審査所見 2005.05.14
最近では、単にISO9001とかISO14001を認証するだけでは珍しくも面白くもないという理由なのか、審査機関の中にはメリットというかウリとして「経営に寄与する審査をします」などと語っているところがある。
「経営に寄与する」とのたまわくのであれば、審査機関は経営コンサルタントに転業したのであろうか?
などと驚いていたのだが(冗談)最近驚くべき審査(これも冗談)を見聞きした。
そんなことをきっかけに同業者、知り合いに声をかけ、ISO14001の審査所見の面白い事例(ISO事務局にとっては面白くない)を集めてみた。
すべて実際のものである。なお、これら事例は複数の審査機関(特に名を秘す)の書いたものであるが、どの指摘がどの審査機関かはコンフィデンシャルである。 

では、はじまり、はじまり・・・
「適用範囲が環境マニュアル第2章に書かれている。ISO規格では適用範囲は第4章第1項なのでそれに合わせることを推奨する。」
某社の審査において、某審査機関は上のような所見を残していった。
quest.gif なぜ推奨なのか?
ISO14001規格は2004年11月に改定となり、現在は移行期間中なので不適合ではないそうだ。経過措置の切れる2006年5月以降は是正が必須となるという。
驚くべき発想である。
いったい環境マニュアルの章の番号とISO規格の章の番号を一致させよという要求事項はあるのだろうか?
考えてみると、章の番号をあわせろという前に、ISO14001では環境マニュアルを作れという要求もないのだが?
ISO規格の項番とマニュアルの対照表を作れといっている審査機関がある。それはJABコードに則り適正である。
しかし章立てを規格の項番に合わせろというのは聞いたことがない。
私がといめんの被監査人でなかったことをこの審査員は神に感謝しないといけない。私であれば即、異議申し立てするところであった。
実は私も似たような体験がある。
97年ころの話だが、4.3.3目的目標と4.3.4プログラムをひとつの章にまとめたマニュアルを書いたら、審査員から不適合といわれ、やむなく規格に合わせて分けたことがある。
当時はまだ私もウブだったのである。
しかし、04年改定で4.3.3と4.3.4がひとつになったので、今度は章を分けてあるマニュアルはひとつにするよう改訂を求められるのかもしれない。
これからの進展を見守ろう 


今年度の目標設定において、昨年度の実績値よりもゆるく設定されているものがあり、適切でありません。

事務局担当者に聞いてみると、生産増があり電力が増えるのでそれを見込み、かつ一定比率で削減を進めた値を目標としたとのこと。「実質的にはかなりきつい数値なんだがね」と彼は言っていた。
だとすると、私にはこの目標設定は適切に思える。
うーーーん、このような発想では社内で作るのではなく、すべて購入することが環境負荷を下げるという理屈なのだろうか?
ところでこの所見報告書には要求事項の項目の記載がなかった。根拠がない不適合ってあるのだろうか?

この審査所見の判定は次のとおり。
「審査において、不適合の根拠とせずに審査員の主観に基づいて判定している。」
ちょっとこれではこちらも主観的かな? では、
「審査において、不適合の根拠を記載しておらず、ガイド66に反している。」



4.5.2 過去一年間に事故が散発しています。再発防止が不十分です。
これは難しい問題である。
mankomatta.gif この担当者は「いやあ、まいったよ、ここのところさまざまなトラブルが起きてさ、問題だらけなんだけど、原因はいろいろなのよ」と自嘲しておりました。
この審査員は再発防止が徹底していれば、原因の異なる事故も起きないと断言できるのだろうか?
類似事故が多発しているのであれば再発防止が不十分であるといえるだろう。しかし再発防止を徹底しても、まったくカテゴリーの異なる事故は防げないのではないか?
たとえば、流出事故が起きたので液漏れが起きないように一生懸命対策してたら、今度は廃棄物の契約に問題が見つかったとしてもそりゃ関連性はないのではないか?
この問題は是正処置が悪いというより、管理体制の問題かもしれないし、あるいは経営そのものかもしれない。
そのときは、4.5.2項で不適合とすることが適切なのか?あるいは不適合とすることができるのか?良く考えないといけない。資源が用意されていないのなら経営者そのものの責任かもしれない。
この審査員は経営者に対して不適合を出せないものだから、再発防止が悪いと担当者に責任をかぶせたのかもしれないな?
それと技術上の制約、あるいは技術が確立していないのであれば、ISO規格4.4.6運用管理以前のことである。


