ケーススタディ 10年目のISO事務局 その6

12.11.08
ISOケーススタディシリーズとは

前回までのあらすじ
山田の営業時代の元上司で現在関連会社大法螺おおぼら機工の取締役である福原から、その会社のISO事務局が傍若無人で好き勝手をしているので、担当者をいさめてその会社のEMSを役に立つものに見直してほしいという依頼があった。山田は直接その担当者を指導するのではなく、監査で不適合を出して、それを是正させる過程で教育していこうと考えた。
そして定例の環境保護部による環境監査を行った結果、案の定、たくさんの法律に関わる問題やISO規格への不適合などが検出された。
是正も相手に任せたらまともなことをするはずがない。そこで山田は是正処置の指導のために毎週出向くことにした。 今回は、その続きでございます。
と、これだけではストーリーがお分かりにならないでしょう。ぜひ「10年目のISO事務局」をはじめからお読みください。



今日は山田が大法螺おおぼら機工の不適合是正指導の2回目である。
藤本は、山田がISO事務局にしている話がためになるといって、今回は五反田も連れて行くことになった。山田はヤレヤレと心の中で思っている。藤本と五反田はこれから環境ソリューションビジネスで食っていくのだから、山田の話と改めて聞くまでもなく、自然と理解していなければ困るよというのが本音だ。

今回も先方は、川端係長と桧垣の他に福原取締役も同席している。

山田
「前回はISO規格とか認証のことをお話しました。今回はISOの中に出てくる言葉の意味を再確認したいと思います。
まず『環境方針』について考えましょう。規格では『環境方針を定めろ』とありますが、これは『環境方針』というものを作りなさいということではありません。会社のトップは環境についての考えをはっきりと示して、それを会社で働く人に周知しなさいということです。ですから環境についての方針を個別に作ることは必要なく、品質と一緒でもよいし、経営方針という名称であろうと、毎年新年度に社長が社員に語ることでもよいのです」
川端五郎
「チョット待ってください。ISO規格では環境方針に盛り込む内容が定めてありますね。あれを網羅しないとならないでしょう。私は講習会で習いましたが、製品名とか継続的改善をすることとか、枠組みという言葉を盛り込まなければならないとか・・」
山田
「そういうことを習いましたか? はっきりいってそれは間違いですね」
川端五郎
「間違いだって! 規格の言葉が漏れていると、審査では必ず不適合になるんですよ。あなたは何年ISOに関わってきたんですか」
山田
「おっしゃる通り、環境方針にそういったものが欠けていると不適合を出す審査員は多いですね。私が指導した会社ではそんなことを無視して環境方針を策定したのですが、初回審査でなんと環境方針だけで4つもの指摘をもらってしまいました」
川端五郎
「言わんこっちゃない。だからそういうことではダメなんです。ちゃんとした環境方針を作る必要があります」
山田
「そのときは私も頭にきたので、審査会場から抜け出して即その認証機関の取締役に電話で苦情をいいましたよ。すると後で送られてきた正式な審査報告書には環境方針に関わる指摘事項はまったく消えていました。でもお詫びもなければ、訂正した理由の説明も書いてありませんでした。失礼な話ですね。私はその審査員の力量が問題だというだけでなく、その認証機関にも誠意がないとあきれましたね。
さらに問題なのは、その審査員は今でも審査員をしているのですが、いまだにそのような考えで審査をし続けているということです」

これは私の実体験である。その不適合を出した審査員は本■さんと言ったが、今では少しは進歩したのだろうか?

