審査員物語 番外編48 木村物語(その2)

16.12.01

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基にしております。また引用文献や書籍名はすべて実在のものです。

審査員物語とは

品質保証の国際規格
◇ISO規格の対訳と解説◇
増補改訂版
監修 久米 均
日本規格協会
木村は本社出張から戻ってすぐ、技術管理課の五十嵐さんにISO規格の本の購入を依頼した。すると五十嵐がその本を取り出してきた。五十嵐は木村が必要になるだろうと思って手配していたよと笑う。五十嵐さんは顔に似合わずいい人だ。木村はありがたく対訳本を押し頂いた。
それから木村は川崎工場の品質保証課に、ISO認証が必要となったこととその指導をお願いし訪問日程を調整する。

木村が本社に友保ともやすを訪問して2週間後、木村は川崎工場の品質保証課を訪ねた。
課長と担当者が対応してくれた。
遠藤課長寺岡さん
遠藤課長寺岡さん

木村
「静岡工場の木村です。私どもの工場では欧州に輸出しております。ご存知と思いますが欧州統合によって域内で販売するにはISO9001の認証が必要となりました。静岡工場では標準品というか一般市販品だけで今までお客様と品質保証協定など取り交わしたことがなく、品質保証という機能がありませんでした。そこで本日は品質保証の基本を教えていただきたくお邪魔いたしました」
遠藤課長
「ウチも欧州に輸出しているのでISO認証が必要になるんだ。1年後に審査を受ける予定で、この寺岡君をメインに準備を進めている」
木村
「ええっ、そうなんですか。ウチよりも半年早いスケジュールですね。できればイベントごとに見学させていただけますか」
遠藤課長
「いいともと言いたいが、本社の友保君次第だな。彼がウチの認証準備から審査まで付きっ切りで見学して、それをほかの工場に展開したいようだ。彼も情報を手放したくないだろうし、我々としても他の工場から大勢立ち合いに来られるよりも、本社の人が一人で見学して、それを他の工場に広めてもらった方がありがたい」
木村
「なるほど、それはわかります。まあ、今後いろいろとお伺いするかと思いますがよろしくお願いします」
遠藤課長
「いいとも、そいじゃ私はここで失礼する。あとは寺岡君頼むわ」

遠藤課長は席をはずした。
木村
「お宅はずいぶんISO認証が具体化しているのですね。今後いろいろと教えてください」
寺岡さん
「ウチは欧州の機械部品メーカーにOEMで提供していますからね。時間がなくて大変ですよ。課長はISOなど問題ないだろうと安心しきっていますが、課長も細かいことを知りませんからねえ〜」
木村
「お宅は過去から品質保証協定を結んできたわけでしょうから特段難しくないと思いますが」
寺岡さん
「冗談じゃありませんよ。品質保証協定とISOはちょっと違うのです」
木村
「私は全くの素人でして、その辺から教えていただけますか。そもそも品質保証協定とはなんでしょうか?」
寺岡さん
「えっ、品質保証協定をご存知ない! そいじゃ初歩の初歩からいきましょうか・・・
品質保証というと品質をしっかりするとか品質の責任を負うこととか、そういう意味と思うかもしれません。そうじゃないんですよね
元々英語の訳でして、英語では「Quality assurance」といいます。Qualityは品質ですがassuranceとは何でしょうか。それは日本語でいう保証ではなく、確信とか自信、あるいはずうずうしいとかそういう意味なんです」
木村
「ずうずうしい?」
寺岡さん
「まあそういう意味もあるということで・・・・ともかく品質保証とは、お客様にウチの製品は大丈夫だと説明することです」
木村
「うーん、よくわかりません・・・というか全然わかりません」
寺岡さん
「品質保証とは『品質が悪ければ損害を補います』ということじゃなく『品質が良いことを相手に説明すること』なんです」
木村
「はあ?」
寺岡さん
「もちろんお客さんに、ただ『うちの製品は良い』と語っても信用してもらえません。『品質が良いことを相手に説明する』とは、その製品がしっかり作られているという証拠を示すことです」
木村
「ほう?」
寺岡さん
「簡単に言えば、例えば5Mなんてのがありますよね、その5Mが計画した通りに守られたことを説明することです。
例えば部品や部品が仕様通りのものを使っていることを示すには、受入検査の仕組みとその記録を提示するとか、製品に使われた材料についていたミルシートを提示するとか、まあ証拠を見せるといってもいろいろありますね。
製造工程が工程設計した通りであることを示すには、QC工程図と実際の仕事の記録を示すとか、作業者の教育訓練記録を示すとか」
木村
「なるほど、そうしますと部品、工程などのたくさんの記録を作成することになりますね」
寺岡さん
「その通り、そしてその前提として工程設計いや製品設計の詳細な手順を決めた文書、もちろんそれにどの工程でどんな記録を作成するかを決めた文書も必要になります」
木村
「なるほど手順を文書で決めて、その手順を守ったことを記録で示すということか」
寺岡さん
「そして問題が起きたなら、ルールが守られていたかの証拠調べをして、手順が守られていなかったならなぜ手順を守らなかったのかを追求し、手順が守られていて問題が発生したならその手順を改定することによって再発を防止する」
木村
「考え方は我々が昔からやって来たことと同じですね」
寺岡さん
「そうではありますが今までは感覚的というか厳密でもなく徹底的でもありません。それになによりも記録を残しませんでした。品質保証とはまず文書で仕組みをはっきりさせて、その文書が決めたことを記録で実行したことを証明するのです。
ですからあいまいなところ、なあなあということをなくしてしまいます。そしてすべてが文書にされますから時間が経っても決めたことが風化するということがありません」
木村
「確かに約束事やくそくごとが風化することはないでしょうけど、水臭いというか面倒くさいことですね」

