ISO第3世代 50.環境監査その2

23.02.13

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは

京都工場の次、第2回目の環境監査は、京都の監査で監査員を務めた福田が勤務する岡山工場である。
今回の監査責任者は監査部の早川、メンバーは法務部の浜口は変わらず、生産技術本部は磯原のみ、工場派遣者は愛知工場の桧山と長野工場の三枝さえぐさである。
初回に比べ1名減だが、費用から考えるともう一人くらい減らしたいところだ。もっとも法務部の浜口は、監査で法の解釈が問題にならなければ今後参加することはないだろう。

早川 浜口 磯原 桧山 三枝
監査部 法務部 生産技術本部 工場派遣者
早川 浜口 磯原 愛知工場 桧山 長野工場 三枝

福田は如才ない男で、講習会で習ったこと、そして自分が参加した京都工場での対応を反映して、環境管理に関する文書や記録の点検、そして日常の業務の実施状況の見直し、徹底した設備のチェックをしていた。
それが客観的に行われているか、徹底的にされていたかは、監査をしてのお楽しみである。いや、福田の行為が客観的でないとか、不具合は直さずほっかむりという意味ではない。


監査メンバーが訪問してみれば、岡山工場は福田の指揮のもと、徹底的な遵法点検と現場点検を完了していた。
そして現場巡回をしていると、側溝のひび割れなどは補修までできてはいないが、脇に立て看板を置いて「側溝補修予定」と表示しているありさまだ。


側溝補修予定

内容:ひび割れ、接合部スキ段差
実施予定日:〇月〇日〜〇月〇日
担当:環境管理課


防油堤補修予定

内容:劣化箇所補修/再塗装
実施予定日:〇月〇日〜〇月〇日
担当:保安課


枯木撤去計画

内容:枯れ木除去
撤去期限:〇月〇日
担当:環境課

既に補修したところも多く、そういった場所は一目でわかる。屋外危険物貯蔵所前にはペンキも真新しい駐車禁止の表示(注1)がある。






































危険物貯蔵所の標識は汚れなくまっさらで書かれた名前も墨痕鮮やか、取り付けたばかりなのが一目瞭然だ。
京都工場で危険物の標識に退職者の名前が残っていたで、点検したところ似たようなことかあって書き直したのだろうか?


また書面のチェックでも、監査員が発言する前にズラッと環境関連の文書と記録などが並んでいる。
いざ書類のチェックに入ると、廃棄物契約書は数日前に契約見直しをしているし、過去の記録で温湿度の記載漏れの箇所には所在地のアメダスのコピーが貼り付けてある。
ちょっとおかしいと思って質問すると、「その不具合は既に認識しており是正中です」という答えが返ってくる。

浜口と磯原は顔を見合わせて笑ってしまった。
果たしてそれが良いのかといえば、悪いとは言えないが……ならば監査などなくても気が付いたときに是正しろと言いたい。

だがどうも文書と引用される記録はそろっているようだが、真に遵法と汚染の予防に効果を出しているかというと、疑問なのだ。
仏作って魂入れずというか、形式だけ表面だけと感じる。



伝票のめくり、契約書の法規制項目のチェック、法で定める届け出、報告のチェック、工場から来た桧山と三枝は汗をかいて一生懸命である。
だがお決まりコースの点検項目では、全くと言ってよいほど漏れがない。ただ廃棄物契約書などは従来のものには瑕疵があったということで、ほんの数日前に取り交わしたものも何件もあった。今が良ければというわけにもいかない。

長野工場から来た三枝はもう問題がなさそうですからと、二日目終了すると帰ってしまった。主婦は三日も家を空にしては置けないのは分かる。子供さんも小学低学年だという。

磯原は桧山も三枝も、単なる伝票のチェックだけでなく、もう少し視野を広くして見てほしいと思うが、管理者でなく担当者では大局的な問題提起は難しいのかもしれない。
それと彼らは会社規則をほとんど知らない。だから法で定めることを満たしていればOKと判断する。しかし法は最低のレベルであり、会社規則も必須なレベルだ。実際には近隣との問題とか社会的責任となると世の中の相場とか、過去から報道されてきた事故や違反などの世の中の反応を知っていないと判断できないことが多い。そういったことは担当者を監査員にするのは難しいのだろうか? もう少し大局的に見られる、管理者レベルでなければならないのだろうか?



