ISO第3世代 49.環境監査その1

23.02.09

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは

昨今(この物語では今2017年)、環境法違反や環境事故が散発し報道されていること、そしてそれを起こした企業がISO14001を認証していると、ISO審査で虚偽の説明をしていたとされ、過失ではなく悪意ある行為であると認定機関や認証機関が認証の停止を行うようになった(注1)
またスラッシュ電機でも内部監査などで複数の不具合が見つかった。スラッシュ電機内の問題を究明した結果、ISO審査やISOのための環境監査が役に立っていないことが明白になった。

その結果スラッシュ電機では、今までのISO14001認証のための内部監査や、監査部が行う業務監査の一項目である環境監査ではなく、徹底的に「遵法と汚染の予防」のため、早い話が「違反しない・事故を起こさない」ことを実現する目的の環境監査の準備を始めた。

関係部門が連携して約半年間準備してきて、2017年春から行うこととなった。
本日はその1回目として京都工場の環境監査である。とはいえ、まだ監査基準も方法も試行錯誤段階であり、今回はメンバー構成も特別である。


島田 浜口 磯原 佐久間 横田 福田
監査部 法務部 生産技術本部 工場派遣者
島田 浜口 磯原 佐久間 福岡工場 横田 岡山工場 福田

監査リーダーは監査部の島田、メンバーは法務部の浜口、生産技術本部から磯原と佐久間、そして工場からの派遣者が横田と福田、合わせて6名である。まともな管理者なら「遊びじゃないんだ、少数精鋭で行け」とストップをかけるところだ。
だが全く新しい環境監査という意図と、初回ということもあり山内参与山内が根回しして、監査部長と生産技術本部長の了解を得ている。山内は戦力の逐次投入(小出し)をするような愚行はしない。やると決めたら徹底的な戦術をとる。磯原はそれをありがたく思っている。


実施場所である京都工場は、京都といっても京都府の片田舎である。
日程は三日間、初日は全員で工場の内外を巡回する。環境施設、建屋の内外と緑地、工場外側の巡回、駐車場や健保会館など点検、そして問題提起と討議、
二日目は2チームに分かれ、公害関係、廃棄物関係、エネルギー管理、製品への環境規制関係、その他の法規制の遵法点検を行った。そしてこれも問題提起と討議、
三日目はまとめと監査側結論の提起と受査側との調整である。

今は三日目のお昼を食べて、午後の部の開始である。

監査側メンバーは全員出席だ。受査側からは 沢田課長沢田環境課長と次席の武内 武内である。京都工場の製造管理部長は、結論が煮詰まってから顔を出すという。

島田 「では予定の最後であります、不適合案について提起しますので、その内容確認とご意見交換をしたい。まず磯原さんの方から問題点の報告をしてほしい。問題が複数あるので、磯原君が一項目を説明したら、それについて議論をする形で進めたい」

磯原 「それでは……問題の詳細はお配りした資料をお読みいただくとして、概要のみ申し上げます。
公害関係では、測定の多くを外部の環境計量士事務所に委託しています。委託先から測定値を受け取るのはBODなど日数のかかるものはともかく、多くは二日三日後に提出されていますが、受領してから課長決裁までに10日以上かかっているものが散見されました。

異常があったときは計量事務所から報告書提出前に連絡があると聞きましたが、今回点検した中にそのような事例はありませんでした。
仕事の流れとして受領から決裁まで時間がかかりすぎていると思います。これは改善が必要と考えます。

それから提出を受けたのち書式不備として差し戻しというか、書き直すよう要請しているものがあります。内容は不明ですが基準を超えたものを修正させたのかという疑いがもたれます。これは問題と考えます」

沢田課長 「武内君、どうなんだ?」

武内 「確かにご指摘ありましたようなものは、ここ半年に7件ありました。受領から課長印まで最長では15日かかっていました。
その原因ですが、うーん、正直なことを言いまして、業務多忙でして支払い期限を守るようには処理しているのですが、なかなか仕掛ゼロにはできないのです。