川端は山田の言葉を聞いても納得しないようだ。
川端五郎
「私はこの地区のISO担当者の研究会に入っていますが、どこの会社の環境方針にもISO規格の言葉を盛り込んでいます。そういうのが当たり前だと考えています」
山田
「前回も申し上げましたが、ISOのために何かするという発想はおかしなことです。従来からしていることがISO規格を満たしていると説明することが、認証するということなのです」
福原
「山田さん、ご存じと思いますが弊社の環境方針はISO規格の形そのままです。私はここにきて、それを見て恥ずかしいと思いました。いやしくも東証二部上場の会社の社長が、そんなバカみたいな環境方針にサインしているということが」
山田
「いや、実は私も白状することがあるのです。私がISOに関わったのは6年くらい前ですが、そのとき最初の仕事が環境方針に社長のサインをもらうことだったのです。
前任者に社長のサインをもらえばよいと言われて、何も考えずに社長に会いました。社長は『そんな稚拙な方針にサインはできない』とおっしゃってそれで面会はおしまいでした。今でもあの時を思い出すと、恥ずかしくて顔が赤くなります。自分がその環境方針案を大人の目で見て妥当かどうかを考えなかったことが悔やまれます」
藤本
「山田さんにもそういう失敗があったんだ」
山田
「人は誰でも失敗の積み重ねですよ」
川端五郎
「それで山田さんはどうしたのですか?」
山田
「まずその前任者の話はあてにならないとわかりました。そこで考えました。ISO規格を何度も読みました。それからネットで多数の会社の環境方針を調べました。日本の会社の環境方針は大手も中小もみなISO規格そのままが多いです。しかし外資系とか外国の会社の方針はそうではありません。もっとも私が読めるのは英語だけですが。そしてもちろん規格とおりでない環境方針でもISO認証をしているわけです。
そうですね、200社くらい調べたでしょうか、その結果、私は当社の社是とか年度方針がそのまま環境方針にあたるのではないかと思い至りました。ということでわざわざ社長のサインをいただくことはしませんでした」

実は私もこれに近い経験があり、世の中の環境方針を相当調べた。調査結果をまとめたら、修士論文くらいにはなったかもしれない。
私は自分の体験を基にしてうそ800を書いているのであって、まったくの想像で書いているのではない。
川端五郎
「ISO審査ではどうなったのですか?」
山田
「それがね、次回の審査ではなんのいちゃもんもつかなかったのですよ。正直言って肩すかしをくった感じで、残念でした」
山田はほんとうに残念な様子である。
福原
「なるほどなあ、『10年やっても素人は素人、駆け出しでも玄人は玄人』なんてセリフがあったねえ〜、いや川端君のことじゃないよ」
藤本
「福原取締役、それは『無用の介』のセリフではなかったですか?」
福原
「あ、ご存知でした? お互いに年寄りですね、アハハハハ」
『無用の介』とはさいとうたかをの劇画で、テレビでは伊吹吾郎主演で1969年に放映された。伊吹吾郎ももう70近い、古稀となっては賞金稼ぎはもう務まらないだろう。
山田
「ということで方針はよろしいですか?」
福原
「川端君、私も現状の方針は見直すべきだと考えていたんだが・・・」
川端五郎
「考えてみます」
山田
「おっと、もうひとつ忘れていました。周知という意味です。川端さん、周知とはどんなことでしょうか?」
