審査員物語 番外編17 内部監査(その6)

16.06.20

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基にしております。

審査員物語とは
前回集まった数日後にまた陽子に召集がかかった。行くと前回と全く同じメンバーがそろっている。
今猿さん
コンサルの
今猿さん
増田准教授
増田准教授

井沢

井沢
学生
宇佐美

宇佐美
学生
三木陽子

陽子
ヒロインは私
今猿さん
「先日、打ち合わせしましたとおり環境マニュアルが規格を満たしているかどうかチェックしました」
増田准教授
「今猿さん、結果はいかがでした?」
今猿さん
「先日は三木さんが要求事項をすべて満たしていないというお話でしたが、まさにその通りでした。最低マニュアルの改訂が必要です。見直さなくてはならないのは相当の数になりますね」
増田准教授
「うわー、この前今猿さんに見直しが必要かもしれないとは聞いたけど、確実となると・・・三葉先生になんというか、猫に鈴をつけるのは・・・いや、これは独り言です」
今猿さん
「マニュアル改定は単に手間がかかるだけですが・・・・調べてみなければなりませんが、マニュアルだけでなく実態も不足しているかもしれず、そうなると文章を変えるだけでなくしなければならないことが大変です。そのへんはこれから調べて対応していかなくてはなりませんね」
増田准教授
「ええ! 参ったなあ〜、今のお話では、内部監査などはそのまた先ということでしょう?」
今猿さん
「そうなりますね。理屈から言えば内部監査とは現状がISO規格を満たしているかを確認することですから、初期の準備段階から行ってフィードバックをかけていくのがあるべき姿でしょう。しかしまったくできてない状況で内部監査をしてもまともな記録も作れません。
それにお宅の場合は、今までISO学生委員会が主導で進めてきましたから、内部監査を受けるほうは、今までしてきたことがだめだとか言われたら、反発するでしょうね」
三木の家内です
「私も今猿さんのおっしゃる通りで不満があります。学食では店長や私たちが考えて今まで活動してきたわけじゃありません。実際はISO学生員会から直接指示を受けたわけではないですが、ISO学生委員会が関連業者に指示したことを言われた通りしてきたわけです。しかし先日の内部監査では、よそから来た人が環境方針がほしいと言ったときどうするのかとか聞かれました。けれども私たちはそういうときの対応を教えられていません。試験で教えてないところを出題されたようなものでしょう。内部監査をするなら、矛盾というか齟齬のないようにしてほしいですね」
増田准教授
「そうだねえ、でもまあ内部監査員も発展途上だからね、そのへんは飲み込んでくださいよ」
宇佐美
「三木さん、受験勉強しないで習っていないところが出題されたと言われても困りますよ。この大学で働いている人は、全員環境マニュアルを読んで暗記するくらいでないとまずいんじゃないですかねえ〜」
三木の家内です
「ええっ、宇佐美さん、ISOを専門にしているならともかく、学食のパートにそんなこと要求するなら辞めますよ」
井沢
「うーん、私もそこはおかしいと思ったのですよ。内部監査を受ける人が環境マニュアルを読んでおく必要があるのか、自分の仕事で環境に関係することを知っていればいいのか、私は後者だと思うのですが、
でもあの時の監査のチェックリストも、前回のとき今猿さんが配布した環境マニュアルを元にした監査チェック項目も、マニュアルを知っていなければ回答できないように思いました」
今猿さん
「うーん、確かにそういわれるとそうだよねえ〜、でも私も今までの経験では監査とは要求事項を満たしているかを確認することなんだがねえ〜」
三木の家内です
「今猿さん、私は思うんですよ、内部監査とは組織が規格要求を満たしているかどうかを確認することであることは間違いないですが、それは規格を満たしているかと質問することじゃなくて、規格を満たしていることを監査員が調べることじゃないんですか
ということは井沢さんがおっしゃった『自分の仕事で環境に関係することを知っていること』でもなく、単に自分の仕事を理解していることじゃないかと」
井沢
「三木さん、それはどういうことですか? 意味が分かりませんが」
三木の家内です
「いえ言葉のまんまですよ。以前今猿さんは内部監査といっても実施時期によって目的も違い、それによって質問事項も変わるとおっしゃいました。その通りと思いますが、どの段階においても監査を受ける人は環境マニュアルなど知る必要もなくISO規格の言葉を知っていなくてもいいと思うんです」