最終日である三日目のまとめの時間である。
監査側は三枝を除いた全員、被監査側は大熊部長、西田環境課長そして福田担当の3人である。
指摘事項に取り上げるか否かの確認とある程度自由な質疑応答と議論をしている。
大熊部長 西田課長 福田
製造管理部長 環境課長 1環境課担当1
大熊 西田 福田

磯原 「結果として発見された不具合は、すべて工場側が気付いて是正中であるということになっています。とはいえ事前点検で見つけていなかった不適合はいくつもありました」

西田課長 「はっ、ISOの内部監査であれば、不具合を自主的に検出して是正していれば監査で問題にはなりませんよね」

早川 「事前点検をした結果、不具合が見つかったので是正中です。ルール通りに是正しているから監査で不適合になりませんというのはどうなのかなあ〜」

磯原 「確かにマネジメントシステムの監査であれば『PDCAがしっかり回っていますね、立派ですね』となるのでしょうけど、会社では結果が良くなければなりません。そういう観点からは遵法と汚染の予防にはイマイチという思いはあります。
しかしことは別としましても、会社のルールを遵守していないものがいくつかありました」

大熊部長 「おっしゃる意味は、是正されていない問題が複数あるということですか?」

磯原 「はい、おたくの点検で見つけていない不具合がいくつもあります。中には重大不適合もありました」

福田 「思い当たりません。具体的にどんな問題でしょうか?」

磯原 「ひとつは、組立工場で自動機の作動油が入った一斗缶を倒したため工場内の側溝に流れ込み、工場外にある油水分離装置の水量が不適だったため、その一部が工場の外に流出した。作業者15名が工場外で回収作業を行ったというものがありました。

会社規則では、微量を除き油や薬品が工場敷地外に流出した場合は、事業本部に報告することとなっており、事業本部は報告を受けて生産技術本部や広報部などと協議し、届け出や広報を決定するとあります。
おたくの記録を見てもヒアリングでも、流出を起こしたにも関わらず、その情報を工場内部で留め、本社報告をしていません」

早川 「外部で、つまり付近住民や行政が騒ぎにならなかったとしても、これは会社規則違反の重大問題です」

西田課長 「外部で問題にならなくても、それは重大問題なのですか?」

磯原 「この監査の監査基準は関係法令と会社の規則です。この件は会社規則に反しますから当然不適合となります。
会社規則では夜間でも休日でも、流出を起こした工場は本社の事業本部に報告すること、事業本部はマスコミや自治体への対応を広報部と協議して行うことと定めています。
おたくは事故後に報告していませんから会社規則への重大な違反となります」

大熊部長 「オイオイ、西田課長、この件のいきさつはどうなっていたのか?」

西田課長 「えー、漏洩は一斗缶 実際の容量は20リットルですね、大量ではなくすぐに回収できたから本社報告は不要と判断しました」

大熊部長 「ちょっと待て、福田君、工場規則集を持ってこい。それから会社規則集もだ」

福田はすぐに会議室を飛び出して、2分後にパイプファイル数冊とタブレットを持ってきた。

福田 「工場規則集は紙にプリントして配付されてますが、会社規則集はイントラネットにあり紙ファイルはありません」

大熊部長 「まず、工場規則集では液体の漏洩が起きたとき、どう処理すると決めているのか説明してくれ」

福田はパイプファイルをパラパラめくって読み上げた。

福田 「工場規則に『環境事故取扱規定』というのがありまして、事故の種類と程度によってどのように対応するのか決めています。
油や化学物質の漏洩については……工場敷地外への漏洩は量に関わらず直ちに事業本部に報告するとあります」

早川 「会社規則は工場規則に展開されてはいるんだね」

大熊部長 「福田君、直ちにとはどういう意味だ?」

注:法律では届け出や報告を行う時間的即時性の表記が決められている。
「直ちに」とはなにをおいても今すぐやれ、「速やかに」は他に緊急な仕事があればその次に、「遅滞なく」は事情の許す限り早く(普通に)という意味。
上長から指示を受けたら、その場で納期を確認するのが当然。そして期限前に完了して直ちに報告するのがプロ。あなたが昇進や昇給するために。

🡄
緊急/重大
定常/軽微
🡆
疾走 走る 歩く
直ちに 速やかに 遅滞なく

スマホでご覧になっている方には、上の図で「□にX」が表示されているかもしれません。
文字コードで矢印←を表示しているのですが、スマホが表示できないようです。

福田 「何をおいてもすぐやることです」

大熊部長 「そうだ。100歩譲って漏洩した油を回収してからでも、なぜ本社報告をしなかったのか? 当然その前に俺んところに話が来るはずだ」

西田課長 「うーん、まず短時間で回収できると思いましたし、実際に2時間かからず完了しました。それから近隣住民に見られてはいないと判断しました。幸い住民から市に問い合わせはなかったようです」

