審査員物語44 新事業

15.08.31

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基にしております。

審査員物語とは

だいぶ前から審査員はノートパソコンを与えられ、日常の業務連絡などはメールでくるし、予定は事務方が一方的にサイボウズに記入する。審査員は自宅でも出先でもそれを確認して、次の行先を知り、メールで送られてくる資料で予習をする。それが業務の形態として定着したという理由で、今度から月二回の連絡会議を月一回に減らして、そのぶんも審査をするようになった。少しでも効率向上というか稼働率を上げたいということだ。聞くと肥田取締役のアイデアらしい。三木も特段異議はない。ただフェイスツウフェイスの会議もコミュニケーションには必要だと思う。同僚の顔を見るのが月2回から月1回になっても大差はないのだろうか? もっともそんなことを言ったら自宅勤務なんて成り立たないのかもしれない。まあ時代なのだろう。

審査前の隙間時間にメールをチェックしていると、来週の金曜日の午後に新事業の検討会を行うので参加されたしというメールが来ている。発信者は潮田取締役営業部長だ。
 なんだろう
なんだろう
ハテ、何だろうと思いつつ、当日のサイボウズを見ると、午前中だけ都内で審査があり、午後には既にその会議が入れ込んであった。昨日見たときは午後は直帰でよいとあったはずだが。まあ勤務日だから仕方ないかと三木はため息をつく。
会議主催者は三木が審査を終えてまっすぐ会社に戻れば会議開始の2時までには戻れると予定を入れたのだろう。都内といっても立川からだいぶ離れているのだが、間に合うだろうか。しかしいったい何事だろうか? 新事業なんて聞いたこともない。
メールを下の方まで読むと、出席時には各自アイデアをまとめて持参せよとある。新事業なるものの説明も聞かずに、簡単に新事業のアイデアがでてくるはずがないと三木は思う。
とりあえず出席しますという返事をしたものの、三木はそれっきり忘れてしまった。


翌週の金曜日朝、予定を再確認していて新事業検討会があることを思い出した。そういえばアイデアをまとめてこいということだったと三木は思い出す。いつも現在の問題とか改善策をいろいろと考えてはいるが、新事業というものを考えたことはない。とはいえ手ぶらで行くのもかっこ悪いと思い今考えていることを一つとりあげて若干の説明を加えた。プリントアウトするのは会社でしよう。

お昼ちょうどで審査を終え、審査メンバー3名一緒に立川駅までタクシーで来て、そこで別れた。午後の予定がない人はそのまま帰宅だ。余計な仕事が入らなければ自分も立川から辻堂の自宅まで1時間で帰れたところなのにと一瞬思う。ともかく三木は駅前で昼飯を食べてから中央線に乗った。
会社に着くと会議まで時間がない。とりあえずパソコンを立ち上げ新事業検討会のための資料、資料といってもA4の1ページであるが、それを5部コピーした。何人いるか分らないが手ぶらでなければ言い訳にはなるだろう。
メールに書いてあった部屋に入ったのが開始時間ジャストであった。
部屋には肥田取締役、潮田取締役営業部長、それに小浜審査員、木村審査員がいた。二人とも三木と同期入社だから審査員になって8年になる。ベテランということで呼ばれたのだろうかと三木は思う。
空いている席に三木が座ると潮田部長が口を開いた。

潮田取締役
「お集まりいただきありがとうございます。ご存じのように当社の事業規模は過去4年間縮小傾向にあります。なんとかこれを打破しビジネス拡大を図らねばと考えています。肥田取締役と私で新事業の案を取りまとめようとしておりますが、なかなかの難題です。
そこでベテラン審査員のご意見を伺いたいと本日みなさんにお集まりいただきました。まず肥田さんから当社の状況の説明をしますので、その後、各位から自由討議とご持参頂いたアイデアの発表を頂きたいと思います。」