川端五郎
「みなに知らせることですよ。朝礼で通知しても良いし、印刷した紙を配ってもよいでしょう。当社では名刺サイズの紙に環境方針を印刷して全員に配っています。暗記なんてできませんから、もし審査で聞かれたらそれを見せろと言っています」
山田
「なるほど、残念ですが周知とはそれとはニュアンスがちょっと違います。周知とは皆に理解させて行動させることです」
福原
「それはカードを配るのとどう違うのですか?」
山田
「『火の用心』というたとえ話があります。社長が火の用心と言えば、取締役、部長、課長と各職制、職階に展開して、一般社員は、消火器の点検、避難訓練、非常持ち出しなど自分の担当することを再確認し、実際に訓練したりすることになるでしょう。
社長社長火の用心をしっかりしろよ
福原取締役防火月間行事を立ててくれ
部長部長各課の実施事項を今月中にまとめるように
課長課長うちの課は消防施設の点検が担当だ
川端五郎係長桧垣君は消火器の点検、山本君はスプリンクラーの点検、横井君は・・
桧垣担当消火器の点検項目は○○手順書で、点検順序とこの配置図に従って、日程と担当は・・
このように方針を細かくブレークダウンしていかないと実際の活動はできません。
環境方針を周知するというのもそれと同じです。方針を暗記したりカードを携帯することじゃなくて、方針の中で自分が担当することを理解して実行することなのです。
例えば省エネ、廃棄物削減、開発必達というものが方針にあれば、オフィスで働く人は消灯基準を守ること、ごみを出すときは分別を心がけることなどのように、担当によってすることが違いますよね。
そういうことを理解させてそして実施させること、それが周知というのです」
川端五郎
「そんなことを聞いたのは初めてです」
桧垣
「うわー、それは環境方針カードを携帯するよりも簡単そうで難しいですね」
山田
「でも会社に貢献するということはそういうことではないですか?
環境方針をよどみなく暗唱したところで、売り上げも増えず、廃棄物も減りませんよ」
藤本
「なるほど、管理者として考えれば当たり前のことだ。私も管理者を30年もしてきたが、自分が出した方針を暗記してもらってもありがたくない。方針を実現するために行動してもらうことに意味があるからね」
川端五郎
「しかしそのようなものが周知であるなら、ISO審査や内部監査で方針が周知されているかを、どのようにして確認するのですか? 不可能じゃないですか」
山田
「仕事に簡単なものなどありませんよ。しかし不可能ではありません。
私が監査するなら相手のお仕事をお聞きします。そしてどのようなことに気を使っているのか、どのような改善に努めているのか、そういったことを相手に話してもらいます。
それを聞いてその人の仕事において気を付けていること、実行していることが、環境方針に示されていることに整合しているかを考えて、周知されているかどうかを判断することになるでしょう。
それは環境方針カードを持っているかをみるよりも難しいかもしれませんが、監査員はやりがいであるでしょうし、その過程において相手に環境方針の重要性とその人の行動に意義があることを認識させることができるでしょう」
福原
「なるほど、方針の周知とはそういうことなのか、そして監査というのは相手に対する教育でもあるわけだ。川端君、山田さんのお話が分かったか?
来年は方針の見直しと周知方法の見直しをせんとならんね」