今猿さん
「私も三木さんのおっしゃる、規格を満たしていることを監査員が調べることという意味が分かりませんが」
三木の家内です
「言葉足らずだったかもしれません。内部監査員はマニュアルに書いていることが実際に実行されているかどうかを調べるわけですね。もちろんその前提としてマニュアルが規格要求を満たしているとしてですが。
そして内部監査員はマニュアルに書いていることが実際に実行されているか調べるということは、そのとおり質問することではないと思います。
例えば学食で廃棄物置き場を定期的に清掃しているかを調べたいなら、店長やパートの我々に廃棄物置き場は定期的に清掃しているのかと聞くのではなく、監査員が廃棄物置き場に歩いて行って、点検表にサインやハンコがあるかどうか自分の目で見るとか、ゴミが分別されているか、置き方はどうか、散乱していないか、臭くないかなんてことを確認すれればいいんです。
『環境方針を知ってますか』かと質問して『ハイ』という返事を聞いても意味がありません。だってウソかもしれませんでしょう。あるいは『環境方針を言ってみてください』と言っても暗記しているだけかもしれない。
そんなじゃなくて『環境方針であなたの仕事と関わることは何ですか』と聞くのが確実です。暗記しているだけでなく内容を理解していること、つまり周知されていることでしょう。
つまり私が言った、規格を満たしているかを質問することじゃなくて、規格を満たしていることを監査員が調べることとはそういうことです」
今猿さん
「いやあ、三木さん、恐れ入りました。おっしゃるとおりですね。その通りです」
井沢
「でも、でも、でも、ということは、そういう方法ができるためには内部監査員はマニュアルを読みこなすだけでなく、実際の仕事をよく知っていなければできないんじゃないですか」
三木の家内です
「そうとも言えないでしょう。環境方針が周知されているかを知りたいとき『環境方針であなたの仕事と関わることは何ですか』と聞くのに、相手の仕事を知っている必要はありません。
変なことを言ったらごめんなさいね、人間億劫になってはいけないのよ、億劫ってめんどくさがり屋のことよ、ちょっと前向きに、手足を動かすのをいとわないという気持ちがあればいいんじゃないのかな」
増田准教授
「すみません、話を戻しましょう。
今猿さん、環境マニュアルを見直さなければならないというのは分かりました。
先ほど実態がどうとか言ってましたが、あれはどういうことでしょう?」
今猿さん
「実を言いましてお宅の環境マニュアルを拝見したのは初めてだったのです。それと環境側面一覧表もです。その辺を眺めていたらですね、学食と言ってもいくつも業者が入っているわけですが、三木さんのところのフライヤーが著しい環境側面になっていますが、ハンバーガー屋のフライヤーが入っていない。どうしてなのかとたどっていくと、油の量で著しいかどうかを分けているように思えますが、うーん、理屈としてはおかしくないのですが、本当にそう言えるのかなという気がするのですよ」
増田准教授
「おっしゃることが分かりませんが?」
今猿さん
「三木さんの勤める店のフライヤーは18リットルで、ハンバーガー屋は6リットルだから大きさが違うということらしいです。しかしそうであるなら、排水溝に油が流入したとき6と18では実際に違うのかですが、そこはどうなんでしょう?」
増田准教授
「どうなんでしょうとは?」
今猿さん
「お宅の大学の排水設備に食用油が18リットル流入すると問題が起きて、6リットルなら問題は起きないのかということですよ」
増田准教授
「うーん、どうなんだろう? あのワークシートではその判断基準はそうなっているのでしょうね」
宇佐美
「あの著しい環境側面を決めるエクセルのワークシートを作ったのは僕なんですよ」
今猿さん
「へえ!すごいね。関数とかマクロが得意じゃないとあれは作れないよ」
宇佐美
「すごいでしょう。僕は高校の時からエクセルが大好きで、エクセルボーイって呼ばれてたんです、ヘヘヘ」
今猿さん
「宇佐美君のお父さんは競馬好きだったのかな?」
増田准教授
「おい、エクセルボーイよ、今猿さんの言う6リットルならOKで18リットルならだめということを調べたのか?」
宇佐美
「ええ!そんなこと僕は分かりませんよ。初めからどれを著しい環境側面にするかは決まっていました。僕は各部門から報告されたデータをインプットすると結果があらかじめ決めた通りになるようにエクセルの算式を考えろと言われてワークシートを作ったんです。