三木は小浜と木村の顔を盗み見た。ふたりともけっこう真剣な顔をしている。三木は新事業など簡単にいかないと思っているが、この二人はどう考えているのだろう。
肥田取締役が15分ほどかけて、売上の推移、認証件数の推移、費用構造などの一般状況を説明した。
潮田取締役 肥田取締役 三木 小浜審査員 木村審査員
潮田取締役 肥田取締役 三木 小浜審査員 木村審査員
潮田取締役
「肥田取締役のお話にありましたように、ISO認証ビジネス全体が収縮している。これからますます小さくなるパイの奪い合いをしても先が見えている。現行の事業を継続しているだけではどうしようもないことがお分かりと思います。当社の存続そしてさらには拡大発展していくには新しい事業を始めなければならないということがご理解いただけたと思います」
肥田取締役
「もちろんQMSとEMSだけでなく、今話題になっているエネルギー管理マネジメントや労働安全だけでなく新しい規格についても認証範囲を広げていくのは当然です。
しかしここで新事業として考えているものは我々が保有しているコンピタンスを活用した認証事業以外のものを想定しています」
小浜さん
「私も先行きに不安を感じておりました。おっしゃることはよく分ります。ただ新事業という言葉をよく理解していなかったので、私のアイデアは新事業と言えるようなものではありません」
潮田取締役
「おお、それじゃ小浜さん、小浜さんが一番バッターとしてアイデアの発表をしていただけませんか」
小浜さん
「いやあ、ちょっと恥ずかしいのですが」
小浜は恥ずかしいと言いながらA4の1枚ものを全員に配る。
三木は小浜が配ったシート取り上げてながめる。監査員検定という語句が目に付いた。中身を読もうとする前に小浜が説明を始めたので顔をあげた。

