認証ビジネス2013

13.01.20
もう2年くらい前になるが、ISO認証ビジネスの規模を調べたことがあった。インターネットにある情報や行政の報告書などから、ISO第三者認証ビジネスの売上規模を推定した。その時作ったグラフを下に示す。
ご覧いただくとわかるが、2004年頃をピークに数年間はほぼ一定売上であったが2007年頃から漸減したようである。


期間は1〜12月の通年で会計年度ではない。(以下同じ)

あれからだいぶ時が経ち、今年は2013年、既にこのグラフからはみ出してしまった。今はどうなのだろうかということが気になった。もちろん認証機関や認定機関などは独自に調査しているだろうけど、そういう調査結果を見たことがない。私の好奇心を満足させるには自分が調べなければならないようだ。
ということでチャレンジした。 お断りしておくが、対象はJAB認定のみの数値である。ノンジャブの数値はどういう方法で把握したらよいか私は見当もつかない。

売上は認証件数かける審査単価となる。しかし物事は簡単ではない。
まず認証件数であるが、2012年秋にJABの公表数値がそれ以前と不連続になった。果たしてそれ以前の数値が信頼できるのか、それ以降の数値が正しいのか、私にはわからない。とりあえず手に入るのはJABのウェブサイトにある数値しかないから不連続でもしょうがない。そのまま使うことにした。
更なる問題だが、以前はJABのウェブサイトに認証機関ごとの認証件数が公開されていた。ところが現在は認証機関ごとの認証件数は検索できなくなった。つまり秘密になった。ということでほとんどがブラックボックス状態である。これは私が工夫するしかない。
なお、今は各認証機関のウェブサイトでも何組織を認証しているかは調べることができない。いやどんな会社を認証しているかも調べられない。正式社名を入力して、その認証機関が認証しているかいないかを調べることができるだけになっている。
某認証機関の方になぜ?と質問したら、他の認証機関が調べて鞍替え(横取り)するのを防ぐためだと聞いたことがある。確かにそういうことに使われる危険は大なのだろう。

次に審査単価である。これがまた難しい。
私の知り合いに声をかけて10件やそこらの審査料金を聞いたところで全体を推定するサンプルにはならない。
方法はいくつかの認証機関の認証事業の売り上げ額と認証件数から業界全体の数値を推定するしかない。ところが正直に認証件数と認証事業売上を表示している認証機関などない。認証件数が非公開なのは前述したとおりである。
それで、ネットや環境報告書などを可能な限り当たって、いくつかの認証機関の認証事業の売上金額とその認証機関のISO9001とISO14001の認証件数を推定して、それを全体の認証件数に比例計算した。
なおこの方法では初回審査と更新審査などを区別していない。認証機関によって初回が多いとか更新が多いということはないだろうから、その観点の誤差は無視する。

推定が積み重なった手順なので誤差が多いと考えられるが、個人のレベルではこのアプローチしかできなかった。正直言って方法は荒っぽいしその精度も荒っぽいことは覚悟するしかないが、これだけ行うのも、大変な力仕事であった。

さて、その結果である。
グラフを見る前に、下記注意事項をお読みいただき、良くご理解いただきたい。そしてそれを踏まえて読み取っていただきたい。
  1. 2001年から2006年までは
    認証件数、金額とも産構審の分科会が出したデータであり、信頼性はお墨付きである。
  2. 1997年から2000年及び2007年から2010年まで
    登録件数は2011年時点JABが公表しているものを使用している。
    審査費用は出所が明らかで信頼性は高い。
  3. 2011年から2012年まで
    登録件数は2013年正月時点、JABが公表しているもので、1.2.と不連続である。
    審査費用はネットにあるデータを上記の方法で私が推定したもの。
    2011年はその後のデータを考慮して前出のグラフより若干下方修正している。
  4. 2013年から2015年まで
    3.の推定を延長したもので参考レベルである。


このグラフ作成の元となった2011年から2012年の細かいデータの出所と内容はここには書けない。秘密というわけではないが事情がある。それは私が公開されているどの認証機関のどの資料からこのデータを得たかを書けば、そのデータが削除されてしまう可能性が高い。以前JQAの環境報告書にある認証事業の金額規模を使用したと書いたことがあるが、そのせいかどうかは知らないが今はJQAの環境報告書に事業収入の金額明細は記載されなくなった。
とにかくISO関係のデータは公表されなくなりつつある。QMS審査員の登録数はとうの昔に公開されなくなってしまった。CEARもいつまで公開しているか心配だ。
ここまで秘密主義になってくると、裏で何かあるのではないかと勘繰りたくなる。
単にビジネスがシュリンクしているからというのが理由だろうけど・・
言い換えるとほとんどの認証機関が財団法人または会社法で定める決算公告の義務を負わないということだ。