川端は面白くないような顔をして、フンともハアとも聞こえるような声を出した。

山田
「では次に環境側面について考えましょう。ここにいらっしゃる皆さんはもう環境側面なんて十分にご存じでしょうけど、改めて考えることも重要です。
環境側面とは何かといえば、規格の定義を読むよりも、規格本文を読んだほうがわかりやすいです。
規格本文を読むと、環境側面とは法規制に関わるもの、業務に当たるのに力量が必要なもの、十分なコミュニケーションが必要なもの、運用を誤ると大変だから手順を決めておくことが必要なものであることがわかります。
言い換えると、法規制に関わるもの、力量が必要なもの、内外にコミュニケーションを図らねばならないこと、手順を決めておかないと問題が起きるものを著しい環境側面というのです」

詳しくはこちらを

川端五郎
「その考えはおかしいですよ。量や危険性などを評価しなければ、著しい環境側面に該当するかどうかわかりませんよ。そんな初歩的、基本的なことも知らないのですか、山田さん」

山田は川端がいちいち反論するのを煩わしいと思ったが、この議論こそ今日山田がここに来ている目的であると思い返した。
山田
「なるほど、そういうお考えもありますか。では御社の今までの方法を教えてください」

川端川端五郎は待ってましたとばかり全員にA4の紙を配った。



川端五郎
「このように電気、廃棄物、水、灯油、重油、ガス、鋼材、アルミ材、などインプットやアウトプットの種類ごとに量の点数、危険性の点数、発生頻度の点数を定めて計算するのです。そして一定点数以上になったものが著しいと考えるのです」
山田
「だいぶ前に健保会館でお酒を飲みながらお話を承りましたね。あのときは五反田が疑問を呈しましたが、その質問へのご回答は伺っていなかったと思います。
この点数・・電力が1000万kWhと廃棄物500トンPPC500万枚の点数が同じであるわけですが、このように点数を決めた根拠はなんですか?」
川端五郎
「それぞれの環境影響が等しくなるようにしたのです」
山田
「つまり電力1000万kWhと廃棄物250トンとPPC500万枚の環境影響が等しいというわけでしょうか?」
福原
「ちょっとごめんよ、私が変だと思うことだが、電力は点数と配点が比例関係にあり1点と5点では5倍だが、廃棄物と紙では1点と5点では2.5倍でしかない。川端君、これはどういう理屈なのかね?」
川端五郎
「うーん、まず山田さんの質問への回答は、環境影響を等しくしているわけではなく、このくらいに設定しておけばバランスがとれるかと思いますね。
取締役のご質問には、ありえない数値にはどんな点数を配点してもよいだろうということです」
山田
「バランスとはどういうことでしょうか?」
川端五郎
「つまり当社では環境活動として省エネ、実際には節電ですが、それと廃棄物削減、コピー用紙削減などをしておりますので、それらが著しい側面にならないとまずいのです」
山田
「川端さん、そうするとこれは著しい環境側面がどれかを決定するのではなく、最初から決まっているものを著しくするために配点を決めたということでしょうか?」
川端五郎
「まあ、そういうことになりますか、でもこういうステップを踏まないとISO審査では不適合になりますよ」
山田
「10年前、最初の審査で不適合を出されたという環境側面を決定する方法はどんな方法だったのでしょうか?」
川端五郎
「今でもよく覚えています。そのときISO14001を担当したのは環境管理部門の方で既に定年退職していますが、その方はまったく初歩的な間違いをしていたんですよ。当社の設備や材料や廃棄物の使用状況や量を調査したのは良かったのですが、たったみっつの方法で該当、非該当を決めたのです。
ひとつは法規制に該当するかどうか、ふたつは事故が起きる恐れがあるかどうか、みっつは問題が起きたときの損失金額が大きいかどうかをチェックして、そのうちひとつでも該当するものを著しい環境側面としたのです。まったくどうしてそんな方法を考えついたのかあきれてしまいます」

実はこれは当時BVQIの公式ガイドブック『ISO14001環境マネジメントシステムの構築と認証の手引き(ISBN-4901476025)』という本で示している方法を若干アレンジした。JA○○流と揶揄されている点数方式と違い、このBV方法こそが全く正当、正道の方法である。
他方、世に広まったJA○○流はまったくの笑いものだ。日本のISO14001を悪くしたのはいくつかあるが、JA○○流はその中でも最たるものだろう。これを広めたのは当時JA○○の柴■取締役とも鈴▲取締役とも言われているが、真相は知らない。あるいは創成期のそういった人たちが相談してきめたのかもしれない。しかしいずれにしてもそんなことを決めた人たちは、草分けではあるが誤った道に導いた悪人であることにちがいはない。

お断り
私はどんな方法を考えても広めても、それを非難したり断罪するつもりはない。学問の自由と同様に、技術や手法にも自由は認められなければならない。
しかし自分が考えた方法以外はすべて不適合と切り捨てたことについては、許容することはできない。私は執念深いのだ。


山田
「それは残念でしたね。私は現行の方法よりもその当初の方法の方がはるかに論理的で正しいと思います」
川端五郎
「そんな方法はISO審査では通用しません。実際に当社の初回の審査で不適合が出て審査がストップしたのです。
当時私は生産技術担当で、ISOとも環境とも関係ありませんでした。しかしISO9001が広まった頃から、これはやがて会社で重要な業務になると考えて個人的に勉強していたのです。それで私がISOを担当しましょうと名乗りをあげて、今の方法ですぐに認証したのです。
私はその審査員が環境管理の雑誌に書いていた方法を取るべきだと考えたのです。大学でも過去問とか入試問題の傾向をみて勉強しなければならないのは常識でしょう。相手が期待している方法をとれば評価されるというのは当たり前のことです」