4.3.2、4.5.4 「環境関連該当法規等要求事項一覧表」に、改正された法規制が反映されていませんでしたが、これを内部監査で見つけていません。
へえ?内部監査では法規制調査の漏れまでを点検しなければならないのか?
ISO14001で求める内部監査はシステム監査であり、遵法を確認する仕組みがあるか、それが機能しているかを点検する必要はあるが、遵法をしらみつぶしに調べたり、法律が漏れなくリストアップされているかまでじゅうたん爆撃をすることは求められていない。
ISO14001アネックスA.5.5 参考1では「環境遵法性監査はこの規格の範囲ではない」と書いてあったようだが・・・あるいは私の思い違いかもしれない。
そして監査員の技量からいっても無理があるのではないか?
そこまでいうなら、ISO審査員は審査において遵法を見ているのかね?

「ワシは法律を漏れなく見ているぞ」という自信をお持ちのISOの審査員がいらっしゃるなら、いつでもあいまみえましょう。  お便りをください。



重要側面でないものが、目的及び目標になっています。
重要側面でないと目的目標にしてはいけないという要求事項があったとは、おばQジジイ、今の今まで知りませんでした。
私が規格要求を見逃していたのでしょうか? それとも、この審査員様はISO14001以外の監査基準を用いているのでしょうか?

環境目的を設定するときに、重要な側面を配慮するのであって、重要な側面の中から目的を選ぶのではない。
もし、重要な側面の中から目的を選ぶしかないのなら、社会貢献とか自然保護という高邁な目的を掲げることはできない。
高い理想を持ってはいけないといわれると、人間悲しいです。
musuko.JPG



近隣から騒音の苦情に対して、実測値は法基準内であり、かつ行政と協議して処理されていますが、再発防止・予防処置の観点から十分と言えません。
法規制を守り、行政が問題ないとお墨付きを与えても近隣の苦情が収まらないこともあるのはこの世のならい、
近隣の苦情があるとISO審査で不適合という理屈があったとは、私、不勉強でした。

しかしなんだね、「十分といえない」という表現がまかり通るのだろうか?
私のしている遵法監査の世界では、監査結論は「法を守っている」か、「違反している」のいずれかしかない。「法を十分守っているとは言えない」なんて結論はないのだ。

アナログ監査とデジタル監査の二種類があるのだろうか?



グリーン調達は有害化学物質を含んでいるものを購買しない活動を進めているが、それだけでなく包装材料なども含めて総合的に推進すること
woman6.gif 本当に驚いた!
この審査員はISO規格を読んだことがないに違いない。
「ISO14001:2004 3.2 継続的改善 参考」に、この「プロセスはすべての活動分野で同時に進める必要はない」と書いてあります。
ISO規格はいつからボランティアから義務になったのだろうか?

それにこの文言は不適合を「提示している」のではなく、なんと「実施を指示」している!
いつからISO審査員は審査ではなく、コンサルタントをするようになったのだろうか?

日本適合性認定協会に問い合わせしなくっちゃ!



環境関連該当法規等一覧表に不足している法規制が見られます。
 (具体的証拠)RoHS指令 ← ロース指令またはローズ指令と読みます。
この会社の担当者に聞くと、ヨーロッパどころか全然輸出をしていない。EUの規制など会社の事業に全然関係ないのだ。
私が思うに、たぶんこの審査員は最近の勉強会で新しいヨーロッパの規制を耳にしたので、さっそくそれを使ってみたのではなかろうかと・・・

それと不足しているというのが不適合なのであろうか?
仮にこの状態が不適合であるとしても、リストされていないことは不適合ではなく、不適合のエビデンスである。
不適合とは、たとえば、法規制を調査する手順が不十分なのか?さぼって情報を最新化していないとか?担当者の力量が不足しているのか?ということではないのだろうか?
根拠はなんだろうか?



