ISO第3世代 73.転勤者探し2

23.05.22

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは

柳田エミと打ち合わせた翌日、磯原は小会議室に山内と上西に集まってもらった。
資料を渡して説明する。

山内参与 上西 磯原
山内参与 上西課長 磯原

磯原 「先日の課内会議で、環境管理課を補強する候補者を探せという指示をいただきました。定年間近で定年までの期間と嘱託になってから数年、本社で働いてもらいたいという方、そして若手で本社で頑張ってもらいたいという方について候補を選びましたので説明します。

お断りしておきますが、何でもできて腰も軽いなんて人はいませんし、そこまでいかなくても、現場の経験もあって理屈も知っているとか、文書作成も現場の指揮もできるなんて、期待するのは高望みとご理解ください。
そして人間は機械部品ではありませんから、皆個性がありまして、年配者なら頑固が取りえという人もいますし、若い者では考えがおかしいという者もおりまして……」

山内 「分かった。詳細はともかく、まずは概要を説明してよ」

磯原 「はい、表をご覧ください。
まず工場の環境担当者から候補者を7名選抜しました。その候補者を私なりに評価して、年配者からは田中さん、坂本さんを、若手からは福田さん、石川さんを推薦します」


区分所属候補者氏名年齢職務/専門特記事項評価推薦


高崎工場中村悠平59公害全般公害防止に詳しい、パソコン不得手、交渉不得手
宇都宮工場田中幹也60特段専門なし元課長、嘱託の希望なし、管理や調整が得手
静岡工場坂本勇人58施設管理全般公害防止に詳しい、管理や調整が得手

岡山工場福田康夫31植栽・建屋公害関連は教育が必要
浜松工場大山悠輔37ISOISO以外は教育が必要、精神教育が必要
兵庫工場岡山一成36環境活動一般的な公害などは不得手と思われる。
どのような職務を任せるか?
高崎工場石川リカルド28廃棄物公害関連は教育が必要

上西 「そのメンバーとしてどんな風に仕事を割り振るつもりですか?」

磯原 「はい、先日申しましたように今工場で強化が必要なものに、公害防止施設の運転や維持があります。これについての管理標準確立と運用や維持の教育を年配者のお二人にお願いしたい。
また熊本工場のような事故発生や法に関わる問題が起きたときに、支援に行ってもらうことを想定しています。

まず田中さんですが、問い合わせた方すべてが高く評価しています。環境関連資格は持っていませんが、複数の部署で管理者の経験があり、調整とか管理の力量は実証されています。
田中幹也 問題は定年になったら退職する予定で、嘱託をするつもりはないそうです。これは説得するしかありません。
なんとかお願いしたいと思っております」

山内 「田中さんなら面識がある。30年も前だが、彼が設計にいたとき、スパッタリングの加工条件を研究所に依頼してきたことがある。あの人も定年か〜、
彼は若い時から登山が好きで、アルプス山麓に住みたいと言ってた。毎日山を仰ぎ見て、時々夫婦で登る……うらやましいねえ〜」

上西 「でも嘱託するつもりがないなら、見込み薄ですか?」

山内 「フフフ、彼の性格なら面白いテーマを与えれば、金など要らんからやらせろと言ってくるさ。わしが話をするよ」

磯原 「次は坂本さんです。彼の評価もとても高く、また周りの人から好かれているようです。 坂本勇人
坂本さんは数年前から重要な業務に就いておらず、まあ飼い殺しといいますか、腐っているらしいです。
駐在場所は要相談ですが、本社所属は了解を得られると思います」

山内 「坂本さんも個人的に知っている。海外で、まったく知り合いもいない、言葉も不自由という状況で、工場のインフラを作り上げた実力者だ。彼に異議はない」


磯原 中村さん 「最後の中村さんですが、面識のある人に聞いたところ彼はパソコンが苦手、人間関係が苦手というので、リモートワークや現地での指導は不適かなと思いました」

山内 「よし、じゃあ、ベテラン勢は田中、坂本でいいね。
若手のほうは?」

磯原 「4名候補を考えました。それぞれ説明します。
福田康夫 福田さんはご存じと思います。山内さんは廃棄物の臨時監査前の講習会で、福田さんと話をしたはずです。
実はその臨時監査を福田さんの岡山工場が受けたとき、いろいろ不具合が見つかり、それで彼は工場内で信頼を落として、今でも責められているそうです」

