ISO9001 2008年改定 08.09.13

ISO9001規格が2000年版から今年2008年にまた改定される。既に巷にはISO9001:2008のFDISが流れ、その和訳が現れ始めた。ISOで飯を食っている人、関わりのある人々はどこがどう変わるのか関心があり、既にネットで解釈を論じていたりするし、和訳をアップしているウェブサイトもある。
私はQMSにはあまり興味がないというか最近は相談を受けることも少ないこともあり、そういう規格論議にはあまり関心がない。実を言って 1994年のISO9001改定のときは一刻も早く知りたいという気持ちだったのだが、あれは個人的興味というよりも、情報を仕入れないと仕事が滞るという状況におかれていたからというのが本当のところだった。
今の私は部外者的立場であるが、規格が改定されることがいかなる意味を持つのかを再確認したい。
大昔、ISO9001が購入の際の顧客から要求される品質保証協定であったときなら、納入者としてISO9001が変わればその中身について知らないことには仕事ができなかった。
10年一昔でなく、3年一昔の現在、1987年は恐竜が生きていた大昔に違いない。
しかし2000年版となった現在のISO9001は品質保証ではなく会社を良くするための品質マネジメントシステムであるなどと大言壮語を語っている。まあ、大言壮語ではなく針小棒大でもなく、とりあえず真実であるとしよう。
そういったとき、ISO規格が改定されることがいかなる意味を持つのか? 私は全く意味を持たないのではないかと思う。
だって考えてごらんなさい。
ISO9001が品質保証規格ではなく、品質マネジメントシステムの規格であると宣言したことは、ISO9001が品質保証から進歩した、あるいは上位になったということかもしれないが、同時にそれはお客からの要求事項ではなく自ら会社を良くするためのガイドラインであるという宣言でもある。自ら会社を良くするためのガイドラインであるなら、shallとあるのはだれのために必須なのか?義務なのか?誰が要求しているのか?と考えれば、認証機関のためではなく審査員のためでもなく、その組織(会社)のためであることは間違いない。じゃあ、なぜ要求事項というのだろうか?
自身のためなら、達成目標とか、自主基準というのではないだろうか?
謎である。
自主活動とかガイドラインであるのなら、審査とか適合判定ができるのか?という疑問はあるが、まあ大勢を尊重しよう 
認証機関は審査ビジネスが大好きでISO規格との適合性判定からはじまり、規格の文言が推奨(should)であっても要求(shall)と読み替えて審査しているので、ガイドラインでももちろん審査はできる・・のだろう?
その審査にいかなる価値があるのかは、認証機関と審査員に聞いてみないとわからないが・・ 

ここで、たとえ話である。
サークル活動(小集団活動)をしていて、新しい手法が現れたとして、従来の方式で活動していた会社はそれに切り替えなくてはならないか?と考えてみれば、そのようなことは全くなくその会社に合った方法で改善活動を進めれば良いことに同意されるでしょう?
もちろん新しい方法がより使いやすくあるいは効果的であると考えたなら、切り替えても良い。
「QC7つ道具」というのは有名であるが、「QC新7つ道具」というのもある。「新」といいながら既に出現して30年も経つのだが、今でも「旧QC7つ道具」さえ使いこなしていない企業は多い。
お断りしておくが、知っていることと使っていることは違います。
そういうことを踏まえて考えると、ISO9001が客に対する品質保証要求ではなく、会社のマネジメントシステムを良くするためのものであるなら、規格が変わると会社を良くする仕組みとか方法が変わるという発想はあり得ない。他社がどうあれ流行がどうであれ、すべての会社はその置かれた業種業態に合わせて己の企業文化を生かし、社員の力量により経営状況を踏まえて事業を推進していかなくちゃならないのです。いくら素敵な洋服でも体に合わないのはかっこが悪いのです。当然そのマネジメントシステムはリソースと必要とされる条件によって決まる。ISO規格で記録の管理が厳しくなったから当社の記録管理規定を改定しなくちゃならないと思う人がいるのだろうか?
もし規格改定を受けて対応しなければならないとしたら、とんでもないミスとか欠陥に気づいたということだろうか?

さて、 本当を言えば世界は知らないが、日本国内にはそう考える人が大勢いるのである。
私ならさらっと、「当社はこの方法で困っていないし過去の経験からも問題はないと考える。よって規格が変わろうと会社の仕組みを変える必要がありません。」といいたいところだ。
万が一審査機関が「それじゃあ規格不適合です」というなら「それでは残念ながら認証を返上するしかありません」と応えるしかない。会社とはそういうものであるはずだ。
会社というものは必要なことをするべきだし、必要以外のことをすべきではない。規格が会社を良くするなら採用すべきだし、規格でいっていることが会社の必要以上のことであるなら採用すべきではない。そんなことをしては背任行為となる。
背任
刑法第247条  他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

ISOのために余計なこと、無駄なことをすることは、上記「損害を加える目的」に該当しないのだろうか?
単に無能であるという可能性も否定できないが・・

品質を良くしようと皆が願い、行動するようになれば規格がどう変わろうとすることは変わらないはずです。
ご注意
品質システムを良くしようではありませんよ、企業人は品質を良くしようと考えなければなりません。それこそが厳しい競争社会に勝ち残る唯一の手段です。