小浜さん
「実を言いまして大阪のコンサルタント会社が、去年、内部監査員検定というものを立ち上げました。その真似というわけではないのですが、当社も独自の内部監査員検定制度を作ったらどうかと考えました」
肥田取締役
「ほう、それは面白そうだ」
肥田の反応をみて小浜はうれしそうな顔をして話を続けた。
小浜さん
「まず私たちのしている審査でも内部監査のレベルが低いところが多いこと、審査をしていると内部監査が役に立っていないという声が多いことなど、内部監査のレベル向上が多くの人に求められていると考えます。どこも監査員の力量向上は難しいようです。
とはいえ内部監査員検定の基本は簡単です。内部監査のあるべき姿を基にテキストを作り、それを販売する、また講習会あるいは通信教育をする、そして定期的に検定試験を行い合格者に合格証を交付するというスキームになります」
潮田取締役
「それはおもしろそうだが事業として見た場合はどうなりますか?」
小浜さん
「まず規模ですが、QMSとEMSで現時点の認証件数はそれぞれ37,000件と20,000件です。(2010年時点)認証している企業で3人くらい対象者がいるとすると17万人、その5%程度が1回に受験するとしても8,000人、受験料を1万くらいに設定するなら事業として成立するのではないかと思いました」
潮田取締役
「なるほど、更にテキストと講習会などの売上もあるのだな。検定試験の売上が年8千万、なんだかんだで1億5千万か、ウーン悪くはないアイデアだ」
肥田取締役
「その大阪の会社がはじめた内部監査員検定はどんな塩梅なんだろう」
小浜さん
「昨年つまり2009年の第1回は1,013人、第2回は2,359人、しかし今年の第3回は752人と急減しています。ちょっとそのへんの状況は分りませんが」
肥田取締役
「うーん、すると小浜さんがおっしゃった8,000人の8分の1か10分の1と言う割合になる。
第4回はどうなるのかな? 元々あまり需要がないのだろうか」
潮田取締役
「ちょっと待てよ、ええとウチと同業の日科技連でも監査員検定をするなんてことを言っていたな。いやJRCAが内部監査員の登録をするという話もある。似たような検定とか資格が競合すれば、大手とか有名な方が生き残るのが普通だな。一コンサルが出す免状よりも認証機関の方が信用があるだろうし、認証機関よりJRCAの方が権威がある」
小浜さん
「もちろん検定の中身で勝負するしかありません。ナガスネの内部監査員検定に合格した人は実力があるという評判を確立しなければならないですね」
潮田取締役
「そのとおりだな。みなさん何かご意見はありませんか」
三木は黙っていられず発言を求めた。
三木
「検定試験ですが、全国で試験をするとなれば体制作りが大変なことになると思います。例えばTOEIC試験などは全国200箇所もで同日に行います。ああいった大規模なイベントを運営するのは費用も手間も大変かと思います。具体的には試験問題の配布も回収も採点もとんでもないことでしょう。とはいえ東京と大阪だけで試験をするということでは受験者が減ってしまうでしょうし。最低、公害防止管理者試験並みに全国で10数箇所はしなければならないでしょうね。
運営の仕組みも要検討で、そのための費用も大変なことになるかと思います。試験場ひとつをとっても場所の確保、試験官の確保、その教育など手間は大変でしょうね。もちろん一旦形が整えば以降は順調に行くでしょうが」
小浜さん
「それはありますね、審査員検定ではリアルに集まるのではなくネットで回答するようなことが書いてありました」
潮田取締役
「なるほどなあ〜、そういう運用が大変な手間になるだろう。とはいえネットでとなると信頼性がなあ〜」
肥田取締役
「いやいや、小浜さんのご提案はすばらしいと思います。では次に・・・」
潮田取締役
「次は私の提案を説明させてもらって良いかな、」
肥田取締役
「どうぞ、どうぞ」
潮田取締役
「現在、欧州では厳しい化学物質規制が検討されている。日本企業も輸出するためにはこれをクリアしないとならない。私も肥田さんと同じく今年こちらに出向してきたのですが、元は環境部門で化学物質規制対応を担当しておりました。果たしてどこまでしなければならないのか、これで大丈夫なのかという悩みというか心配は尽きませんでした。
それで考えたのですが、そういったRoHS指令やREACH規制に対応しているかどうかということを外部の者が審査してくれるというのは非常に有効だと思います。ということで化学物質管理の認証制度を始めたらどうかというのが私の案です」
肥田取締役
「おお、それはすごいアイデアですね。私のところも同じことで悩んでいました。第三者が化学物質管理の仕組みや運用を審査してお墨付きを与えてくれるなら安心ですね。そういうものなら需要はあるでしょうね」
木村
「ちょっと発言してよろしいですか。潮田取締役のご提案はすばらしいと思います。しかしちょっとあれですが・・・」
潮田取締役
「あれとは」
木村
「ISO14001審査では、審査登録証に規格適合とは法律に違反していないことではないと明記しています。また抜取だからすべてを見たわけでもないとも断り書きがあります。それはISO9001でも同じです。
そういった化学物質管理の場合は、法規制、もちろん欧州のですが、適合であると認証した場合、どこまで責任を負うのかということをはっきりさせておかないといけないでしょう。責任を負う相手は認証を受けた企業に対してです。というのは化学物質管理の認証を欧州の国や機関が信用するとは思えませんし、いや信用されたにしても一旦規制物質の混入などの問題があれば意味がありません。認証を受けた企業からすれば、認証を受けたからには大丈夫とお墨付きを受けたと認識するでしょう。そして認証を受けていて問題が起きたとき、ISOのように認証機関に対してすみませんとは言わないでしょう。仕組みに問題があったなら、それを検出できなかった認証機関と審査員に問題があると言い出しませんか。