山内 「お門違いの非難だろうが、世の中そんなものだ」

磯原 「まあ、彼が悪いわけではありませんからね。それで救済というわけじゃないですが、本社で勉強させて何年か後に工場に戻すということでどうかと思いました」

上西 「ご本人の力量はどうなの? 戦力になるならいいけど、これから教育してとなると、今回の補強の目的にはそぐわないな」

磯原 「彼も入社してから10年、環境業務をしてきましたから素人ではありません。環境管理全般を理解しています。教育が必要と書いたのは、基礎的なことでなく本社では広い視野が必要と、全体的な判断ができるようにと思い書きました。

ハハハ、とはいえ私自身、本社に来たとき特段広い見識があったわけでもなく、専門の電気関係しか知りませんでした。ですから教育が必要と書いたのは、余計なお世話かもしれませんね。

上西課長はご存じないと思いますが、岡山工場が環境監査を受けたとき不具合があったのは、彼が悪いわけではないのです。まあ、工場のメンバーからすれば、他の工場の環境監査に行った福田さんが、自分の工場の問題を事前に見つけてくれなかったことに不満はあるでしょう」

山内 「若手はほかにも候補がいるのか、その顔ぶれを見てから考えよう」

磯原 「大山さんは山内さんご存じと思いますが、先ほど話に出た臨時監査の講習会で、私に噛みついた人です」

山内 「ああ〜、我々の監査の考えが間違っているとか言ってた奴か……」

磯原 「そうです。想像つくでしょうけど、彼は今まで工場内に、ISO規格に合わせた文書や記録を作らせていたのです。
大山悠輔 昨年度初めに私どもが、会社の実態を見せて審査を受けるようにという公文を発信していますね、それを見て、工場の各部門から今までの指導は間違えていたのかと批判を受けて、彼の性格もあり大層もめたようです。

そういういきさつがあって、工場の人たちから相手にされなくなった。それで昨年秋にISO事務局を止めて環境課の庶務担当をしているのですが、まあ…不貞腐れているようです。
岡山の環境課長に状況を問い合わせたら、以前から近隣の工場でISO研究会というのを作って社外活動をしていたのですが、庶務担当になっても月に一度は公用外出でその会合に参加しているそうです。課長としてはそんなことより会社の仕事をしてほしいわけですが……こちらで引き取ってもらえないかということでした」

山内 「本社にいた……ええと奥井僕を呼んだ?みたいじゃないか。そんな人間なら、わしは引き取らんぞ」

磯原 「まぁ〜、工場からぜひとも候補にしてくれと要望されましたので」

上西 「そうそう本社は2年前、ISO認証の考え方を変えたよね。私はあの通知にはいささか疑問を持っているのです。
あの大転換で岩手工場でも混乱がありました。あるがままを見せるという指示でしたが、それまでのISO認証の中心メンバーは、今でもあれを批判しています。
大山さんと面識はないですが、その人も混乱に巻き込まれた被害者じゃないのでしょうか?」

上西の話を聞いて、山内と磯原は顔を見合わせてしまった。
環境部門でも、ISO14001を理解している人など稀有なのかもしれない。

山内 「上西君のところではISO事務局というものがあったのかな?」

上西 「ありました。職制上ではなく、環境課の中でISO専任者が2名いました。岩手工場では、あの考え方の転換でだいぶ混乱しましたね。結局それまでのISO事務局担当は、役を降りたといって仕事の継続を拒否したんですよ。しかたなく入社したばかりの者に交代しました。とはいえ2名確保できず1名だけ当てたのです」

山内 「それじゃ交代した人も大変だったろうね」
なぜか山内はニヤニヤしている。

上西 「やらせてみれば、新人は審査前に社内に説明会もせず、ポスターも貼らずにいて心配しました。しかも審査を受けるときも事務局でさえ資料も作らず、従来からある議事録とか計画書などを見せただけです。不思議なことに、それで問題は起きませんでした。
審査員は手抜きしたのを問題にしなかったようです。噂で本社が認証機関に無用なことを要求するなと要求したと聞きました。ひょっとして山内さんが動いたのでしょうか?」

山内 「なぜそうであったかを調べたのか? 考えたのか?
今の話を聞いただけでも、事務局一人分の人件費削減、工場内のいろいろな手間暇を削減した。私の想像だが、年間2,000万円くらい減っただろうね。とすると上西君はそれ以前は、毎年2,000万以上無駄にしていたということだ。
本社の環境部門としては、全社にISO認証のために無駄をかけるなと声をかけることによって、 ああ、もったいない 30工場と本社・支社の無駄を省けいて年間7億くらいロスを削減したことになる。大きいと思わんか?」