日本にISOが本当に浸透し、企業の役に立ち、品質を向上させるようになるためには、こういった規格改定論議など起きないようにならないといけませんね
繰り返しますが品質システムを向上させようなんてケチなことを言っちゃいけません
このような議論がネットを賑わしているということは、まだまだISOの意図が理解されていないということでしょう。 

私がISOの熱気にあふれた人たちを茶化していると思われた方へ
それは否定しない。
私は、品質を良くする、品質システムを良くする、己の会社を良くする、日本産業界を良くするためには、ISO規格などどうでもよいと考えているのである。だからISO規格の改定などに興味もない。
あなたの会社を良くするために、何をすべきか?、何を変えるべきか? と考えることが最重要であって、そのときISO規格が役に立つなら活用したらいいと思う。
役に立たなければ、捨て去ればいいと思う。
それが、あなたの会社のためである。



ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(08.09.13)
いくつかのサイトを拝見しましたが、
「ISO規格が改訂される」→「それに対応したISO文書改訂について検証する」
という構図はどこも同じですね。
規格の意図にこういう概念が加わった、あるいはこう変わった。だから、それを自社の品質の向上に適用可能か、どう活かせばよいか、という視点で論じられているサイトはないみたいです。
私には、ここが解せません。まあ今回の規格改訂は、概念や意図の変更点がないからとも言えますが、じゃあ何でわざわざ規格を改訂するの?という新たな疑問が沸き起こります。

それはさておき、中にはマニュアルの適用規格項の文言を2000年版から2008年版に書き換えるだけでよいと主張するサイトもあります。
どうでもいいじゃん、そんなこと。まさか、そんなことだけのためにわざわざマニュアルを改訂するんですか?(ちなみに、ウチのマニュアルには「○○年版を適用」などというアホくさい記載はない)
そのついでに、自社のISO文書の中から「・・を確実にする」という文言を抽出して新規格に合わせて「決定する」とか他の言葉に置き換えたり、そんなムダな作業をする事務局が続出するんでしょうね。
ウチは当然何もしません。

ぶらっくたいがぁ様 いつもご指導ありがとうございます。
まあ、己の品質システムに自信がないのでしょうか? それとも品質システムとはISO審査に合格するためのものなのでしょうか?
まさにアホらしいとしかいいようがありませんね
もっとも実話ですが、EMSでしたがマニュアルにISO14001としか書いてなかったので「2004年版と書いておきなさい」と観察事項にしたというのを知っています。審査員は2004年版と書くことに重大な価値を認めているのでしょうか?
私なら、事故を起こさない、法違反を起こさないEMSであれば十分です。審査機関向けの文章だけのシステムなどクソクラエですね
事故を起こさない、法違反を起こさないEMSであれば十分とはレベルが低いなんておっしゃる方は現実を知らないだけです。

ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(08.09.14)
もっとも実話ですが、EMSでしたがマニュアルにISO14001としか書いてなかったので「2004年版と書いておきなさい」観察事項にしたというのを知っています。

実はまったく同じ体験をしております。
ある事業部でISO14001(96年版)を新規に認証取得したとき、その数ヵ月後に2004年版の出ることがほぼ確定しており、それを見越して「○○年版を適用」という記述をわざとしていませんでした。規格改訂後にそのことだけのためにマニュアルを直すのが面倒だったからです。
案の定、審査でそれを指摘されました。
それを不適合と言うのならその正当な根拠を示して欲しいと申し上げると、審査員氏は紆余曲折の末に引っ込めました。
誰がどうやって決めて広めたのやら知りませんが、ISO審査の常識というものはたくさんあるように思います。それらにいちいちケンカを売るほどこちらもヒマではありませんが、何の実益もないばかりか実務面で不利益を蒙るようであれば黙っていられません。損(アホ)な性格です。

紆余曲折の末 ・・なにも曲がったり行きすぎたりすることなく素直に「あっすみません、勘違いでした」と言えばよいのにね 
まあ、これだけのリアクションでは面白くも何ともありませんので、審査員がそう言った心境というか理由を考察してみましょう。
  • (せっかく来たのだから)
    どこも悪いところはないが、少しビシっとさせるために冷や水をかけてやろう。そうだ、規格の版が記載してないのでちょっと突いてやろうか
  • (恩着せ派)
    不適合ではないと知っているが、いったん不適合と言って相手をビビらせ、そしてからまあいいでしょうと言って相手に恩を売っておこう(こういうタイプの審査員知ってます)
  • (惰性で審査している)
    ISO規格には適用する版を明記すべきとあったと信じ込んでいた
    あるいはどの会社のマニュアルにも書いてあるのでそう決まっていると思っていた
  • (不勉強な新人)
    まったくマネジメントを知らずに審査機関に出向してきてチューターの先輩審査員のいうことが絶対だと信じている新人審査員(思い当たる人複数あり)
  • (上から言われているので)
    俺もそんなの意味ないと思うんだけど、審査部長が何年版と書いてないのは不適合にしろって言うんだよな、こんなことしてたら我社の評判が落ちちゃうじゃないか ブツブツ
  • (一言居士)
    どこに行っても必ず一件は不適合あるいは観察を出すことを生きがいにしている。
  • (能力不足)
    真のマネジメントシステムを理解せず審査できないので、規格文言が過不足なく盛り込まれているか、規格の版が記載されているかしかチェックできない審査員(多数存じ上げています 
  • (単なる勘違い・口が滑った)
    まあ、誰にでも間違いはありますよ
しかし、これだけ考えた私はエライ 


