退して、ISOなど忘れて優雅に暮らしているだろう。
そんなわけで認証機関の技師長とはどういうお仕事をされているのか私は知らない。


以下、ちょっと変と思ったことについて、つれづれ思いつくままに書いた。体系的にまとめていないのは許してほしい。

まず、副題に「ISOを道具として使い倒すために」とある。
ISOとはISOMS規格を略したものだろう。そしてISOMS規格と言っても数多いが、タイトルに環境があるからISO14001規格のことだろう。
とはいえ本文の頭の部分から途中にはISO9001が出てきているから、拘る人は「ISO」とは何を意味しているのか引っかかってしまうかもしれない。いや私も「ISO」と書かれても何のことだか分らない。想像で語っているだけだ。
認証機関の技師長ならば誤解ないように記述したほうが良い。


それから「使い倒す」とはどういう意味なのか?
「○○し倒す」という言い方が流行ったのは昭和の末期だ(注3)若者向けの週刊情報誌の見出しに使われた言い回しが若者に広まり、年老いた彼らが現在でも使い続けているらしい。今の若者はあまり…というかダサいと使わないという。
記事を書かれた技師長は私より15歳前後若いとするとそんな時代の人なのだろう。
それが何だと言われれば、なんでもないのだが、企業を代表する公表する資料に30年前の若者言葉を使うのはどうかと思っただけだ。


「使い倒す」はどうでもいいとして「ISOを道具として」はいかがな意味かと突っ込みたい。
ISOMS規格は文字通りマネジメントシステムの規格、より正確に言えばマネジメントシステムの具備すべきものを要求事項として列記したものである。ISO14001は道具ではなく道具を使う舞台であるシステムの具備すべき条件そのものなのである。
その規格を道具と表現するのは大きく違うのではないだろうか(反語である)。

もちろんISOというものがISOMS規格でなく、「QC7つ道具」のような手法で私が知らないことかもしれない。前々段で「ISO」とは何だろうとこだわったのはその理由だ。

まあ、それも大した問題じゃない…というかそれは単に呼び方の違いで、規格や認証の意味を把握されているだろう。
真に重要なのは、規格の理解というか要求事項についての認識である。


「営業プロセスにおいては、環境配慮製品を拡販すれば、それを使用する顧客の環境負荷低減に寄与するので、事業計画と環境の取組みは相乗効果をもって両立しているといえるでしょう(p.6 左列)」
これってわざわざ道具だとか活用法ということではなく、規格の意図そのものではないのでしょうか(反語である)。
設計・開発プロセスにおいても同じ、生産性向上についても同じである。

認証を受けた組織であるならば、その組織は既にそういうふうに理解を理解して、営業も設計・開発も生産性向上も、取り組んでいるはずだ。だって「そう理解してシステムを整備して運用すること」が認証を受ける条件なのだから。

審査において品質と環境のバランスを考慮して製造条件を決めていないなら、不適合なのだ。どの要求事項なのかと問われるかもしれない。
その回答は簡単だ。
環境に大きな影響を与えるならそれは必然的に著しい環境側面であるはずで(そうでなければ6.1.2に不適合)、ならば設計や製造においてそれを反映しなければならない(そうでなければ6.1.4に不適合)。


「環境ISOを問題解決の道具としてどのように使うか(p.7 中央列)」
内容は前項を具体的に記述しているものだ。活用すべきことを規格項番に対応させて説明している。
事業上の課題としていろいろ書いているが、それは課題というよりも、認証するための必須事項ではないのだろうか(反語である)。

まず冒頭の「化学物質削減、省エネ活動において、事業プロセスとの関わりが不十分」とある。
20年前ならいざ知らず、21世紀はPRTRを定めた化管法は当たり前、しかも化管法は欧州の規制 を真似て に合わせて改定され、日本でも使用禁止物質や忌避物質もジャンジャンと規定されている。
当然どの会社でも新原材料を採用するときも、新部品を採用するときも、安全データシートを取り寄せ内容をチェックする……いやチェックしなければならない。

1990年頃、フロンがなくちゃ電子機器が作れないなんて言葉が聞かれたもんだ。
1995年頃、鉛半田が使えなくなると想像した人はほとんどいなかったんじゃないかな?


