審査員物語66 木村と話す

16.02.15

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基にしております。

審査員物語とは

いよいよ退職が近づいた三木が私物を片づけていると木村がやって来た。

木村
「三木さん、お片付けですか?」
三木
「ここにいるのもあと1週間だ。木村さんにもいろいろとお世話になりました。
ここんところ、ろくな仕事もしておらずみなさんに申し訳ない」
木村
「そんなことありません。三木さんは我々の相談相手、ご意見番です。存在するだけで価値があります」
三木
「オイオイ、冗談言うなよ。ところでなに用だい?」
紙コップ
木村
「悩み事相談というか、愚痴を聞いてほしくてですね・・・」
三木
「あっちに行ってコーヒーでも飲もう」

二人は紙コップにコーヒーを注いでそれを持ち、空いている会議室に探して入る。
三木
「木村さんは私より二つ下か・・・もう老後の設計はバッチリだよね?」
木村
「それが問題でして、相談事ってそれなんですよ。
以前はここで定年になったらISOコンサルをしようと思ってましたが、今はISOコンサルの仕事なんてありませんねえ〜」
三木
「確かに新たに認証しようという企業が減ってきているからね」
木村
「それもありますが、それだけじゃありません。審査でしち面倒くさいことを言わなくなりました。まあそれが当たり前なんですけどね、ほんとを言えば当たり前になったというより、あまりうるさく言うと企業の方が他の認証機関に替えてしまうので、客を逃がさないために形ができていれば多少ほころびがあっても文句を言わなくなりました。それで審査をいかにパスするかとか、どういう文書ならいちゃもんが付かないかなんてことを教えるコンサルは無用になりました」
三木
「確かに5年前10年前はどうでもいいことを、ああだこうだと文句をつけていたからね。
方針に規格の言葉、例えば『枠組み』とか『継続的改善』という語句がないからって不適合を出した先輩もいたけど、あれはなんだったのだろう?」
木村
「まあ、それはちょっとというか明らかにひどい話ですが・・・最近は逆な方向にとんでもない状態になってきています。私が参加したISO9000の審査ですが、製品設計をしているにもかかわらず適用範囲で設計を除外していたのに、従来から問題としていなかったようです。その時は審査リーダーが除外するのを止めてくださいとお願いしていましたよ。私は品質のほうは資格が主任じゃなくて審査員なので陣笠で見ていただけですが」
三木
「はあ? それについて規格が変わったのは2000年だったはず。当初は明確な理由があれば設計の除外はできたかもしれないけど、今はできなかったんじゃないの?」
木村
「あとでリーダーに聞いたら、その会社を指導した人が東山とかいう有名なコンサルで、力関係で不適合にできないとか言っていました。リーダーは東山と個人的にも面識がありしがらみもありそうでした」
三木
「ふーん、まあそんなことは多々あるのだろうなあ。
ところで話は戻るけどISOコンサルがだめとして契約審査員ができるじゃないか?」
木村
「それなんです。契約審査員も仕事量が減ってきていましてね、とても10年前のようにはいきませんよ。それに手間賃がもう・・・
正直言いまして退職してからも、現状程度の年収を稼ぐ方法がないものかと考えているのです」
三木
「なるほど」
木村
「以前認証維持の仕事というのがあるとお話したことがあったかもしれません」
三木
「うん覚えているよ。中小企業ではISO認証しても、それ以降の文書のメンテなんてできないので、手順書や法律のアップデートなどを手伝うという話だったね」
木村
「まあ実際には手伝うというより、請け負って一切合財するわけですが・・
少し前まではそういう仕事が結構あったんですよ。そんな仕事をすると手間賃が一社あたり20万とか30万くらいになったのですが・・」
三木
「その様子では今は違うのかい?」
木村
「そうなんですよ。先ほど言いましたが審査そのものがかなり手抜きというか甘いというか、細かいことにいちゃもんつけなくなりましてね、企業側もそれを分かって審査を真剣に考えなくなったというのか、審査を受けるにも手抜きでいいと考えるようになりました。
それと認証維持代行業も過当競争です。手間賃の相場も下がってしまい・・・もう商売になりません」
三木
「何事も需要と供給か」
木村
「確かに市場価格は需要と供給で決まります。しかし供給側はコスト割れすれば事業から撤退するしかありません。損してまでサービスを提供する人はいませんからね」