山田はあきれた。川端氏は審査員に受けが良くてISO審査を通ればよい、会社に役に立つのか意味があるのかなど全く考えていないのだ。
山田
「ISO14001は遵法と汚染の予防を目的としていると序文にあります。そして規格はすべて環境側面を把握し管理してことであることにお気づきでしょう。ですからISO14001に関わるというか、環境管理に関わるには、環境側面を理解しないとなりません。
というか、そんなことは環境に限らずどんな仕事をするときでもいえることでしょう。つまり法に違反しないこと、これはもちろん国レベルの法律だけでなく自治体の条例はもちろん場合によっては外国の法律も含むでしょうし、業界の申し合わせ事項や努力義務なども含むでしょう。また事故、その範疇といいますか意味するところも純粋な事故もあるでしょうし、不具合発生も防ぐこともあるでしょう。
ここまではよろしいですね?」
福原
「いや、山田君の話はよく分る。すまんすまん、つい昔の癖で山田君なんて言ってしまった。山田さんの話は平易で疑問の余地はない」
山田
「では遵法と汚染の予防のためには、なにをすればよいのか?
これも単純な話、自分の事業に関係する法規制を知ること、自分の事業において事故が起きたり不具合なことが起きる可能性を知ることですよね?」
福原
「全くその通りだ。するとその先も見えてくる」
山田
「ありがとうございます。というか私の話は分かりやすくて、ありがたみがないようですね。
再確認ですが、ISO規格にもISO認証に関するIAFやJAB基準類において、環境側面の特定と著しい環境側面の決定についてひとことも書いてありません。つまりこれは組織が考えて決めることだということです。
私の話は福原さんがおっしゃったように、もう先が見えたことでしょう。
翻って考えれば、環境側面なんて言葉は元々ありません。ISO14001のときに作られた言葉なんです。『法違反や事故を起こさないために管理しなければならないもの』を一言で表すために『environmental aspect 環境側面』なる言葉を作ったにすぎません。規格を読んでいて『環境側面』という言葉にぶつかったら、その代わりに『法違反や事故を起こさないために管理しなければならないもの』と入れ替えて読めば簡単です。文章はちと長くなりますが」
川端五郎
「そんなことを言っても、審査で不適合になれば意味がないでしょう」
山田
「そうですね。指摘事項とされる可能性は高いでしょう。でもそれが不適合になるかどうかはまだわかりませんよ。
不適合となるには『不適合とする根拠』が必要です。どうして点数方式でないと不適合になるのでしょうか? 『評価する』というと点数で行うように思いますが、ISO規格には環境側面を評価しろという言葉はありません。実際には著しい環境側面を『決定しろ』とあります。原文は determineで、英英辞典では to officially decide something、何かを公に決定することであって大法螺機工ではこう決めたということを意味するだけです」
川端五郎
「現実には点数方式でない環境側面の決定方法へは不適合がたくさん出されていて、その不適合の理由は『客観性がない』とか『誰が行っても同じ結論になりにくい』というものですね」
山田
「川端さん、そういう現実は私も存じています。でもそれが正しい審査かと言えば、間違っていると言えるでしょう。そのような不適合を出した審査員はISO17021を読んでいない、あるいは読んでいても理解していないのでしょう。もっとも2006年以前はISO17021ではなくガイド66ですが。
ともかくISO14001には『客観的であること』とか『誰が行っても同じ結論になること』とは書いてありません。ということは、そんな不適合を出せないということです」

ガイド66:1999では明確に環境側面を決定するのは組織のすることであると書いてあった。
G5.3.21. 環境側面及びそれに伴う影響のうちどれが著しいかを特定するための基準を設定し、これを行うための手順を開発するのは、組織の仕事である。
組織が環境側面及びそれに伴う影響のうちどれが一番著しいかを決める手順が適切なものであり、また、守られているかどうかを審査するのは、審査登録機関の仕事である。

このフレーズがISO17021に移行されなかったのは残念だ。ISO17021がISO9001と兼用を図ったために、環境だけに関わるものは省かれたのではないかと愚考する。