EUは博打が好きだ
けど、みんな裏目
ですね
丁半賭博
私は化学物質規制の方向は正しいし必要だと思う。しかしEUの化学物質規制は偏執的すぎる。
その本音は化学物質の安全を確立することではなく、それまでの国際社会の競争ルールではアメリカや日本の優位を覆せないからと、EUが仕掛けた壮大なゲームチェンジじゃないかと思う。
おっと、EUはそんなことを何度もやらかしている。ISO9001の認証だってその一つ。今は電気自動車で仕掛けている。幸いにして過去のEUのたくらみはすべて裏目、裏目にでているようだ。

そんなことが頭に浮かび、技師長が書いていることは、昔から語られていたはずと思い、古い1996年版を引っ張り出して読んだ。
アネックスの序文のA.1に「環境マネジメントシステムは、組織自身が設定する環境パフォーマンスのレベルの達成及び体系的な管理を可能にするための手段であると理解されることが望ましい」とある。

A.3では「このプロセスは、活動、製品又はサービスに伴う著しい環境側面を特定することを意図している」そしてその環境側面について目標を設定しろと続く。
要するに規格制定時から活動、製品又はサービスにおける重要な要素を把握して、それに対して管理なり改善活動をせよというのは規格の意図そのものだった。


そしてまた世の中の動きがある。
2000年頃のグリーン調達は、形だけ気分だけというものであった。当時は環境管理についての要求もISO14001や簡易EMSの認証状況とか、環境活動にどんな活動をしているかのアンケート程度だった。
そして実際の運用においても、納品している製品やサービスについて、環境とか化学物質管理について顧客要求もなければ、化学物質の廃棄物処理時の影響とか安全な処理など発注側でも納入側でも口の端にも上らなかった。
それもそのはずPRTR制度さえファンタジーだった時代だ。

だが、昨今はグリーン調達においてISOや簡易EMS認証を要求する企業はものすごく減ってきた(注4)いやそれどころかEMSを確立せよという要求も減っている。

グリーン調達におけるEMS認証や構築要求の変化
グリーン調達におけるEMS認証要求

注:「認証要求」とはISO14001だけでなく、エコアクション21、エコステージ、KESなどを含めて外部認証を要求するもの。

その半面 納入品に含有している物質及び製造時に使用する副資材に、規制対象物質がないかを確認し、誤って混入させない体制を作れという要求は、ほとんどの企業のグリーン調達基準書にある。いやそれどころか従来のEMSとか改善目標などをすべて排して、化学物質管理の体制と運用状況調査に鞍替えしたグリーン調達基準書が多くなってきているのだ。
「形式的なISO認証はいらない、漠然とした環境マネジメントシステムもいらない。欲しいのは絶対に異物混入などさせない化学物質管理システムとその運用なんだ!」という顧客側の叫びだろう。

そりゃ考えるまでもない。欧州が要求すれば輸出している企業(日本で該当しない会社はほとんどない)従うしかなく、そこに納入している会社も右ならえするしかない。
ISOMS規格を認証してもご利益は国交省入札の加点くらいしかないが、化学物質の管理システムはビジネスの生殺を抑えているのだ。

そういう流れを見ていると、そのうちISO14001の認証などどうでもいいから、その代わりに化学物質管理システムの認証が必須と言い出すのではなかろうか?
漠然としているシステムよりも、目的と手段が明確なら適合・不適合の判定は明確であり、その認証の価値は大きい。

実を言ってJACOも2010年頃にその認証を始めるとか始めたとか聞いたことがある。しかしそれ以降も実施を公表した記憶はない。どうなったのだろう?
JQAは「REACH+プラス」とかいうのがあるらしいが詳しくは知らない。
もっとも化管法は6.1.3ズバリであるから、改めて新しいISOMS規格など不要なのかもしれない。

ともかくこの技師長の書いているようなことは、「課題」どころではなく、「構築してあることが取引の条件」なっている。それも昨日や今日のことではない。REACHが本格的に運用されたのは2008年、ROHsの大改定が2013年である。もう10年も前の話だ。
この技師長の書いているのを読むと……世の中に遅れているとしか言いようがない。


それ以外の課題なるものも、課題ではない。21世紀も4分の1が過ぎようという今、そんなことを課題と考えている企業があれば脱落するだろうし、そもそもISO14001の審査をパスするはずがない。なんとなれば顧客要求(ISO9001 8.2.2)であるし、順守義務(ISO14001 6.1.3)でもあるからだ。


認証機関でない企業の方が、ISO用語や環境用語を定義通り使わなかったり、直接関わらないことについて最新情報が疎くても問題とか怠慢とは思わない。
だが認証する側の人が、過去より規格にあったことを、目新しいこととしてしたためることはいかがであろうか。

本日は短い、文字数が少ないぞというクレームがあるかもしれない。
元々の記事の文字数が6,000字だ。4,700字も書けば十分だろう。


うそ800 本日の忠言

私は技師長と面識もないし他意はないが、もう少し現実に合わせたことを書くべきだ。
もしかして現状の認証組織をレベルアップさせるためにこのようなことを書く必要があるなら、そもそもそういう組織を認証したのが間違いではなかろうか?

今年1月に「JQA NETWORK」の読書感想文を書いたが、それと比較して優劣つけがたい。向こうも読んでもらえば私の気持ちがわかるだろう。




注1
「JACO NEWS No.42」2022年6月号発行

注2
「マネジメントシステム認証件数(2020年12月31日現在)」による。

注3
注4
筆者の「ISO認証ビジネス2021」参照のこと。




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