審査員物語58 存在意義

15.11.26

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基にしております。

審査員物語とは

三木が口頭で中間報告をしてすぐに報告書にまとめて潮田取締役に提出した。それからひと月経ったが、それからなんの音沙汰もない。三木は、気になるを通り過ぎて不安になってきた。 三木は今日昼過ぎに潮田取締役を捕まえた。

三木
「潮田取締役、先日報告書をお出ししましたが、その後どうなりましたか?」
潮田取締役
「ああ、三木さん、いろいろありがとうございました。報告書は他の常勤取締役にも配布しました」
三木
「その結果、どのようなことになりましたか、これから何か施策を打つのでしょうか?」
潮田取締役
「今現在いろいろと検討中でして」
三木
「もちろん実行が困難なものもあるでしょうが、できることは少しでも実行していただきたいと思います」
潮田取締役
「うーん、何をするにも抵抗勢力というのかなあ〜、なかなか大変なのですよ」
三木
「言葉使いを指導するといった程度のこともですか?」
潮田取締役
「そんなことしなくても良いという人もいましてね」
三木
「しかし客先から苦情があるという事実があり、それを改善できるなら実施するというのは自然なことではないのですか」
潮田取締役
「ウチは業界設立でさ、苦情を言ってきた会社があると、そこから出向してきた取締役が話を付けると言い出してさ、もう理屈が通じないんですよ」

三木は潮田の話を聞いて呆れた。要するに問題がなかったことにして何も対策しないということなのか。だがそんなその場しのぎを繰りかえしても再発は防げない。将来業界外の企業の認証が多くなったときどうするのか、そもそも提供する審査の品質が悪いなら今の仕事だって継続することもできないのではないのか、三木は疑問だらけだ。
三木
「いろいろとしがらみがあるのは分かります。しかし残念ですね、当社の提供する審査サービスの品質を上げればもっと仕事が取れるかと思うのですが」
潮田取締役
「まったく三木さんのおっしゃる通りです。私がここに来て1年半になりますが思うように業務改善は進んでいません。前任者も大変だっただろうと思います」
三木
「私も今までいろいろと改善提案をしてきましたがひとつとして実現しませんでした。でも私は一社員ですが、取締役であっても改革が困難とは」
潮田取締役
「私もここにいるのはあと半年か長くても1年半でしょう。ここでまた退職金をいただいてサラリーマン人生にサヨナラですよ。ほかの方も同じでしょう。そういう環境にいるなら、余計なことをして人に嫌われることはないと考えても不思議じゃありません。いやそういう人が多いことも不思議じゃありません」
三木
「潮田取締役とは出身母体が違いますが、私が勤めていた会社の同期で関連会社に出向してそこの取締役になった連中は皆アグレッシブにやっていますが」
潮田取締役
「条件が違うと思いますよ。私の元いた会社から子会社に行った人たちも三木さんがおっしゃったように頑張っています。でもそれは条件というか処遇が違うのですよ。大手企業で取締役あるいは委員会設置会社なら執行役になれずに関連会社に行ったとしても、関連会社で実績を出せば本体の取締役や執行役に返り咲くというケースは珍しくありません。過去には親会社の経営トップになった事例も存じています。それは例外としても関連会社の社長になるとか、ともかく頑張れば報酬などの見返りが期待できます。
でもね、ここは業界団体みたいなもので、特段売り上げを伸ばすこともないし、成果を出したところで本体に戻れる可能性もないんです。私がここで取締役をしているのは、私の実力ではなく出資会社の代表だからです。当然成果を出さなくても取締役解任にもならない。そして後任が来るまで居座る。言い換えるとつなぎですよ、つなぎ
要するにトラブルを起こさず、次の後輩がやってきたら席を譲ればいいんです」
三木
「うーん、そりゃ確かにこういった事業では売り上げ倍増とかシエアをあげるというのは困難だと思いますよ。しかし初めからそういう発想では、それは営利企業じゃありませんね。
なによりも経営者として雇用している者や顧客に対しての責任を放棄しているように思えます」
潮田取締役
「でもね三木さん、そんなことありませんよ。まず雇用している者に対する責任は全うしていると思う。三木さんも含めて頑張っている人には63歳までの雇用を保証しているし、そうでなくても契約審査員として遇している。賃金はここではなく各出資会社の関連会社に出向した場合と同等だ。もちろん出資会社によって各人の賃金は異なるが、それは出身会社の待遇を継続するという意味では妥当でしょう。
顧客に関する責任といっても顧客とは誰かと考えれば、審査員や事務方が対応している客先の一般社員ではありません。正しくは金を払う企業でしょう。そうであれば認証している企業といろいろな意味で問題のないように取り計らっている。卑近な例ではウチで仕事をとれば出向者を受け入れている」