過去の事例を見ていただいてもわかると思いますが、異常があればすぐに計量事務所から電話もありますし、正式なものでなくてもデータだけFAXで送ってもらい速やかな対策をしています。
ですから書類の処理がこのくらいかかっているのは勘弁してもらいたいのが本音ですね」

福田 「私のところでも問題あれば速やかな対応はしますが、問題なければ支払いとか報告期限を守る程度ですね。言い換えると支払期限とか報告期限が来るまでは放置ですねえ〜、受け取って即処理とはいきません」

島田 「武内さんが見ていて課長まで行っていないのか、武内さんのところで止まっているのか、どちらなんでしょうか?」

武内 「あっ、私のところで止まってました」

島田 「あとで問題が起きたら、課長が知らなかったとかになるわけか」

沢田課長 「ええと法規制もありませんし社内のルールもありません。ここはなるべく早急な処理を目指すということで了解いただけませんか」

島田 「磯原君、それでいいんじゃないか。一応コメントだけするということで」

磯原 「承知しました。では差し戻しにしたものの内容はいかがですか?」

武内 「修正をお願いしたものはですね……騒音測定場所が計量事務所内の連絡が悪く、いつもと違う場所で行ったものです。 騒音計 夜間の測定で複数個所を測定していたので、私どももすべての測定場所に立ち会うことができなかったのです。

計量事務所から測定結果の提出を受けてから測定位置が前回と違うことに気づき、再度測定することにしました。そのいきさつとか残してなかったので疑義を持たれたと思います」

沢田課長 「とういうことは二度測定したんだよな? 測定日はどうしたの?」

武内 「実は二回目に測定した日付では前回よりだいぶ期間がありましたので、一回目に測定した日付にしてもらったのです。というのは1か所以外は正しい位置で測定していましたから。
そのように依頼したら、向こうからまずいんじゃないかと言われまして、話をつけるのに時間がかかりまして……」

沢田課長 「オイオイ、それはまずい……それは違法だぞ(計量法第123条)。
あ〜あ、俺も気づかずハンコを押しちゃったんだなあ〜

島田さん、私が言うのもなんですが、これはちょっと問題です。本件は内部で再調査します。計量事務所とも話をしなければならない。
あのう、ええと、計量記録に書かれた測定日は実施日ではなかったことを不適合としてください。原因究明と対策は今回の監査不適合の是正報告に記載するということで、今のところはご容赦願います」



磯原 「工場敷地外にある従業員駐車場の近隣住民から、夜勤者の交代時に駐車場の照明がついて夜眠れないという苦情がありました。
それについては照度を下げたとか、ライトの向きを変えたとか対応されているようですが、完全に解決していないようです」

沢田課長 「それはもう数年に渡っている問題なのですよ。実を言いまして苦情を言ってきたのは数軒あったのですが、対策を取って良くなったと了解してくれた方がほとんどで、いまだ納得されていない方は1軒なんです。
あっ、もちろん市の方にも入っていただいておりまして、市の担当者もあまり大きな声では言わないのですが、問題ないのではとおっしゃっているのですよ」

横田 「分かります。ウチでもトランスの音がうるさいって苦情を言ってきたところがあるのですが、測定してもおかしな数値ではないのです。 トランス 苦情を言ってきたのは1軒でして、市の職員も問題ないと言っているし、お宅と同じですね。
たった1軒でも苦情があると工場も市も動かなければならなくて、どうしようもないです。
聞こえるか聞こえないかのトランスの唸りより、暴走族の方がはるかにうるさいですけど、そちらは気にならないようで(苦笑)」

磯原 「まあ気持ちはわかりますが、マスコミとか動かすと大ごとですからね。
とりあえず交渉とか対策などの記録の保管と、日常のコミュニケーションをよろしくお願いします」

沢田課長 「まあ、それしかないですね。規制基準を超えているなら別ですが……」

磯原 「次は法で定める公害の範疇ではないですが、工場周囲の木々からの落ち葉が風で近隣住宅の敷地に飛び、屋根や庭に落ちるとか雨樋に詰まることなどの苦情がありますね」

