審査員研修 その1 受講目的

11.12.29
ときどき「審査員研修を受けると内部監査員の力量向上になるのか?」とか、「内部監査員も審査員研修を受けたほうが良いのだろうか?」、はたまた「審査員補の登録をしている内部監査員は技量が優れているのか?」なんてことを聞かれる。
ということで、本日は審査員研修を受けると内部監査員の力量向上に効果があるのかを考えてみる。
同志、ぶらっくたいがぁ氏が、審査員研修について書いたので、一つ私もと、ミーハーなところもある。

今年2011年だけで、私の知り合いが6人ほど5日間の審査員研修を受けている。もちろん6人みんなが同じ研修機関ではなかったが、どの審査員研修機関も最近は干上がっているようだから、干天の慈雨であったに違いない。聞くところによると、彼らが参加した研修コースの受講者は、6名から9名くらいだったという。
審査員研修は国際ルールがあって、4名以上20名以下となっており、それ以下でも以上でも開催できない。ケーススタディなどをするのに人数が少ないとさまにならないだろうし、多すぎたら講師の目が届かないからだろう。
昔読んだ記憶があるが、講師のひとりは、居眠りがいないかどうかをチェックする義務があるらしい。
最近は研修機関のパンフレットとかウェブサイトに研修コースの予定が掲載されていても、予定通り開催されないことも珍しくない。なぜなら、受講者が集まらないからだ。
先日、審査員研修機関を開催している認証機関で働いている知り合いのQMS審査員が、EMS審査員研修を他の研修機関で受けた。
「どうして勤め先の研修を受けなかったの?」と聞くと
「人が集まらなくて最近開催してないんだよ。仕事の関係で早く研修を受けないとならなかったので」と言う。確かに最近は審査員になろうという人も少なくなったし、それどころか登録している審査員も減少している。定期的に研修コースを開くほど受講者が集まらないのだろう。

ルールである開催条件の4名が集まったとしても、開催するかどうか分からない。
簡単な思考実験をしてみよう。
審査員研修コ−スの受講料は2011年現在、20万から25万くらいだ。私が96年頃受講したときは30万前後だったのだから、安くなったものだ・・と、感傷にふけっている場合ではない。
研修の講師はルールで主任審査員であることが条件であり、常時2名いなければならないことになっている。
主任審査員なんて掃いて捨てるほどいるが、みながみな講師が務まるわけではない。やはり話がうまいこと、規格もちゃんと知っていること、そしてなによりも教師が務まる人でないとならない。愚にもつかない質問をされて「そんなことも分からないのか」とか「君は審査員コースを受けるにはまだ早い」なんて応えるようでは講師にはなれない。なにしろ義務教育ではなく大金をいただくビジネスなのである。サービス業と心得なければならない。
いや、ISO審査そのものも役務の提供であり、認証機関はサービス業なのであるが、そのような認識はないようだ。歌舞伎町にいってサービスの原点を学ぶ必要だありそうだ。
ということで主任審査員なら誰でも講師ができるというわけではなく、やはりそれなりの人でなければならないわけだ。

研修コースの収支を考えると つまり開催の損益分岐点は、下記の方程式を解けばよい。とりあえず、管理費用その他はおいておく
 80万+60万+4000×N+1000×N+1000×5×N=23万×N
 答えは N=6.3人
実際には管理費用つまり、事務費用、万一に備えた保険、プロジェクターなどの機器などを考えると7人ではなく、10人以上いないとペイしないだろうと思う。
それに大事なことだが、JRCA承認とかCEAR承認を得るためには、毎年審査を受けなければならず、そして登録費用もかかる。これが40万弱かかる。年5回開催とすると毎回8万割り当てになる。
私は想像でフェルミ推定ってやつですから、もし実際に審査員研修機関を経営されている方がお読みになられたら、損益計算書などを提出いただけると幸いです。
言い方を変えると、15年以上前、私が審査員の研修を受けた頃は、いやほんの数年前までは審査員研修機関というものはウハウハであったのだ。まさに濡れ手で粟だったのだろう。しかし、現在は大変だろうと思う。
と、ここまではわき道にそれた研修機関の損益予想であり、おしまいである。