とするとこの認証制度の場合、万が一問題が起きたら認証した機関が何らかの責任をとらなければならないことになります。そのあたりは十分検討しておかないとなりませんね」
小浜さん
「ええと、木村さんの切り口とは違うのですが、少し前の日経エコロジー誌に書いてありましたが、エコステージという簡易EMSがありますね。あそこでも化学物質管理の認証制度を立ち上げるそうです」
肥田取締役
「潮田取締役、エコステージでもそんなことを始めたとご存知でしたか?」
潮田取締役
「ええ、そんな話がありましたか。それは知りませんでした。しかしいずれにしても木村さんの定期された問題をクリアしないとならないなあ〜」
木村
「先ほどの続きですが、認証するとなると対象は運用ではなくシステムに限定しなければなりませんね。エコステージの方はどんな審査基準なのだろうか」
三木
「私からもひとこと、認証するとなると審査基準を設けなければなりませんが、それは当社独自のものを作ることになります。作成した基準は当然著作権が生じるでしょうけど、他社がそれをみてよりリファインしたもので認証を始めることはありえます。審査基準を外に出さないということは不可能です。いかに他社が追随できないものにするか、あるいは著作権を保護する仕組みがあるのか考えないといけませんね」
肥田取締役
「そういえばISO規格は国際標準・国家標準だからまだいいが、エコアクションとかエコステージは民間規格だから内容は他に知られて欲しくはないわけだ。実際はどうなんだろう?」
小浜さん
「エコアクションは元々環境省がはじめたものですからネットから無償でダウンロードできますが、エコステージは規格そのものが有償だったのではなかったでしょうか」
木村
「審査員研修の間違い探しのマニュアルは『持ち出し禁止』という表示がありましたね」
小浜さん
「それをいうなら審査員検定だって、そのテキストや試験問題は貴重な経営資源です。ああ、当社が今審査員研修で使っているテキストやマニュアルのひな型も同じでしたね」
潮田取締役
「なるほど認証規格を独自に作るということはいろいろと大変なのだな。
むしろ認証機関が連携して統一規格を作り、それで各認証機関がそろって認証するという手もありそうだ」
肥田取締役
「そのとき認証機関の作成した民間規格というのでは通りが悪い。いっそのことJIS、いやISO規格にするというのが理想ですね」
三木
「それは理想は理想ですが・・・・そのときは欧州がその認証制度を認めるかどうか、まあいずれにしても簡単には生きません、数年がかりになりますね」
潮田取締役
「なるほど、なるほど、検討しなければならないことはいろいろあるものだ」
木村
「いずれにしても新しい認証制度を立ち上げた場合、それが継続できるか否かは需要だけでなく、その認証制度が信頼されるかどうかにかかっていますね」
三木
「それを言ったらISO9001もISO14001も同じだよ。そして現時点、世間はISO認証をあまり信頼していないようだ」
木村
「おっしゃる通りですね。しかし国際規格を基にするものより、一民間企業が作った審査基準による認証の方が、より信頼性が低いとみなされるでしょう」
小浜さん
「その通りだと思う」
潮田取締役
「うーん、だんだんと化学物質管理認証が難しいと思えてきたよ。
そいじゃ、肥田さんのアイデアをお願いしますよ」
肥田は資料を配る。
肥田取締役
「私は潮田さんに似ているが・・・・当社独自の簡易EMS認証を提案したい。
エコステージやエコアクション21が現実に一定数の顧客を確保していることから、当社独自の簡易EMSを立ち上げても一定数は確保できるのではないだろうか。仮に1万件程度になれば毎年の維持審査料金を1件40万としても40億、これは当社の今の売上よりも大きい」
潮田取締役
「ほう、そういうニッチがありましたか。その場合は化学物質管理のような責任問題は回避できますね」
小浜さん
「私はISO認証のコンサルだけでなく、エコアクションやエコステージのコンサルもしているのですが、そういったものの審査料金がISOとは全然違います。エコステージは認証を受ける企業の規模も小さいですから1件40万なんてことはまずありません。平均20万弱です。もちろん審査工数も1人日から2人日くらいですが」
木村
「それにエコステージもエコアクションも審査員も事務局もボランティアのようなものです。審査員はISO審査員を引退したり、企業を退職した元環境担当者がしていますから、賃金というよりも謝礼のようなものです。事務局も始めた時の人がずっと担当していて後継者がおらず高齢化したらおしまいじゃないかと言う声もあります。
それに認証機関も審査員も、地域ごとのゾーンデフェンスが徹底していますからねえ〜、
要するに費用構造が違うのですよ。当社が簡易EMSを始めたとして、簡易EMSの審査はISO審査の日当の半分とか3分の1だとしたら、誰も審査をしたくないんじゃないですかねえ〜」
小浜さん
「エコアクションやエコステージは簡易EMSの中では大手ですが、それ以外にも地域ごとに行政や民間団体が作った簡易EMS認証制度が多数あります。もっともいずれも認証件数も少なく、儲けるという意識はないでしょう。そもそもISO認証するにはお金もそれ以外のリソースもないという状況の会社に、環境意識をもさせ、それなりに効果を出させるための行政の施策じゃないんですかね」