約束事とは: 約束事とは、論理的根拠があってのことではなく、打合せとかお互いの協議の上で決めたこと。
交通信号 右側通行とか左側通行あるいは赤信号は停まれというのは理論があって決まったわけではありません。成人となる年齢も理論的根拠があるわけでなく、国会で決めただけです。そのようなみんなが相談したり、権力者の鶴の一声とかで決まったものが約束事といいます。
それに対して2かける2が4とか、円周率が3.14とか、半数致死量なんてのは理屈とか実験で判明したことですから誰が決めたわけでもありません。当然話し合いで変えることもできません。
なお、約束事を調整事項という言うこともあります。

寺岡さん
「面倒くさいとも言えるし、安心できるともいえるでしょうね。ともかくそれが品質保証というものです」
木村
「なるほど、」
寺岡さん
「ええとそういった約束といいますか、我々にとっては一方的な指値さしねというか要求事項ですが、それらを取引基本契約書には書ききれません。それでそういう要求を書いた品質保証協定書というものを作成して双方サインして契約書の添付文書とします。
静岡工場では標準品ですから、お客様は不特定多数ということになる。我々のお客様は機械メーカーです。ということでそれぞれの客先と品質保証協定を結んでいます」
木村
「要求事項とおっしゃいましたが、具体的にはどんなことが書かれているのですか?」
寺岡さん
「通常の取引では検査方法とか品質水準なんて取り決めますが、品質保証協定書の内容は作業者の訓練とか計測器の校正とか倉庫で保管する条件とか、まあ言いたい放題ですよ、アハハハハ
まあそういう取り決めをいかに満たすかを我々品証部門が考えるわけです」
木村
「へえ! そんなに細かいことまで記載したら製造工程が丸裸になってしまうじゃありませんか」
寺岡さん
「そうです。でもお金を払うお客様が要求するなら仕方ありません。
もちろん丸裸になるつもりはありません。品質保証協定の要求にどう対応するかはまた一段階ありますからね」
木村
「なるほど品質保証協定とはそういうものなのですか。すると品質保証課というのはそういうことをしているのですか?」
寺岡さん
「そうです。ここには検査課と品質管理課と品質保証課があります。検査課は不良品を出荷しないこと、品質管理課は不良をなくすこと、そして品質保証課は顧客に品質が良いことを説明することが仕事、簡単に言うとそういう区分けですね」
木村
「なるほどなあ〜、その論では静岡工場には検査部門と品質管理部門しかありませんね」
寺岡さん
「B to Cならそれでいいのです。品質保証を要求されませんからね。B to Bの取引で買い手が力があると品質保証を要求します。そうなると品質保証部門が必要になります。
売り手が力があるとか他に供給者がいなければ売り手にとっては我が世の春ですよ」
木村
「しかしお客さんによって要求することが違うことってあるでしょう。いやお客様によってだけでなく品物や用途によっても要求されることが違いますよね」
寺岡さん
「その通り。客先によって全くと言っていいほど品質保証協定の要求事項が違います。ですから我々はそれぞれに合わせるのではなく、最大公約数的にどれも満たすようにするしかありません」
木村
「どれも満たすようにするとは?」
寺岡さん
「例えば顧客Aが計測器を半年ごとに校正しろと言い、顧客Bが1年ごとに校正しろと言ったらどうします」
木村
「別々に管理するのは大変でしょうね。おっと実際には顧客はふたつじゃなくて多数あるんじゃないですか?」
寺岡さん
「そうなんです。もし校正費用がかからないならみんな半年毎に校正するのが良いでしょうし、校正費用がかかるならA社対応の計測器だけを半年間隔にしてそれ以外を1年間隔ということになりますね」
木村
「それは・・・・面倒でしょうねえ」
寺岡さん
「そういった違いは計測器ばかりではなく特殊工程の該否、温湿度などの環境条件、技能認定、記録作成の要否など多岐にわたります。ですから客先要求にどう対応するかということは我々つまり品証部門だけでは決めかねますんで、関係部門で打ち合わせをします。難義することは多いですね」
木村
「それは・・・大変ですね」
寺岡さん
「そうなんですよ。ISO9001はそういった顧客の要求事項のバラツキをなくし一本化することが狙いだったといいますが、現実にはさらに一つ追加になったという感じでしょうか」
木村
「でも品質保証要求事項のバラツキが統一されるわけでしょう」
寺岡さん
「そこんところもはっきりしないんですよ。例えば計測器の校正間隔なんてISO規格では決めてない、それは供給者と顧客が決めることとなっている。今まで要求事項が異なっていたのは必要だから異なっていたわけで過去のバラツキはそのまま継続するでしょうね」
木村
「わー、それじゃ」
寺岡さん
「そんな大変じゃないですよ。我々品証の仕事ってそういうものですから。まあ従来よりは項目も共通化されてわかりやすくなったと思えばね」
木村
「細かいことですが、従来の要求事項にあってISO要求事項にないものもあるでしょう。そういった場合、客先はISO認証だけでなく漏れてしまった項目については別途品質保証を追加要求することになるのですか?」
寺岡さん
「するどいですね。そのへんはわかりません。追加されることになるのではないかと思います。
なぜならひとつにはお客さんは今まで必要だから要求していたということがあります。
もうひとつの理由として、ISO規格では規格で定めたことで不十分な場合は修正(テーラリング)を行うこととあるんですよ。つまりISO規格自体が己では不十分であると認めているのです。ですから過去からのバリエーションは継続するでしょうね」

