MSSとは その5

2013.06.20
ここで「MSS」とは「マネジメントシステム規格」の意味である。
最近、マネジメントシステムについていろいろ書いている。(その1その2その3その4
今回は、ISO規格の本質は序文にしっかりと述べられている。しかしながら現実には序文をよく理解していない人が多い。「理解していない」なんて漠然としたことを言ってもわからないだろう。例えば「マネジメントシステムを構築する」とか「EMSを導入する」と語っている人は、ISO規格を理解していないのである。
世の中にはそういう言葉、言い回しをしている人、書いてある本はたくさんある。ためしに過去数か月かのアイソス誌をめくればそんな文句はジャラジャラみつかるし、本屋に行ってISO本のコーナーを眺めればそんなことが書いてあるものは簡単に見つけることができる。ISO-TC委員の中にも「EMSを導入するとこんなに良いことがあります」なんて語っている人もいる。
おっと、「マネジメントシステムを構築する」とか「EMSを導入する」と語っている人は、ISO規格を理解していないなんていうと、その証拠を出せと言われるかもしれないし、あるいは私の方が嘘つきか詐欺師と思われるかもしれない。だが私はうそつきでも詐欺師でもない。だってISO規格の序文を良く読めば自明じゃないか。
よって本日はそれを語る。
今回はQMS、EMS、その他あまたのマネジメントシステム共通である。無料なので遠慮せずに最後まで聞くように。
でははじまり、はじまり・・・・

次の表はQMS、EMS規格の各バージョンの序文から、規格とマネジメントシステムとの関わりについて述べている箇所を抜き出したものである。

ISO9001ISO14001
1987 ISO9000序文
製品又はサービスを提供する組織のシステムに不具合があれば、その仕様書は、顧客の要求を一貫して満たすことの保証になりえない。従って、仕様書に盛り込まれた適切な製品又はサービスの要求事項を完全なものにする品質システム規格及び指針の開発が必要となる。この一連の規格(ISO9000s)は、この分野における各国の多種多様な方法を合理的に具現したものである。

ISO9001序文
これらの規格は、通常このままの形で用いることを意図しているが、時には契約の特殊性に応じて修正が必要な場合もあるかもしれない。ISO9000は、ISO9001〜9003から適切な品質保証モデルを選択する場合のほか、上記の修正を行う場合の指針を規定する。
 
1994 品質システムの要求事項は、どのような要素を品質システムに含めるべきかを規定しているが、画一的な品質システムを強要することがこれらの規格の目的ではない。これらの要求事項は普遍的なもので、特定の産業分野又は経済分野に限られるものではない。品質システムの設計と実施は、組織の多様化したニーズ、組織の目標、供給される製品及びサービス、用いられるプロセスや手段によって影響を受けることになる。  
1996  これを効果的なものとするためには、体系化されたマネジメントシステムの中で実施し、かつ全経営活動と統合したものにする必要がある。
(中略)
他の管理要求事項と統合し得るような効果的な環境マネジメントシステムの諸要素を組織に提供する意図がある。
(中略)
組織は、環境マネジメントシステムの基礎として、ISO9000シリーズに合致する既存のマネジメントシステムを使用しても差し支えない
(中略)
この規格に規定する環境マネジメントシステムの要求事項は、既存のマネジメントシステム要素と独立に設定される必要はない。場合によっては、既存のマネジメントシステム要素をる当てはめることによって、要求事項を満たすことも可能である。
2000品質マネジメントシステムを採用することは、組織による戦略上の決定とすべきである。
(中略)
この規格は、顧客要求事項を満たすことによって顧客満足を向上させるために、品質マネジメントシステムを構築し、実施し、その品質マネジメントシステムの有効性を改善する際にプロセスアプローチを採用することを奨励している。
 
2004  環境マネジメントに関する国際規格(筆者注:ISO14001のこと)には、他の経営上の要求事項と統合でき、組織の環境上及び経済上の目標達成を助けることができる効果的な環境マネジメントシステムの諸要素を組織に提供する意図がある。
(中略)
組織がこの規格の要求事項に適合した環境マネジメントシステムを構築するに当たって、既存のマネジメントシステムの要素を適応させることも可能である。
2008 品質マネジメントシステムの採用は、組織の戦略上の決定によることが望ましい。
(中略)
この規格は、顧客要求事項を満たすことによって顧客満足を向上させるために、品質マネジメントシステムを構築し、実施し、その品質マネジメントシステムの有効性を改善する際にプロセスアプローチを採用することを奨励している。
 