小浜は先ほど自分の提案が否定されたためか、かなり批判的な発言をする。

三木
「一つ質問ですが・・・簡易EMSの目的というか狙いはなんでしょうか?
ええと言いたいことは、認証を受ける企業が審査料金が安いほうがいいと思っているのか、あるいはISOは敷居が高いからとりあえず簡易EMSでも、ゆくゆくはISOに切り替えると考えているのかということですが」
潮田取締役
「ええと、それがどんな影響があるのですか?」
小浜さん
「ああ、なるほど企業が将来ISOに切り替えるなら、我々も簡易EMSは採算度外視とまでは言えないけれど、損益ゼロでもやる意味がある。しかしいつまでも簡易EMSならば、それだけで採算がとれなければならない。
それどころか今ISO14001を認証している企業が簡易EMSに移ったのでは、売り上げの純減です」
三木
「ああ、小浜さんのおっしゃることもありますね。それを営業ではカニバライゼーションといいますが・・
実は私はそれとは別のことを考えていたのですよ。つまり我々がJAB体制にいて認証ビジネスをしているわけですから、ISO認証制度と矛盾というか否定するようなことはまずいのではないかと思いました。ISO認証の前段階として存在するというなら問題はないでしょうけど」
小浜さん
「なるほどなあ〜、確かにその問題もある」
潮田取締役
「そこまで深く考えることはないんじゃないかな。かってはJQAは独自の品質システム規格で認証するとか言っていたし、イギリスのUKASは簡易EMSの認定までしているという。どこの認証機関か忘れたが、ISO14005で認証をするといっているところもあったね。
まあ、そこんところは生き残るためにはいろいろと考える余地はあるだろう」
肥田取締役
「うーん、私もそこまで考えていなかった。少なくてもJACBやJABの了解は必要だろうなあ」
小浜さん
「ともかく簡易EMSで利益を出そうとすると、そうとう費用構造を検討しなければなりませんね。言い換えると、簡易EMSで営業利益が出る体制なら、現在のISO認証ではもっと利益率が良くなるはずです」
肥田取締役と潮田取締役が顔を見合わせた。
木村
「それと需要がいかほどあるかですが、エコステージなどの現状を見ると、とにかく絶対数が小さすぎます。1000件足らずでしょう。1件10万として1億。審査工数だけ考えても仮に1社1日としても1,000人日、交通費、食費、審査料金、それに本社費用を考えると・・営利企業としては成り立ちませんね」

簡易EMS認証状況

*エコステージの評価機関は40いくつかあるので、一機関あたりの認証件数は20件弱である。エコアクション21はそれよりも良いとはいえ一事務所あたりの認証件数は140件弱である。1件10万としても年間総売はたった1400万ではビジネスとは言えない。オーバーヘッドがゼロでも事業継続は難しそうだ。