それはともかく、グラフを見ても次のようなことがわかる。
認証単価はQMSもEMSも2001年をピークに低下しているが、2009年頃には審査料金の下落は一段落したようで、それ以降は毎年数パーセント低下にとどまっている。もちろん低下傾向は続いているが傾きがなだらかになってきている。これはもう値引きできないところまで来たのかもしれない。
契約審査員をしている知り合いから聞くと、2012年時点、日当はリーダーで4万、それ以外のメンバーは2万くらいらしい。審査実績が積めず審査員の資格維持できない人は、無償でいいから審査させてくれと認証機関に泣きついている人もいるらしいが、その場合、実際に無償で審査をさせている認証機関もあると聞く。足元を見るというのか弱みに付け込むというのか、イヤハヤ
ともかく実際に審査前後の作業を考慮して時給を計算すると最低賃金以下かもしれない。
東京都最低賃金 ( 地域別最低賃金 ) は時間額 850円である。(平成24年10月1日から)
審査員が8時間で2万とすると時給2500円になるが、いくらなんでも予習もしないということはないだろう。私が監査をしていたときは、事前準備に数日、報告書に1日、都合現地審査の3倍はかけていた。審査において予習復習に2倍かければ時給1200円、3倍とすれば時給830円だ。マニュアルや関連資料を読むのは当然であるが、それだけでなく審査に行く企業の環境報告書、ウェブサイト、過去の審査報告書、是正報告書も読まなければならないだろうし、他の審査員との打ち合わせなどを考慮すると審査時間の2倍の時間ではできないだろう。
まさか、予習もせずに審査に向かうなんて失礼なことを審査員はしないだろうと思う。それともいらっしゃるのだろうか?
もう5年くらい前になるが、当時退職した方が契約審査員になって日給7万とか言っていたが、今は昔である。もっともそのときの話では年間30日くらいしか仕事がないと言っていた。7かける30で年収200万では職業としては成り立たないようだ。今なら2かける30で年収60万か・・
契約審査員とは契約社員ではない。審査の手が必要な時、声をかけたらはせ参じるという契約をしているアルバイトである。。
ちなみに審査費用に占める審査員の人件費の割合はというと、社員の審査員と契約審査員の割合で大きく変わる。契約審査員の場合、福利厚生など人件副費がかからない。オーバーヘッドとなる本社費用は審査員の人件費ほどは削減できないから、審査費用低下のしわ寄せが審査員の人件費低下となっているのだろう。
そんなことを考えると、私は審査員にならなくて良かったとつくづく思う。審査員になっていたら、今頃は契約審査員で青色吐息か・・
実は今あまりにも優雅な老後で退屈しているのだが・・

認証件数は毎年3ないし4%減少である。前述したようにJABが公表している登録件数は2012年で不連続になっているが、減少傾向は変わらない。
認証件数と審査単価を合わせて考えると、2014年つまり来年には、売上規模がピークであった2005年頃の3割減、総売上300億を切るのは間違いない。300億をQMS47認証機関、EMS43認証機関(2013年1月時点)で分け合うわけだ。
これは大変なことだ。通常業界の規模が3割減になれば大規模な再編が起き、企業の数は2・3割になるだろう。多くは衰退する事業から撤退する。残ったところも撤退を含めて種々検討することになるだろう。
果たして認証ビジネスはどうなのだろうか? まだ大規模な再編は起きていないようだ。しかし今より更に売上減少が続けば、こらえきれないところは撤退するか、合従連衡することになる。当然認証機関が雇用している審査員も営業も事務方も大幅に減らすことになる。それだけでなく、赤坂とか丸の内あるいは銀座に事務所を構えている認証機関は、大田区とか池袋など家賃の安いところにオフィスを移すことになるだろう。
売上が数億の会社の社長や取締役が、公の場にしゃしゃり出て講演などをするというのも、普通の業界ならありえないことだ。今後はそんなことはなくなるのだろうか?
審査費用が50万として200件認証していれば売上1憶である。小さな社内外注だって売上1億なんてところはざらにある。
JABは現時点認証機関ごとの登録件数を公開していないが、半年前までウェブサイトにあったデータでは、EMS、QMSをそれぞれ100件認証していれば中堅クラスであった。
それはもちろん認証機関だけでなく、認定機関も審査員登録機関も同様だ。
認定機関の場合、UKASやANABとの競争もあるだろう。他国の認定機関よりも評判が高くなければJABのロゴはいらないという会社が増えてもおかしくない。
審査員登録機関もIRCAその他の登録機関との競争時代に入ってもおかしくない。申請すれば審査をしてやる、登録してやるなんて時代は過ぎ去り、どうぞ弊審査員登録機関に申請してくださいなんて広告を出すようになるのかもしれない。
もっとも審査員登録機関そのものが消滅する可能性もある。
そうなれば審査は真剣になるだろうし、審査の日程なども認証機関のご都合を企業に押し付けることもなくなるだろうと期待する。ということはそれは認証を受ける企業にとっては良いことかもしれない。
認定機関は認証機関の取り締まりを一生懸命にするようになり、審査員登録機関は審査員評価をしっかりするようになるかもしれない。
いや、反対に瑕疵があってもなんでもOKするようになる可能性も大ではある。

2015年にISO9001とISO14001規格改定することが公表されているが、規格改定されても規格票や解説本は売れるだろうが、認証件数が増加するとは考えられない。
そして規格改定以降の認証件数の推移であるが、勘で言えば減少傾向は変わらないだろうと思っている。変わる要素が考えられない。
国や行政の入札条件に強制するようなことがなければ状況は変わらないだろう。 そして、そういう処置は独禁法に抵触するようだ。
いや、経産省が今までISO認証の信頼性がない、価値を上げろと言っていたのだから、実際に価値が上がったという証拠がなければ、認証を有利にするような措置はとれないのではないか?

