第三者認証というビジネスモデル 2 10.02.13

世の中に第三者認証というものが存在する。では本日は第三者認証について考えよう。
以前「第三者認証というビジネスモデル」という駄文を書いたが、その続きというか繰り返しというか、まあ似たようなものだ。
また認証機関の損益については「事業継続マネジメントシステム」という駄文を書いた。
それも併せて読んでいただければ幸いである。
なんかものすごいことを語っているようだ 
といっても私が何を語っても誰にも影響を与えることもなく、波風も立たず、それ以前に誰も読まないかもしれない。 

昔でもなく今でもあるが、アメリカにUL(ユーエルと読む)という機関がある。パソコンでもハードディスクでも後ろの定格ラベルに○の中にULと書いてあるマークを見たことがあるでしょう?
ULとはunderwriters laboratoriesの略、つまり保険会社の研究所あるいは試験所の意味です。
正式な日本での名称は「アメリカ保険業者安全試験所」といいます。
今から100年以上前のこと、当時アメリカで電気製品による火災が多く保険会社が音(ね)を上げたそうです。そこで保険会社が集まって電気製品を検査する会社を作り、そこで合格と判定した製品を使って火災が起きたら保険金を払うということにしたそうです。言い換えるとUL認定されていない電気製品で火災が起きても保険金は払いませんということです。
みなさん、ここでご確認ください。UL認定されたものは万が一火災が起きたら保険金が支払われるということです。UL認定は意味があるのです。
一般消費者は火災が起きたときのことを考慮して、UL認定製品を買うようになるでしょう。もちろんしない人もいるでしょうけど。
そうしますと電気製品メーカーは消費者に買ってもらうためには、ULの検査を受けて認定してもらうような行動をしますよね。あるいは自社が火災の保証をすると考えるメーカーもあるかもしれません。それとも当社の製品はそんな保証がなくてもすばらしいから売れると考えた経営者もいるかもしれません。
その後アメリカの州によってはUL認定でなければ販売を禁止したところもありました。今はどうなんでしょうか?
なんせ私がUL認定などと関わったのは1960年代末から1970年代のこと、その後の変遷は知りません。ごめんなさい。

1990年初頭、ISOの審査員という方は、船級検査ということをしていた人が多かった。船や化学プラントは、いくら専門家でも完成したものを見ても良いか悪いか判断がつきません。そこで建設中に専門の審査員が仕様とおりに作っているかを点検して保証(裏書き)したのです。裏書きにどんな意味があるのか? それがなくては船の保険を受け付けないということです。
ISO審査機関にLRQA(ロイドレジスタークオリティアシュランス)いう会社がありますが、横浜のクイーンズタワーにロイド船級協会と隣り合っています。元は同じ会社です。
BVなんかも生い立ちは同じ。
そういう審査をしていた人たちが、当時新事業だったISO9001:1987の審査に侵出してきたわけです。

日本国憲法で認証とは天皇が外国の大使の信任状を認めたりすることですが、ISOの場合はちと違います。この場合の認証とは古来の日本語ではなく、certificationを訳したものです。certificationとはvalidating the authenticity of something or someoneつまり「誰かとか何かの信憑性を有効にすること」つまり保証すること。保証するってことは、嘘だったらその償いをしますという前提がなければ価値がない・・と私は思うのだが。

日本だって第三者認証という制度はあります。
欠陥建築というのが話題になったのは2005年、当時は朝から晩まで国民的話題となりました。
日本で建物を建てる時、好き勝手に作るわけにはいきません。
 ・設計者・・構造設計及び構造計算を担当(姉歯さん)
 ・指定確認検査機関・・建築物の設計を審査して許可する(総研)
 ・建築主・家主・・建築物件を販売(ヒューザー)
という段取りになっています。我々一般人は建築設計が良いか悪いか分かりません。だから検査機関の判断を信じて建物を建て、あるいは買います。もし設計者が間違っていても、検査で見逃しがあっても、検査機関に責任をとってもらうという発想はおかしくなく、いえ、そのためにこそ検査機関は存在するはずです。
姉歯のケース(事件)では、設計者がヘボで、検査機関が見逃して、建築主が不誠実だったらしいのですが、欠陥建築が見つかって、上記の設計者だけでなく指定確認検査機関も実質的に罰を受けました。まあ、妥当なところでしょう。
もし設計者がヘボで検査機関が見逃した場合、設計者だけが罪を問われ、検査機関はそれ以降ものうのうと事業をしていたら・・検査機関の存在意義はありません。
そうですよね?