福原
「口を挟んで恐縮だが、川端君、現行の点数方式が『客観的で誰が行っても同じ結論になる』とは思えないね。私が点数を付けるなら、年間1億8千万かかっている電力と年間500万円の紙代の点数が同じはずはない。私なら紙の点数は電気の3%にするだろうね」
桧垣
「ボクも以前から疑問に思っていたのです。一昨年でしたか、川端さんは環境側面の配点表を見直しましたよね。以前は省エネ法に合わせて1200万以上が5点でしたが、それを1000万以上を5点に変更したのです。
ボクがその理由を聞くと、当社の生産構造が変わって使用電力が1300から1200くらいに減りそうなので、万が一1200を割って第二種エネルギー管理指定工場になっても電気の配点が5点になるようにするためと言いました。あれっておかしいと思います」
福原
「そんなことがあったのか。それじゃあ客観的なんてもんじゃなくて、恣意的そのものだね。
幸いというか残念というか当社の事業も拡大基調なので第一種のままだが、川端君、もし従来の配点のままだとすると第二種になった場合は、電気は著しい環境側面ではなくなっていたのか?」
川端五郎
「従来の配点表のままですと、当社が第二種になった場合には、電気の点数が5点から4点になり、重要性などの掛け算になりますから電気の総合点は今より・・・15点くらい減り、そうすると順位が1位から8位にさがります。となると環境目的にとりあげるのは難しくなるでしょう」
福原
「うーん、以前より減ったとしても電気代は当社の費用でも大きなものだ。それがちょっと減ったからと言って改善目標でなくなるというのもおかしな話だ」
桧垣
「電気使用量が減るから配点を見直さなければならないという論理だけからは、変だと思わないかもしれません。でもボクが疑問を持ったのはわけがあります。
PCBトランス 昨年保有していたPCBトランス10台のうち8台をJESCOに処理を依頼して、今では保有台数は2個になりました。しかしそれについて川端さんは配点表を見直しませんでした。今年は従来の配点表のままで計算して、PCBの点数が減ったので著しい側面から削除しています。ISO審査では環境側面からはずしたことをほめられていましたね。このふたつはどう考えても矛盾していますよ。
もし電気の考えを徹底するならPCBの点数も見直さなくちゃならないし、PCBの考え方なら電気の点数を変えるべきじゃないですよ」
川端五郎
「私はね、当社の環境活動においては、省エネや廃棄物削減をしなければならないと考えているんです。それと同時にISO審査で問題が起きないようにも気を配っているわけですよ。
PCBは元々環境目的にあげていなかったから、著しい環境側面から落としても影響はなかったんだ。桧垣君もそれくらいわきまえてくれよ」
福原
「うーん、単純な話、川端君のような小細工をしないほうが論理的に思えるね。結局今までの当社の著しい環境側面というものは、論理的な仕組みではなく、川端君の考えで決定していたということになる。
これからはもっと単純で誰が見ても納得できるようなものにしなければならんね。
そしてその方法が審査で指摘を受けたら、反論する、反論が受け入れられないなら認証機関を変えるということかね。
山田さんがさっき例に挙げた本を書いたBVというのはISO認証機関だったはずだ。確か以前いた工場でISO9001の認証していたのはBVだった記憶がある。そういったところにすれば良いだろう」

川端は黙っていた。

山田
「大いに議論が盛り上がりましたが、環境側面というものがご理解いただけたかと思います」
福原
「もうすこし話しをさせてくれ。川端君の考えにはもうひとつ異議がある。川端君は『当社の環境活動においては、省エネや廃棄物削減をしなければならないと考えている』と言った。これは越権行為だよ。そんなことは事務局担当者が決めることではない。会社でどんなことをするかを決めることは経営者の仕事だ。
私も一応ISO規格は読んでいるのだが、目的目標を決定し見直すのは経営者の仕事であると書いてある。事務局がすることはその情報を収集し、判断材料を提供することだ。
君が当社の活動でこれをするべきだと決めることはない」