さて次は、今年受講した私の知り合い6名は、いったいどんな目的で受講したのか、それを見てみよう。

Aさん
お一人は、定年退職後も長年会社でしてきた、品質管理や品質保証の指導をしたくてたまらず、ISO9001の審査員になろうとした。だが、認証機関の戸を叩いたら、あいにくQMS審査員は需要がないと言われた。でもEMSなら契約審査員の口があるという。それでISO14001審査員の研修を受けたのである。もちろん修了証をゲットした瞬間に、CEARに審査員補登録したことはいうまでもない。そして現在、審査実績を積んでいるところである。実際には今のご時勢、審査に参加させてもらうのもなかなか大変なようだ。
契約審査員として使ってやると言った認証機関にしても、審査員の資格があればということであり、審査員補を教育して審査員にするまでの親切心はなかったと思う。
これから実績を積んで審査員になれるかどうかは、私の感知するところではないが、まあ、Aさんの受講理由はまっとうであろう。
しかし、真に品質管理や品質保証の力があれば、ISO審査員よりもコンサルになったほうが良いかもしれない。だが、一般企業で長年やってましたという程度なら、ひとさまを指導できるレベルではないだろうと思う。

Bさん
この方は会社員で、元々環境施設の管理のお仕事をしていた。それが職場で担当する業務が広がって内部環境監査も担当するようになったために、とりあえず研修を受けてみたということのようだ。
審査員になるのではなければ、5日間コースでなくて内部監査員研修コースもあるわけだが、まあそのへんは好みもあろうし、気分次第でということもあろう。
「講習会はどうでしたか?」と聞くと、「なにがなんだか分からなかった」という。
この方は環境管理についてはしろうとではなく、環境法規制も詳しいし、環境施設管理はベテラン、公害防止管理者やエネルギー管理士の資格も持っている。しかしISOという世界にはあまり関わっておらず、環境側面という言葉と、それにまつわることでだいぶ混乱したようだ。彼にとっては教育訓練とか自覚など中身は過去していたことであっても、呪文のような言葉を使われると、なにが教育でどれが自覚なのか分からなくて当然だろう。いや、本当はそんなものを区別する意味もないのではないだろうか。
いずれにしても、審査員研修を受けて感動した様子でもなく、ISOなどに関わりにならないようにしたいという気分がミエミエである。とはいえ、会社は大金を出したのだからその分、しっかりやってもらおうと考えていることは間違いない。しっかりやってもらうとは、ISO審査で会社が審査員にサンドバッグにされないことだ。はたして彼にそれができるかどうか、できないだろうと思う。つまりサンドバッグ候補者だ。
ともかく、彼は審査員になる気などさらさらなく、審査員補の登録もしていない。傍目には、受講料がもったいないと思う。

Cさん
この方も会社員である。この方はちょっと普通と違う。資格マニアとまでは言わないが、ちょっと、そんな感じだ。勤め先の同僚がISO審査員の研修を受けると聞いて、「じゃあ私も」となったようだ。お仕事で環境を担当しているわけではないが、時代の先取り的な感性がある方で、環境はこれから伸びる、早い話が金儲けになるのではと考えていたようだ。
そんな風であるので、審査員研修も乾いた砂が水を吸うようにしっかりと学んだようである。
講習会を終えると、すぐさま私に電話してきた。
「オレ、ISO14001審査員の研修を受けたんだ。どこかの認証機関で雇ってくれないかな?」
そんなうまくはいかないよというと、まあそうだろうと言う。でもこれから機会あれば認証機関に審査員として雇ってもらえないか聞いていくとのことだ。
ISOがスバラシイ! 審査員はすばらしいと思っていることは間違いない。とはいえ、環境といっても広いが、廃棄物管理もしたことがなく、排水処理施設も知らない、ボイラーも見たことがない、省エネってなんだ? という人がISO審査員ができるものだろうか?
彼のように、審査員研修を素直に学び、信じ込んだ人が審査員になると、ISO審査はすばらしくおかしなものになり、日本の将来を危なくするように思う。
彼は環境側面の言葉を知っても、それが意味するものを知らないだろう。そして管理すべき対象を理解しなくても、環境側面を特定する方法の専門家になれるだろう。それにいかなる価値があるのかは、定かではないが・・