もっと身近なことを考えます。私があなたからお金を借りるとします。5000円、1万円ならホイと貸してくれるかもしれません。でも百万円となると、簡単には貸せません。普通は「保証人を立ててくれよ」となると思います。じゃあ、名古屋鶏さんに保証人になってもらうとして、賃貸借契約書にあなたと私の他に連帯保証人として名古屋鶏さんにも署名していただきましょう。

収入印紙
壱千円

金銭貸借契約書

甲、乙、及び丙は、次のとおり金銭貸借契約を締結する。

第1条 甲は、乙丙に対し、本日金100万円を次の約定で貸し付け、乙丙はこれを受領して借り受けた。

第2条 乙丙は連帯して、甲に対し、前条の貸付金を○年○月○日までに、甲に持参または送金して支払う。

平成○○年○月○日

 住所 ・・・
 あなた 

 住所 ・・・
 おばQ 

 住所 ・・・
 名古屋鶏 



あなたもご存じと思いますが、私は悪い人間じゃありません。決して借金を踏み倒したり友人を裏切ったりするような男ではござりませぬ。しかし勤めていた会社が倒産、路頭に迷うようになりました。あなたはお金を返してもらわなくてはなりません。連帯保証人である名古屋鶏さんに百万返してよといい、お金持ちの名古屋鶏さんは分厚い財布からあなたに百万払いました。財布にはまだお札がぎっしりと詰まっているようです。ウラメシイ
とまあ、保証人とはこのような立場になります。

もうひとつ例をあげましょう。なにせ私の頭の中には妄想というかゴミのような雑念が・・
../runman.gif 走れメロスっていうお話があります。太宰治の作品でございます。王様を殺そうとしたメロスは逮捕されます。田舎に帰って妹の祝言を上げてから処刑されたいと言いますと、王様はそれなら身代わりを出せと言います。友人のセリヌンティウスが身代わりになります。もしメロスが戻ってこなければ代わりに殺されてしまいます。
第3者認証とは全然関わりないように思ったあなたは鈍感です 
これは第三者認証ではなく、二者間保証かもしれませんが、論理は同じです。

さて、回り道ばかりですが、ISOの第三者認証について考えましょう。
ところでISO第三者認証という制度は参入障壁が非常に低い。
参入障壁とは
ある業界に新規参入しようとする会社にとって、参入を妨げる障害のこと。
具体的な参入阻止要因としては、
@既存企業が備える優位性
 (規模の経済性、ブランド力、技術力、スイッチング・コストの高さなど)
A法規制などが挙げられる。
一方、既存企業にとっては参入障壁の高さが、新規参入の脅威を測る指標となる。新規の参入があれば一般的に市場の競争度合いが増し、業界の収益性が低下するため、既存企業には意識的に参入障壁を築こうとするインセンティブが働くためである。(MBA用語集より)
ISO認証機関になるための要件とはJAB MS100で決めています。
一定の資本金と主任審査員を5人も集めれば認定を申請でき、めでたく認定を受ければ開業できます。いや、実は認定を受けなくても第三者認証を行うことはできますし、そういう認証機関も多いのです。そもそも認定を申請するためには認証実績が必要なのですから・・

そして認証機関は審査料金で経営していきます。審査料金は誰が払う買って? そりゃ当然審査を受ける企業ですよ。
しかし認証件数がEMSとQMS合わせて6万弱、認証料金総額が年商450億くらいというのに、認証機関が51社(いずれも2010年2月現在)もあるというのは多すぎると言うしかない。しかも過半は大手4社が占有し、残りの5割を47社が分け合っている。これははっきり言って過当競争だ。
認証機関の損益については過去に検討(?)したことがある。
さて、ISO認証制度は問題のあるビジネスモデルだと語る人がいます。

どんな問題なのでしょうか?
・審査料は申請組織が支払う
→申請組織は認証されることを希望しているから審査が安易に流れ、認証が信頼性を失う
というのです。

しかし前述したように、第3者認証という仕組みは古今東西普遍的にあり、しかもそれは人為的に維持しようとしなくても自然の摂理で機能してきたようです。
もちろんそれを機能させるには条件があります。
 たったひとつですが・・
それは裏書きしたものが責任を負うということです。
責任を持たない人の裏書きは裏書きになりません。
責任を持たない裏書きというのがただひとつあり、それがISO第三者認証です。
それこそがISO第3者認証制度の最大の欠陥です。

過当競争になっているのも、参入障壁の問題ではなく、責任を負わないでお金儲けができるからではないのでしょうか?