川端は福原の口調に驚いたようだ。
川端五郎
「しかし電気の評価点数が低ければ、それを経営幹部が改善項目に取り上げることはないでしょう」
福原
「ちょっと待ってくれたまえ、環境目的というものは著しい環境側面から選ぶと決められているのかい?」
川端五郎
「書いてあります。ISOの4.3.3に『目的及び目標を設定しレビューするにあたっては・・・著しい環境側面を考慮に入れること』とあります」

川端は対訳本を見ながらそう言った。
福原はその本を取り上げてながめて言った。
福原
「川端君、文章を読むときは先入観で読んではいけない。良く読み返しなさい。環境側面から選ぶとは書いてないんだよ。考慮に入れるということだ。だから著しい環境側面になくても目的になることもあるし、著しい環境側面であっても目的にしないことも経営判断なんだ」
川端五郎
「しかしISO審査では著しい環境側面から目的を選ぶことが求められていますよ」
福原
「規格にないことを審査で求めるなら、それこそが審査員が間違っているということじゃないか。そんな審査員は忌避するか、認証機関を鞍替えすべきと考えないのかね?」

ここに書いたことは私が過去何回も経験したことである。私は日本のISOを良くしたいと心から念じている。間違えた審査員、おかしな審査員はただではおかない。
もしそんな審査員はいないとおっしゃる方がいたらお便りください。そういうことを言った審査員のお名前、認証機関名、審査した会社、日時を個人的にお教えしましょう。


桧垣
「川端さん、ボクは福原取締役と同意見です。
一昨年でしたか廃棄物削減が以前の目的を達成したので目的からはずしたら廃棄物削減がないのはおかしいと審査員に言われて、夜中までかけて目的を修正して翌朝社長の決裁をいただいて次の日に修正案を説明して審査員にほめられていましたね。
あれってほんとうにばかばかしいことじゃないですか。一年に数日しか来ない人がこの会社の何を分るっていうんです」
川端五郎
「桧垣君、なにをいうんだ。ああしなかったら不適合になっていたんだぞ」
福原
「まあまあ、二人ともそう熱くなるなよ。
ともかく環境目的を決めるのは社長であって、川端君でもなければ私でもない。まして審査員がああしろこうしろというのは不謹慎そのものだ。
当社は機械部品を作っているが、そこで環境に関して何を改善すべきかとか、どの程度の目標値にするかなどは、我々が決めることであって、外部の人、ISO審査員などにコメントをしてもらうことはない。」
山田
「福原さん、実を言って環境目的というものが存在するとも思えないのです」
福原
「え、環境目的と環境目標を定めろとISO規格に書いてあるがね」
山田
「環境目的とは企業が環境改善のために改めて考えたり決めたりするものではなく、事業推進に当たって必要に迫られて計画したものの中で、環境に関わるものと考えられませんか?」
福原
「なんだって、 おおそうか!
つまり先ほどの環境方針と同じくわざわざ作るものではないということなんだね?」
山田
「そのとおりです。そして環境に関わるといっても直接環境改善と言及していなくてもよいのです。例えば新製品は旧製品に比べて省エネ、省資源であるのは当然でしょう。ですから新製品開発とかお客様に従来品から新型製品に更新を進める営業活動というものは、そのまま環境改善に寄与するわけで環境目的と説明して間違いではありません。いやそれが環境活動そのものなのです」
福原
「すると・・・待ってくれよ。そうすると当社の事業活動はすべて環境活動ということになるよ」
山田
「そのとおりです。すべての事業推進において環境配慮をしていること、それが環境経営そのものじゃないですか。
よく環境事業を全体の何パーセントにするとか、環境配慮製品の売り上げを何千億にするなんて発表している会社がありますが、あれって環境経営ということを理解していないことがバレバレです」」
福原
「山田さんの話を聞けば聞くほどISOとは普段の仕事そのままを見せればよいということになる。本当にそうなんだろうか?」
川端五郎
「福原取締役、山田さんのお話は世の中で通用しませんよ。そんな理想論で空虚な話は無意味です」
山田
「L○○Aでは『審査とはその会社がISO規格を満たしているかどうかを外部の人が調べること』と語っています。そして『会社の人はISO規格など知らなくて良い』とも言っています。
マニュアルに書いてあることを、カルタ取りのように調べる審査員は下の下ですよ。マニュアルから見るのではなく、現実を見てその会社が規格適合か否かを判定できる力量がなければ審査員なんてしてはいけないのです」
福原
「なるほど。川端君に聞いてもわからないだろうが、そもそもこの認証機関を選んだのはどうしてなんだろう? いや、この認証機関を選んだにしても、なぜ途中で認証機関を変えなかったのだろうか?
まあ、過去を語ってもしょうがない。次回は私が考えることにする」