肥田取締役
「うーん、絶対数が小さいか・・・・いやいや、みなさんのご意見を聞いて実態が良く分ったよ。不勉強だった。
うまい話はころがっていないか」
潮田取締役
「では木村さん、どうぞ」
木村
「私は当社の社員が元は企業でいろいろな分野で専門家として活躍していたということから、その技術や知識を活用したコンサルティングがどうかと考えました」
潮田取締役
「ほう」
肥田取締役
「経営コンサルとかそういうことかい?」
木村
「特にコンサルの範囲を限定しないというか、当社社員が保有するコンピタンスはいろいろな分野にわたっているわけで、それを活用しないのはもったいない。コンサルの総合デパートと言うイメージですが、例えば輸出管理のこととか、特許問題とか、安全衛生、作業改善その他いろいろあると思います。ここにいらっしゃる方も審査員になる前はそれぞれの分野でプロだったわけですから」
潮田取締役
「おっしゃることはよく分るが、既に何年も前に現役を引退した人が、現時点の第一線の問題解決の力になるものだろうか」
肥田取締役
「確かに先端技術ならむずかしいかもしれませんが、管理手法とか投資の考え方あるいは人材育成などにおいては、大手企業なら当たり前のことでも中小なら今まで考えてもいなかったツールとか技法というのはあるのではないでしょうか」
木村
「今は省エネが義務となりましたから、単なる省エネ機器のことだけでなく補助金の制度とか太陽光などの新しい設備などに関するコンサルは需要があると思います」
小浜さん
「だけどそういうのは省エネセンターなどが無償でコンサルしていますし、あそこの技術レベルというか指導内容はそうとう高い。そういう行政の指導と競合するようなサービス、サービスというのは役務という意味で無償という意味ではありませんが、事業として難しいのではないでしょうか」
肥田取締役
「確かに太陽光などについてはメーカーが補助金の申請まで合わせ技で売り込んでいるからなあ〜」
潮田取締役
「とりあえず全員に特技というか専門分野の調査を行いましょうかね」
木村がウワァと言う顔をしてあわてて言う。
木村
「実を言って言いだしっぺの私ですが、元の会社では外注工事の発注を長年していて、廃棄物業者とか環境測定業者の担当もしていたことから環境担当と言われるようになりISO担当となって・・・専門分野といえるようなものがありません」
小浜さん
「私も電検2種とエネルギー管理士をもっていて工場の電気管理を一手にやっておりましたが、その程度の人間はどの工場にも一人はいるわけで、とても専門家とは言えませんねえ」
三木
「そんなことを言ったら私も単に営業を30年やってきただけですよ」
潮田取締役
うまい話はないものだ
皆黙り込んでしまった。
ちょっと考えれば明白だが、どんなビジネスだってものすごい要因が関わるわけで、一人が頭の中で考えてすばらしいアイデアが出るなんて期待する方がおかしい。しかしどこでも事業が先細りになると溺れる者は藁をもつかもうと、あちこちに手を出してますます泥沼に沈むことになる。

しばしの沈黙の後、潮田が声を出した。
潮田取締役
「三木さん、三木さんはまだご提案されていませんでしたね」
三木は他のメンバーが提起したアイデアを自分のものがまったくカテゴリーが違うのでいささか迷った。とはいえ自分だけありませんというのも卑怯だ。
三木は自分の資料を配る。
三木
「ええと、ちょっと私の考えはみなさんとは異質なのですが・・・」
他のメンバーが一通り読む間、三木はだまっていた。
三木
「さて、お読みになられたと思います。読めばお分かりと思いますが、若干説明します。
新事業といいますかなんでもよろしいのですが、今までと違う分野でビジネスを始めるとき、今までの事業でのイメージ、印象が一切リセットされるということはありません。今までの事業が高く評価されていれば新しいビジネスにおいても好感を持って迎えられるでしょう。今まで評判が悪ければ新分野においても疑いの目で見られるでしょう。
では我々のISO認証事業において世間の評価はどうでしょうか。私はあまり高く評価されていないと考えています。今の状態でISO関係でもあるいはまったく無関係な分野でも新事業を始めたとき、どう評価されるか皆さんお分かりになると思います」

三木は一旦言葉を切った。小浜は納得した顔をしている。木村は不満顔、肥田と潮田は不審な顔だ。
三木
「先日、私が個人的に参加している審査員の集まりがありまして、まあざっくばらんな話をしたのですが、そのとき某認証機関の取締役から当社のことを認証機関の恥部と言われました。ひどい話ですよね。でも私はその前後の話の流れから納得してしまったのです。
確かにとんでもない審査をしている審査員は少数かも知れない。あるいは他の認証機関だって細かく見ればいい加減な審査をしていることもあるかもしれない。しかし少なくても当社の審査の質が余りよろしくないことは、世間というか他の認証機関の共通認識のようです。
お怒りにならずに聞いてほしいのですが・・・我々はサービス業です。サービスとは先ほど小浜さんがおっしゃったと同じく役務を提供する仕事という意味です。提供するものの品質が要求されるのは製品であろうと役務であろうと変わりはありません。しかし製品と違い役務には提供するときに生産されるという同時性、そして提供されると同時に消費される消滅性という特性があります。そのために役務の品質は後で第三者が検証することができません。その時立ち会った人の主観が品質を決定します。そして品質が悪いと言われているのですから、それが事実無根だとか、他社と比べてどうこう言うのはせんのない話です。我々は当社が提供する審査の質は最高だと自分が言うのではなく、世間からそう言われるように努めなければならないのです。
ということで、審査の質を向上すること、正確に言えば審査の質が高いと言われるようにすること、それが今最優先でするべき唯一無二のことだと考えています」