上西 「そういう見方をすると大幅改善ですね。ただ、以前より大幅に手抜きした現行で良いなら、それまでのISOは何だったのでしょうね?」

山内 「そりゃ、そういう余計な仕組みを作った人たちに聞かないと分らんね。厳しく言えば今までの担当者を職務怠慢で査問にかけなければならんだろう。
上西君、管理者は常に無駄を省くことを考えなければならない。不作為は罪、君も当然査問を受ける立場だぞ。
今までのISOはなんだったのかなんて、のどかなことを言っては困る。なぜ無駄に気が付かなかったのかを反省してほしい。

ISO認証は認証機関が自由に良し悪しを決定できるわけではない。認証機関は認定機関から認定を受けて商売している。もし認証機関が適否の判断を間違えたら、認定機関から指導を受けるだろうし、問題が大きければ認定取消しになる。当然、我々顧客が認証機関の間違いに気づいたなら、認証機関に是正を要求することは我々の権利である。
従来よりも手間が省けて認証を維持できているということは、従来のISO対応の仕事は無駄があったわけだ。ということは認証機関が無駄を要求していたわけだ。
大きく削減できたと喜ぶのでなく、大きな無駄があったと反省しないと困るぞ」

上西 「えっ、そうなのですか? 従来のISO対応は規格を理解してないで、無用な仕事をさせていたということですか。しかし私はISO認証制度など知りませんよ」

山内 「認証を受けようとするなら、認証とはどういうものか、どういう仕組みなのかくらい調べないとならんだろう。
考えてみろ、年200万くらい払っている業者があるとして、更新時に去年も同じだったからとハンコを押すか? 少しでも改善できないか、コストダウンできないかと考えないのか?
前任者がしていたとか、人に言われたからと受け身で仕事をしては困るぞ。管理者としては最低、担当者がそういうことを調査し評価しているかを確認せんといかん。やってないならやらせる、できないなら異動させる。

一昨年、磯原君が本社に異動になって、ISO認証の仕事を担当することになったが、前任者はとうに転勤してしまい、引継ぎなどしていない。それで磯原はどうしたかといえば、従来のままを踏襲することなく、ひたすら規格を読み、複数の認証機関を訪ねて相談し、認証機関の切り替えも含めて考えた。最終的には認証機関を4社集めて討論させたんだ。
そして従来から認証していた認証機関が間違いを認めてお値段も色を付けるということになって、認証機関は継続することにした。
もちろん認証機関の規格解釈の間違いは直してもらうのが条件だ。

君も岩手工場で毎年審査料金を200万くらい払っていたのだから、本社が動く前にそういう交渉をしてもよかったのだがね。
磯原は本社に来るまでISOに関わっていなかったそうだ。君もがんばれよ。

注:内部費用2,000万、外部流出200万は小さくない。仮に仕組みを見直して内部費用半減、審査料金を30万下げたとすれば1,030万節約となる。これは利益率5%として、売上2億5千万増加と同じ効果になる。
いやいや、この場合、ISO認証をやめれば即利益が2,200万増える勘定である。世のISO認証企業は、認証費用が回収できるのか否かをはっきりさせて認証の可否を決めているのだろうか?

山内 「ええと、磯原君が大山を候補に挙げたのはどういう理由かな?」

磯原 「いえ、大山さんを候補者にしておりません」

山内 「ああ、●印は付いてなかったか。分かった。

岡山一成

次は兵庫の岡山かあ〜、わしは研究所のときこいつを知っている。こやつは優秀だが処世術はゼロなんだよ。というか彼は自分が興味ある事しか頭にない」

上西 「どういう方ですか?」

山内 「まず知識、知能、行動力という観点では、当社でも5本の指に入るだろう。その気があればドクターになって、今頃は准教授くらいになっていたかもしれない。
ただなあ〜、自分が興味を持ったことは寝ないでやる一方、興味がないと上司から命じられても動かないのでは世の中通用しない。それは会社でも大学でも同じだ。
次に行こう」

