ISOに関する論文

14.04.28
*2015.07.01にて、グラフの中の2014年の論文数を見直し追記した。
 1年経過したが、大勢に影響はないようだ。


ちょっと訳があって、このところISOマネジメントシステム規格についての論文を読み漁っていた。訳あってといっても深刻なことではなく、ある方から論文を読んでくれと頼まれて、それを論評するには関係する論文を調べる必要があったというだけである。
おっと、査読じゃない。既に学位取得している論文です。
そもそも私が査読を頼まれるはずがない
それで気がついたことがある。ISO9000についてもISO14000についても、日本で認証が始まってから2000年代はじめまでの期間は、おびただしい数の論文が書かれている。しかし2008年頃からはほとんどない。めぼしい論文がないのではなく、論文そのものがわずかしか書かれていないのである。
インターネットの検索エンジンや論文検索では全体的な動向が分らないので、CINII(国立情報学研究所)のデータベースではどうだろうと調べてみた。

ご注意
CINIIは膨大な論文が収録されているが、論文だけでなくアイソス誌とか日経エコロジー誌の掲載記事も含まれており、規格解説とか調査報告書のようなものも多い。他方、博士、修士の学位論文であっても、学術誌などに掲載されていないものは収録されていない。
だが、まあCINIIのデータを一つの指標としてみることはできるだろう。それにこれ以外、大量のデータを簡単に一瞥する方法が私にはない。

さて、1990年から2013年までの論文数をグラフにすると下図のようになった。

CINII収録の論文数
注1:
年度ではなく1月から12月までの通年
注2:
CINIIの検索で、論文の中にISO9000またはISO9001の語があるものをISO9001についての論文にカウントした。ISO14001についても同じ。
ISO9000 or ISO9001の語とISO14000 or ISO14001の語があるものは両方にカウントされている。

グラフを見ると、私の予想に反して2008年から減ったのではなく、一山しかないというか、正規分布もどきというべきか・・

このグラフを見て、どんなことがわかるかといえば・・・
ISO14001は日本ではISO9001に5年くらい遅れて認証が始まったが、論文についてはISO14001の方が立ち上がりは早く、論文数のピークはほとんど同時で2001年頃である。そして双方ともピークを過ぎると、あっというまに坂を転げ落ちていく。そして前述したように2008年頃には微々たる数になっている。

これだけではなんとも言いようがない。参考になるものはないだろうか? 論文に近い指標と言えば書籍だろう。ではISO関係の書籍発行数はどうだろうか?
このグラフにISO9001及びISO14001に関する書籍発行数を加えてみた。

CINII収録の論文数

書籍発行数のパターンは論文よりブロードではあるが、論文同様に一山あるいは正規分布もどきに見える。ただそのピークは2005年頃で、論文数より全体的に4年くらい後ろにずれている。真の原因(理由)は分らないが、論文と違い書籍の山は規格改定と密接な関係があり、形は論文に似ていてもそのグラフの因果関係は論文とは異なるように思える。
注:
書籍の山を見ると、1997年と2005年はISO14001の制定と改定、2001年と2009年はISO9001の改定の翌年で一致している。規格改定があっても、即座にその解説とか対応を本にすることはできないと思う。最短でも数か月は必要だろう。

次に論文数に認証件数を合わせたグラフにしてみよう。但し認証件数といってもJAB登録に限定する。それはJAB以外の認証件数について、私は信頼できる数字を持っていないという理由からだ。
登録件数のグラフを合わせると下図のようになる。

CINII収録の論文数

このグラフを見ると、登録件数の減少は論文が減少してから何年もたってから始まったように見える。しかし登録件数の増加を微分したものがマイナスになる、つまり変曲点はISO9001もISO14001も論文のピークより1年しか遅くない2002年である。つまりISO9001の登録件数減少は2007年、ISO14001は2009年から減少しているが、実は2002年の時に、ゆくゆく登録数が減るということは見えていたのだ。
とすると論文の減少とISO認証件数の減少が同時期というのは同じ原因なのであろうか?
しかしこれらのグラフだけからは、この二つに関連があるのかどうか、更に関連があったとしてもその原因はわからない。
論文の数がどうして2001年頃にピークになり、2002年頃から急な減少をしたのだろう。2002年頃になにがあったのか?
2002年頃これに関するできごとはなにあったのだろうか?

