Keisuke Hara - [Diary]
2001/06版 その1

[前日へ続く]

2001/06/01 (Fri.)

珍しく午前中から個研でTeX書き。 全ての変更追加個所を書きあげるのに、 今日丸一日かかるかと思ったが、 タイプをしていたら段々とハイになり 途中からviの涅槃の境地に入ったらしく、 夕方になるまえに一通り終了した。 絶滅種認定も近いと言われるvi使い(*1)の面目躍如。 でも、真のテキストハッカーは 作業ファイルが全て頭の中に展開されているので、 ヴィジュアルインターフェース(vi)不要だとか(ウソです)、 大悟への道は遠い。

印刷した原稿と赤ペンをもって、 アクロスの一階のカフェに行き、お茶を飲みながら小一時間ほど添削。 また個研に帰ってきて訂正。 これで明日、明後日と休日中に頭を冷やしながら、 記号の統一とか英語の文法ミスをチェックし、 かつ共同研究者の検閲を通れば、来週中にはなんとか。

*1: vi: そもそもスクリーンエディタが珍しかった先史時代、 もてはやされたこともある歴史あるエディタ。 入力モードと編集モードを切り変えながら使うという、 当時は止むを得なかったが「今では凶悪な」または 「今では逆に画期的な」方針を持ち、 結局、ラインエディタ(行単位編集コマンド)のヴィジュアルモードに過ぎないと言う、 「とてつもなくお粗末な」または「信じられないほど機動力に富んだ」 好き嫌いの激しいエディタ。 と言うより、今では(viを使えるが)嫌いな人は、もう絶滅したと思う。


2001/06/02 (Sat.)

わりと早く目が覚めた。昼食を取って、 三条に出て散歩。本屋を周ったり、CDを買ったり。 夏に向けて暑い日用にボサノヴァ集を一枚と、 憂鬱な梅雨用に「ナントに雨が降る」を含むバルバラのアルバムを買う。 Cafe R***** で一服。丁度隣りの席に、 レストランなどのプロデュースをしているらしい中年男性と、 店のマダムに納まりたいと狙う女の子の二人組が座り、 趙治勲vs大竹ばりの精密な心理戦を繰りひろげていた。 女の子の方は関東一キュートなYちゃんをちょっと鋭くした感じの 美形ではあったが、愛人業ってのも楽じゃないんだな、 と思いながら原稿の添削。

午後も早い時間に帰宅。 昨日仕事に集中し過ぎたのか、気怠い感じなので、 寝台に寝転がってボサノヴァを聞き流しながら読書。 窓から涼しい風がたまに吹き込んできて、 どうして数学なんかやってるんだろうな、 数学って一種の不幸な遺伝病のようなものではないかしら、 などと考えながら、うたた寝したり、 目を覚ましては、全然頭を使わなくて読めるサスペンスものを読んだり。

ちなみにR.マンソンの「ナイト・ヴィジョン」(角川文庫)。 魅力ある女性が、悪魔的なストーカーに誘拐されて、 脛に傷あるヒーローが彼女を救い出してハッピーエンドと言う、 クーンツも呆れるくらいリーダブルなお話である。 ヒロインはハリウッドシステムに心を病みつつある超人気美人女優で、 悪役は屍体愛好癖のある病的ファンで、 かつコンピュータマニアの天才的クラッカーで、 ヒーローは不幸な事故で妻と才能ある外科医としての経歴を失なった過去を持つ、 ちょっと影ある精神科医である。いかにも過ぎ(笑)

気怠い感じのまま夕食を作る気もせず、ラクトに食事に行く。 偶然、経済のO川先生に会い、教育論など闘わせつつ一緒に夕食。


2001/06/03 (Sun.)

今日は30度に達する夏のような日。 しかし窓から吹き込む風は涼しく、夏はまだ遠い。 午前、午後と休憩を挟みながらチェロをさらって、 夕方から膳所にレッスンに行く。 エチュードの他、クライスラーの「美しきロスマリン」など。 meno mosso 部、 半音がいっぱい入ってる所の音程を取るのが難しいな。

夜は論文原稿の細かい所のチェック、明日の講義の準備など。

今日の一曲。「薔薇に降る雨」("Chovendo Na Roseira" by E.Regina-A.C.Jobim)


2001/06/04 (Mon.)