大熊部長 「君は目撃者がいなければ、ひき逃げするのか。それに私にも報告しなかったと…」

西田課長 「いや、週報に漏洩があったと書いています」

大熊部長 「ちょっと待てよ」

大熊部長が会議室を出て、すぐにファイルとノートパソコンを持って戻ってくる。

大熊部長 「週報と……3月だったな……ええと、組立工場で積んであった自動機の作動油の缶を倒した。内1缶の接合部が破損して作動油が全量漏れた。一部が建屋外部の油水分離槽をオーバーしたため、作業者15名で回収を行った。2時間後回収作業は終了した。工場外部への影響はない」

西田課長 「書いていることは100%事実です。工場外の影響は確認されていません」

大熊部長 「確かに書いているのは事実のようだが、事実すべてを書いているようでもない。建屋外部とはあるが、工場敷地外まで行ったとは書いてない。
報告とは事実を正しく伝えることだ。脚色したり取捨選択してはいかん」

大熊部長は数分黙っていたが、口を開いた。

大熊部長 「福田君はこの油漏れを知っていたのか?」

福田 「はい、油回収作業に参加しました」

大熊部長 「それは工場の外だったのか?」

福田 「工場の側溝の水は、工場の西側敷地境界に沿って流れている昔農業用水だった水路に排出されます。
対策に参加しろという指示を受けて用水路に着いた時点では、水面に油膜がありかなり下流まで流れたと思います。下流へは手の打ちようがないので、私は工場から下流100mほどのところで、用水路に入ってオイルフェンスを張り水面に油吸着マットを並べました。約1時間後に排出が止まったという連絡を受けてから、その40分後に油膜がなくなるのを確認して撤収しました」

大熊部長 「先ほどの工場規則では本社報告とあったが、それを思い出さなかったのか?」

福田 「実は工場規則を読んだことがなく、今初めて知りました」

大熊部長はフーと大きなため息をつく。

大熊部長 「福田君、工場規則を知らずに日々仕事をしているのか……
君はこの監査のために一生懸命にがんばったようだが、頑張る方向が違うのではないか。監査をしゃんしゃんと行くようにするのが目的じゃないだろう。君も講習会に言っていて、どういうことがあって新たに環境監査をするのかを聞かされていると思うが。私も事業本部の会議で本部の環境担当から話を聞いている。
事故を起こさないため、違反をしないためだ。

であればこういった事故の処置が、会社規則に……そこまでは調べなくても工場規則を見て適切かどうか確認してほしい。
それからこういう重大問題であるとき直属上長が規則に反する判断をした場合は、その上長に直接報告するのも従業員の義務だ。まあ規則を知らなくちゃ思いつかないわけだが」

福田 「すみません、考えが回りませんでした」

西田課長 「私はこの件に関しては、適正に処理して終了していたと認識しておりました」

大熊部長 「論点は、適正に処理したとか速やかに完了したということと違う。なぜ本社報告しなかったのかということだ」

西田課長 「報告の必要なしと判断しました」

大熊部長 「会社規則を読めば、裁量というか判断することは書いてない。工場外への流出は即報告するのは義務だ。
それに私への報告を読むと敷地外と記述しなかったのはどうしてなのか?」

西田課長 「ご心配かけないようにと考えました」

大熊部長 「分かった。これについては監査終了後に内部で話し合おう。
とりあえず本社報告しなかったことは重大問題だと認識してほしい。事後というには大幅遅れだが、まずは事業本部に報告しなければならない。広報部や総務も巻き込んで大ごとになるぞ」

西田課長 「たかだか一斗缶一つ分が流出してなぜ大問題になるのですか?」

大熊部長 「ある朝、突然マスコミとか環境団体が正門前でプラカードもって騒ぐかもしれない。まあ、騒がれるのはともかく、川に魚が大量に浮いて大騒ぎになれば、この工場が操業続けられるかどうかもわからんよ。
ええと、この問題で時間を食った。他にもあるならまずはお聞きしましょう」