武内 「これも数年来の問題で、困っているのですよ。まず雨樋の詰まりですが、詰まっている落ち葉を見ましたが、この工場に植えている樹木ではなく、イチョウなんですよ。
イチョウは落ちた実の臭いの問題があるのでウチでは植えていません。たぶんその家からみて工場の反対側にある公園からじゃないかと思うのです。そこにはイチョウの大木があります。

もちろんイチョウ以外の落ち葉もあるわけですが……ええとですね、10年ほど前から工場に隣接している住宅10数戸から落ち葉の苦情がありました。
それでいろいろ手を打って、結局5年ほど前に苦情があった側のベニカナメをすべて伐採してしまいました。
落ち葉
枯葉が散るのを美しいと感
じる人あり、汚いと思う人
あり
でもね樹高は2.5m以下に年1回剪定していましたし、それが2階建ての住宅の屋根や雨樋に詰まったというのも、本当とは信じられないんですよ。

ええと、伐採後は代わりにサツキを植えまして、これも年2回剪定してますから高さは1mもありません。それでも落ち葉の苦情は変わりません。
高さが高さ1mもないのに、どうして屋根に積もったり雨樋に詰まったりするんでしょうかね」

沢田課長 「俺はさ、生垣なんて止めちゃえって言ってただろう。今のサツキじゃ目隠しにもならない。むしろ風で飛んできたレジ袋などが引っかかって見苦しくなる。フェンスもあることだし、生垣やめれば剪定もいらないし、苦情も来ない」

武内 「課長は転勤してきて数年だからご存じないでしょうけど、10年以上前、あそこの建売住宅ができたとき、住民の代表が来て、工場建物が見苦しいから生け垣を作ってくれという要望書を持ってきたんですよ。
初めはベニカナメを植えたけど苦情、次にサツキにしても苦情、ウチの問題でないように思います」

沢田課長 「そういう経緯だったのか? 反射的利益ならわかるけど、反射的不利益なんてあるのかよ?
ともかくその目的にはサツキでは役に立たないな。生垣をなくすと苦情が来るのか?」

注:反射的利益とは、国や個人がする行為によって、他の者が副次的に受ける利益を意味する。公園を作ることにより周囲の地価が上がるなど。反射的利益は権利ではない。
逆に公園があって良い環境だったものが、公園がなくなっても文句を言えない。反射的不利益(という言葉はないけど)を受けても損害賠償は求められない。

武内 「10年間で住民も移り変わっているでしょうから、どうなりますか?
一応、向こうに提案してみる価値はありますね。提案するには金はかからないし、向こうも気が変わっているかもしれません」

沢田課長 「サツキがなくなると初夏に花が見られないとか……新たな苦情を思いつくのかなあ〜。ともかくこちらがボールを投げないと前進しないだろう。やってみてくれ」

武内 「分かりました。福田さんや横田さんのとこも、同じようなトラブルはあるんでしょう」

福田福田と横田横田は激しく首を上下に振った。



磯原 「廃棄物処理委託契約書ですが、問題ではなく疑問を持ちました。
収集運搬業者と中間処理業者は別会社でそれぞれと契約しているのですが、収集運搬業者との契約書で、中間処理完了後に運搬費用を支払うとしているのです。これって問題になりませんか?」

島田 「はっ、意味が分かりませんが、どこが問題なのでしょうか?」

磯原 「廃棄物処理法ではないのですが……ええとですね、工場で廃棄物が発生すると、それを処分しなければなりません。
当然、我々は廃棄物の処分などできませんから、許可を得た業者に頼みます。廃棄物の処理の流れは、工場から中間処理業者までの運搬、中間処理業者での処理、中間処理業者から最終処分業者までの運搬、最終処分となります。
排出者である工場は、運び出す収集運搬業者と中間処理業者に処理委託契約を結びます。中間処理業者から最終処分業者までの運搬は中間処理業者の責任になります。