磯原 「最後は石川リカルドさん、日系ブラジル人で、二世の親が日本に働きに来るのに付いてきた息子が、こちらで教育を受けて日本に住み着いたという流れですね。
石川リカルド 本人は掛け値なしに優秀です。経済的事情で、高卒で就職したと聞いています
既に10年選手で、メインは廃棄物管理とありますが、環境管理全般を大体理解してます。上司の評価、同輩の信頼も高いです。
むしろそれが災いして、高崎工場の工場長も部長も手放さないのではと懸念します。ただ直属上司の環境課長が、石川に広い世界を見せたいから本社に行きたいなら応援すると言ってます」

山内 「上西君、どうだろう、わしは磯原君の提案通り、田中、坂本、福田、石川で良いと思うが」

上西 「高齢者というかベテランについては同意しますが、ちょっと気になるのは若手の二人、福田と石川は教育が必要とありますね。業務繁忙を解消のために増員するのに、わざわざ教育が必要な者を呼ぶとはどうなんでしょう?」

山内 「教育が必要とあるが経験を見てみろ。石川は高卒で入社して既に10年、ずっと環境課で廃棄物を担当していた。普通に考えれば十分ベテランだ。現業もしていたとしてもデスクワークも身に付いているだろう。

それから福田だが、一昨年の臨時監査前の講習会で福田に会って話をしている。彼も入社してから9年仕事していたのだから、担当の植栽しか知らないということはないだろう。実際に環境監査のときは廃棄物の監査を担当していた。
もっとも自分の工場が監査を受けるとき、いくつもダメ出しされてだいぶ責められたらしい。それで磯原は福田を本社に引っ張って救いたいのだろう」

磯原 「いや……それも半分ありますが……私が彼を買っているのは、従来のISO認証を間違いだと理解しているからです。先ほど課長が、岩手工場では従来から切り替えることに、大きな抵抗があったとおしゃいました。今もそんな風潮なら福田さんを派遣して、ISO認証の神髄を宣教しなければなりません。そういう仕事には彼は適任です。
ISOだけでなく、彼は仕事をよく考えていると思うからです。言われたことを言われるままにするだけでは、レミングのように断崖から落ちてしまいます」

注:レミングの集団自殺する話は、現在ではディズニーの作り事(演出)であったとされている。


実を言って毎日多忙を極めている磯原としては、いまだに毎朝の工場からのメールチェックをしようとしない上西に愛想が付きかけていたのだ。
それを聞いて、上西は黙っていた。上西が仕事ができないと思われていることは、自分自身仕方がないと認めていた。
しかし岩手工場は、他の工場に比べて精鋭ぞろいで、他より良い成果を出していると考えていた。しかし今の話を聞くとISO規格を理解していないということだ。更に他の工場では、認証機関が誤った理解をして審査していることを認識して、それをしょうがないと思い大人の対応をしていたと言われたのだ。いささか、いや大いにふがいない話だ。


山内 「それじゃ、上西君、今決めた田中、坂本、福田、石川の4名を、人事に希望している旨、伝えてほしい。人事部長は了解している。
ああ、知っているだろうが候補者の経歴書、過去の査定書とか一式コピーを要請してくれ。それを見て最終決定しよう。
工場の人事が動いて先方のネゴが取れたら、わしと上西君で挨拶に行かんとならん。
年配者のほうには嘱託になってからも、働いてもらうようお願いもしないとならんしな」

山内はそう言うと、会議室から出ていってしまう。

上西 「上手くいって4名増加となった場合、仕事の割り振りをどう考えているのかな?」

磯原 「私の案は、田中さんには工場や関連会社との窓口になってもらうつもりです。まず毎日工場からくるメールの処理、田中幹也工場と定期報告の内容チェックととりまとめ。これだけ処理するのに毎日2.5時間はかかります。

それからまた各工場と関連会社の環境実施計画の進捗フォロー、ISO審査の対応とフォロー、問題点のまとめと展開、これをやっていただくと1か所1時間として130時間、日割りして6時間。多少残業してでちょうどでしょう。
その他、日々の細かなトラブルを見ていただければ十分かなと思います。

坂本勇人坂本さんに期待しているのは、異常発生時のコントロールタワー、工場でのトラブルや事故発生時には、出張をして指揮を執ってもらいます。
また定期的に工場を巡回してもらい、環境施設の運転状況やメンテナンス状況を見てもらいます。機械なんてものは初期費用と維持費用は同じくらいですから、メンテを良くして性能の維持、延命化を図るのは重要です。

社内の工場と製造業の関連会社で100拠点ありますから、週1拠点として2年で一巡でしょうね。在社時に報告書作成と、巡回結果改善提案や問題点を社内に通知するなどすれば、負荷はほぼ満杯です。