実はみなさん既にご存じのとおり、21世紀初頭、ISO認証に関していくつもの出来事があった。
  1. 「管理システム規格適合性評価専門委員会報告書」2003年
    「負のスパイラル」というキャッチフレーズを流行らせた工業標準調査会がまとめた報告書である。その結論は審査する側、審査を受ける側、コンサルタントなど関係者の思惑によって、認証制度が時間と共に劣化して信頼性が低下していくとしている。
    もっとも私には、その結論は報道された不祥事を後付けで説明する屁理屈としか思えない。あるいは世の中の動きにおもねてそういう結論にしたのではないかと疑う。その証拠に、後々まで残った立派な負のスパイラルの関係図を作成してはいるが、その基となった証拠やデータ類は一切なく、その因果関係を推定した根拠は感覚的というか、早い話が思い込みとしか言いようがない。
    ともかくこの報告書がでたおかげで、ISO認証は信用できないものであるというイメージが日本国内、特にISO関係者に広まったことは間違いない。私自身も当時はこの報告書が正しいと信じていた。今はどうかと言えば、この報告書は思い込みと感情で書いたまったくの屑だと考えている。

  2. REMAS報告
    欧州のISO14001やEMAS認証企業を対象に、認証企業が遵法や環境パフォーマンスの改善状況を2002年から2006年にかけて調べたもので、最終報告が2007年に出ている。
    中間報告では「遵法に効果が見られない」とあったと記憶している。この中間報告は日本では報道されなかったようで、ISO関係者にもあまり知られなかったようだ。ただ一部のイギリス系の認証機関は、この報告書を自社の認証の信頼性の宣伝に使っていた。私はそれでこの中間報告の存在と内容を知った。この中間報告を知った人は、ISO認証に対して信頼を感じなくなったと思う。というのは我々環境担当者の実感にピッタリだったからだ。
    ところが最終報告では「ISO14001認証は遵法と事故防止に効果がある」となっている。しかしそれは、私たちの環境担当者の実感と大違いで、きれいごと、ウソ、絵空事に思えた。これもまた日本国内ではあまり報道されなかったように思う。時期的に日本国内ではISO認証の効果がないという声が叫ばれているときで、報道しないほうが良いと考えたのかもしれない。なにしろ日本には報道しない自由という報道機関ならぬ報道しない機関が多いから。
    しかし前記の日本の報告書とこの欧州の報告書の結論は正反対であるが、どちらもその証拠やデータが添えられていないのは同じとは、これいかに?

  3. 企業不祥事の多発
    2000年頃からISO9001認証企業において品質問題が報道されるようになり、ISO14001認証企業においては環境事故、違反の報道が目立つようになった。
    それも2001年以前は、過去の地下水汚染などいわゆる不祥事ではあるが犯罪などではないものが多かった。しかし2004年以降は、水質や大気の測定データの改ざん、基準を満たさない排水やばい煙の排出など悪質なものが報道されている。
    だがこの境目は前述の2002年とは一致しない。