図に書くとこんな感じですね」


排出者収集運搬中間処理
工場矢印
収集運搬
業者
矢印
中間処理
業者
矢印
収集運搬
業者
矢印
最終処分
業者
🠘 契約書 🠚
🠤    契約書    🠦

磯原 「疑問があるのは収集運搬業者への支払いを運搬終了後ではなく、中間処理終了後に払うとしていることです。これは商取引上、問題ないのでしょうか?」

浜口 「ああ、収集運搬業者にとって中間処理が終わるか終わらないかは責任外ですね。そして中間処理業者が仕事をしなければ収集運搬業者の売り上げにならないとなると…」

磯原 「そうです。もちろん廃棄物処理法で収集運搬は依頼されてから何日以内、中間処理は何日以内と決めています。ですからどの業者も法律を守っていれば、支払いが台風とかお産になることはないわけですが」

注:台風手形とは210日(7か月)、お産手形とは300日(10か月)

福田 「いえいえ、もし中間処理が法規制の期限いっぱいであれば、最大で90日になる。210日より短くても、良いわけありません。収集運搬なんてほとんど当日中に完了です。だからほとんどの会社は翌月振り込みです。90日後なんて言われたら、口にしなくても不満でしょう」

島田 「通常の商取引として考えると異常だろうな。我々製造業が部品メーカーとか下請けに、製品が売れたら支払うなんて契約したら訴えられるよ」

浜口 「ちょっと待って、そういう条件を盛り込んだ理由は何かしら?」

武内 「廃棄物処理法で収集運搬は工場が出してから90日以内、中間処理も同じく90日以内に処理しなくてはならないのです(特管産廃除く)
収集運搬車 これを過ぎると排出者はなぜ遅れたのかを調べて、行政に報告書を出さなければなりません。
工場としては中間処理が遅くなると法に関わる問題になるので、収集運搬業者に中間処理の進捗をフォローさせようと、中間処理が終わったら運搬費用を払うという契約書にしているのです」

注:正確には「90日以内にマニフェスト票が返送されること・電子マニフェストの場合はデータ入力すること」である。

島田 「なるほど、確かに廃棄物処理法は関係ないね。商取引として問題かどうかだ」

浜口 「ああ〜、連帯責任を取らせるわけね。でもどうなんだろうなあ〜、運搬業者と処理業者は別法人なのに、そんなことできるのかな。関わるとすると下請法?」

島田 「浜口さん、廃棄物処理業者は下請法対象外だよ。とはいえ独禁法でも「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」が出ているから、優越した地位にあるものが相手側に不利な契約を要求してはいけないのは同じだ」

注:「下請適正取引等の推進のためのガイドライン」のどの業界向けのものでも、廃棄物処理は下請けではないとしている。廃棄物処理業は排出者からその仕事を請け負っているのであり、下請けしているわけではないという理屈である。
工場の建築を請け負った工務店は、工場の下請けではないのと同じことだ。

浜口 「武内さん、収集運搬業者から何か言われたことはないの?」

武内 「実際問題としてうちが出している廃棄物は、中間処理終了まで90日かかったことはありません。過去長くてもひと月以内でした。 だから収集運搬業者も問題になると考えてもいないようで、今まで苦情はありません」

福田 「今までは良くても、問題が起きたらまずいと思いますよ」

浜口 「とりあえず、この場では結論は出せません。私が戻りまして顧問弁護士に相談します。ええと報告書を出す前に磯原さんに連絡すればよろしいですか?(注2)



磯原 「マニフェストも紙から切り替わりつつあります。お宅はまだ電子マニフェストの適用が6割くらいでした。行政も経団連も電子化を推奨していますので、早急に拡大するようご検討願います」

武内 「工場は9割方電子に切り替えました。でも廃棄物を出すのは工場内だけではないのです。
営業が敷地外に借りているサービス部品倉庫もありますし、出張修理で現地で廃棄するものもあります。そういうものは現地で廃棄物処理業者からマニフェスト票をもらって記入するので、紙のほうが簡単で間違いないのですよ」

