’98クリスマスの本棚 |
ニムの本棚から、クリスマスにちなんだ本をならべてみましたよ。
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●メトロポリタン美術館版 『メサイアとクリスマスのうた』 日本基督教団出版局
「聖母子」 彩色写本のS
の大文字、1425年頃、イタリアニューヨーク・メトロポリタン美術館所蔵の作品群の中から、「キリストの降誕と生涯をほめたたえている」絵画、彫刻等の目にうるわしい図版を用いて、クリスマスにちなんだ音楽の譜面を飾っている美しい曲集・画集である。
おさめられた曲は、ヘンデルのオラトリオ『メサイア』(1742)、J.S.バッハ『クリスマス・オラトリオ』(1734)、ベルリオーズ『キリストの幼時』(1850〜1854)の3曲の抜粋である(ピアノ譜と歌のパート)。中世の金で彩られた装飾文様、幼子を抱くマリアを描いた数々の優しい絵、受胎告知の絵に込められた色あせない驚き。みどりごに注がれる暖かい視線と、神のみわざの不思議に対する畏敬とがどの絵にもあふれている。キリスト教の信者でなくとも、これらを一つ一つ仔細に見るとき、あるいはその豪華さに、あるいは素朴さにうたれ、救世主の降誕に寄せるひとびとの想いが長く引き継がれてきたことに改めて驚異と尊敬の念を覚えるであろう。
●望月通陽 『クリスマスの歌』 偕成社
日本の「型染め」の技法を中心に、独特の作品を生みだし続けている望月通陽さんの、クリスマスの歌を集めた本。基本的に見開きの左頁は歌詞、右頁は染色作品である。 「きよしこのよる」の絵は、両脇に大きなポプラの木を配した中に、ふたりのひとがとおりゃんせのように手を取りあっており、そこから向こうの方にある教会がのぞいている。ふたりの上には細長い羽根の天使が星を背景に舞っている。
「もみの木」では一面の星の下、大きなもみの木の根方にひとが腰を下ろし、木の反対側には馬が一頭、座る人を見守るように立っている。
ほかに「牧人ひつじを」、「諸人こぞりて」、「ひいらぎかざろう」など、全14曲の賛美歌、キャロル、民謡など、半分ほどが望月さんの訳によって紹介されている。素朴で静かな、心の安まる本である。頁を開いたままにして譜面台に飾っておくとそのあたりだけすがすがしく胸を洗われる気すらする。
活字部分が、望月さんの描き文字だったらもっと趣あったのになと言うのはよくばりだろうか。
●ジョン・メイスフィールド 『喜びの箱』 評論社
コール・ホーリングスとその犬寄宿学校に入っているケイが、クリスマス休暇でコンディコートの家に帰ってくる汽車で出会った不思議な人形遣いの老人。この老人コール・ホーリングスは、「喜びの箱」を持っており、「オオカミ」たちがそれをねらっている。コンディコート一帯は雪、雪、大雪で閉じこめられてしまい、ケイたちはその中でどんどん、つぎつぎ、不思議で心躍る冒険をすることになる…。
筋を語ると全部を言わなくてはならないような一種脈絡のなさ。うーん、これ好きな人はだあーーーーい好きでしょう!
クリスマスの礼拝をしようにも、教会関係者、牧師、果てはタチェスターの主教まで、雪と「オオカミ」に閉じ込められてしまう。喜びの箱を持ったコールとケイはどうにかクリスマス礼拝をすべく主教を助け出すのだが、その大団円が素晴らしい。雪の中で、九つの教会の鐘が、クリスマスを迎えるために鳴り始める。それらの音に混じって、そりの鈴の音が近づいてくる。ライオンの群にひかせたそりにカシの木の女が乗ってやってくるかと思えば、一角獣にひかせたそりにはシカの角を頂く狩人ハーン、これらに乗った大勢の人々が古いにぎやかなキャロルを歌いながら天空を旅して行く。鐘の音、澄み通った夜の空気、雪に輝く田園、教会の塔。寺院の雪に閉ざされた入り口を掘り出す昔の修道士たち。寺院にはろうそくの灯があふれ、人々の歓声とプレゼントでいっぱいだ。さらなる鐘の音、祝砲、オルガン、ブラスバンド、キャロル、そして寺院はこれらの喜びの金粉となって揺らぎ出す……。
●コニー・ウィリス 『ドゥームズデイ・ブック』 <夢の文学館> 早川書房
西暦2054年、オックスフォード大学。街はクリスマスの飾り付けでにぎわっている。タイムマシンが稼働しているここで、女子学生のキヴリンは、研究のため時を遡って1320年に行こうとしている。入念に考証を重ねてタイムトラベルしたキヴリンだが、到着するやいなや、原因不明の病気で寝付いてしまう。意識朦朧として倒れていた彼女を助けた謎の人物は誰か?