浜口 「私から発言してよろしいですか?」

周囲が無言の同意を示したので浜口は話始める。

浜口 「廃棄物の契約書で収入印紙額も問題が多々ありました。問題としては二つです。
ひとつは収入印紙を消していない、消していないとは消印をおしていないことです、それが結構ありました。つまらないこととお思いかもしれませんが、これは収入印紙を貼らないと同じとみなされまして、まあ脱税ですね。罰金ではなく過怠金というのを払わなければなりません。

もうひとつは収入印紙金額不足があったようなのですが、その対応です。これも過怠税を払うことになります」

大熊部長 「ちょっと待て、まずは収入印紙の消印がないということだが、西田課長、廃棄物契約書のルールはどうなっているんだ?」

福田 「私から説明してよろしいですか?
廃棄物契約書の多くは業者さんが作って持ってくるのですよ。それには既に業者さんの住所氏名など必要事項が書き込んであり、収入印紙も貼ってあるのです。せっかくなので、それにウチの住所氏名や必要な項目を追記して契約書を完成させています。
その過程で、こちらも担当者が新人だったりしますので、消印が漏れたかもしれません」

大熊部長 「廃棄物契約書は部長決裁だよね。俺の見逃しか?
分かった、それから印紙金額とは?」

福田 「廃棄物契約書には収集運搬と中間処理の二種類あるのですが、契約書の区分が収集運搬は運送で中間処理は請負なのです。そのため契約金額が同じでも印紙税額が違うのです(注2)
多くの場合、廃棄物業者は最低金額の200円を貼っているので、そのまま使うと金額不足になりがちです。というか運送と請負で印紙税が違うことを知らない人も多いと思います」

大熊部長 「つまりそれはウチの担当者の教育不足ということか?」

福田 「廃棄物契約書記入のマニュアルはあるのですが、マニュアルを見なくても、契約書の空欄を埋めると出来上がるような簡単なものですから、マニュアルを読まずに空欄を埋めておしまいとする人も多いかと思います」

西田課長 「だけど福田君は、誰が作成した契約書でもチェックしているのだろう。君は廃棄物担当だよね」

福田 「私は廃棄物の担当ですが、廃棄物の責任者ではありません」

西田課長 「あぁ…そうか。彼が取りまとめているわけか。でも福田君もチェックしてるだろう」

福田 「それはできませんよ。そんなことしたら彼が大騒ぎします。過去に何度もありました」

大熊部長 「なんだ、その分かりにくい会話は?」

西田課長 「総務にいた大沢君ご存じでしょう? いろいろあって環境に異動になって、今廃棄物管理の責任者をしてもらっているのです」

大熊部長 「ああ……そうか」

早川 「なんですかその分かりにくいお話は?」

大熊部長 「総務の係長をしていた者が、ちょっと病気になって総務では使えないということで環境課に引き取ったのです。良くある話です」

浜口 「それから印紙金額が不足と気づいて、あとから貼り増ししたようなのです。本来は印紙を貼り増しするのでなく、過怠税を支払う形になるのです(注2)

早川 「ああ、浜口さん、それは別途話をしたい。大丈夫だから」

浜口 「はあ〜、分かりました。
ともかく廃棄物契約書締結に際してはマニュアルに基づき業務を行うこと、そしてチェックをしっかり行うことをはっきりさせてください」

早川 「まあ現実にそれも難しいだろう。大熊さん、いっそのこと契約書のチェックを経理とか資材の専門家が行うというルールにしたらいかがですか」

大熊部長 「それが安心ですね。相手のあることだから、今ここで約束はできないが、その方向で考えます」



ほぼ決着がついたのでコーヒーブレイクである。全メンバーが疲れ果ててグダッとしている。

大熊部長 「オイオイ、監査する前は福田君は大層自信があったようだが、満身創痍だな」

福田 「分かる限りは点検したつもりでしたが……反省としては法律や会社規則を十分理解していなかったということですか」

磯原 「私も工場にいたときは、会社の規則など必要にならなければ読みませんでした。でも読んでみればボリュームもないし、中身は仕事に密着しているわけで、法律を読むよりは分かりやすくまた仕事に役立ちます。仕事を変わったときは関係する会社規則や工場規則を熟読して自家薬籠としておかねばなりませんね」