佐久間 「工場外で処理委託する契約のほうは大丈夫ですか?」

武内 「はい、業者は決まっています。依頼するのは年に数回しかありませんが、契約書は毎年締結しなおしています」

沢田課長 「正直言って電子化してもメリットがあると思えないのです。営業やサービスなど、紙マニフェスト票であれば、記録に残り、廃棄物の処理をフォローするだけでなく、社内的にはお金の支払いとかの根拠になりますからね。
まあ電子マニフェスト化も順次進めるということで了解願います」

福田 「まあ、実際のところそうですよねえ〜」



島田 「以上で今回の環境監査結果について合意を得られたと思います。
いったん休憩しましょう」

コーヒーサーバー


横田と福田の若手2名が、コーヒーサーバーから紙コップに注いで皆に配る。

コーヒー コーヒー コーヒー コーヒー
ミルク
ミルク

コーヒー コーヒー
ポーション容器
コーヒー

武内 「今回はしらみつぶしに調べると聞いていたので、不具合とか違反が多数出るかと心配してました。幸い重大な問題はなくて良かったです」

沢田課長 「武内君、計量証明の日付問題は重大だよ」

沢田課長はギョロと武内を睨んだものの、武内がそれに気が付かないのでため息をついた。

佐久間 「ちょっと気になったのですが、駐車場の照明トラブルが何年も前からというと、今までの内部監査やISO審査ではどんな話になっていたのでしょう?」

武内 「落ち葉とか駐車場がまぶしいなんて問題は、口頭説明するとあっそうですかで終わりでしたね。公害とは違反と違うからか、問題に取り上げませんでした。
今までの環境の内部監査もISO審査も、予定調和とは言いませんが、手抜きというか形式だけでしたね。なにしろ監査結果に責任を負わないのですから」

沢田課長 「内部監査にしてもISO審査にしても、現状確認の意味しかありません。まあ監査とはそういうものなのでしょうけど。なんというかなあ〜、監査をしてもその結果を改善につなぐという発想もないようです。我々が資料を見せると、やることはしっかりやってますねでおしまいですし」

浜口 「改善となると実際に仕事している人でないと発想がでないのではないですか。
私が司法試験に合格したとか言っても、環境管理の改善はできません。
内部監査員の力量とは、具体的な法規制をよく知っていて、それをすぐに思い出せること、類似事例を数多く知っていることでしょうか」

佐久間 「環境関係の法律は難しい解釈はありませんからね。
ええと、何と言ったかなぁ〜、そうそう論理解釈とか文字解釈なんて言葉がありましたよね。環境関係は高尚というか抽象的なものじゃないですから、文字解釈一筋です。だから法律の精神とか意図などより、法律にどう書いてあるかがすべてですね」

浜口 「納得です。それにしても廃棄物、危険物、土地利用、化学物質、製品やラインでの安全衛生、省エネと、知るべきことの範囲が広いですね」

福田 「もちろん一人が全部ということじゃなくて、工場では廃棄物とか省エネとか担当が分かれています。一人の人が全分野を知っているなんてことはないです」

磯原 「浜口さん、今回の監査に参加されていろいろ感じたでしょうけど、今後の法律教育はどのような見直しをするつもりですか?」

浜口 「法律の解説というよりも、過去の事故や違反の解説をしたほうが役に立つように思いました」

沢田課長 「ウチから監査員講習会に参加した奴が言ってましたが、現実に起きた問題の事例集を作って、説明会をしてもらえたら効果的だと。なにかそんな事例でもお話しされたんでしょうか?」

佐久間 「うーん、法律の読み方といってもその意味合いはいろいろだな。分かりにくい条文をとりあげて、該当する事例を話すとかしたら関心を引くだろうか?
単に言葉の説明、例えば及びと並びにとか又はと若しくはなんて教えるまでないんじゃないかな。あるいは及びと並びのある法律の条文を一つ教えたら済むことだ」

横田 「講習会で私が質問したような、改正前の状況をどう把握するのかとか、福田君が質問した具体的名称で探してもすぐには見つからない、そういうときの対処とかはおしえてほしいですね(第48話参照)