これら二つの規格の各バージョンの序文を読むと、ISO9001規格やISO14001規格が、組織(企業)に対して、「マネジメントシステムを構築しろ」とか「マネジメントシステムを導入しろ」と言っているわけでないことが分ると思う。
おっと、誤解なきよう。「構築しろ」と高圧的に言っているというのではなく、「構築してほしい」とか「構築した方がよい」と言っているのではないということだよ、明智君

1987年にISO9000sが作られたときから一貫して序文で語っていることは、
どの組織にも過去よりマネジメントシステムがある。でもそれは不完全かもしれない。
この規格は、顧客要求事項を満たし顧客満足を確保するためや、遵法や汚染の予防を確実にするために、そのマネジメントシステムが具備すべき要件を示したものですよ。
ということなのである。

但し日本語訳が不適切と思われるところはいくつかある。そのためにマネジメントシステムを構築しなければならないとか、導入しなければならないと読み違えてしまう恐れがあることは事実である。

  • ISO14001:2004
    組織がこの規格の要求事項に適合した環境マネジメントシステムを構築するに当たって、 既存のマネジメントシステムの要素を適応させることも可能である。
    1996年版と2004年版では英語原文の言い回しが異なるが、2004年版の「適応させる」も1996年版の「当てはめる」も、原文はいずれも「adapt」で同じである。「ISO14001:2004要求事項の解説」(2005、吉田敬史・寺田 博)を見ると、この箇所が同じ語であるのに、翻訳の際に日本語の単語を変えたことについては言及がない。
    しかし「適応させる」と「当てはめる」では、日本語の意味が大きく異なる。なにものかを「そのまま使う」とか「そのまま組みこむ」という意味合いであるなら、「適用する」とか「当てはめる」というのが普通だ。
    例1:これを作るにはこの加工法が適用できる。
    例2:この数学の問題はこの公式を当てはめれば解ける。
    しかしここでは「適用させる」ではなく「適応させる」であるから、元からあるものがそのままでは使えず、状況に合わせて変更を加えなければならないことを意味する。だから2004年版の日本語は「適応」であるから、既存のマネジメントシステムそのままではなく、なんらかの修正をしなければならないという意味になる。しかし原語は同じなので、ここは1996年版のように「当てはめる」とするのが適切であろう。

    しかしである・・・「可能である」というのもおよそ日本語らしくない。翻訳したのは日本人ではないのか? (冗談ですよ)
    だって私たちが日常、可能なんて言葉を使うものだろうか?

  • ISO9001:2000(2008年版も同様である)
    品質マネジメントシステムを採用することは、組織による戦略上の決定とすべきである。
    この文章を読むと品質マネジメントシステムというものは、はじめからは存在しておらず、これから採用するかしないかを決めなければならないように受け取れる。
    そうだろうか?
    「採用」の原語adoptionを英英辞典で調べてみると、養子縁組、アイデア、計画、名称などを決めること、選挙の候補者を決めることなどがある。しかしなにものかを取り入れるか否かという採用という意味ではなく、いくつかの候補から選択するという意味に思える。
    とすると
    The adoption of a quality management system should be a strategic decision of an organization.
    という意味は
    「品質マネジメントシステムを採用することは、組織による戦略上の決定とすべきである」というニュアンスよりも
    「品質マネジメントシステムをどのようなものにするかは、組織による戦略上の決定とすべきである」ではないのだろうか?
    英語に詳しい方、ぜひとも教えてください。