ええっと、うろ覚えなんですが、各店舗から出されたデータで三木さんの勤め先のフライヤーを有意にして、ハンバーガー屋を対象外にするにはその違いがフライヤーの容量しかなかったので、なんとかその違いで点数が変わるように算式を工夫したんです」
今猿さん
「呆れた」
増田准教授
「オイオイ、それって・・・」
今猿さん
「うーん、確かにどこの会社でも初めから著しい環境側面を決めておいて後付けで計算式を作るのが一般的ではあるが・・・」
(今猿は口を閉じた)
増田准教授
「一般的ではあるがの次に何が来るのですか?」
今猿さん
「普通の会社では環境担当が環境負荷の実態を知り尽くしていますからね、うーん、
(更に今猿は長い沈黙ののち)
正しいか正しくないかはともかく、多くの企業は著しい環境側面を決めるとき、実際は決める前から何を著しいものにするかを決めています。というかわかっています。というのは環境管理の担当者は実態を知り尽くしていますから、改めて何が著しいかと考える必要はないんです。
でもISO規格には、環境側面を特定しろ、著しい環境側面を決定しろと書いてありますから、ISO認証前にそうしなければならないと思い込んでます。
ところがもう一つ問題があります。ISO審査員は著しい環境側面を決めるには論理的な方法でないといけないというのです。もちろんそうでないときは不適合というわけです。
ところで・・・なんというのかなあ〜、論理的とは学問的な客観的に見て論理的ということじゃなくて、審査員が論理的と考えるものであることと言う意味なんですよ。そこから面白いというか悲喜劇が起きるわけです」
増田准教授
「今猿さんの語ることはイマイチ」
今猿さん
「そうでしょう、そうでしょう。要するにISO審査に通るには様式美というか、デファクトスタンダードとなった審査の手順と基準を満たす必要があるということです。
著しい環境側面を決めるには計算でなければならないということだけを覚えておいていただければいいです」
増田准教授
「それは知っている。というか計算で決めるというのはISO規格にありますよね」
今猿さん
「ご冗談を、そんなことISO規格にありません。
ともかくですね、一般の会社ではわかりきったことを計算した結果分かったということにしているということです。
ところがお宅の大学の場合、著しい環境側面を認識していないにもかかわらず、著しい環境側面を決めつけて、それが著しい環境側面になるように計算で決めているのではないかという気がします」
増田准教授
「著しい環境側面を認識していないと言われるとそりゃ心外な・・・いや心外だとも言えないか、実際に認識していないようだし」
井沢
「私も前から変だと思っていたことがあるのです。そのフライヤーのことばかりじゃないんですけど、各店舗で最低一つは著しい環境側面を作れというのが指示だったのです。でも初めからそう考えるのはおかしいですよね。常識的に考えて、いくつも著しい環境側面がある部門もあるでしょうし、ひとつもないところもあると思うのです」
増田准教授
「各店舗にひとつとは初耳だね。そりゃ誰の指示なの?」
井沢
「あっ、三葉教授です」
増田准教授
「なんで各店舗必ずひとつは著しい環境側面が必要なんだろう?」
井沢
「学食はいくつもありますが、どこでも改善活動をしてもらいたい、そのためには著しい環境側面が必要だとお考えでした」
今猿さん
「著しい環境側面と改善活動はリンクしていないのだけど」
井沢
「だけどISO規格に環境目的及び目標を設定するときは法的要求事項と著しい環境側面を考慮に入れるとかありましたでしょう」
今猿さん
「確かに考慮に入れるとはあるけれど、1対1ではないし、著しい環境側面が上の句で改善活動が下の句ではないからね。まあ規格を正しく読まなかったということだろうかなあ〜
どうでもいいこと: 和歌で初めの5・7・5を上の句、終わりの7・7を下の句という。百人一首のカルタは上の句を読みあげ百人一首カルタ 下の句が書かれたカルタを取る。
そこから、原因と結果あるいは一連の流れの前半と後半という意味でつかわれる。
ISO審査員の多くは著しい環境側面を上の句、改善テーマが下の句と考えている。2010年頃だが、某認証機関の取締役と話していて、これを理解していないのでたまげた。これはどうでもいいことではない。そういう審査員が存在するのは審査員研修機関が悪かったのか、審査員登録機関が悪かったのか、どっちだろう?
おっと、勘違いしている人が多いので解説する。ISO14001において上の句は環境方針であり、下の句は環境目標である。ここ重要、試験に出ます。