不適合の定義において「計画値の5%以下を2ヶ月連続した場合」を不適合としているが、その方法は合理的ではありません。
合理的でないと断ずる根拠が合理的なのか?ぜひお聞きしたい。
ISOの審査では要求事項に適合しているか、あるいは不適合なのかを判定するのであって、ひと様がしている仕事を合理的か否かを考える必要はなさそうです。

ところでこの審査員はどうすれば合理的と思うのだろう?
そのへんを2時間ばかり問い詰めたい。



コミュニケーションの記録において、記録のリストには4種類の記録がリストされていますが、実際の記録は1種類しかありません。
man4.gif その会社の担当者に聞くと、リストに挙げていた行政からの指導や近隣からの苦情の記録などがなかったとのこと。
それはけっこうなことではないのか?

リストに例示した記録がそろっていないと不適合というのなら、するとなんだ、発生しない記録も無理やりつくらないとならないわけだ。
工場長が代わっても公害防止統括者の変更届けをしないでおいて、あとで所管行政から叱られて書面警告を受けたり、わざと大きな騒音を出して近所の人から苦情を言ってもらわないとならないらしい。
今までは事故発生や緊急事態を予防するために一生懸命努めてきたが、今度からは定期的に緊急事態を起こすようにしよう。 
規格要求は記録を残せと書いてあるが、発生していない記録を捏造しろとは書いていないようだが・・・・



法的要求事項等に基づく、行政への届出手順について検討の余地があります。
「ホウ、検討の余地とな?もっと詳しく聞きたいのお〜 苦しゅうない、そのほう近こうよって、申してみよ」(ばか殿調)
検討の余地があるとはいったい全体どういうことなのだろうか?その判断いかに?
そしてそれはいかなる要求事項に不適合なのか?

謎は深まる。
浅見光彦を呼べ、十津川警部を呼べ、古畑任三郎を呼べ、コナンを呼べ、コロンボ刑事を呼べ、ポワロを呼べ、名探偵を全員、大至急だ!
そしてこの謎を解いてもらいたい。



4.3.3環境目的・目標 著しい環境側面、法的及びその他の要求事項、利害関係者の見解、運用上及び事業上の要求事項などについて個々に配慮すると目標策定のプロセスが明確になります。
これは不適合なのか? 教育的指導なのか? 技ありなのか? 一本なのか? ワカリマセン
この審査員も月給をもらっているのでしょうねえ〜

それにいったいこの指摘にはどう対応したらいいんだ?
man2.gif 「目的目標を設定するに当たり、○○審査機関の○○審査員に立ち会ってもらい決定することに改定します。これにより目的策定のプロセスが明確になりました。」
なんてね!



目的・目標の一部に数値目標のないテーマがあります。
目的目標に数値目標がないとだめという根拠はなんだろう? 私はわからない。
この表現ではISO規格にかすりもしない。せめても「目標が測定不可能である」くらいは言ってほしいものだ
しかしながら、測定可能でなくても不適合にはできない。
だって where practicable という条件がついているから。
この審査員はISO14001:2004ではなく、自分の頭の中のISO規格によって審査しているらしい。
ISO14004ではこのあたりについて種々事例を挙げて説明している。
もっともISO14001を理解していない審査員なら、ISO14004など存在も知らないだろう。



目標未達成の是正処置として、目標値を下方修正したものがあります。継続的改善と不適合の原因除去という観点から妥当でありません。
私が現場の監督者だったとき、上司から教えられたことがある。
「納期は絶対厳守しなくてはならない。しかし、徹夜で仕事して納期を守る方法もあるし、お客さんと交渉して納期を伸ばしてもらう方法もある。」
私はこの方の下に10年いました。大変尊敬しております。既に引退して今は碁会所に入り浸っているそうです。

この審査員は旧陸軍の軍国精神、大和魂で神風攻撃しているのでしょうか?
歯を食いしばり、石にかじりついても目標に向かって進むのは尊いと思いますが、機関銃を撃ってくる敵に日本刀で切り込んで玉砕しても誰にも評価されません。
仕事というのは自分だけでなく、取り巻く環境や相手のあることですから、できないことはできないと判断し、事態に合わせていかないと、それこそISO規格不適合のようです。

それがグローバルスタンダードってもんですよ、


いやあ、さすが経営に寄与するというだけあって、大変経営に役立つご意見ばかりである。
このようなご意見に従って会社の仕組みや活動を見直していったら、無駄な資料作りや無用な手間ばかりかかり、会社を傾けることは間違いない。

このような所見を書いた審査員は恥ずかしくないのだろうか?
審査員ご本人だけでなく、この所見報告書を見ているその上司も、判定委員会もどうなのでしょうねえ〜
その人たちも恥ずかしくないのかしら?