三木
「コンサルもだめ、代行もだめとなると何が残るのかね?」
木村
「本来なら経営コンサル、経営コンサルと言っても幅広いんですがね、経営そのもの、つまり製品企画や営業企画、管理、資金繰りとか、そういうことを指導できる能力があれば本来の経営コンサルができますね。もちろんお客様をつかむというのも大変なことなのですが。
あるいは特定分野のプロフェッショナルとして、情報システム構築の手伝いとか安全衛生や生産合理化、生産能率向上、海外進出なんてことが指導できればねえ。
残念ながら私にそういう能はありませんので困っているのです」
三木
「今は品質、環境だけでなく情報その他多様な認証制度があるからそういう審査員になったらどうですか?」
木村
「三木さん、ご冗談を。確かに多種多様な認証制度はありますし、新しい認証規格もどんどん増えている状況です。でも、その認証件数をご存知ですか。まあ壊滅状態ですよ」
三木
「壊滅とは?」
木村
片手とは5つのこと 「ISO9000が36,000件、ISO14001が19,000件ですが、ISO27000これは情報セキュリティですが10とか20件、ISO22000食品安全は2・300件、エネルギーのISO50001なんて大騒ぎしましたけど認証件数なんて片手ですよ、片手、ほんの5件6件しかありません」
注:いずれも2013年当時の登録件数。
三木
「すると品質と環境以外では審査員はほんの少しで間にあうね。いや、認証制度そのものが継続できるか心配しなければならないか」
木村
「三木さんは環境一筋だったからあまりほかのことはご存じないかと思いますが、認証件数の伸び悩み、減少はもう認証規格全体に及んでいます」
三木
「そういえば木村さんが以前検討されていた当社独自の化学物質管理システム認証はどうなんですか?」
木村
「アハハハハ、もう笑うしかありません。あれを始めたときは、あらかじめ審査を受けてくれる会社さんを10社ほど確保していたのですが、それを審査したらそれっきりです」
三木
「需要がないのですか?」
木村
「需要がないというか認証を受けるメリットがないのですよ。EUに輸出する際に優遇が受けられるわけでもなく、認証していれば事故が起きたときなにかバックアップとか保証されるわけでもなく。
ああISO9001だって14001だって何の保証もありません。でも大勢の企業がやってるわけで、まあ認証するのが世の中で一般的なことと思われているでしょう。つまりデファクトスタンダードとなっているわけです。数は力ですからね。しかし当社独自の化学物質管理システム認証なんてマイナーですから、だれも見向きもしませんよ」

三木は思い出した。もう1年か1年半前に木村からこの件を聞いたとき、うまくいくはずがないと思った。だがあのとき三木は余計なことだと思って、それを口にしなかった。当時社内では上も下も、何かしなければならないと思い詰めていたし、それに水を差してはいけないと考えたからだ。だが元々需要のないものを売るのは無理なのだ。
三木
「他の認証機関でも独自に化学物質管理システムの認証をしているところはあると聞くが」
木村
「ありますよ、JQ△とかエコ○○とか、でもどこも伸びてませんね。イヤ訂正、どこもからっきしです」
三木
「そうそうエコ○○と聞いて思い出したが、簡易EMSもあったね。神奈川あたりではエコアクション、京都ではKESとか盛んだと聞いている。木村さんはそういう方面の審査員になるということは考えてないのかい?」
木村
「三木さん、ああいったものは半分ボランティアなんです。エコアクションの審査員とは引退したISO審査員とか企業で環境担当していた退職者が手弁当で指導しているイメージですよ。収入を考えると職業として成り立つとは思えません。審査費用から考えても利益が取れる費用構造になるはずがありません。
そもそもISO審査と同じ審査員の賃金、認証機関の費用としたら審査費用も同じになり、簡易EMSじゃなくなりますよ」
三木
「なるほどなあ〜、」
木村
「話は変わりますが、三木さんは63歳でスパッと審査員を辞めて正解かもしれませんね。
私は個人的事情から63歳以降も働きたいのですよ」
三木
「でも元の会社にいたら嘱託になれたとしても、もう辞めなくてはならない年齢だろう」
木村
「だからこそいろいろと工夫してISO審査員になったのです。この仕事なら70くらいまで働けるだろうと考えたのですが」
三木