三木は潮田の話を聞いて、自分がなにかまったく無意味なことをしていたような気がしてきた。審査員が審査で向こうの担当者と軋轢を生じても、企業同士で問題にならなければ問題がないということなのだ。まあ、そんなことを思えば当社の審査費用が高かろうと安かろうとビジネスにはあまり関係ない。自分も含めて賃金の過半は出身母体から補てんされていて、三木の賃金は子会社に出向した時と同等に保障されているのだ。もうビジネスとか営利企業という発想そのものが通用しないではないか。ここは営利企業ではなく親睦を目的とする業界団体のようなものなのだろう。あるいは老人ホームなのか?
そして受審費用は上納金か捨扶持なのだろうか?
そして潮田個人は悪い人間ではないのだろう。
「審査員はパンのみに生きるに非ず」と言いたかったが止めた。余計なことを言うと三木と他の人との板挟みにして苦しませるだけだ。
三木
「いや、お忙しい潮田取締役のお手を煩わせて申し訳ありませんでした。では」

三木は自席に戻って考える。潮田取締役の語ったことは初めからわかっていたと言えばそれまでだ。この会社が何のために存在するのか、自分がなぜここにいるのかを考えれば、自明なことだ。
だが、それは三木を虚しくさせた。
三木がぼうっとしていると肩をたたく者がいる。振り向くと朝倉がいた。
朝倉審査員
「どうしたの三木さん、心ここにあらざるという風情ですよ」
三木
「ああ、ちょっと考え事をしていました。お久しぶりですね」
朝倉審査員
「私は営業兼務の三木副部長様とは大違いで、審査一筋ですので一か月ほぼ出っ放しですわ、馬車馬のごとく審査をしております。アハハハハ。
今日はほんとうにたまたま出社でしたよ」
三木
「そいじゃ定時後でも少し飲みませんか」
朝倉審査員
「いいですね、おっと定時までもうほんの10分じゃないですか。そいじゃ定時になったら出口で会いましょう」