西田課長 「誠に申し訳ありません。これがウチの実力ということでしょう。監査前に多少糊塗しても意味がないということですね」

浜口 「早川さん、過怠税のことですけど……」

早川 「ああ、あれね。契約書に貼った印紙税不足のときは、単に正規な金額に貼り増しすればいいよ」

浜口 「それで大丈夫なんですか?」

早川 「大きな声では言えないけど、税務署が入るというか税務調査を受けて、そこで印紙税不足が発覚したら、他のものも点検を指示される。そして見つかったものには3倍の過怠税を、その後点検したものにも印紙税不足があった場合には1.1倍の過怠税を払うことになる……という意味だ。
そういうことでなくて、自分たちが気付いたものは不足分追加すれば良いよ」

浜口 「はあ、そうなんですか? 『印紙税の手引き』はそう読めませんでしたけど。
厳密にいえば収入印紙の費目は租税公課ですから、帳簿と見比べればいつ購入したのか、買い置きしているなら貯蔵品ですから使用時に棚残が減るはずで、嘘はつけませんよ」

注:浜口が何を気にしているのか?
収入印紙を使用時に購入したなら、その時点で代金を租税公課の費目に計上する。そうでなく収入印紙を買い置きしているとすれば、それは未使用であり貯蔵品に計上しておき、使用時に租税公課に振り替えることになる。
つまり契約書に契約締結後に収入印紙を貼ったなら、費用計上の日付関係を精査すれば見つかってしまうことを心配している。

早川 「租税公課の勘定科目を間違えても罰則はない。そもそも税金が減らない」

注:このあたりは実際はどのように運用しているのだろう。私の体験では、正直に過怠税を払った会社もあったし、収入印紙を追加すれば良いというところもあった。

大熊部長 「早川さんは、あまり大きな声では言えない話をしているのでしょう。
しかし早川さんが監査部に行かれたとは知りませんでした」

早川 コーヒー 「監査部の一件(第8話参照)を聞いているでしょうけど、監査部にだいぶ空席ができて、そして行くところがない私がいて、それで異動になりました。
監査部もおかしなことをすると監査部長以下、総入れ替えです、厳しいというか当たり前というか」

大熊部長 「我々も今回は大問題をいくつか出してしまったが、総入れ替えにならないよう頑張るよ」

磯原 「監査をスタートした時は、工場巡回でも書面審査でも不具合を自主点検で見つけてすべて是正済とか是正中にしていて、これは一本取られたと思いました。しかし監査を始めると、粗が見えてきて、いささか残念です」

大熊部長 「どうも表面だけ見繕っただけで、中身を見ていなかったようだ」

早川 「いや、事前点検でいろいろ手を打っていたようですから、相当不具合がつぶされたと思いますよ。言い方悪いけど、事前点検をしていなければ、我々も細々したことに注意を取られ、大きな問題を見逃したかもしれません」

大熊部長 「いやはや、お恥かしい限りです」

早川 「愛知工場の桧山君だったね、君の所は次回だったと思う。どうだい感想は?」

桧山 「こんなに厳しいとは思いませんでした。私の所では、ここ以上に不具合が出るんじゃないかと絶望です」

早川 「いやこの監査が厳しいと考えるのは間違いだよ。我々は厳しい基準でしているわけじゃない。法律を守っているか、会社規則を守っているか、事故が起きる恐れがないかという当たり前の目で見ているだけだ」

浜口 「今までに比べて、この監査はしっかり見ているということですか?」

桧山 「なんというかなあ〜、ISO審査とか今までISO審査のためにしていた内部監査は細かいとこまで見ないのです。形があればよいというか……
例えば収入印紙の問題がありましたが、私は消印なんて適当に押してました。先ほどネットで「印紙税の手引き」を見ましたが、印紙の模様(彩紋)にかかっていないと押したことにならないとありました。本当のことを言って、そんなに注意深く丁寧に仕事をしていません。自分の仕事を反省するばかりです」

早川 「以前からしているISOの審査とか内部監査が役に立っているのだろうか? それとも役に立たないのか?」

桧山 「ISO審査なんてどうでもいいようなことをグダグダ言うだけで、今 問題提起されたような、意味があるとか、真に問題だというものを見つけたためしはありませんね」

早川 「ということは当面というか、社内の工場と関連会社すべてに対して一巡するまではこのようなしらみつぶしの監査が必要ということか」

大熊部長 「本社でそういう声を上げてほしいですね。正直言ってISO14001認証の審査料金として毎年200万近く払うだけでなく、外部講習、勉強会、社内教育の費用、その他 審査のための準備など工数から試算すると2000万、いや3000万くらいかかっていると思う。なにせ事務局専任者を一人置けば、人件主費と副費で1000万は軽く超えますからね。
会社全体となると数億でしょう」