増田准教授
「三葉先生が規格を正しく理解していなかったということですか?」
今猿さん
「モノ言えば唇寒し秋の風、いやいまのは独り言です。
そうですねえ、何と申しましょうか・・先ほどの環境側面を把握しているならどんな方法でも後付けでも、事前に知っているものが著しい環境側面になるような算式を作れば実害はありません。しかし本当の環境側面を知らないで、他人の見よう見真似で計算式を作りその結果を正しいものだと思い込むと道を誤りますね。
いや例えばの話ですよ」
増田准教授
「今猿さん、仮定の話なんて人ごとのようなこと言わないでくださいよ。とすると著しい環境側面を調べなおさなければならないということですか?」
今猿さん
「そこまでしなければならないのか、現状のままで突っ走れるのか、ちょっと今の時点では何とも言えませんね。ただちょっと眺めただけでおかしいなと思いましたんで」
宇佐美
「今猿さん、そのう6リットルならOKとか18ならダメとかいうのはどのように調べたらいいんですか?」
今猿さん
「そうですね、それが重要ですね。
そういうことは頭で考えてもわかりません。担当している人に問い合わせたり、実際に実験したりして確認することが必要でしょう。点数とか考える以前のことです」
宇佐美
「と言いますと?」

今猿さん
「この前の三葉先生の監査の時、永井永井さんという方がいました。彼は施設管理をしていると言ってましたよね。彼に排水溝に何リットルの油を流したら問題かを問い合わせたらいいでしょう」
宇佐美
「ああ、なるほど。でも油の量が多いと環境影響も大きくなるのは分かりますが、何リットル以上だと問題が起きる臨界点とか限界のようなものがあるのですか?」
今猿さん
「学食の厨房から出る排水は直接下水に入っていないはずです。厨房排水管の途中にストレーナと呼ばれるゴミを取り除く網があり、その後ろに油水分離という油を取り除く装置を通ってから下水につないでいます。
ですから少量の油なら油水分離でおさまります」
三木の家内です
「あります、あります。私たちは毎日ストレーナを開けて野菜くずや流れてしまったポリ袋のカスなどを取り除いています。油水分離装置もありますが、あれには私はタッチしていません」
増田准教授
「なるほど、でその油水分離で何リットルまでは大丈夫なのでしょう?」
今猿さん
「それこそ永井さんに聞いてみなくちゃ分かりません。もし永井さんが知らなければ実験をしてみるとか必要でしょう。
そして厨房から流出しても油水分離で処理できる範囲は著しくなく、それ以上の油が入っているフライヤーが著しい環境側面になるのかと思いますよ」
増田准教授
「なるのかと思うおっしゃるのは? それ以外の要素もあるのですか?」
今猿さん
「つまりですね、そもそもどんな理由でフライヤーを著しい環境側面にしたのか、私はわかりません。
食用油の環境影響を油流出時の環境汚染とみているなら油水分離装置の能力次第でしょう。しかし環境影響が食用油の消費ということも考えられますね。もっとも食用油の消費を著しい環境側面にしたならば、フライヤーの大きさではなく年間の消費量によって著しいか否かを判断すべきでしょう。フライヤーは消費量で大きさが決まるのではなく、揚げるものの大きさで決まるわけですから。
あるいは環境影響が火災の危険かもしれません。それならまた違う評価基準が考えられるでしょう。フライヤーの容量でなく保管量とか・・・
まあ、そもそもがエクセルボーイが店舗の違いがフライヤーしかなかったから算式をそうしたのだというのなら、あまりまじめに考えることもなさそうですね」
宇佐美
「そこまで事実の裏付けが必要なら、僕がエクセルをいじるだけでは著しい環境側面なんて決められませんよ。実際にどんな危険があるのか、発生する確率はどれくらいか、知りませんもの」
増田准教授
「なるほど・・・いやはや大変難しいのですね」
今猿さん
「あのう、こんなことを言っては失礼ですが、著しい環境側面を決めるのはエクセルの算式を作ったり、キーボードを叩けば一丁上がりと思うのが間違いです。
私も決定的なことは言えませんが、今フライヤーのことを話しましたが、フライヤーの環境側面を考えたとき、漏洩時の汚染、資源枯渇、火災、健康その他いろいろな観点で評価しないとならないでしょう。もちろんフライヤーだけでなくすべての側面についてあらゆる影響を考慮しないとならない。とりあげた環境側面が環境にどんな影響がどれくらいあるのか、事故が起きたらどんな被害が出るのか、あらゆる環境影響を総合的に考えなくてはなりません。
今の方法にもいろいろお考えがあると思いますが、それで良いのかどうか・・ちょっとおかしいところがあるようです」
三木の家内です
「今猿さんはすごいですね。お話をお聞きすると環境側面ひとつでも通り一遍ではいかないとよくわかりました」
今猿さん
「アハハハハ、ご冗談を、まあともかくフライヤーだけでなく、その他の著しい環境側面としたものも本当かなという気はしますね」
増田准教授
「今猿さん、笑っている場合じゃありません。どうすればいいんでしょう?」
今猿さん
「先ほど言いましたでしょう。一度戻って改めて見直すのか、現状のままで突っ走るのか、それはISO認証までのスケジュールとか、実際との乖離の状況、審査に耐えられるのか、大学内の関係者の考えの調整とか」
増田准教授
「まあ最重要というか唯一の問題は三葉先生のお考え次第ということだな」
今猿さん
「おっと、逃げるわけじゃありませんが、私はそういう決定には関わりませんよ。皆さんが決めたことを実現するために最大限の支援を行うのが商売です。みなさんがバーチャルなものでも素早くISO認証したいというならそれを、実態に合わせたものにしたいというならそれをお手伝いするのが私の仕事です」
増田准教授
「今猿さんから見てほかの要素はどうなんでしょう? 法規制の調査とか、」
今猿さん
「正直言って今までおたくのシステム構築には関わってきてません。途中から関わるのは本意ではないんですよ。まあお金になるなら何でもするわけですが」
増田准教授
「つまり今までの活動は今猿さんから見て正統派ではなかったということですね。三葉先生はまわりから大御所と思われているから裸の王様でここまで来てしまったのかな
おっと、独り言です独り言」
今猿さん
「このメンバーでもう少し問題点をクリアにして方向性というか選択肢を検討して、三葉先生に報告されたらいかがですか。最終的には三葉先生の決断でしょうし」
増田准教授
「そうですね、そいじゃこの場で法規制などの問題を再確認したいと思うのですが、よろしいですか?」