もしJABやJACBが独自調査でより正確な認証ビジネス規模を把握しているなら、ぜひともそれを公表してほしい。認証を受けている企業はそれをみてどうするかを考えることは大事なことだろう。
認証が減ってきていて希少価値が出てきたと思うか、デファクトスタンダードから滑り落ちてもう不要だと考えるか、それは人それぞれだろう。いずれにせよ、そういう情報を公開することは認証業界としての良心ではないのだろうか。
こういう数値を秘密にするならどんな理由があるのか知りたい。

また2年くらい経ったら、また認証ビジネス売り上げを調査あるいは推定したいと思う。
乞うご期待

うそ800 本日の内部事情
「今回は文字数が少ないぞ」とか「手抜きだ」なんて言わないでください。
このグラフを作るのに、数晩ついやしたのです。それだけ時間をかければ、ケーススタディシリーズなら3件や4件は書いています。
とにかく相当数の報告書やあちこちのウェブサイトを調べました。ウェブのタイトルが「うそ800」であっても、うそとねつ造だけではこんなことを書くわけにはいきませんからね。

うそ800 本日予想される反論
ISOは9001と14001だけじゃない!、50001もあるし、22000も27001もあるぞ!
そうおっしゃるのを予想する。
じゃあ、そういったものの実態は?
 ISO22000食品安全マネジメントシステムの登録件数は 403件(2013.01.08時点)
 ISO50001エネルギーマネジメントシステムの登録件数は 10件(2013.01.10時点)
 ISO27001情報セキュリティマネジメントシステムでJAB認定はないようだ
大変ですね(棒)

うそ800 本日の蛇足
じゃあ、他のEMSの認証状況はどうなのだろうか?
 エコアクション21の登録件数は 7578件(2013.01.08時点)
 エコステージの登録件数は 727件(2012.12.20時点)
今から約3年前2010年4月、エコアクション21は4543件、エコステージは718件だった。エコステージは論外として、じゃあエコアクションはどんどん伸びてきているのか?
伸びてはいる。しかしもう頭打ちのように思える。直近1年半で880件増加(年換算580件)で傾きは低下している。
だがここからいくつか考えられる。ISOとかエコステージのような営利認証制度から非営利のエコアクション21認証制度に移っているという可能性も否定できない。あるいは認証というものが全体的に減少していて、非営利のものは金額が安いからまだ飽和していないということかもしれない。
いずれにしても、私はエコアクション21であっても、ドンドン伸びる方には賭けない。いやISO14001が減少しはじめている今現在、ISOではなくエコアクションの認証をしようという企業はないのではないか?
しょせん、簡易EMSはISOあってこそなのだ。
あと2年くらいウオッチしないとわからない。いや、あと2年もしたら結論が出るだろう。


名古屋鶏様からお便りを頂きました(2013/1/16)
そのウチに中華系の認定機関の系列を名乗る審査機関あたりが「審査なし。証書だけ格安で売ります」という商売を始めるかも知れませんね。
もっとも、今の現状が「それ」とどう違うのかというと(ry

名古屋鶏様
ありがちですねえ、輸出の条件ならそれも致し方ないというか、最善の方法かも?
しかし中華では品質が悪いと思われる可能性のほうが(ry

ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2013/1/16)
食い逃げ(※注)する審査機関よりはマシかと。。

※注
去年の暮れに2社から売り込みがあり、多忙の中、わざわざお会いして懇切丁寧にお話したものの、見事に裏切られました。詳細な資料(ノウハウ)まで渡して、無視。梨の礫です。価格や品質以前に、ビジネスに欠かせないのは信義・礼節だと思うんですがね。
以下、そのやり取りの概要。(2社ともほぼ同じ)

審「ぜひウチに審査費用の見積もりをさせてください! 絶対に、価値ある審査をいたします!」
虎「あのー、ウチが求めているのは費用より内容なんですけど。本当にウチの審査ができますか?」
審「ええ? どういうことですか?」
虎「ウチはですね・・・」(以下、地動説的思考と運用実態の説明)
審「いやあ、勉強になりました。目から鱗です。あいにく即答できかねますので、持ち帰って検討させていただきます」
虎「そんなこと言って、逃げるんじゃないの?」
審「何をおっしゃいます。ウチは絶対に逃げません!」
(その後、プッツリと連絡なし)

たいがぁ様
あなたは考えが間違っています
次回から審査を依頼するのではなく、審査を指導すると言いなさい
もちろん資料代を取るのをお忘れなく
審査を受けた場合は指導代金を取るのですヨ

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