三木も机上をサット片づけてチャイムが鳴ると同時に席を立った。
二人は会社を出てほんの5分ほど歩いて環二通りから少し入ったチェーン店ではない昔風の個人経営の居酒屋に入る。
なぜか乾杯をして、しばらくは静かに飲む。
お酒
朝倉審査員
「三木さんは特命を受けて何かの調査にあたっているという噂でしたが・・・」
三木
「特命ですか、まあそう言えばそうですが・・・笑っちゃいますよ」
朝倉審査員
「笑っちゃいますよとは反語で悲しいってことですかね」
三木
「いやさ、そもそもの仕事は、ウチは審査に関して苦情が多いことから、その原因を調査して対策を考えてほしいということだったんですよ」
朝倉審査員
「ほうほう、」
三木
「まあ結論は朝倉さんならご存知の通りですが、私の出した報告書はもう埃をかぶっています」
朝倉審査員
「その理由も私の想像通りなら、要するにそんなことする必要がないということなのでしょう」
三木
「その通り。私の働きは無駄、調査するまでもなく、改善する必要もない」
朝倉審査員
「三木さん、三木さんの気持ちもわかりますがウチの会社ってそんなもんじゃないですか」
三木
「そんなものと言いますと」
朝倉審査員
「いや正確に言えばほかの業界系認証機関も同じかもしれませんがね・・・
一般的に企業家が社会に貢献したいという夢を持っていて、それを実現するために会社は設立されます。つまり建前はすべての会社は社会に貢献するために作られるわけです。もちろんどんなカテゴリーにおいてどんな方法で社会に貢献するかはさまざまです。山葉寅楠は人々が楽しむものを提供しようとして楽器、オートバイ、スポーツカー、オーディオ機器、テニスやゴルフなどのスポーツ用品、レジャー施設などを作った。何も知らない人から見ればとりとめがないようですが、彼の理念から見れば全く矛盾がない。
松下幸之助は水道理論で・・」
三木
「わかりました、わかりました。でウチはどんな方法で社会に貢献するのかと・・」
朝倉審査員
「余った人間を引き取ることによってですよ」
三木 「えっ
朝倉審査員
「失礼ですが三木さんもお宅の関連会社で引き取ってくれなかったからここに来たんじゃないんですか? ずっと以前、審査員研修で一緒になったときそんな話をした覚えがあります。
いえ、別にそんなことに劣等感を持つこともありません。私も同様ですから」
三木
「なるほど・・・そういうことか」
朝倉審査員
「えっ、三木さん、今までそう悟っていなかったとは
我々は遅れず休まず働かず・・・いや、いくらなんでもそれではまずいか、人より頭を出さず、人より遅れずというところでいいんですよ。そして関連会社に行った場合と同じ63歳くらいまで面倒を見てもらえることを会社に感謝して、時期が来たら我々のようにあまり能のない後任に席を譲って引退すると・・」
三木
「つまりウチの取締役たちと同じということか」
朝倉審査員
「そうそう取締役は次の取締役に譲り、我々はその下の部長級に譲り、すべて世は事もなし」
三木
「なるほどなあ〜、そもそも力んだり競争することはなかったということか」
朝倉審査員
「まあどんなところにいても努力する人はいますがね、運命と悟って身をゆだねるというのもありでしょうね。単に怠け者とも言いますが・・・」
酒の肴
三木はしばしの間黙って何杯も酒を飲んだ。自分がこの仕事についてからしてきたことは傍から見ればまったく間違っていたのだろうか?
規格解釈がおかしいと先々代の取締役たちと激論したり、会社の仕組みがなっとらんと怒ったりしたのは空気を読めないお門違いのトンチンカンな行動だったのか。なにも考えず、言われた通りのことをしているのが期待されたのだろうか?
朝倉審査員
「三木さんと私は同じ年でしたよね。お互いにあと半年でいまいる子会社の定年になりますが、その後はどうするのでしょう?」
三木
「辞めるしかないでしょう」
朝倉審査員
「まだ63ですよね、年金が満額もらえないと困る・・・こともないですか?」
三木
「実は私は潮田取締役から子会社の定年後も残ってほしいということを言われていたのですが・・」
朝倉審査員
「ほう、三木さんは下から慕われているだけでなく、上からも認められていたのですね。さすがと言いたいが、正直うらやましい」
三木
「ご冗談を、いやいろいろと考えますと子会社の定年でスッパリと辞めようと思います」
朝倉審査員
「契約審査員にはなるのでしょう?」
三木
「今までそう思っていましたが、今の今、すべてから引退すると決めました」
朝倉審査員
「それはまた・・」
そのとき三木のポケットでスマホが鳴った・・
三木が電話を取ると潮田からだった。まだ会社にいるようで今どこですかという。三木が店の名を言うと潮田は知っている、すぐ行くという。
朝倉審査員
「誰から?」
三木
「噂をすればと、潮田取締役です」
朝倉審査員
「私がいたんじゃまずいかい?」
三木
「いえいえ、向こうが後口なんだから気にすることありませんよ」

