ケーススタディ法規制の把握2  10.06.20

久しぶりに鷽八百社に社会人大学院生の藤田がやってきた。例によって廣井も中野も平目も会わないというので山田が一人で対応した。

「あと少しで修士論文を出さないといけないのですよ」と藤田は話を切りだした。
「そうですか、藤田さんはどのようなテーマで論文を書くおつもりですか?」
「自分の仕事上の問題を考えるとISO審査の改善がまっさきにくるのですが、指導教官が他人に起因する問題ではなく、自分自身に起因する問題をとりあげてその対策を考えて実施した結果をまとめた方が良いとおっしゃる。」
確かに他人の粗(あら)を棚卸しするだけよりも自分自身できる改善を考えて実施した結果の方が読む方にはおもしろいし、客観的に見て評価されるのだろうと山田は思った。
「そうですね、具体的にはどんなテーマなのでしょうか?」
「私は自分の勤めている会社と工場、そしてできる限りの他社さんを拝見しました。もちろん鷽八百社さんもですが・・そして多くの会社における最大の問題点は・・」
山田は手を上げて藤田がしゃべるのをさえぎった。
「待ってください。当ててみましょう。それは法規制の把握とその対応でしょう?」
藤田はうなずいた。
「そのとおりです。山田さんは私とだいぶ議論しましたから良くご存じで。驚くことにISO規格の4.3.24.5.2の違いを理解していない会社さえあります。」
「ちょっと、ちょっと、いくらなんでも4.3.2と45.2じゃ全然違うじゃないですか」
「そう思うでしょう、でもね、環境マニュアルの4.3.2と4.5.2に同一の文言を記述している会社も珍しくないのですよ。」
「うーん、どうもわかりませんね。藤田さん、それじゃマニュアルの書面審査で不適合になるでしょう。」
「事実は小説より奇なりです。審査員も売り上げのためにはしょうがないとそんな低レベルの組織も適合と判定しているのでしょうか? それとも審査員自身が規格を理解していないのでしょうか? どちらかはわかりませんが現実にあちこちで見かけます。不思議なことです。」
山田はハタと思いだした。
「藤田さん、思い出しましたよ。確かに弊社の子会社を訪問した時、その会社の環境マニュアルを見せてもらいましたが、そこでも4.5.2の記述が4.3.2の規格条文を転記しただけでしたね。その会社も大手認証機関でちゃんと認証していますね。8年前から・・」
二人は顔を見合わせて、期せずして同じことを言った。
「こんな話では審査の問題に戻ってしまいますね。」
「しかしISO14001認証するために法規制を調べるというのも論理が前後しますよね。どんな会社であろうと、企業市民として遵法は最低限の義務であるはずです。談合をしない、粉飾決算をしない、脱税をしない、セクハラをしない、そんなことISOと関わりなく内部に展開し教育して徹底しなければならないことです。環境法規制だからって別扱いするのはおかしなことです。」
「藤田さん、そのとおり、そもそもISO14001認証するからって、環境法規制を調べるのっておかしいですよ。従来からこのような形で法規制を把握していたということを記述するのが正統というか、まっとうなはずです。」
そう言いながら山田は以前廣井から教えられたことを思い出した。
「山田さん、そのとおりです。ただそういうアプローチというか現実をそのまま説明して審査で問題ないかということが問題になりますね。」
「藤田さんはどうも審査ということにこだわりますね。仮にですよ、認証を止めて自己宣言をするとしたら、藤田さんはどのような方法で環境法規制を把握するのですか?」
「うーん、そう言われると確かに審査でのやりとりにこだわりすぎですね。でも従来はまったく環境法規制に対応する仕組みがなかったとしたらどうでしょうか?」
「藤田さん、そんな会社があるはずがありません。だいたい私はEMSが存在しない会社はありえないと考えています。」
「はあ! どの会社にもEMSがあるんですか?」
「どんな会社だって、行政から調査依頼を受ければ調べて回答しているはずです。法改正の案内が商工会議所とか市役所から来れば、半分義理かもしれませんが説明会に参加しているでしょう。その結果、必要なことを社内に周知したりしているはずです。そういうのがその会社のEMSなんです。」
「おしゃることも分かる気がするけれど、そのEMSが非常にプアな会社もあるわけですよね。そういった弱みをISO認証を機に見直すということは良いことですよね。」
「藤田さん、おっしゃるとおりです。EMSはすべての会社のマネジメントシステムの中に存在しているはずですが、それが十分でない会社も多くあるはずです。でもいずれにしても審査のためとか、審査をシャンシャンと済ますためのものでは意味がありません。手間暇かけても4.3.2と4.5.2の違いが分からないなんてことじゃ、認証した意味がありません。しかしいったい規格を読んでそう受け取る人がいるのでしょうかね?」
「山田さん、多くの場合コンサルがそう指導した結果のようです。」
「うーん、それはひどい話だ。私なら、従来からしていることを不十分か否かを再検討して、見直した結果をそのまま文書にして、その通り実行する。審査ではそれをそのまま説明するでしょう。」
「まあ、日本中の企業がそのとおりのアプローチをしたならばコンサル業界はあがったりになってしまいますね。つい最近、ネットをさ迷っていたら結構有名なコンサルが解説しているウェブサイトに『コンサルを使わないでシステム構築するのは間違いの元』なんて書いてありました。確かに企業が自分で考えるようになったらコンサルは困るでしょうから間違いだと言いたいでしょうね。」
「藤田さん、さかのぼると自分の会社の仕組みを見直すのにコンサルを頼るということ自体おかしなことだと思いませんか?」
「山田さん、情報システムなどは中小企業診断士などのコンサルに頼むというのは不思議じゃありませんよ」
「そりゃそうだけどさ、細かいところはともかく仕組みとか流れは自分自身がつかんでないとうまくいくものは作れませんよ。それに法規制の把握と展開は日本語が読めれば誰にでもできるものです。」
「山田さん、法律って結構ハードル高いですよ。」
「それは苦手意識だけですよ。営業でお客さんと対応し説得し契約にこぎつけるまでを思えば、法律を調べるなんて簡単とは言いませんが楽であることは間違いありません。」
藤田は黙ってしまった。

本日の課題
あなたの勤めている会社において、ISO認証前にはどのように環境法規制を調べていたのでしょうか?
そしてそれをどのように展開していたのか?
更に、規制を受ける法律の遵守状況確認をどんな方法でしていましたか?
その仕組みはISO規格要求を満たしていましたか?
もしISO認証するときに、従来からの方法でない手順にしたならそれはどうしてでしょうか?

本日の言いわけ
この駄文はきっかり50分で書きました。といっても手抜きとかルーチンだと思っているわけではありません。私が日常問題意識を持っているからアットいう間に書いたというだけです。
ところで、コンサルや審査員の方々から異議とかイチャモンが来るのを期待しているのですが・・



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