浜口 「わかる、わかる。だけどそれだけを教えるというのもなかなか難しい。というのは具体例がないと話ができません」

磯原 「ともかく今までしてきたISO14001のための内部監査では、実質的な遵法と汚染の予防にはつながらないと思います。
監査の方法はこれからもいろいろと考えていかないとなりませんが、遵法点検とリスク点検、これを徹底的に進めることが最重要ですね」

浜口 「過去の違反の事例集、そして事故事例集、これらの作成が重要と、」

佐久間 「毎年、社内外でいろいろ問題が起きています。年鑑と同じく事例集は毎年編集する必要がありますね」

島田 「まさしくそれが重要だね。そしてそういう方法で5・6年教育しまた環境監査をすれば、以降は監査部のメンバーでも環境監査ができるようになると期待するよ」

佐久間 「とはいえ伝票をめくったり報告書を眺めたりする時間は変わりませんから、監査の工数は減りませんよ」

島田 「数年間経てば、工場の管理レベルが上がって抜取にできないかね?」

磯原 「品質管理と同じ発想ですね。でも抜取とは不具合が混入することを認める前提です。消費者危険率、製造者危険率を決めて、双方がそれを飲むことができる場合のみ採用できる方式です。
違法とか事故の発生率を設定しそれに妥協できるものでしょうか? 不具合というか見逃しが許されない性質なら抜取はできません」

島田 「確かに消費者危険が2%なら理解できるが、法違反とか事故のリスク見逃しが2%とか許容できないだろう。
うーん、難しいなあ〜」

沢田課長 「現実には発生ゼロなんて元々無理なんだ。神ならぬ身だから最善を尽くすしかないが、起きてしまった事は甘んじて受けるしかないのが現実だよ」

横田 「ISO審査だって異議申し立てとか苦情のルールがあるのですから、ミスがある前提なんです。
まあ、もちろん事故を起こしたり違反をしてはいけませんけど、起きるのをゼロにはできません」

佐久間 「ISO審査なんて抜取だからISO17021には100%の適合は保証しないと書いてあります(ISO14001:2015 4.4.2注記)
とは言いながら、問題が起きると企業が虚偽の説明をしたなんて、非論理的というかドラえもんのジャイアンみたいなことをいうのだから、認証を受ける企業は踏んだり蹴ったりですよ。
我々は民百姓、いや奴隷並みだね」

沢田課長 「やるせない話だ」

横田 「それってISO認証の価値以前に、認証そのものがナンセンスってことでしょう。ならば認証返上しか選択肢がないじゃないですか」


しっかりやろうね ここに取り上げた事例はよく見かけることだ。
っ、聞いたことがないですって!
冗談が過ぎますよ。世の中の現実はこんなものです。感覚がずれているのを当たり前にする、それが監査の役目だと思います。多くの場合、これくらいならと済ましてしまうのです。


うそ800 本日のお願い、いや挑戦

監査の風景を描いてもしょうがないから、端折りました。監査で見つけた事象をどう考えるかの討議だけを描いてみました。
見方を変えても、どう転んでも、ISO認証の価値はない……としか思えません。
私がISOの物語を書くと結論はいつも、ISO認証は価値がない、効用がないとなるようです。

世の中ではISO認証は価値があり効用があるようなので、きっとこの駄文をお読みになった方々は「ISO認証には価値があり効用がある証拠」を出してくれるでしょう。
お便りをお待ちしております。
こちらへどうぞ ⇒ お便りはこちら


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注1
環境不祥事も変遷がある。2000年代初期は審査側のおねだりとかが問題になったが、それ以降は環境事故や違反が取りざたされ、審査を受ける会社が虚偽の説明をしたという報道が多くなった。なにごとにも流行があるようだ(笑)

注2
この問題は私が某社の環境監査で見つけた実話である。そのもの自体は環境問題ではないが、非常に気になった。その後、法務部や取引契約を担当している人に相談したが、結局はっきりしたことはわからなかった。
一社でなく複数の企業でこの事例を見たので、企業が独自に考えたのではなく、どこかの団体がそのようなひな型を作っているのかもしれない。
廃棄物処理委託契約書のひな型は行政とか業界団体が多々作っている。ちょっと調べてみたが、そのような記述のあるひな型は見つからなかった。