羽左ああ、お金が飛んでいく羽右

羽左ああ、お金が飛んでいく羽右

ISO認証は金食い虫

注:人件主費とは給与、賞与、退職金などであり、人件副費とは健康保険、雇用保険などの会社負担分や社宅補助や福利厚生である。
主費と副費を合わせると、年間の税込み収入の5割増しから2倍ほどになる。
ISO事務局専任者が1名いれば、専任者の人件費だけで年間1000万は行く。加えて従業員にISO教育などすれば一人1時間としても1万円、従業員が1000人いれば1000万になる。さらに内部監査の所要時間、審査にかかる時間を考えると、審査費用の20倍から30倍はかかっていることになる。それを回収できるかが問題である。


前回の京都工場と違い、監査結果が壊滅的なので、西田課長も福田もコーヒーを飲むだけで会話に加わる元気はなかった。二人はグッタリして机にもたれている。
ツカレタビー はっきり言って二人とも職務怠慢のそしりは逃れられないだろう。
そもそも会社規則を自家薬籠としていなくて、仕事ができるはずがない。先輩から聞いたとか、だろう、らしい、ようだ、といった安易な考えで仕事をしていては懲戒である。
もっとも今回の最終責任は部長だ。彼もよく見ていなかったという重大な責任がある。
結局、日々の仕事を真面目にすることがすべてのようだ。



岡山工場から帰ってきた翌日、磯原は監査部の報告書の下書きを作り上げると、山内参与に提出した。 山内参与 山内参与の決裁を受けたら、監査部へ(正)を、(写)を法務部に送る。主宰は監査部だから、監査した工場や工場からの派遣者には監査部から報告または写を送ることになる。

岡山工場の監査報告書を読んで、山内は自分たちが考えた環境監査の成果がでたことにニンマリする。
別に山内がSであるわけではない。もし発見しなかったなら当社の社会的責任が追及され、株価が下がり、製品が売れなくなり、従業員が路頭に迷うかもしれない、いやそれだけでなく下請けや取引先もダメージを受けるのだ。
そういう事態を防いだといえる。もちろん数多くあるだろう問題の一部かもしれないが、していることは価値あることだと認識している。

ある程度成果を出しこの方法に関係部門の信頼を得たら、スラッシュ電機グループではISO14001認証をまとめて返上するつもりである。もちろんそれまでには1年いや2年はかかるかなと考える。


うそ800 本日の妄想

アイソス誌最終号(2023年3月号)を読んだ。それによるとQMSの主任審査員の平均年齢は68歳で、70歳以上が600名以上いるそうだ(p.56)。そう聞くと、63歳で引退し悠々自適(?)で日々を過ごしている私は、お天道様に申し訳ない。今一度現役復帰して働かねばならない気がしてきた。

環境監査ならまだまだ一人前かなと思うが、ボイラーや排水処理施設など梯子を登ったり降りたりできるだろうか? 万一怪我でもしたら自分自身より先様に迷惑をかけてしまう。

それに老人が活躍するといえば聞こえがいいが、老人は引退して若手に職場を譲らなければ世の中の新陳代謝が滞ってしまう。 スイミングわが命 私は10年前にスパっと引退した決断が正しかったと確信している。毎日プールで泳いでいるほうが楽しいし、少ない年金を使うのも社会貢献だろう。
引退して10年も経てばお金や名誉よりエンジョイする時間が一番です。

あわれ麗しの青春……いや違った、あわれ老後の日々、楽しきは楽しめ、明日知れぬ人の命ぞ、 アラン・ドロンも言ってました、名誉と栄光のためでなくってね。アラン・ドロンまだ生きているんだ!

私が死んでも、三大紙とかテレビが死亡を報じることはありません。だから「うそ800」の更新が半月も途絶えたらおばQは死んだと思ってください。
もう10年前ですが、急病で半月入院したことがありました。あのとき退院してメールを開いたら「生きているか?」というメールがたくさん来ていて、うれしかったです。


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注1
法令で危険物貯蔵所前は駐車禁止とは書いてないが、空地を設けなければならず、結果として駐車禁止となる。

注2
@
運送は1号文書、請負は2号文書となる。印紙金額は運送が請負よりはるかに高くなる。
A
過怠税とは課税文書に印紙を貼らなかったとか、金額不足、あるいは収入印紙が消されていないときは過怠税を払うことになる。なお過怠税は契約書に収入印紙を貼るのではなく、税務署に納める。





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