「木村さんの個人的事情はわからないけれど、そもそも70まで働く、それもそれなりに収入がほしいというなら、何年も前から計画して資格取得とか専門性を磨くとかしておくべきではなかったのですか」
木村
「ですからISO審査員になれば高収入で70まで働けると考えたのですがね」
三木
「私はISO審査員になれと言われるまでこの業界については全く知りませんでした。でも、木村さんは工場にいたときからISO9001とかISO14001の対応をされていたとおっしゃいましたよね。だったら認証制度が将来、将来といってもたかだか10年程度先にどうなるかは見えてたんじゃないですか。私たちが審査員になったのは21世紀になってからなのですよ」
木村
「我々が審査員になったのは2003年でしたね。あのとき登録件数が減少するとは思えませんでしたが・・」
三木
「過去のことを語ってもしょうがないかもしれませんがね、過去からの推移を外挿すれば高い確度で近未来はわかります。
ISO9001の登録件数が減り始めたのは2007年から、ISO14001は2009年からです。しかし変曲点というか増加の加速度が減少したのはそれぞれ2000年と2003年でした。でもそんな推移は私が審査員になれと言われた2002年でも今後の認証件数がどのようなカーブを描いていつ減り始めるか、推定できました

認証件数推移
木村
「へえ!そんなに早い時期から登録件数が将来減るということが分かったんですか?」
三木
「当時はまだノンジャブが強敵になるとは思えなかったとか、簡易EMSの出現など未確定なこと、予測できないことも多々あったでしょう。しかしISO認証それもJAB認定だけをとらえてもいろいろなことが分かりましたよ」
木村
「うーん、話を変えます。個人的なことですが私は可能な限り歳をとっても働きたいという状況なのです。それが前提です。三木さんのおっしゃるような情報が得られていたとして、どういう道を選べばよかったのでしょうか?」
三木
「やはり世の中で広く認められている資格をとってそれで仕事するとかいう方法が確実じゃないかな。さもなければその辺の工場で安い賃金で軽作業でもするしかない。
実際問題、定年退職した高齢者の仕事は、工事現場の交通整理いわゆる旗振りだな、それかマンション管理人、清掃作業、工場の軽作業、まあそんなものが定番だよ。ああそう言えば退職後に二種免許をとってタクシーの運転手になった人もいたな」
木村
「資格ってどんなものがありますか?」
三木
「どんなのが年をとってもできて収入が期待できるのだろうねえ〜
そういや私が60で定年になったとき、同期の中にこれから資格の勉強をしてそれで仕事をするんだと言っていたのが二人いた」
木村
「その方たちが目指していたのは、どんな資格でしょう?」
三木
「一人は不動産鑑定士だった。もう一人は弁理士だったかな」
木村
「私はその資格については名前しか知りませんが難しいんでしょうねえ。もちろん資格を取れば高い報酬が期待できるんでしょうけど」
三木
「アハハハハ、笑っちゃうよね。どちらも法的には60歳でも受験資格もあるだろうし、合格して経験を積めば仕事ができるかもしれない。でもさ、試験に合格するのも難しい、実務経験を積むのも難しい、そして実際に就職できるのか、ゆくゆく開業できるのか、そんなことを考えるともう計画というより妄想としか思えないよ。
あのさ、司法試験合格や公認会計士に合格した若い人たちが就職に困っている状況だよ。定年になってから難関資格を取ってなんていうのは・・・まあ老後の趣味に受験するならまだしも無茶もいいとこだよね
例えばさ、木村さんは、定年後に医者になったという人に診てもらおうって思うかい。他を当たるのが普通だろう」
木村
「ということは私の場合もう手遅れということですか?」
三木
「だめということではなくてさ、見る方向が違うんじゃないか。
若い時から社内外で培ってきた能力や資格そして人脈をいかに生かすかということじゃないのかな。例えば社会保険労務士なんてのがあるけど、単に試験を受けて資格を取りましたってだけじゃ誰も依頼してこないよ。会社の中でそういった仕事をしてきて、自己啓発のために資格を取ったような人が定年になったとき、関連会社とか知り合いとかいうつながりで仕事を取れるとか、そういう流れでないとね。
資格と言えば私も公害防止管理者を全部持っているけど、実際に仕事したことはない。単に審査に行くときはったりがきくだけさ、アハハハ」
木村
「じゃ私は品質管理とかそういうことならよかったのですかね?」
三木