10分もしないで潮田取締役が現れた。
潮田取締役
「いや、今日は三木さんとじっくりお話ができなかったので、飲みながらと思いまして」
朝倉審査員
「私がいたんじゃまずいなら席を外しますが」
潮田取締役
「いえ、会社を出るときお二人一緒だったのを見ましたんで、お二人が一緒に飲んでいるだろうと見当をつけたんですよ」

しばしさしつさされつ酒を飲む。
潮田取締役三木朝倉審査員
潮田取締役三木朝倉
潮田取締役
「次回の株主総会で社長が交代になります」
朝倉審査員
「今の社長は2年目でしたよね、1期だけですか短いですね」
潮田取締役
「なにしろ社長も出資会社各社の持ち回りでしてね」
朝倉審査員
「しかしそんなしきたりでよくぞ会社経営ができるものですね」
潮田取締役
「まあ皮肉を言わないで下さいよ、アハハハハ
次期社長は肥田取締役です」

三木朝倉審査員朝倉と三木はホウ!と声を出した。
潮田取締役
「まあ、確かに今のような経営なら誰が社長になろうと何も変わりませんけどね」
三木
「次期社長に期待されるのはやはり規模確保でしょうか」
潮田取締役
「うーん、親会社というか出資会社はあまりそんなことに期待していません。今売上は20億くらいでしょう、10年前は30近かったのですが3割減ですか、まあ、一番は単価の値下がりが大きいですが、ノンジャブが価格破壊をしましたからね。特にウチだけが落ち込んだわけじゃない。現状ならヨシとみているでしょう。
出資会社にしてみれば、18になろうと17になろうとどうでもいいのではないですか」
朝倉審査員
「はて、会社というのは利益を出すのが目的かと思いますが」
潮田取締役
「おっしゃる通りですが、すべての会社ではなくても全体で利益を出せばいいのですよ。本体が1兆円とか2兆円のとき、20億の会社が少々の利益を出そうが赤になろうがどうこうありません。いろいろな意味、例えば人事処遇上で役に立てばそれで十分でしょう。何事も全体最適ですよ」
朝倉審査員
「なるほど、ここにいると売上20億がすべてでどうしようかと考えてしまいますが、出資会社から見れば工場ひとつの売上にもなりませんね」
潮田取締役
「工場ひとつどころか、一つの課の売り上げでしょう、アハハハハ。
私もここに来る前は営業本部長なんてしていましたが、年間のノルマは数百億でしたね」
三木
「なるほど、なにごとも見かたを変えるとまったく様相が異なりますね」
潮田取締役
「もちろん小規模といえど先進的な事業で将来大化けする可能性があれば、出資会社は大いに期待してそれなりのリソースを投入するでしょう。しかし市場規模そのものが現状規模かあるいはだんだんとシュリンクしていくのが見えているものなら、問題を起こさず大幅な赤字を出さなければよいと考えるでしょう」
朝倉審査員
「ウチがまさにそれですか」
潮田取締役
「もちろん現状規模であっても利益を出そうとすればいろいろな手があるでしょう。会社設立されたとき、もう10数年前になりますが初代社長は新卒それも女子を採用して人件費削減とか客寄せパンダ効果とか考えたらしいです。でもそんな方法はそもそもの目的に合わないとすぐにやめました。出資会社に止めさせられたというのが正解かな。
ええと・・・審査員30人を新人にして、みなさんよりもひとりあたり人件主費副費で800万くらい安くして都合2億4千万ですか・・・それは確かに小さくはないが・・
そんなことより出資会社から見れば人を引き取ってもらった方が良いのは分かるでしょう。どちらにしてもみなさんの賃金の半分は補填されるわけで、ウチから見れば新卒を採用しても実質的人件費は同じです。そして出資会社から見れば出向させるべき人の賃金半分余計に負担することになる。このカラクリはわかりますよね」

