白龍亭・心が歪んでいる里見義成

目次 >> 考察 >> 八犬伝邪読/心が歪んでいる里見義成(1997年〜)

[ 八犬伝邪読 - 03 ]

● 二代目当主
 里見義成。
 伏姫の弟。早くに隠居した里見義実の後を継いで里見家の二代目となった。八犬士が里見家に仕えるのは義成が当主になってからである。犬士たちの主君であるからして名君のような気がするが、実は源氏の血筋という名門を鼻にかけたとんでもなく厭味な野郎なのである。

● 格が違う!?
 厭味な言動その一。
 これは小谷野敦著「八犬伝綺想」にも出てくる話であり、白龍亭主独自の主張ではない。
 近江国から流れてきて城主に成り上がった上総館山城主・蟇田素藤。彼は里見家に対して「浜路姫を嫁にくれ」と求める。それに対して里見義成は何といって断るか。

「蟇田は京家の人といへども本貫家系詳ならず。我家は清和源氏、大新田の嫡流なれば、その門第相応しからず」(第百回)
 俺は清和源氏で新田の嫡流、あんたとは格が違う、と言うのだ。そう思うだけでも厭味なのに、口に出して言ってしまう。とんでもない奴だ。
 素藤は言う。
「里見も初は安西が食客より発跡て、山下を討ち、麿・安西が所領を奪い略りしにあらずや」
 里見だって成り上がりだろ、と。素藤が悪役キャラだから里見方が正しいような気がしてしまうが、よくよく考えれば小谷野氏の言うとおり「この言い分は全く正しい」のである。

● 家柄で差別する不公平
 まだある。厭味な言動その二。
 蟇田素藤はそんなこんなで里見家に叛旗を翻して滅亡。問題は蟇田方についてしまった二人の領主、上総榎本城主・千代丸豊俊と上総庁南城主・武田信隆の扱い。
 千代丸は里見の捕虜になり、武田は甲斐の武田本家に身を寄せた。
 両者とも対関東管領戦後に自領を取り戻す。千代丸は里見方に味方して関東管領方と戦い、その功により自領復帰。武田は関東管領方に味方するふりをして戦争のどさくさにまぎれて自領を取り戻した。
 この場合、敵方についた武田の扱いは、自領復帰を許さないか領地を削るかしなければ、味方についた千代丸との扱いが不公平になる。にもかかわらず武田の自領復帰をそのまま認めてしまうのだ。戦場で命をかけて戦った千代丸豊俊の立場はどうなる!
 で、千代丸と武田の差は何かといえば家柄なのだ。
 千代丸は特に何というほどの血筋ではない。それに対して武田は里見と同じ清和源氏である。里見義成は家柄でこんなにも差別してしまうのである。

● 実は劣等感のかたまり
 これほど家柄を誇るのは、家柄以外に誇れるものがないという劣等感の裏返しである。
 義成の生まれ育った環境を考えると劣等感を抱くのも当然だ。
 まず、父親が英雄。主従三人で流れてきて一国の領主までなった里見義実。次に姉も英雄。里見家のために自らの命を断ち神女になった伏姫。それに対して義成はどうか。何もない……。
 よくある二代目の不幸である。可哀相だといえなくもない。

● 義成は親兵衛が嫌い
 義成は犬士の扱いが微妙に違う。好き嫌いがあるのだ。
 嫌いなのは犬江親兵衛。
 神女伏姫に育てられたというのが義成の劣等感を刺激する。しかも親兵衛は父義実に愛されて青海波という馬までもらっている。義実が高く評価すればするほど義成にとっては疎ましい存在となる。
 というわけで、親兵衛は一度疑われて安房から事実上追放になる。義成の深層心理に親兵衛を拒否するものがあるからこそ神童すら疑うのだ。その後、親兵衛を京都への使者にしてしまう。これも何だかんだ言って自分の近くから遠ざけていることに変わりはない。
 更に言えば、愛する嫡男・義通と同じような年齢なのに義通より何かにつけて優秀だというのが、人の親として面白かろうはずもない。

● 義成は毛野が好き
 義成が好きなのは犬阪毛野だ。
 里見家の危機である対関東管領戦の時、軍事のすべてを毛野にまかせっきりにしている。なぜ毛野は義成の劣等感を刺激しないのか?
 対関東管領戦での毛野の扱いは何か。軍師である。しかも作戦は三国志の赤壁の戦いの真似である。となると毛野は里見家の周瑜か諸葛孔明、必然的に義成は孫権か劉備となる。毛野の存在ゆえに義成は三国志の名君と自分を重ね合わせることができる。毛野の存在と対関東管領戦によって、義成は初めて劣等感から解放されたのだ。(「八犬伝と三国演義」参照)


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