Dさん
こちらも大手企業に勤めている会社員である。その方が受講する前に私と会ったときに言ったのは「ウチではISO審査員研修に行けと言われると、だいたい認証機関に出向なんですよ。業界団体が作っている認証機関○○QAってご存知でしょう。あそこです。言われたとき、私もこれでオシマイだなと思いました。まあサラリーマンですからしかたありません」
その方は、そのとき課長であり、部長になるかなれないかという状況だったようだ。審査員になれと言われたことは、部長昇進はないということなのだろう。
それから半年位たったとき、彼からメールがあった。
「このたび○○社に出向となりました。今後もよろしく」というような文面だった。
詳細はわからないが、結論から言えば、彼は審査員研修を受けたものの、認証機関に出向して審査員になるのではなく、勤め先である大手企業の子会社に出向することになったらしい。いきさつは分からないが、結果がご本人にとって良かったことを祈りたい。

Eさん
この方も大手企業にお勤めの方である。環境部門にいて、廃棄物業者の現地調査とか、内部監査をしていると聞いたことがある。実際にどのていどの腕前なのか、環境管理についても、監査についてもお手並みを拝見したことはない。語ることすべてが大げさな男だったから、大したことはないと思っている。
 私も不遜な男である 
彼に直接、審査員研修を受けたいきさつを聞いたわけではないので、彼が何を思って受講したのかは分からない。受講後もあいも変わらず同じお仕事をしている。大手企業であるし、毎年、社員が外部講習を受ける予算があるのかもしれない。予算消化のためになんて、大手企業ではありそうだ。
その後も何も話を聞かない。

Fさん
この方は、大手企業を50代前半に早期退職して既に数年になる。とはいえ、私より若くまだ60前だ。退職後、看板までは出さないが、経営コンサルのようなことをしている。
この方とも細かな話を聞いたわけではない。想像だが、たぶんおじゃましている会社で、ISO認証したいが指導してくれと言われたのか、あるいは今までもISO認証の指導などをしていて、審査員補の資格がないとカッコ悪いとでも思ったのであろう。まさかISO規格を勉強しようとして、わざわざ大金を払うとは思えない。
彼は以前の勤め先でも、コンサルをしている現在も、ISO審査というものを見ているから、今更審査員になろうとしたのではないと思う。これも想像に過ぎないけれど・・

ISO審査員研修とは、審査員になるための講習会である。審査員になるためには必須課程であるが、そうでなければまったく意味がない。もしあなたが会社を辞めて審査員になろうと思っているなら、絶対に受講しなければならない。しかし会社を辞めてもISOコンサルをしようと思っているなら、まったく無縁のものである。なにも資格がないより審査員補であると箔がつくと思っているなら、それは勘違いです。受講料を払うなら、ただでこのウェブサイトを見ていたほうが役に立ちます。(本当でしょうか?)
会社の中で内部監査員をしているが、力量向上のために審査員研修を受けるというなら、それも止めた方が良い。内部監査とISO審査は異質なものだ。決してISO審査が内部監査あるいは二者監査よりもレベルが高く、力量を必要とするわけではない。
私は過去10年間、二者監査をしているが、私より審査、監査の力量のある審査員を見たことがない・・といっては言いすぎかもしれないが・・これはと思う審査員は認証機関の幹部も含めて数人しかいない。
内部監査員として研鑽を深めたいとか、力量向上したいというなら、ISO審査員ではなく、一般的な内部監査の講習とか本を読むと良い。
あるいは企業の内部統制とか会社法を学んだほうが役に立つことを保証する。要するに内部監査にはISO規格は無縁である。それ以上にISO審査員研修は隔絶している。これについては別に書きたいと思う。