ISO9001:1987
0.序文
これらの規格は、通常このままの形で用いることを意図しているが、時には契約の特殊性に応じて修正(テーラリング)が必要な場合もあるかもしれない。

ISO9001の認証が始まった1992年から1993年頃の話
それ以前から品質保証協定を結んでいた会社は当然、校正間隔とか特殊工程の認定基準とかを明文で取り交わしていた。ISO9001を認証したらそれ以降は二者監査を廃止するということだったので、差分をどうするのか気になった。複数の取引先に何度か問い合わせたことがあるが、明確な回答が来たことはなく、なし崩しというか公式な取り決めなしで校正間隔などの指定があいまいになり、やがてなくなり、かつ二者監査も立ち消えになった。
顧客側が品質保証協定の締結や二者監査の実施が面倒になったのか、あるいは外部からISO認証して更に品質保証協定の締結や二者監査の実施をすることに横槍が入ったのかはわからない。
NTTの調達基準であるNCASがWTO違反だとか言われたときだから、顧客だけの判断で止めたのではないような気がする。
納入側としては少し楽にはなったが、なにか腑に落ちない。


木村は川崎工場から帰ってきていろいろ考える。まず川崎工場を見習って工場内にISO認証のためのプロジェクトを作らねばならない。これは品質管理課だけではどうにもならない。それも総務や資材や設備管理などまで含めた体制を作らなければならない。
それから詳細計画のWBSを作らなければならない。おっと、その前にもっと情報収集しなければならない。

うそ800 本日の思い出
私が最初にISO9001の認証に取り組んだときは、まったく右も左もわからず試行錯誤でした。当時まだISOコンサルは存在しませんでした。私より遅く認証した会社の担当者がコンサルというビジネスを始めたのを見て驚きました。
あのとき私もコンサルを始めていたらまったく別の人生があったかもしれません。95年頃まではあまり仕事がなかったでしょうけど、96年以降はウハウハ状態だったと思います。そして2000年以降は建設関係の認証ブームがあり、更にウハウハ。でも2006年頃からは商売あがったり・・今頃は路頭に迷っていたりして? ということは我が世の春は10年間か?
やはりリアルの人生が良かったようです。

うそ800 祈願成就
以前、1話6000字以下にすると誓ったが実際にははるかにオーバーするのが常であった。今回は5800字であった。メデタイ


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