エライ先生が、審査で問題を見つけない節穴審査が多いと語っていました。現時点、節穴審査が存在すること、ましてや節穴審査が多いという証拠は提示されず、その論が正しいかどうかは定かではありません。
しかし、仮に審査員が節穴であろうと認証機関が認証した責任を果せばよろしいじゃないですか。節穴であろうと横穴であろうと女子アナであろうと、見逃しても責任をとってくれるならいいじゃないですか。
ということは、やはり節穴審査が問題ではないということです。

本日の論点
第三者認証というビジネスモデルの問題はお金を払う人ではない。
認証機関が責任を負わないことです。


ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(10.02.14)
おはようございます。たいがぁです。

本日の論点
第三者認証というビジネスモデルの問題はお金を払う人ではない。
認証機関が責任を負わないことです。


認証機関が責任を負わないということではありません。
認証機関は、組織の「製品自体又は環境的なアウトプット自体」を認証しているのではないので、それに対しては責任を負えません。負うとすれば「製品自体又は環境的なアウトプット自体」を生み出すプロセスの妥当性に対してです。ですから、組織のプロセスの妥当性評価に瑕疵があることを実証していただければ、そのことに対しては責任を負いましょう。

ってな言い訳が待っていそうです。^^)

誤解があるかもしれません
私はISO9001は品質保証の規格だと思っています。
だから認証していた企業の品質保証がなっていないなら、認証機関は誤って認証したという責任を負わねばならないということです。
品質保証の意味はJIS/ISOの外部品質保証の意味です。
たいがぁ様のおっしゃる「プロセスの妥当性」と外部品質保証システムが同義かどうか、私はわかりません。多分プロセスの妥当性の方が狭いのではないのでしょうか?

Yosh師匠からお便りを頂きました(10.02.14)
とうた様、
UL認定でなければ販売を禁止したところもありました。今はどうなんでしょうか?
ULの認定が無い製品で問題がおきたら、例へば電気製品で欠陥から火災が起き建物が消失した場合には其の原因であるULの認定が無いと言ふことで保険会社は保険金を支払ふことを拒否できることになるのであります。
ですから禁止と言ふよりも消費者が使用せぬと言ふた方が當りて居るのではないでせうか。
UL認定の無い物を使用するには使用者の自己責任で、と言ふことなのであります。
昔のことでありましたが、日本からの電気製品をカナダに持ち込みましたが、税関で止められて責任の所在を証明する(?)書類を提出させられてカナダ國内に入れて使用することができました。
ご存知のやうに私は日本製の日本で販売されてるULの認定されてない電気製品をこちらにて使用してますが、矢張りこれも自己責任で使用してるのであります。
まあ〜所謂自己破壊装置付きとか申すChina製のやうに日時が経てば使用不能になるやうな日本製品には今迄當りて居らぬから出来ることでもありますが。
Yosh

Yosh師匠 毎度ありがとうございます。
なるほど、行政が禁止しているのではなく、消費者が買わないということですね。
日本も従来は電気用品取締法という法律だったのですが、2001年に電気用品安全法という名称に改正されました。名前が変わっただけではなく、規制緩和を目指したものです。ところが古い電気製品は安全性が低くなるので転売を禁止したりと・・国内では大騒ぎになりました。
まあ、いろいろですね、


名古屋鶏様からお便りを頂きました(10.02.14)
1,000,000,000,000$
niwatori.gif

どうして佐為様は、私のサイフがブ厚いことを知ってらっしゃるのでしょうか?
と言っても名古屋鶏のブ厚いサイフの中身は、全てジンバブエドルでございます。それで宜しければ、保証申し上げます。

名古屋鶏帝国造幣局

ジンバブエドルといいますと、ハイパーインフレのあれですか?
もっとも2009年に発行は停止され、今では使われていないそうですね。
いやいや、かえって希少価値が出てピン札なんてプレミアムがつくのでは?

Yosh師匠からお便りを頂きました(10.02.15)
とうた様、
書き忘れましたが、ULの認定がない電気製品を顧客に特に説明なしに、若し説明してても販売した其の製品が火災や感電事故等が發生した場合には販売した店(人)の責任が生じます、膨大な金を請求され必ず支払はねばならなくなりますから、其のやうな製品を端から売らん訳でもあります。
日本では如何に為されるか知りませんが、如何なる事業所も事業の保険をかけます、従業員への労災とか事業所の建物等の保険とは別なものです。
若し其の事業所に顧客や普通一般の人が来ることが想定される場合に其の事業所内で起きるだらうと予期出来る事故や、製造して販売する製品からの問題が起きた場合等の保険であります。

若し保険が無ければ事業所は全責任をとることをせねばなりませぬから、保険をかけるのであります。
また保険会社もよく調べてからでなければ保障出来ぬので容易には為されぬ訳です。
ULの認定がない電気製品を売ることが判れば保険会社は拒否することになります。

経営上に危機が予知できるのに保険なしに事業をすることを考へる経営者も居らんでありませう。

Yosh

Yosh様 うーんいろいろと大変なのですね。
今はどうか知りませんが、以前は日本で電取のマークがついてない中国製の電気製品なんかを安く売っている大手家電販売店がたくさんありました。
まず、火災の危険、感電の危険なんか気にしてないで買ったのでしょうね。そして火災保険も出たのではないかと思います。
今でもときどき、「○○国で製造された家電品は危険ですから使わないように」なんて広報を見かけます。
やはり保険会社が厳しく保険金を払わないという姿勢をとらないと悪貨を駆逐することは困難なのでしょうね。
私はあやしいものは使いませんよ。


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