経産省、消費者団体、そしてJABそのものがISO認証の信頼性を問題視したのは、2007年以降である。だからISO認証の信頼性が実際はどうなのかはともかく、ISO認証の信頼性がないという声は2002年当時はまだ大きくなってはいない。
ひとつの推測であるが、論文を書こうとする人たちが2002年頃に認証受けた企業を調査した結果、報道されない不祥事を見つけたりパフォーマンスが向上していないことに気づき、ISO認証について称えるような論文を書くのは危ないと悟って、さっと身を引いたということでしょうか。
とするとかなり感覚が鋭いといいたいところですが、企業の環境担当者は元々ISO認証が企業の遵法やパフォーマンスを良くするなどとは初めから期待していませんでしたので、論文を書く人たちが現場の意見を聞いて実情を認識したということかもしれない。
いずれにしても2002年頃まで、大量の論文や報告書がISO認証は価値がある、効果があると言っていたが、その中で効果を数値データで示したものはほとんどない。中には定量化と称してPPC削減効果を書いたドクター論文(!)もあった。ISO関係者がそんなものを読んで誇りに思うでしょうか? 企業に勤める者ならそんな指標で納得するはずがないでしょう。ISO認証の効果として、そういうバカバカしいことしかなかったのかもしれない。
ともかくそれまでいい加減な考えでISOをほめたたえる論文を書いていた人たちは、認証の現場をみて、また認証の効果を知って、ISOから一目散に逃げ出したということはありえる。

だがちょっと待ってほしい(朝日新聞的表現である)
ISO認証制度の信頼性に問題があったとして、あるいは認証してもパフォーマンスが向上しないとして、それが論文作成にどのような影響を与えるだろうか?
そういった情報が論文の減少という影響を与えることもあり得るが、反対に増加という影響を与える可能性だってあるだろう。つまりISO認証制度の問題、審査の信頼性、パフォーマンス向上効果がないという事実、はたまた認証を受けた企業の遵法の問題など、マスマス論文のネタになりそうに思う。大学や研究機関には論文を書かないと(精神的にも経済的にも)生きていけない人が大勢いるわけだから、ISO認証を褒めるだけでなく、そういう認証の現実と問題についての論文が大量生産される可能性も大であるようにも思う。
あなたはそう思いませんか?
しかし実際には、なぜかそういうISO認証の問題を取り上げて、その原因や対策あるいは認証の経済性などを論じた論文は皆無であるということは、やはり大きな疑問だ。
少なくてもそういう論文がないことを合理的に説明する理屈が思い当たらない。
一つ考えられるのは、今までISO認証を持ち上げた論文を書いた人は、いまさら現実は問題だらけだという論文を恥ずかしくて書けないということだったのかもしれない。でもこれだって大学や大学院は毎年新しい人が入ってくるわけで、そういった人たちは過去のしがらみはなく現実の問題を調べて論文を書くことはできたはずだ。まさか指導教員がISOマンセーの論文を書いたから教え子がISOダメダメ論文を書いてはいけないということもないだろう。
それとも単にISOの流行が過ぎて、新しいテーマに飛びついていったのかもしれない。なにしろ大学の先生というのは、新しいもの好きで人よりも新しいネタを見つけてはその専門家になろうという泥棒根性 パイオニア精神を持っている方が多い。当然教え子にもそういう開拓精神を教え込むと思う。とすると2003年頃からどんなテーマの論文が増えたかということを知らねばならない。
とはいえ、ISOの論文を書いていた人が、次に書く論文が医学とか天文学についてということはまあないだろう。となると今までISOの論文を書いていた先生が書く論文のテーマは、CSRとかSRIあるいは経営倫理といったものになるのだろうか?
ではCINIIでそういったテーマの論文の数の推移を見てみよう。

論文のテーマの推移

ISO9001とISO14001の流行が過ぎてCSRとかSRIの論文が書かれるようになったのはのは確かなようだ。だがその論文数はISOの山に比べればはるかに低い。特にSRIは低く、そして双方ともあっというまに低くなってしまった。経営倫理は手堅いことは手堅いが、低いことは低い。
そして事業継続マネジメントシステムとかエネルギーマネジメントシステムとなると、もうゴミ、いや失礼、誤差のレベルのようだ。
認証機関の皆様、審査員の皆様、こういったもので食べていこうというお考えはしないことですね。もちろん論文の数と認証の数の相関はどうかわかりませんが、いかにこういったものに関心がないかということをご認識しておいた方が良い。
というか、ISO9001とISO14001が売れすぎたということが正しいのだろう。柳の下に・・(以下略)