ISO14001も先輩ISO9001の負のスパイラルのわだちをしっかりとたどっているようである。

悲しいことだ


ここに書いてあることが、私の寝言とか口からでまかせとお疑いの方がいらっしゃるかもしれない。
そう思う方はりっぱな審査を受けている人、あるいは審査をされている人で幸せです。
ぜひお知り合いの会社や工場の審査結果を見せてもらってください。
事実は小説より奇なり、あるいは事実は小説より危なりかもしれない。


アイソス 04年12月号で「22の品質審査機関が知恵を出し合った指摘事項検討会」なんて特集がありました。
現実の審査のレベルはとてもそんなもんじゃなさそうです。
あの特集に載っていた事例は、不具合事例どころかえりすぐりのものじゃないんですか! 



通りすがり様からお便りを頂きました(05.06.04)
ISOについて
大変ISOにお詳しいようですね
しかしなぜそこまで審査機関に恨みがあるのでしょうか
審査員は悪意はないと思いますし、過去ISOで日本が悪くなったとも思えません
もっと前向きな思考をしたほうが良いと思います

通りすがり様、お便りありがとうございます。
正直申し上げまして、私は審査機関全体に対して、恨みつらみはありません。
しかし、過去に相対した特定の審査員に対して恨みつらみがあります。
善意であっても、質の悪い審査を行い、企業に害をなしている審査員がいるのは事実。悪意がある・ないではないのです。質が悪いか否かが問題なのです。
この質の悪い審査員が日本のISOを、第三者審査登録制度を悪くしているという事実は否定できないと考えております。
前向きに進むためには、日本から質の悪い審査員を払拭することが必要であると考えております。
通りすがり様も、ご自身の体験を反芻すれば審査員の間違いによって会社に迷惑を受けたことが多々あるのではないでしょうか?
そのようなことを改善することが、負のスパイラル脱出の礎となるでしょう。



ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(09.04.01)
「審査所見 2005.05.14」は過去に拝見したはずなのですが、今更ながら爆笑を誘う指摘事項が粒ぞろいですね。
これはオモシロイです。当社が過去に受けた爆笑事例など足元にも及びません。

ところで、通りすがり様のコメントに意義があります。
6年もたっているので、もうISOに対するお考えも変わっているかもしれませんが。

大変ISOにお詳しいようですね
しかしなぜそこまで審査機関に恨みがあるのでしょうか


おばQ様は、極めて初歩的な審査員の規格解釈の誤りを逆指摘しているだけです。恨みではないし、批判していますが批難ではないでしょう。
だいたい、大金を払ってこんなバカバカしい指摘しかもらえないのであれば恨みたくもなるというものです。

審査員は悪意はないと思いますし、過去ISOで日本が悪くなったとも思えせん

悪意がないのならもっとタチが悪いです。自分の行為が正しいと信じ込んで間違ったことをするのを「確信犯」といいます。人類の歴史を紐解けば、そんな実例は山ほどあります。
だいたい、会社をよくするためのISOがその目的どおりに機能しているかどうかをチェックするのが審査なのに、その審査指摘がブレーキをかけてどうするのと言いたいです。アホな指摘がどれほどその会社に迷惑をかけているかを自覚していない審査員は、それだけで重罪というものです。
こうした誤った認証制度の運用によって、何十年にも渡って社会は莫大な損失を被ってきました。そして今は、環境という美名を隠れ蓑に国家レベルで陰謀が行われていますが、ISOはその片棒を担がされています。
アホ審査員は、さしずめその一味といった役割でしょう。

もっと前向きな思考をしたほうが良いと思います

ではどのような思考が「前向き」なのでしょうか?
このようなアホ丸出しの指摘、それも役に立たないどころか被害を与えるだけの指摘を甘んじて受け入れることが前向きだとはとても思えません。

ぶらっくたいがぁ様 毎度ありがとうございます。
いやはや年月が経つのは早いものです。
それにゲーテはすべてを語ったと言われますが、私もISOについてすべてを語ってしまったようです。
老兵は消え去るのみ・・まあ、後少しですから


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