「正直言って、私は木村さんがどんなことをしていたのか細かいことは知らない。考えなければならないのは、木村さんの担当していた品質管理というものが、世間で専門分野として認識されているのか、それは汎用性があって木村さんが他の会社でも能力が発揮できるのか、それに木村さんの力量が世間レベルから見てどうなのかということもある。 メダル
一般的に技術より技能、現場作業の方が第三者から見て力量が分かりやすいしすぐに成果を出せる。我々より少し年上の人たちが、大挙して韓国や中国に行って技術指導、正確に言えば技能指導だろうが、そういったことで大金を稼いでいたね。私の知人、その人は技能五輪で色は分からないがメダルを取った人だったが、中国で溶接の指導をしていたな。数年前に会ったとき、それをだいぶ自慢していた。もっとも向こうが技術・技能を吸い取ったら、即座にお払い箱になるんだろうけど。
そういうことは大局的に見れば日本産業にマイナスだったかもしれないが、個人的にはいっときでもお金を稼げてよかったんじゃないのかな」
木村
「専門的な技術技能がなければだめということですかね」
三木
「そりゃ高い賃金を欲するなら高い技術・技能がなければどうしようもないだろう。英語を話せますといっても、観光旅行で買い物ができるくらいではしょうがないしね」
木村
「私は品質も環境もISO事務局を担当してきましたが、そういった仕事ではどうでしょうかね?」
三木
「ああ、ISO事務局なんてのは専門分野としては成り立たないよ」
木村
「ええ、どうしてですか?」
三木
「そもそもISO事務局って何をする部署なんだろうねえ」
木村
「そりゃ内部監査をしたり、社員の教育をしたり、文書の作成や管理をしたり、認証機関との交渉もありますし、」
三木
「それはISOが本来業務から浮いている会社だよね。内部化されていないというべきかもしれない。
素直に考えれば内部監査は監査部がすることだし、社員の教育は人事とか研修部門の職掌だよ。文書の作成はそれぞれの部門だろうし、文書管理は総務とか技術管理部門の仕事だろう。それから、ええと、ああ認証機関との交渉か、まあどこの部門の仕事でもないなら総務部門の管轄だろう。総務の職務というのは、ほかの部門のしないことということになっている。企業というのは元々職務分掌がはっきり決まっているわけで、ISO担当のために新しい部署が必要なんてことはない」
木村
「でも普通の会社ではISO事務局がなければISO審査対応ができないじゃないですか」
三木
「そういう会社もあるだろう。でもさ、ISO認証というのは何も特別なこととか対応する部署が必要ってことはないでしょう」
木村
「しかしどこの会社にでもISO事務局ってありますよね」
三木
「さあね、私が審査した会社の中にはあるところもないところもあったよ。
例えば考えてごらん、消防署は定期的に消防施設とか避難訓練などの実施状況の点検に来るよね。あるいは客先から品質監査に来ることもある。ああ、ISO審査に似たものとしてULの定期検査もある。そういうことに対して消防署対応事務局とか客先品質監査事務局あるいはUL事務局なんてのがあるかい?」
木村
「確かに・・・そういう事務局を聞いたことがありませんね」
三木
「消防署は総務とか保安の片手間仕事だろうし、客先の監査なら営業あたりが関連部門を集めて会議すればおわりでしょう。
確かにISO認証をしようとするときは、どの会社でもプロジェクトを組んだり一時的な部署を作るかもしれない。しかし一旦認証してしまえば専門部署が必要とは思えない。むしろ内部監査とか文書管理などを特別扱いすることが会社の業務に内部化されることを阻害しているのではないだろうか」
木村
「三木さんのお話を聞くとISO事務局というものは必要ないって聞こえますね」
三木
「ああ、そんなものは不要だよ。
ちょっと話は違うんだが、ISO事務局をしていた人はISO審査員になるべきではなく、ISO審査員をした人はISO事務局になるべきではないな」
木村
「まあ審査員になったらISOすごろくの上がりですから、審査員より地位の低いISO事務局をするというのはないでしょうけど・・・ISO事務局が審査員になってはいけないとはどういうことですか?」
三木
「まず審査員が事務局というか企業側よりもレベルが高いということはない。そんな考えをしているなら審査員をすべきではない。わかるだろう。
