環境審査 レッスン1 2005.09.25
いつも申し上げておりますが、私は過去よりレベルの低いISO審査員に泣かされております。そういう審査員の方々に、少しでも力量をつけていただこうと、私の乏しい力量をお分けしようと考えまして、ここに環境監査講座を開催することとしました。 
受講料はいりません。ご安心ください。
審査員だけでなく、内部監査員の方、あるいは審査員に泣かされている方にも役に立つかもしれません。
といってもこのシリーズいつまで続くかの保証はありません。どこぞの審査機関からいちゃもんがついて、いつお取りつぶしになるか、逆にどこかの審査機関あるいは審査員研修機関から講師に招聘されて書く暇がなくなるかもしれません。
 マサカネ 

本日は第1回目として、環境監査の初歩の初歩です。
監査というのは聞き取りや観察をして見つけた事象から、即結論が出るわけではありません。
現場でおかしいと見つけたこと、書類をめくっていて間違いを見つけたとしましても、それがそのまま不適合となるような安直、安易、簡単、単純なものではありません。
観察した結果、見つけたたくさんの事象はエビデンスにすぎず、そのエビデンスの組み合わせによってはじめて不適合が推定あるいは立証されることになります。

man2.gif さあ、本日は観察した事象と不適合の関係について学びます。
本日のテーマは
「観察した事象はエビデンスにすぎず、エビデンスの分析によって不適合、適合が導き出される」

具体的な事例で考えましょう。
環境監査を行ったら、次の事象が観察されました。
 ・現場に備えられていたMSDSに現行の法令で定める様式でない古いものがあった。
 ・事務所で書面審査を行ったらすべて新しいMSDSがそろっていた。
もちろん現実には上記の事象を見てもいろいろな審査員がいることでしょう、
 ・MSDSなんてものの存在を知らない審査員
 ・MSDSを確認しようと思わない審査員
 ・MSDSを見ても古いことに気がつかない審査員
 ・MSDSが古いことに気付いても見逃して鷹揚なところを見せる審査員
 ・MSDSが古いことに気付いて鬼の首を取ったように大喜びする審査員
 ・たんたんとメモをする審査員
さて、あなたはこれを見てどのような監査結果を導き出すでしょうか?

これを理解するにも多少は法律の知識が必要である。
まず、MSDSとは何か?ということを知らないとはじまらない。いやしくもISO審査員とか内部監査員と自称しているなら十分ご存じと思うので、改めて説明することは失礼であろうから省略する。
さて、安衛法では化学物質を使用させている雇用者はMSDSを備え、販売または譲渡する者はMSDSを提供しなければならないと定めている。ご存じのように、MSDSの様式はPRTR法制定に伴い、2001年01月01日という大変覚えやすい日付に様式が変更となった。更に言えば新様式を揃えるまでに猶予期間もあったが、既にそれも過ぎている。
おっと、改定前の様式と改定後の様式を知っておかねばならない。

もし、この緑色の文字で書いていることを知らなかったというISO審査員や内部監査員がいたら・・・いないとは思うが・・・環境監査を行うには力不足であるから研鑽が必要である。
では発見した二つの事象からどのような結論を出せばいいのであろうか?
たとえば上記の事象をそのままとらえて、
発見した事象 結論
現場で見たらMSDSが古かった法に反しているから不適合である。
書面審査でMSDSがそろっていた適合である。良好事例としてあげる。
と判定するのは安易です。 というより安易過ぎま〜す。
こんな審査をして、月給をもらおうなんて根性は間違っています。
実際に同じようなISOの所見報告書を存じ上げておりますがね 

本日のテーマに戻りますと、観察した事象がそのまま不適合、適合になるのではありません。発見した事象は、不適合、適合を立証するエビデンスになります。
この発見した二つの事象から
 ・なぜ、事務所には最新版のMSDSがそろっているのか?
 ・法規制などが変わったときMSDSを入手する仕組みはあるのか?
 ・文書管理する仕組みはどうなっているのか?
man7.gif  ・なぜ、使用部門には最新版のMSDSがなかったのか?
 ・それはシステムの欠陥によるものか?
 ・規格項番のどれに不備があるのか?
を究明し、判定するのが監査です。

いやしくもISO審査員と名乗っているのなら、上記の事例では
 ・現場で見たらMSDSが古かった。
 ・書面審査ではMSDSがそろっていた。
という二つのエビデンスから、たとえば
・不適合現場に配布しているMSDSを最新化する仕組みがない。
・根拠4.4.5f) 外部文書の配布に不適合
・エビデンス○○現場の○○塗料のMSDSが99年発行であり、法令で定める要件を満たしていない。
というふうにまとめるべきです。
不適合を立証するのに、(審査機関が怖くて口に出せない)労働安全衛生法に反しているなどということを持ち出さなくても十分です。
もちろん、ここに書かれていないいろいろな状況をもっと調べなければいけません。
不適合項目と根拠がこの例以外になるかもしれません。

複数の審査員がそれぞれが発見したエビデンスを審査員のミーティングでリストアップし、審査チームとしてそれらの複数のエビデンスから分析して、得られた心証から適合・不適合を表明するのです。
個々のエビデンスは複数の審査員が観察して収集するわけですが、審査員一人一人が不適合を判断したり提案することはないはずです。
いうまでもないことですが、現場で見たことは現場の問題として・事務所の問題は事務所の問題としてとりあげなければならないということではありません。観察した複数の事象から真の問題を見つけるのが監査です。
真の原因を突き止めるのは被監査側の責任です。

審査機関によっては、法違反を即不適合と判断するところ、法違反そのものは不適合としないというところ、いろいろあるようです。
私は法違反ということをとらえて、適合であるとか不適合であるという判断をするのは早計であると思います。要はそのような事態がなぜ発生したのかを考えないと意味がありません。
認証した組織に法違反が見つかると、法違反を見逃したことを「我々はシステム審査だから」と言い訳し、審査の際に法違反を見つけると「法違反だから認証できない」と語るのは・・・フェアではない。
それより重大なことであるが、行政や弁護士でない者が、法違反であると判断することは弁護士法違反にならないのだろうか?
もちろん最終的に合法・違法を決定するのは裁判所である。
法違反という事態であっても、それがなぜ起きたのか、それはISO規格のどの項番に該当するのかを考えないのは監査や審査ではありません。

それこそシステム審査の存在意義ではないでしょうか?

言い方を変えると、法違反即不適合ならば、その処置対策をしても是正処置には至らないのではなかろうか?
そのような表面的な問題提起では、再発するんじゃありませんか?
あるいは複数の法違反があっても、その原因はひとつかもしれませんよ。



本日のまとめでございます。

Class is over. See you again.

バイ smile.gif バイ



うそ800の目次にもどる