若手のほうですが、福田さんには環境管理の考え方については私が教育するつもりです。環境設備の管理は坂本さんの助手としてOJTで行いたい。
福田康夫 まあ最初の3か月程度は座学を含めて教育をしましょう。教育計画は石川さんを含めて私が立案します。講師には課長はもちろん増子さんや田中さん、坂本さんにもお願いするつもりです。

石川リカルド 石川さんは破棄物の削減とリサイクルの推進を担当してもらうつもりです。増子さんは廃棄物の徹底した遵法を進めてもらうつもりです。というか今まで増子さんがしていたのは遵法だけでした。
現在の増子さんの守りの仕事だけでなく、積極的に改善を進めないといけません。もし石川さんが来るなら、増子さんも一息つけるでしょう。

ここ環境管理課は公害防止と廃棄物の担当ですから、それらについて守りも攻めもしっかりできるでしょう。可能ならプラス4名体制は、せいぜい2年で終了して、それ以降は2名削減しなければなりません。年配者が引退したら補充なし、そして若手は工場に戻し、新たに人を迎えるという流れでしょう。

ただね、上西課長、私は考えているのですが……ひとつの工場で環境担当者は4〜6名くらい必要だと思います。一人が40年働くとすると8年に一人新人を採用することになります。30工場とすると毎年3.75人、つまりそれだけ新人育成が必要になるわけです。ですから工場で新人採用あるいは他部門から異動してきた場合、ある程度本社で教育する制度を作ってもよいのではないかなと考えているのです」

上西 「ほう、それはまた聞いたことがない考えだね。ちょっと想像つかないが」

磯原 「毎年3.75人、まあ4人ですか、それを一度に教育するのも大変ですから、2人ずつ半年間とか工夫はしなければなりませんね。
ご存じと思いますが、人事とか経理あるいは資材などは、本社人事部、本社経理部、本社資材部といった部門が工場の担当者を管理……人事異動とか査定とかもしているわけです。
遠大な計画ですが、本社環境課がそれと同じように全社の環境担当者を管理できるようになれば、危機管理とか人材育成など全社共通のレベルにできるし、担当者の力量を向上できると思うのです」

上西 「それは遠大な計画だ」

磯原は十分に人員配置と負荷工数との関係を計算しているようだ。上西はフンフンとうなづくことしかできない。
磯原の話を聞いて、考えることが違うなあ〜と上西はため息をついた。



うそ800  本日、思うこと

もはや公害の時代ではないと思ったのか、環境部の看板をサスティナビリティ部などに架け変えているところが多い。そこでは、従来からの公害防止、廃棄物管理、省エネといった基本的な仕事はどのようになっているのだろう。
設備をメンテし、十分に人を配置し、運転しているなら良いが、これからはSDGsだ!公害なんてカンケーない なんてお花畑になって、基本的なことを忘れては違法や事故が起きるだろうと懸念する。
それに時間とともに規制も厳しくなっているし、世の中の目も厳しくなっている。もう廃棄物体制は完了したなんてことは絶対に来ない。

現実に全国の水質事故は20年前より倍増している。また煙突からのばい煙の測定データを改ざんしたという違反も、廃棄物の違法も毎年報道されている。公害は過去のものではない。
もう10年以上前に、経産省が環境だと浮かれてないで、公害防止の基本に帰れと通知を出したのを思い出す。

ではISO14001認証は役に立っているのだろうか?
ISO14001の意図は「遵法と汚染の予防」である。それは間違いなく正しい
ではISO14001の要求事項は、それを満たしているかといえば不十分だろう。
更にISO14001認証は遵法と汚染の予防に貢献しているかといえば、役に立たないとしか言いようがない。

私の考えていることを述べれば、ISO14001は会社の仕組みを作るときの指針となることは間違いない。だから会社のルールがISO14001の要求事項を満たしているかという漏れチェックに使うべきであることは正しい用法である。それは規格の序文にもある。 がんばろう、遵法と汚染の予防を

だが認証は不要だろう。高い金を出すなら、そのお金を社内の人にかけ、設備にかけ、教育にかけるべきだ。
ISO認証はチェックであり、改善ではないのだ。念仏を唱えるのでなく、全力で前進しなければならない。


うそ800  本日の七不思議

前回、13,000字になってしまったから二つに分けたと書いた。
その1は 7,500字だったが、今回のその2は 9,100字となった。
 13,000=7,500+9,100
ハテ、どこかで利子が付いたのかもしれん。



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