午後は「数理計画法」。 線型計画問題の正準形、標準形。 この科目を教えるようになるまで、 線型計画法の「せ」の字も知らなかったが、 勉強してみるとそれはそれでなかなか興味深い理論ではある。 次の講義までの隙間にまた論文原稿に手を入れる。 ああ早く提出して自由になりたい。 夕方は「確率・統計」。 条件付き確率と条件付き期待値。 高校の時には簡単に習うが、現代的な扱いは非常に難しい概念である。 どちらも情報族から決まる確率変数で、 本質的にルベーグ積分のラドン・ニコディムの定理そのものなので、 もちろん易しくない。 僕なんか、条件付き期待値はともかく、 条件付き確率の意味がわかったのは最近のことだ(師匠、泣かないで…)。 講義では離散的かつ有限の場合だけでやっているので、 比較的わかりやすいとは思うのだが、 それでもうまく説明できたかちょっと心配。


2001/06/05 (Tues.)

昼はアクロスに行って、ファイナンス関係の会議。 その後、隙間の時間を利用して健康診断。 前より何故か目が良くなっているのと、 少し体重が増えていた。 ストレスでやつれている上に、 画面の見過ぎで眼精疲労と確信していたのだが、 自覚はあてにならないってことなの…

健康診断で予想以上に時間がかかり、次のW先生の講義に20分ほど 遅れて出席。前回の復習を終えて今日の話題に入った所だったので 幸運にも支障はないようだった。 今日の内容はfractionalブラウン運動に対応する抽象ウィナー空間の についての定理を述べるための準備。 来週はこの定理の証明ということになるだろう。 私はいつも古典的なウィナー空間ばかり扱ってきたので、 実際バナッハ空間として連続関数全体の空間を取るのは、 具体例としてはかなり大き過ぎると言うW先生のコメントを聞いて、 ちょっと意外に思った。まずヒルベルト空間ありきで、 それをバナッハ空間に膨らませて、 ガウス測度を定義するのだと言う立場からすると、 より精密にずっと狭い(もとのヒルベルト空間に近い)バナッハ空間を取れるのである。 なるほどぉー。 って今頃、こんなことに感心しているのって確率解析屋としてどうなの(泣)

続いて、久しぶりの教授会。 今日は淡々と終わって5時半くらいに終了。 その後、偉い人達は引き続き学位審議会があるらしいので、 久しぶりの長い会議にこたえているかもしれない。

今日は雨。近畿は今日で梅雨入りらしい。 そういうわけで、ということでもないのだが、 今日の一曲。バルバラの名曲「ナントに雨が降る」。


2001/06/06 (Wed.)

今日は緊急の打ち合わせにてゼミと会議をキャンセル。

昨日の教授会でA堀先生が、私が推薦した Hardy-Littlewood-Polya の "Inequalities" を持っていて、「役に立ったぞ」と言っていた。 「不等式の辞書」みたいに思われているようだが、 実際読んでみるとかなり系統的にアイデアに沿って整理してあるし、 この本に書かれているのは自然でスタンダードな不等式だけなので、 計算の際に必要な不等式を探すと言うよりも、 通読向きの名著だと思う。 実際、研究していると普通ではそもそも思いつきそうにない、 奇怪な不等式が登場したりしてそれがまた面白いのだろうが、 そういう面白さを理解するためにも素養としてH-L-Pなどが いいんじゃないかな、と。

例えば、次の変な不等式。
「実関数 f(x) が f(0)=f(1)=0 を満たす時、 f(x)の2乗とxの4乗の積の[0,1]区間上の定積分の(25/4)倍より、 導関数f'(x)の2乗とxの6乗の積の[0,1]区間上の定積分の方が大きい(か等しい)」。
Flanders が微分幾何の論文の中で使った不等式を 整理したものだそうです。 見るからに気色わるい感じのする不等式ですが、成立します。 二三日後に証明を紹介しますので、腕に自信のある方は証明してみて下さい。 ちなみに高校程度の微積分だけで出来るので、 専門家以外の方も数学者気分を味わってみてはいかが。 これで悩んでいる間はあなたもFlanders ;-)


2001/06/07 (Thurs.)