増田准教授が三葉教授の約束を取って部屋を訪ねたのはその三日後だった。増田はかなり緊張していた。正直、今猿か三木と一緒に来たかった。だがそうもいかない。

三葉教授 増田准教授
三葉教授 増田准教授

三葉教授
「やあ、増田君、ISOのほうはどうかね、順調か?」
増田准教授
「はあ、本日は現在までの進捗の報告と、これからの方向性についての確認をいたしたいと思います」
三葉教授
「なんだ仰々しいなあ」
増田准教授
「実は・・・」
増田は1時間ほどかけて、資料と口頭で現在までの状況、判明した問題点、そして規格と実態の齟齬、それが生じた原因などを説明した。
三葉教授
「うーん、私が専門家のアドバイスをもらわずに突っ走ったことが原因か」
増田准教授
「いやそんなことでは・・・ただ今回、今猿さんと三木さんという専門家じゃありませんが人生経験の長い方からのご意見をいただき、いろいろな角度から見ることができたかとは思います」
三葉教授
「なるほど、でリカバリーするにはどうしたらいいんだね?」
増田准教授
「まずこの大学のISO認証の目的がなにかということになります。とにかく認証することだというのであればこのまま突っ走り、実態に合わないところは後々修正していく、ISOでは継続的改善というのでしたっけ、そういう方法でも間違いではないでしょう。
そうではなく学生や職員の環境意識向上と環境を配慮した事業活動を推進するためであるというなら、時期が・・・そうですね予定より10か月くらい遅れても新規まき直しでやり直すという方法もあると思います。まずはその辺をはっきりすることから」
三葉教授
「大学でISO認証したというのももう数多く、今更数か月早くても遅くてもあまり対外的な効果は変わりないな。
それと知ってるだろうけど、おれは一応5年契約ってことになっているんだ。ISO認証しようというのは俺が打ち上げた話だから、なんとしても在任中には認証したいと思っている。
ここに来て3年経過したけど、増田君のいう新規まき直しをしてもあと2年あればできるだろう。どうだ、やってくれるか」