  • ISO9001:2000(2008年版も同様である)
    この規格は、顧客要求事項を満たすことによって顧客満足を向上させるために、品質マネジメントシステムを構築し、実施し、その品質マネジメントシステムの有効性を改善する際にプロセスアプローチを採用することを奨励している。
    この文章は形容詞句のかかり具合をしっかり読めば言っていることに間違いはないのだが、うっかりすると「品質マネジメントシステムを構築しなければならない」と取る方がいるかもしれない。いやその恐れは多分にある。これは文章の構成が悪いのだ。次のように直せば読み違いはなくなるだろう。
    顧客要求事項を満たすことにより顧客満足を向上させるために、品質マネジメントシステムを構築し、実施し、その品質マネジメントシステムの有効性を改善する際には、この規格はプロセスアプローチを採用することを奨励している。
    「この規格」を「構築」と離すことにより、改めてマネジメントシステムを構築することではないと読めるのではないだろうか。
    以上みてきたが、翻訳文には若干不適切というか疑問な点はあるが、いずれのバージョンの序文においても と述べているのであって、それはISO規格は組織のマネジメントシステムを、リファインするための指針を示したりあるいはアドバイスをするということなのだ。
    認証の場合、当然それは推奨(should)ではなく、必須(shall)になる。
    斜めに読んでも裏から読んでも、「マネジメントシステムを構築する必要がある」とも「EMSを導入することが必要」とも書いてない。

    要するにこの序文を虚心坦懐に読めば、次のようになることは明らかだ。

    ISO序文に書いてあること序文と矛盾する

    マネジメントシステムは元々存在する
    この規格はマネジメントシステムに含めるべき要素を示す


    マネジメントシステムを構築する
    マネジメントシステムを導入する


    だから「マネジメントシステムを構築する」とか「EMSを導入する」という発想が起きるはずがないと思う。だってISO認証するなんて、その組織に元から存在しているマネジメントシステムがISO規格要求に対応しているかをチェックして、足りないところをチョチョット追加することなのだから。
    もし「いや当社にはもとからマネジメントシステムなんてありません」と謙遜する人がいても、よく見ればそれはその会社のマネジメントシステムが文書化されていないということではないのでしょうか。100歩譲ってまったく手順を決めておらず、すべて社長が都度決裁している会社があるとすれば、その会社には「すべての手順は社長がその場で決める」という手順が確立しているわけだ。ともかくマネジメントシステムなるものがない組織はない。
    だから序文を読んでいる人なら「マネジメントシステムを構築する」とか「マネジメントシステムを導入する」と語るはずがない。
    それにも拘わらず「マネジメントシステムを構築する」とか「EMSを導入する」と語るコンサルや審査員が多いのは、ISO認証の本当の意味を知らせては、商売が上がったりになると考えているからではないのだろうか?
    とすると、ISO認証の意味や規格の解釈がおかしくなったのは、己の仕事を失わないように、収入を確保しようとしたコンサルや審査員の功績(?)によるものなのか?
    いや、もっと可能性が高いのは、企業においてISO事務局なる仕事をしている担当者が、楽でヒマな仕事を失いたくないからかもしれない。
    もっとも私は現役時代20年もISO9001や14001に関わってきたが、ISO事務局なるものをしたことがないので、これは想像である。
    だって、ISOのためとか、年に一度の審査のためにわざわざ担当者を置く必要はない。審査の会議室を予約したり、役員のスケジュールを確保したり、昼飯を頼むことくらいは、本来業務のかたてまにできるだろう。
    世の中は広いから、ISOの仕事は重要でなくすことができないなんて考えている人がいるかもしれないが、私はその考えは理解できない。私はISOに限らず、過去半世紀、自分の仕事を手抜きしよう、簡単にしよう、できるならなくしてしまおうとしてきたものだ。
    ロバート・A・ハインラインの「愛に時間を」という物語の中に、自分だけでなく他人のしている仕事まで、無駄なことをなくして、みんなが楽にしかも効率的に暮らせるようにする男のお話が載っている。それこそ企業人として最高ではないか。
    ISO事務局と名乗っている人は、一刻も早く自分の職務をなくすように努力してほしい。会社には物を買う、物を創る、物を作る、物を売る仕事以外は無用なのですよ。
    それともあなたはまっとうな仕事をしない寄生虫ですか?

    うそ800 本日のまとめ
    マネジメントシステムとは、会社(組織)がある限り組織の属性として存在します。改めてマネジメントシステムを作ろうと考える人は、組織というものを理解していません。
    そして大事なことですがISO規格を利用して、マネジメントシステムを導入したり構築したりすることはできません。なぜならISO規格とはマネジメントシステムが具備すべき条件が書いてある仕様書で、それをどのようにして作るのかは書いてないのですから。


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