ISO審査員研修を受講する前に、まず目的をしっかりしておかないといけないということだ。もっともそんなことISO審査員研修に限らず、どんな講習会でも通信教育でもそうだろう。あるいは買い物すべてにいえることである。
審査員になろうとするなら絶対に審査員研修を受けなければならない。それ以外の場合、審査員研修を受ける意味はないように思う。会社で環境管理とか内部監査をしている人も含めた一般人にとって、ISO審査員研修はまったく意味がありません。それに、審査員補は資格じゃありません。

本日のいい加減さ
はじめは審査員研修全般について書こうと思ったが、とても1回ではまとまらないと分かった。よって審査員研修のその1としよう。



ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2011/12/30)
ボイラーも見たことがない、省エネってなんだ? という人がISO審査員ができるものだろうか?

笑い話ですね。というか、私もどっこいどっこいですが。
ISO14001規格にはある年数向かい合ってきたので、それなりに理解しているつもりです。しかし、私は他の同志のように環境実務に携わっているわけではないので、きっとマトモな審査はできないでしょう。一方、ISO27001規格のことはほとんど知りませんが、情報セキュリティに関してはプロの端くれですから審査できると思います。30分もすればだいたいどこに欠陥があるか掴めるでしょう。後は掘り下げていくだけです。
となると、認定登録審査員研修の意義というのはいったいどこに???

ぶらっくたいがぁ様 今年もいろいろとありがとうございました。

認定登録審査員研修の意義というのはいったいどこに???
簡単、明白ではありませんか。
審査員になるためのものにすぎません。それに価値があるか、効果があるかは別に関係ないのです。
きっと研修費用と審査員認定のお金が・・・突然放送が途絶えました。

名古屋鶏様からお便りを頂きました(2011/12/30)
鶏は自分の工場で二十ン年間に渡って環境管理の実務をしてきましたが、それでも全てを掌握しているわけではありません。いまだに「え?なにそれ!」という話を聞くことがあります。
「環境」という括りはあまりに大き過ぎて汎用性が高くありません。なので他人の事業所に行っても自分の経験がそのまま役に立つワケではないのです。まして、、
結局、このISOビジネスというヤツは上流から下流に至るまで全てが「なぁなぁ」でお金を動かす仕組みなのでしょうね。

名古屋鶏様 今年もお世話になりました。
名古屋鶏様はアイソス誌デビューで有名になられたかと・・
20年近く前、私の上司だった品質管理の課長がJ○△に出向してISO9001の審査員になりました。当時、審査員といえばものすごい職業と思われていましたので、我々はその方を大出世したと思っていました。考えてみると、社内で出世できないので、見切りをつけて転職したのでしょうね
その後、ISO14001が現れてその審査員になりました。
ホウ!? 環境に携わったこともないのに、環境の審査ができるのか?と我々は思いました。
当時そういった9000から14000への鞍替えというか、仕事を拡大した審査員が多かったのです。そういう方の一人が雑誌で、「我々は技術的なことではなく、システムを見るのでなんでもできるのだ」というふうなことを語っていました。
そうかもしれませんが、そうでないような気がしました。
ところで、私は元々は現場でしたがその後、品質保証屋になり、一人前になったと思います。ところがその後、会社がリストラに次ぐリストラで、私は品質ばかりではなく、施設管理も環境管理も計器管理も担当するようになりました。だから上っ面ですが、一応は環境を担当してきました。今では環境遵法が専門になりました。どんな仕事でも10年やればベテランです。
とはいえ、ISO14001の審査員を10年しても、環境管理のベテランにはならないように思います。


続きを読みたい方は → 審査員研修 その2
うそ800の目次にもどる