A堀先生は私が推薦するまでもなく、 もちろんH-L-Pをよく参照していたそうなので、 最近役に立ったことを教えてくれて、 H-L-P大好きな私を喜ばせてくれたようだ。 A堀先生は最近(なのかどうか知らないが)、 数学の基本的な力、例えば計算力とかロジックとか、 あるいは daily use な論法を身につけることを、 「筋トレ」と称しているようでなかなか面白い言葉だなと思っている。 この「筋肉」にも瞬発系(速筋)と持続系(遅筋)があるそうで、 これまた面白い考え方である。

午前は家で色々仕事をし、 午後は昨日キャンセルしたM2暗号ゼミでスタート。 一人から圧縮法の話を聞き、もう一人は修論の方針ゼミ。 次は卒研。自分の足跡を踏まないランダムウォークの話。 このテーマは未だに分かっていないことがたくさん残っている。 続いて、M1解析ゼミ。概収束とか、ボレル・カンテリの補題とか。 ゼミの合間と、終了後に論文の手直し。 次の土曜日が最終打ちあわせの予定なのだが、 計算をチェックしながら手直しする所が大量にあり、 明日が勝負である。

そういうわけで明日は非常に多忙なので、日記はお休み(ずっと原稿書いてます)。 昨日の Flanders-Beesack の不等式の証明は、 今日書いておくことにしました。 こちらはヒント(または数学者向けの解答)、 こちらは完全解答です。


2001/06/08 (Fri.)


2001/06/09 (Sat.)

朝から大学に行き、原稿の訂正作業。 午後は大阪に直行し某ホテルのロビーで 共同研究者と最終(予定)打ち合わせ。 数時間かけて最終チェックをし、 いくつか細かい訂正点は挙がったものの、 これでよかろう、ということに落ち着く。 夜帰宅。

明日自宅で最後の訂正をして脱稿予定。 長い日々であった…


2001/06/10 (Sun.)

朝早く起きて原稿に昨日の最終打ちあわせで議論した変更と訂正を加える。 午後から実家の両親がやってきて、 ゴミとか冬物とかあれこれ荷物を持って帰った。 夕方も再度、原稿の見直し。

近所の酒屋に行って、シャンパンを一本購入。 夜、自宅で一人、一応の論文完成を祝う。 まだ途半ばでしかも慌ててまとめたので乱雑な論文だが、 確率解析らしからぬことがあちこちに書いてあって、 これはこれで面白いものになったのではないかと、 今日の内だけは自賛することにする。 (明日からは、しばらく逆に鬱状態に入った後、 正確に自己評価できるようになると思いますが…) 出来れば将来、同じ題名でパート2を書き、 完全な一般論を美しく展開したいものである。

もしこの論文が無事出版されれば僕の エルデシュ数(*1)は5から4になるが、 これより小さくなることは多分ないだろうなあ。 ちなみに今回、エルデシュの論文(正確にはカッツとの共著論文) を引用したので、 なんとなく御縁が出来たみたいで嬉しかったです。

シャンパンの栓を抜いた後、 瓶の口に金属性のスプーンの柄の方を突っこんでおくと気が抜けない、 って聞いたことがあるのですが、 本当でしょうか? 僕の経験によると、確かに長持ちするように思います。 一体この現象はどういう理由によるのでしょうか。 金属と炭酸ガスが反応して瓶の中の気体の何かがイオン化して、うんぬん、 とか言うことなのかなあ。 物理化学方面に強い方、是非教えて下さい。

*1: エルデシュ数: ポール・エルデシュのエルデシュ数はゼロ。 エルデシュ数がnの人と共著論文を書いた人のエルデシュ数はn+1。


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
kshara@mars.dti.ne.jp (for private)

この日記は、GNSを使用して作成されています。