ところで重大なことを忘れていた。2011年に日本を揺るがす大事件が起きた。東日本大震災である。となるとリスクマネジメントはどうなのだろう?
おっと、地球温暖化は日本だけでない世界中の大問題(?)、それに生物多様性なんて話題もあったね。このグラフにこれらをキーワードとした論文の推移を付け加えると・・・

論文のテーマの推移
注1:
グラフを見やすくするために、前図のISO9000とISO14000以外は省略した。
注2:
上図と縦軸の目盛りが異なることに注意。

リスクマネジメントの論文が長期にわたってすごく多い。しかし2000年頃から立ち上がっているのを見ると、これは東日本大震災とは無関係のようだ。ということはISOの論文を書いていた人たちがリスクマネジメントに宗旨替えしたとも思えない。
次は地球温暖化である。地球温暖化とは全人類どころか全生物に関わる大問題らしいのだが、2008年をピークにあっという間に減ってしまった。これはどうしてなのだろう(棒)
2008年だから東日本大震災とは無関係である。
生物多様性は2010年がピークである。そいやあ、名古屋で生物多様性COP10なんてのが開催されたのが2010年11月、これもいっときの流行であったか。

とりあえず今までのグラフから推察すると、ISOについての論文が増えてそして減ったのは認証の盛衰とは関係なく、単にいっときの流行だったように思えてきた。どんなテーマもせいぜい10年たてば商品としてのライフサイクルを一巡してしまうのではないだろうか。それは論文だけでなく、ISO認証そのものもせいぜいが10年持てば御の字なのかもしれない。
リスクマネジメントはライフサイクルの終末を迎えて下火になるときに東日本大震災が起きて、アフターバーナーが働いたのではないか。しかしあれほどの大災害であっても、わずか1年2年程度しかアフターバーナーの効果がなかったということも知っておくべきだろう。
そして本題であるISOについて言えば、ISO9001がはやり出したのは1995年頃だから2005年には商品寿命は尽き、ISO14001は1998年頃からだから2008年には・・
認証のライフスタイルについては既に書いていた。(その1その2
ちょっと待てよ
ひょっとして、このうそ800もライフサイクルの終末を迎えたということなのだろうか!?
そう言えば開設以来、既に13年、その制度の欠点、規格の問題、稚拙な審査、運用の不備などなど、糾弾すべきことも言いつくしたのかもしれない。
いやいや、それどころではない。我が人生も終末期だ・・・
侍
浪人は二本差しではありません


うそ800 本日のひとこと
本日はいつもより文字数が少ないですが、ネットを探ったり細かいデータを数えたりしましたので、ちょっとというかおおいに時間がかかりました。
とはいえ、何をするでもない浪人の身、どちらにしても暇つぶしであります。

うそ800 本日の誘い水
なお、みなさんもこのデータを基に大いに妄想を広げていただいて、新しいアイデアをご教示いただけたら幸いです。

うそ800 本日の提案
世の中はもうISO9001やISO14001どころか、マネジメントシステム離れをしていて、こんなことに関心がある人はもういないようだ。ということは認証機関は新分野への進出、ISO雑誌もこれからはやるものに鞍替えすべきではないだろうか?
それを考えなければ座して死を待つのみ



名古屋鶏様からお便りを頂きました(2014/4/28)
鶏はISOや環境問題について年間300以上の記事を書いていますがカウントはして貰えないようですね。
まぁ、ほとんどがギャグだろうと言われればその通りですが(笑

鶏様
CINIIで著者検索しましたら・・・
鶏様は名古屋鶏名で1件ありました。本名ではないようですね
私の場合、本名で1件、おばQで1件です。

名古屋鶏様からお便りを頂きました(2014/4/28)
おお!ありました、ありました。
ちなみに某川■三四郎氏のお名前ではヒットしませんでした。雑誌の違いなのか、はたまた論として見られていないのか・・・閾値がナゾです。

半■事務局さんのお名前もないようです。
残念ながら寅さんのお名前も見つかりませんでした。


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