品質管理責任者様からお便りを頂きました(09.02.26)
iso9001:2008対応
うちも基本何もやりません。
ただ、期末のマネジメントレビューで、規格改訂対応について特に問題ありませんという記録だけ残します。
だって、そうですよね?
今回の改訂、要求事項の追加、変更はなく、要求事項の明確化、曖昧さの除去といってますよね?
これまで毎年審査を受けて、更新もしてきて、今更解釈の誤解もなのもないでしょう!?
これまでどおりってことです。
問題があれば、それはイコール審査機関の問題にもなるわけですし・・・
今年更新で移行審査受けますが、これが最後だと思ってます。
もう辞めます。
なぜなら、QMSで会社良くなってませんから。

品質管理責任者様 お便りありがとうございます。
月刊アイソス誌の中尾社長が面白いことを書いてました。
ISO 14001:2004の発行前に審査機関をいくつか取材で回ると、いずれも「うちは、1996年版の審査において、すでに2004年版の意図するところで審査をやっていました」という回答でした。
たぶん、ISO 9001:2008においても、同様 のことを審査機関はおっしゃると思います。
ですから、2008年版を見て、「あっ、2000年版の意図を誤解していた!」と気づく場合があるのは、受審組織です。審査機関ではありません。

もし貴社で2008年版に適合していないところがあれば、認証機関が今まで見逃していたにすぎません。
審査員はそれが恥ずかしくて不適合にしないでしょう。
もちろん、従来から2008年版に適合していれば不適合ではありません。
つまりどちらにしてもマネジメントレビューをするまでもなく2008年版を満たしているはずです。
違いますか?
QMSで会社が良くなるかどうか?それはもう私は腐るほど書いてますからぜひご一読ください。


ISO9001 2008年改定の謎 09.03.08

2009年3月8日時点、某認証機関のウェブに次のように書いてある。
ISO9001:2008改定への対応についてのQ&A
  • Q:2008年版改正により、新しい要求事項はありますか?
  • A:新規の要求事項はありません。
  • Q:現在の品質マニュアルをそのまま利用して2008年版審査は受けられるか?
  • A:必ず見直しをしてください。
    見直しをした結果、2008年版の意図に沿っていれば、そのまま使用でき、2008年版の審査は受審可能です。
    但し、引用規格はISO9001:2008(またはJISQ9001:2008)に変更してください。

まことにもって不思議な文章である。
ISO規格など知らなくても、論理が破たんしているのがミエミエだと思う。

疑問その1
2000年版に付け加える新しい要求事項がなければ、組織がどうこうする以前に審査で問題が検出される可能性はないはずだ。
もし2008年版による審査で不適合が発見されれば「新規の要求事項はありません」なのだから、今までの審査が間違っていたということですね?

疑問その2
「引用規格」というのは誤記でしょう。それとも引用規格の意味を理解していないのかもしれない。まあ、誰にでも間違いはある。
引用規格が準拠規格の間違いとして、マニュアルに2000年版と記してあった場合、いかなる不具合があるのだろうか?
@2008年版は内容が2000年版と変わらず、誤解を防ぐための文言を変えたのみならば、2000年版とあっても不具合ということもあるまい。
A仮に2008年版で実質的改定があったとしても、大事なことはマニュアルに2008年版と書くことではなく、中身が2008年版対応であることではないのか?
この認証機関の審査員は中身を見て規格適合か否かを判定できないので、2008年版対応と大書してほしいのかもしれない。

疑問その3
2008年版が実質的に変わったという前提であるが
それよりもなによりも、マニュアルを見直すことなどないのではないだろうか?
業務が2008年版にあっているかを再確認することではないのだろうか?
JIAQ9001:2008
4.2.2 品質マニュアル
組織は、次の事項を含む品質マニュアルを作成し、維持しなければならない。
a)品質マネジメントシステムの適用範囲。除外がある場合には、除外の詳細、及び除外を正当とする理由
b)品質マネジメントシステムについて確立された”文書化された手順”又はそれらを参照できる情報
c)品質マネジメントシステムのプロセス間の相互関係に関する記述
ISO/JIS規格が品質マニュアルに要求しているのは上記だけです。
つまり、品質マニュアルは品質マネジメントシステムの目次・インデックスにすぎません。
規格が改正されたとしても、個々の手順書が変わることはあっても、その目次は変わることがないかもしれません。
目次だけ一生懸命見直してもドーナルンデショー
更なる疑問ですが、
目次に過ぎないマニュアルを、最高位の文書なんて考える人がどうして存在するのでしょうか?
 教えてあなた♪

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