*私は某認証機関の取締役が他の認証機関を「日本のISOの恥部」と言うのを聞いた。その発言にはまったく同感ではあったが、その取締役も「有益な環境側面がないとダメだ」とのたまわっていた。目くそ鼻くそ、同じ穴のムジナであった。

木村
「三木さんはウチの審査がまずいとお考えなんですか? 私はしっかりした審査をしていると考えていますがね」
小浜さん
「木村さん、私は三木さんの説に同意ですよ。実際、審査の場でいろいろと言われています。目的が3年先でないので不適合って言ったときは、企業担当者に笑われて顔が赤くなりました。でも既に引退しましたが須々木取締役などから目的が3年間なければ不適合にしろと厳しく言われていましたから、須々木さんと一緒に審査するときは仕方がありませんでした」
三木
「私もそういう経験をたびたびしましたね。今の私はそのような判断はもちろんしていませんが、今でも審査に行くと過去の審査員がこう言ったああ言ったと苦情を言われています。単に謝るわけにもいかず、矛盾なく言い逃れるのが大変です」
小浜さん
「三木さんが須々木さんや朱鷺さん柴田さんと大激論をするのを脇で見ていながら、三木さんを援護しなかったのを反省します。あのときみんなが、いや問題意識を持っている人だけでも旧弊を打破するように頑張っていれば、今よりももっと当社の評価は高かったと反省します」
木村
「ちょっと、ちょっと、小浜さんも三木さんもおかしいですよ。私はそんな問題は存在していないと思いますよ」
小浜さん
「木村さん、まさかあなたは今でも環境側面を決めるのは点数でしなければならないとか、目的のプログラムと目標のプログラムのふたつなければならないとか、おっしゃっているのではないでしょうね?
いまだにそういう考えで審査している審査員がいるので呆れています」
木村
「私はまさに小浜さんがおっしゃるような審査をしています。三木さんや小浜さんは、私の審査を見れば間違いだとおっしゃるわけですか?」
三木
「最近は、木村さんと一緒に審査をしたことがないが、そのような判断基準なら間違いだと思うよ」
木村
「なんですって
肥田取締役
「話を戻そう。三木さんのご提案はありがたく受け止めるとして、現在の年々規模縮小状況を打破するにはなんとしても新事業への進出を考えなければならない。本日はこれで一旦終わるとして、また打ち合わせを持ちたいですね」
三木
「そういう重要なことは一部審査員それも我々のようなロートルの意見だけでなく、若手を含めた多くの意見を聞くべきです。そして先ほど木村さんから提案があったようなコンサル事業であれば、出資会社との調整が必要でしょう。なぜなら出資会社はそれぞれそういったコンサル会社を有していますし、ダブったりコンフリクトが生じてはうまくいきません。そもそもISO認証機関に出す人はそういうコンサルに向かない人をだしているのではないですか」
潮田取締役
「ご意見ありがとうございます。みなさんのご意見、ご提案を肥田取締役と検討したいと思います」
三木はこの二人の取締役が新事業への進出どころか、ナガスネを改革してくれるとは思えなかった。

うそ800 本日のまとめ
会議は踊る、されど会議は進まず
ところでこういったことを見聞きしたのかというご質問には、もちろんですとお答えしておきましょう。
この中のいくつかには私自身関わったこともあります。



名古屋鶏様からお便りを頂きました(2015.08.31)
省エネセンターなどが無償でコンサルしていますし、あそこの技術レベルというか指導内容はそうとう高い

どっちかと言うと「学者のような」レベルという目線だと鶏は思います。いくら講釈がスバラシくても、現実の役に立つとは限らんのです。
コンサルは踊る、されど現場の改善は進まず。

名古屋鶏さん 毎度ありがとうございます。
実を言って地域差があると思います。田舎の工場の時来た方は省エネセンターの人じゃなくて地元の工場で長年その方の仕事をしていた方(老人)のようで細かいことを良く知ってました。そして、「この程度のことは既にやっているでしょうけど」とも言ってましたけど
まあ普通考えられる改善はやりつくしていて、更なる省エネは乾いたぞうきんを絞るがごとく

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