出向受入会社負担 出向出し会社負担
出向受入
三木
人件主費・副費の半分
人件主費・副費の半分
新人採用
新卒者
賃金が出向者の約半分
出向できません
三木
出向者の人件主費・副費全部

*出向者の人件費をどこまで負担するかは基本、出す方と受け入れる方の話し合いで決めることであるが、あまり出向者を出した方が負担するのは利益供与と見なされる。
一般的に認証機関に出向した場合、出向者を出した会社が人件費の半分を負担するのが多い。財団法人の某認証機関に出向者を出した会社が人件費の100%を負担している(言い換えると認証機関はただで審査員を使っているわけだ)ところがあるが、財団法人の場合は問題ないのだろうか? 私は分からない。

朝倉審査員
「なるほど、若い人を安く雇ってもそれがそのままコスト削減にはならないわけか」
三木
「契約審査員の場合は人件副費が掛からないから出向者の半分よりも安く済むというわけですね」
潮田取締役
「契約審査員の場合は日当だからね、常雇とは費用的には全然違うよ。
話を戻すが、当初は業界内だけでも仕事量がありましたがだんだんと飽和してきて、業界外からも仕事を取らなければとその見返りに出資会社以外からも出向者を受け入れるようになった。
2000年以前は審査員に定年なしという状態だったらしいですが、そんなこんなで60以降は子会社で再雇用、当然処遇はそれなりになり、契約審査員は70までだったのが今は67定年とかいうようになってきました。
すべては会社設立の目的実現のためですよね」
朝倉審査員
「なるほど、私も今まで身の振り方をいろいろ考えてましたが、そういう会社側というか会社設立の観点で考えないといけませんね」
潮田取締役
「社員個人の立場でもウチの会社はそういう環境にあるということを認識して人生を設計しないといけませんね。それは私も同じことですが」
朝倉審査員
「なるほど」
三木
「そういう事情であれば別に現状の改革とかはまったく無用ということですよね」
潮田取締役
「三木さん、待ってください。なにごとも断定してはいけません。ウチの会社は見方によればそうではあるけれど、別に何をしても意味がないとしらけることもありませんし、無為無策で良いわけではありません。当たり前のことを当たり前にする、仕事はまっとうにしなければならないことは言うまでもありません」
三木
「でも私が提案したことは実行できないということですよね」
潮田取締役
「話し忘れていましたが、私は取締役をあと1期することになりました。といっても私がどうこうではなく、出身会社が後任に適切な者がいないからという理由ですがね。
三木さんがご提案されたことは可能な限り実行していきます。肥田さんもあのときはまだ社長になることがはっきりしていなかったので明言されなかったのだと思います。これからに期待しますよ」