川端は困り切った顔をしている。

桧垣
「あのう話して良いですか?」

福原がいいよという風に首を振った。
桧垣
「審査でおかしなことってたくさんあります。毎回審査の前になると、川端さんが社長や取締役に審査の心得とか対応のリハーサルをしていますね。あれっておかしくありません? なぜ普段通り話してくださいって言わないんですか?」
川端五郎
「だってそうだろう、社長が環境方針をそらんじていると思うか? 環境方針も覚えていないんじゃ経営者インタビューが務まらないだろう」
桧垣
「それって環境方針がISO規格とおりの文言だからでしょう。社長は年度の方針やその進捗なら常に頭の中にあります。というかそれが社長のお仕事そのものですから。
ボクは通路で社長と出会うたびに今年の環境管理のテーマである化学物質管理の体制整備について進んでいるのかと聞かれますよ。社長から直々に声をかけられると嬉しくなります」
福原
「つまり、社長方針や年度の実行計画そのものが会社の軸となって動いているのだから、それを環境方針や目的にすれば社長がそらんじているどころか、それを達成するのが経営者の仕事だから当たり前ということか。
なるほどなあ、ますます今までのISOが会社の本当の仕組みとか活動テーマとかけ離れていたということがよく分る」
川端五郎
「どうも山田さんのお考えのISOとか認証というものは、私というよりも世の中の現実とかけ離れているようですね。そのようなものが正しいものという証拠はあるのですか?」
山田
「先ほども申しましたが世の中にはたくさんの認証機関がありますし、ISO14001の審査員を職業にしている人が2000人もいます。その中にはまっとうな審査をする人も多くいるのです。もちろん間違った解釈、間違った審査しかできない審査員の方が多いですけどね」
福原
「ともかく認証機関については考えなければならん。川端君、いや川端君はこれから是正活動で忙しくなるだろうから、桧垣君に頼もう。
日本の認証機関で山田さんのおっしゃるような審査をしてくれるところを調査してくれ。
いや、待てよ、あちこちに声をかけて、当社に説明に来てもらうように段取りしてくれたまえ」
桧垣
「承知しました。やりがいがあります」
山田は福原、川端、桧垣の話し合いを聞いて、これこそが大法螺機工で必要なことだと思った。

うそ800 本日思うところ
駄文を書いていて過去に審査で因縁を付けられたのを思い出すと怒り心頭になる。まったくばかばかしいことを語って審査員が務まるというのだから恐れ入るばかりだ。
いったい認証機関や審査員登録機関、そして認定機関はちゃんと監督しているのか? 何をしているんだろう?
あっつ、そういったところも同じレベルなのですか、そうですか・・

その7に続きます To Be Continued


名古屋鶏様からお便りを頂きました(2012/11/8)
真っ当な体制に戻るのはいいとしても、他に取り柄のなさそうな川な・・・川端氏は社内ニート目掛けて一直線ですねw
個人的には例えそうなったとしても彼には天動説から改心して欲しくないと思いますわ。

鶏様
えーと、私としては藤本部長の新事業の要員としてスカウトして再生しようかと考えているのですが・・・
鶏様のお気に召さないとなると・・・困りました



ケーススタディの目次にもどる