事前調査によれば流行していないはずのペストも周りで蔓延し始め、ついにキヴリンの身辺にまで疫病の手が伸びてくる。一方タイムマシンの調整とキヴリンの回収を行うはずの21世紀の技師までが、キヴリンのように原因不明の病に冒されてしまう。二つの時代で同時に発生するこの奇病は何か。
見るからに分厚いこの本であるが、いざ取りかかってみると、寒く暗い14世紀の冬にキヴリンとともに放り出されたかのような感を抱き、分量を感じさせない。寒く、厳しい現実の中に潔くくらすひとびとの生活と会話が詳細に描かれる。そして自らの病気と謎をかかえながら、ペストに立ち向かうことになるキヴリンを描く筆運びが心を打つ。いっぽう舞台のこちら側、21世紀の世界は、時まさにクリスマスだったのである。
ちょうど読後、物語の世界と同じ時期だったので、「ああ、これ、クリスマス本だったんだぁ!」と、キヴリンなりきりの私はしみじみ思い、クリスマスとキヴリンと私は、切っても切れない仲になったというわけ。
●筒井頼子・作 片山 健・絵 『ながれぼしをひろいに』 福音館書店
クリスマス・イブの夜、朝から降っていた雪もやみ、静かな夜になりました。みふでは、ふとんの中で、眠いのと戦っています。すると窓の外に、大きな大きな、赤い流れ星がすいどうやまに落ちるのが見えました。流れ星を拾いに、みふでは雪に埋もれた街をひとりですいどうやま目指してゆきます。「どこにいくの?どこにいくの?」クリスマス・イブは、かぜもくさもゆきも、みんななんておしゃべりなのでしょう。すいどうやまのてっぺんの赤いつむじかぜ、その正体は?
雪の量感と質感がすばらしいです。
●レイモンド・ブリッグズ 『さむがりやのサンタ』 福音館書店
寒いのが苦手なサンタクロースは、やれやれ!と、たくさん着込んでプレゼント配達に出かけて行きます。イブの晩も良い天気ばかりじゃない。雪の中、嵐の中もそりに乗って空を飛んで行きます。「ブルブルブル」と濡れそぼったサンタさんの鼻水の音が聞こえてきそう。煙突を通るのも、楽じゃないってことさ。そうして一晩プレゼントを配り終わって帰ってきたサンタさんは、まずトナカイたちをねぎらってやり、ようやくゆっくりクリスマス休暇です。…『スノーマン』や『風が吹くとき』のブリッグズさんの、まんが絵本。
●NHK日曜美術館 名画への旅3 『天使が描いた 中世II 』 講談社
イスタンブール、ハギア・ソフィア大聖堂の聖母子(867年頃)ケルトの美々しい装飾写本の最高のもの、『ケルズの書』を筆頭に、バイユーの刺繍布、ダフニ修道院のモザイク・キリスト降誕などを軸にして中世のキリスト教美術が概観される。随所にキリストの降誕のテーマがみられる。様々な苦難の中で完成されたであろうこれらの気の遠くなる作業のたまものは、現代のわたしたちのこうべを垂れさせるに足るものである。図版多数!
●木島俊介 『美しき時祷書の世界』 中央公論社
「イエスの生誕」ベリー侯の超美麗聖母時祷書より・14世紀末頃副題に「ヨーロッパ中世の四季」とあり、時祷書と写本装飾についての解説から説き起こし、いくつかの時祷書などから選び出された色彩豊かなミニアチュールの数々が、季節ごとの章でくくられている。 「V そして冬、祈りの時」には「フィレンツェのペスト」「生と死の戦い」、「葬式」などに続き、「復活のイメージ」「受胎告知」「イエスの生誕」などが挙げられている。これらの華麗きわまりない装飾画は、どのようにして描かれたのだろうか。よくみると背景や周りの枠取りの中に描かれた民衆、風景などのなかには、華麗な印象とはかけ離れたグロテスクなもの、陰惨なものたちが繰り返し現れている。このようなものが常に生と表裏一体となっていたのであろう時代。寒い冷たい季節に、部屋にこもって制作に励む画家や写字生たちの胸にあったキリストへの思いはどんなものだったのだろうか。
1999.12.10 21:30:30