三木には潮田の言葉はお愛想に聞こえた。


新橋駅から東海道線に乗った。いつものことながら混んでおり座るどころではない。三木は吊革につかまり揺られながらいろいろと考える。
頭に浮かぶことはたくさんあるが、考えることは階層化されるように思う。
まず最下層というか身近なことは個人的なことだ。勤めを辞めてこれからの暮らしはどうなるのかなということ。年金は満額ではない。遊ぶわけにもいかないだろう。
しかし働くと言ってもシルバーセンターとか、あるいは日曜に折り込み広告が入ってくるのを時々見ているが近隣の工場で軽作業でもさせてもらうか、まあそんなところだろう。関連会社に行った同期とか、過去の同輩、後輩などにお願いするのもありだが、今の自分の力には売り込むような特技はなくおすがりするだけだ。そんな恥はかきたくない。ISO審査員をしていたのをウリにISOコンサルをするか、あるいはコンサル会社に雇ってもらうというのもあるかもしれないが、そんなこともしたくはない。エコアクションの審査員というのもあるらしいが、職業というよりもボランティア程度と聞く。そもそももうISO認証制度に拘る気はない。むしろそれから離れたい。
それから会社のことだ。会社の位置づけがどうあれ、仕事の質向上、提供するサービス品質向上はぜひともすべき課題である。じゃあ自分がその任に当たるべきかとなると、それは貧乏くじでしかないように思う。まずそんな仕事をするのは周りに喜ばれない。うまくいっても今までより辛い、厳しくなったと言われるのが関の山。成果が出なければ非難ごうごうとなるのは見えている。もし顧客から苦情がドンドン言われて認証機関の評判が落ちても引退した身であれば関係ない話だ。いや、そのときであってもかって勤めていた会社の評価が下がれば周りの評価が下がるとか自分自身も恥と感じるものだろうか?
最上層というか大きな視点では認証ビジネスというものを興隆させるにはどうあるべきかということだが、それはやはり審査の質向上しかないだろうと思う。最近は付加価値審査とか経営に寄与する審査などと語っている認証機関が多いが、第三社認証というものの意義、価値を理解していないとしか思えない。自動車を売っているのに自転車としても使えると語っているようだ。もちろん自転車代わりに使えるというメリットがあることもあるだろう。しかしそのときは自転車としても使えるというのではなく、もっとポジティブにいうべきではないのか。
話がそれた。第三社認証を極めずに、余計なことができるとか語るのは筋違いだろう。
いろいろな観点というか階層ごとに考えても、今の第三社認証にこれからも従事するという意味はなさそうに思う。確かに年金が満額もらえるまでの3年間、仕事があるということはものすごいメリットではあるが、それをしなければ生活できないというわけでもなく、なによりも矜持というものがあるだろう。
注:
矜持の意味を間違えていないだろうと辞書を引くと【きんじ】という読みも書いてある。
えっ、ひょっとして私が読みを間違えて覚えていたのかと驚いた。
さらに調べたら【きんじ】は【きょうじ】の読み誤りであるが今は定着しているとあった。一つ勉強になった。


10時少し前に自宅についた。
ドアのあく音を聞いて陽子が玄関まで出てくる。
三木の家内です
「あれあれ、おとうさん、大分ご機嫌ね」
三木
「ご機嫌じゃないよ、不機嫌あるいはご機嫌斜めだよ」
三木の家内です
「おサイフでも落としたの?」
三木
「そこまでは酔っていない。あのさ、俺、仕事辞めてもいいかな?」
三木の家内です
「お父さんの人生なんだから、好きにしたらいいんじゃないですか」
三木
「まだ63なんだよね。年金は満額もらえないよ」
三木の家内です
「なーに言ってんの、そもそもISO審査員じゃなくて普通に関連会社に出向していたら、63歳で引退だったのでしょう。それじゃ今更悩むようなことじゃないでしょう」

三木はなるほどと思った。そうか10年前、仮に支社長に昇進してそれを数年勤めて関連会社に出向して役員になったとしても、あるいはやはり支社長になれずに関連会社に出向したとしても63歳くらいで終わりだ。まあ支社長になれば報酬は今までより年額200くらいは多かったかもしれない。10年で2000万なら大金ではあるが、それが丸々残るわけでもない。そして結局は63で終わりだ。ということなら半年後に審査員を辞めても同じことだ。
そう思うと辞めるか辞めないかなんてそもそも悩むようなことではない。
三木は畳の上に両手両足を広げて大の字になった。その瞬間三木は眠りに落ちた。
スーツを衣文掛けにかけようとしていた陽子はそれをみてアレアレと言った。

うそ800 本日の主張
ところで三木が頑張って審査の質向上を図ったというストーリーもありそうですが、いくら物語でも現実とかけ離れたことは書くことができません。

うそ800 本日のどうでもいい話
今回は文字数は少ないのですが、家内から用事を頼まれたり友人から電話があったりして片づけるのに時間ばかりかかりました。


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