チェックしたひな形(いずれも収集運搬業者との契約書ひな形をチェックした)
(公社)全国産業廃棄物連合会 なし
東京都環境局 運搬終了後に支払い……当然である
横浜市ひな形 なし
厚生労働省ひな形 なし
・千葉県ひな形 (公社)全国産業廃棄物連合会を引用
(公社)大阪府産業資源循環協会 なし
土浦市ひな形 支払いについての記載一切なし




外資社員様からお便りを頂きました(2023.02.09)
おばQさま 具体的なお話を有難うございます。
お陰で「計量士」という資格があると知りました、勉強になります。
記事にあるような、様々な仕事の積み重ねで工場の業務は回っているのですよね。
記事の趣旨と違うのですが、廃棄物処理の契約が興味深かったです。
廃棄物処理契約の違法性を減らすには、直接委託する中間業者の契約に、委託業務の範囲として「最終処分の確認と報告」を入れて対応は如何でしょうか。
これは契約自由の原則で可能と思います。
その上で、業務の完了を最終処分の確認報告とすれば廃棄物処分でのリスクは減りそうです。
下請け法の支払いについては、中間業者に渡した時点で費用の8割など一部支払いとして、完了報告を持って全額支払いとすれば、支払い遅延のリスクは少ない思いました。
結局、このような各分野の責任に於いて、適切な業務の実施・確認の積み重ねが、マネジメントであり会社の業務。
一方でISO認証は、ある特定の観点でしか業務を見ていないから、適法とか品質を担保出来るはずもない。
ある意味当然の事でした。

外資社員様、毎度ご指導ありがとうございます。
おっしゃるように「最終処分の確認と報告」(文中では中間処理ですが)を盛り込むということはありますね。そうなれば契約ですから、その報告があって初めて支払うというのは正当だと思います。さすが!
ただそのときの中間処理完了時の支払いは後工程の監視と報告費用分だけではないのでしょうか?収集運搬費を中間処理完了時に払うとか、中間業者に引き渡したとき8割で中間処理完了時残額支払いは、個人的にはなんか納得しがたいですね。
家を建てるとき着工、上棟、竣工と分けるのと違って、家ができちゃっても工務店と無縁の植木屋が終わってから建物の費用を払うというのはないのではないかとおもうのです。
一般の商取引で裁判沙汰になりませんか?

外資社員様からお便りを頂きました(2023.02.13)
>廃棄物契約
運搬と処分が別会社でも、孫請けまで責任を負わせる契約は当たり前にあります。当社が結んでいる契約でも当たり前にあります。

下請け法では業務完了していない事で対価を全く払わない事を問題にします。
対策としては委託業務を@廃棄物の引き取り+A最終処分の確認と二分割します。
廃棄物受け取り時点で@の費用は払い(例として80%)、Aの最終処分の報告を受けた時点で相当分20%支払いという委託契約ならば、問題は少ないと思います。

お書きのように委託業務が処分だけなのに最終処分が終わるまで払わない場合には、仰る通り下請け法に触れるリスクありです。

ですから、気の利く法務ならば、上記のような二分割の契約を考えると思います。

もちろんFair Tradeだぁと言ってA分の費用を追加で払うならば誰も文句を言わないはずです。
下請けの経験から言えば、とりあえず80%1か月以内に現金で払われるならまともな方です。流石に減りましたが、一時はファクタリング取引で合法的な支払い遅延、6カ月なんてひどいやり方をした大手上場企業もありました。

>家の支払い条件
宅建法の規定で明確にして契約する必要があります。
通常は発注時に1/3、外装が終わった辺りで1/3、受け取りで残金のような分割が多いですね。これは発注側が消費者だから保護されていますね。だから「現金一括ならば安くする」なんて業者は、知り合いでない限り気を付けた方が良いかもしれない。

外資社員様 毎度ありがとうございます。
なるほど、現実はFair Tradeだぁなんて言ってられないのですね。私が聞いた相手も、お前は世間の常識を知らないよと心中思っていたのでしょうね。


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