増田は三葉教授から責任逃れとかイヤイヤ言われるだろうと予想していたので、その返答にいささか驚いた。

増田准教授
「私は内部監査の責任者と伺っておりましたが」
三葉教授
「今まではわしが指揮してきたが、結果として学生にもみんなにも迷惑をかけてしまったようだ。君が専任になって推進してくれたらうれしいな。今報告してくれたようにいろいろと調べてくれたし、もうわし以上にISOについて詳しいように思える。
おっと責任逃れする気はない。理事長との交渉とか大学内の調整は私が責任をもってする」
増田准教授
「誰がするにしろ、これからやり直すことが山積です」
三葉教授
「おれも企業にいたときはプロジェクト崩れとか事業撤退なんかには随分と関わってきたよ。失敗とか退却はゼロにはできないし隠してもしょうがない。
文書改訂だって実際に運用された結果が反映されているならそれは良いことだ。ただ同じ平面をグルグルと回っているようなのは困るね。ISOにあるようにスパイラルアップしていくなら改定とかやり直しがあるのは必然だろう」
増田准教授
「分かりました。三葉教授のお考えのとおり進めさせていただきます」
三葉教授
「頼むわ、それにしても」
増田准教授
「ハッ?」
三葉教授
「たいしたことじゃないけどさ、君も名前を出したけどあの三木さんてパートさんがいるよね。あの人はなんかただ者じゃないって気がする」
増田准教授
「私もそう思います。今猿さんも一目置いているようです。なにかISOに関わりがある仕事をしていたのでしょうか」
三葉教授
「一度俺の講義で話をしてもらおうかな」

増田はひと安心して三葉教授の部屋を出た。これからすることは山積しているが、心労の心配はしなくてよさそうだ。
それとこれからパートの三木さんを内部監査員だけじゃなくて、ISO事務局として来てもらおうかな。いや学食をやめて大学がパートの事務員として採用してもいいかもしれない。通勤など福利厚生を込みしても、今学食に派遣費用として払っているよりも安くつくかもしれない。ISO認証してからは・・・まあそのときはそのときだ。三木さんだって60過ぎているだろうから認証したら仕事がなくなっても文句を言わないだろうと増田は考えた。


その週末、金曜日の夜である。三木が三日ぶりに帰宅した。玄関に陽子が出迎えた。
陽子はもともと陽気なほうだったが、パートに出てからますます元気に若くなったように見える。三木もそれはうれしい。

三木の家内です
「おとうさん、もう季節がらお酒じゃなくてビールがいいでしょう。今日の肴は枝豆とカツオの叩きよ」
三木
「おお、そいつはいいねえ〜」
枝豆ビール
素早く着替えて二人は乾杯する。
妻と飲むビールは格別だ。
三木の家内です
「あなた、相談があるのよ」
三木
「なんだい、学食のパートを辞めるとか?」
三木の家内です
「当たらずとも遠からずね」
三木
「そりゃ40年も夫婦をしているからね」
三木の家内です
「正確に言えば学食を辞めて、大学のISO事務局のパートにならないかっていうのよ。
大学としては学食から派遣してもらうより直接雇用したほうが安くつくみたい。学食としても忙しいときに抜けられるとシフトも乱れて困る。私としては落ち着いて同じ仕事ができるし、時給が100円くらいアップするという、三方よしというわけね」
三木
「そりゃいいじゃないか、することは今と変わらないんだろう?」
三木の家内です
「でもISO認証後の雇用はどうなるかわからないみたいなのよ」
三木
「そんなこと言ったら、学食の雇用だって安定しているわけじゃない。昼飯を食べる学生が減ったら、契約は更新しませんと言われておしまいだよ」
三木の家内です
「あら考えてみればそうよね。じゃあ受け入れるか、アハハハハ」
三木
「それでさ、ISOの進捗はどうなんだ?」
三木の家内です
「それがね・・・・」

うそ800 本日の振り返り
私の物語には根っから悪人という人は出てきません。というのは、私は心が真っ黒という人には会ったことがないからです。
もちろん過去私の会社人生で、私をいじめた人、言うことを聞かない部下、恨んだ上司は何人もいます。でも彼らも根っからの悪人ではなく、ミスを合理化したい、責任を転嫁したい、あるいは心が弱くてスケープゴートがほしかったのだと思います。そう思うと、彼らを恨むことは私自身の心の平安を乱すだけで、忘れるのが一番と思います。
かしと続くのですが・・・
ISO審査員の皆さんは絶大な権力を持ちながら、間違えを認めず己の考えをごり押ししたのはどうしてなのか、これはいまだに理解できません。駄々っ子(ジャイアン)だったのか、コミュニケーション能力がなかったのか、非論理的なのか、単なる考えなしで盲目の殺戮者だったのか・・・
彼らに、倫理的で、心が広く、外交的で、協力的、適応性、決断力があったとは思えない。

これらはISO17021:2011の付属書Dで審査員に求めているものである。


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