ISO事務局がISO審査員になってはいけないというのは、ISO事務局をしている人は無能だからだ。ISO事務局がなぜ存在するか考えたら、まっとうな担当者はその仕事をなくそうとするだろう。それに思い至らないなら担当者なら考えが足りないし、考えても実行できないなら実行力がない。いずれにしても今ISO事務局をしている人は無能だから、ISO審査員になってもまっとうな審査ができないだろう」
木村
「ISO事務局を担当している人たちは優秀だと思いますが」
三木
「ISO審査員がみな優秀でないわけではないだろうが、優秀な審査員はいる。
しかし優秀なISO事務局はいない。日本中のISO事務局はすべて有能じゃないんだ。なんとなれば元々が不要な仕事なんだから。
しかしマネジメントシステムをISO規格に合わせるのではなく真に改善しパフォーマンスを向上させるには優秀でなければならない。そして優秀な人はISO事務局を廃止してしまうだろう。よって優秀なISO事務局は存在しない」
木村
「でもISO事務局担当者は少なくてもISO規格を理解しているわけですよね」
三木
「なことあるかよ。だってISO規格にISO事務局はないんだからISO事務局が存在するのはおかしいだろう。
本当にマネジメントを理解して実行力があるならば、ISOなんかとは無縁に会社の仕組み(マネジメントシステム)を改善するのではなく、最終目的であるパフォーマンスを大幅に向上させているに違いない。
ISO事務局ですとドヤ顔しているような人たちは能力がないだけでなく、自分が能力がないってことさえわからないんだよ」
木村
「いずれにしてもどこかの会社でISO事務局をするという道もないということか」
三木
「いやISO事務局のある会社で、事務局を廃止するという仕事を請け負うのもありかもしれないね」
木村
「とすると私のできることではもう生きながらえることはできないのか」
三木
「いやいや木村さんだけじゃなくて、認証制度全体がそうじゃないのかな。もう認証制度というビジネスが終わりに近づいてきたということだろう。
ISO9001が二者間取引の品質保証という役目のときはまだ存在意義があったかもしれない。しかし企業の品質マネジメントシステムであると定義したとき、もう先が見えたんだよ」
木村
「はあ、どういうことでしょう?」
三木
「もともと品質システムとか環境マネジメントシステムなるものは独立した存在じゃない。いやそんなこと私のアイデアではないよ。ISO9001でもISO14001でも定義に、組織の全体的なマネジメントシステムの中で、品質に関わる部分を品質マネジメントシステムという、環境に関わる部分を環境マネジメントシステムというと書いてある。
では認証とはなにかといえば、そういう組織のマネジメントシステムの一部が国際規格で決めた最低ラインを満たしているかどうかを外部の人が確認して一定レベルにあることを裏書きすることだった」
木村
「うーん、言われてみるとそうですねえ〜」
三木
「言われなくてもそうだよ。
しかしどんな物事でも時代とともにレベルアップしていくのは世の必然だ。昔々二次方程式の解法は先生から弟子に伝えられる秘法だったらしいけど、今じゃ中学生の必修事項だよね。
組織の環境マネジメントシステムが一定レベルかどうかをお金を払って外部の人に点検してもらうというのはおかしいと思うのが普通だ。そんなことは自分たちがすることじゃないか、どちらにしても最終責任は組織が負うのだから。そう思いませんか?」
木村
「でも審査員でなければ規格を満たしているかどうか調査したり判定したりできないじゃないですか?」
三木
「そんなことはないよ。監査の神様と言われているLMJが『組織を一番知っているのは組織の人だ』と言っているじゃないか。ISO第三者認証制度自体が過渡的な制度だったのだと考えられますよね」
木村
「そうすると認証制度は最終的には自己宣言になるのですか?」
三木
「自己宣言もいらないんじゃないかな。自己宣言をすると社会的に評価されると聞いたこともない。元々QMSの目指すところは顧客満足で、EMSは遵法と汚染の予防、それが最終ゴールだ。
ISO規格を満たすというのは代用特性みたいなもんだ。代用特性であるISO規格を満たしても、顧客満足が実現できなければ意味がない。規格を満たさなくても顧客満足を実現すればよいんだ」
木村
「それじゃ認証機関も審査員も要らないということになるのでしょうか?」
三木
「そう思うね。ディミング賞も小集団活動もある段階では必要だったけど、企業や働く人々の意識や技術が向上すれば次の段階に進むのは当然だよ。
木村さんだって覚えているだろう。1980年頃は各職場、現場だけでなく営業も資材もだよ、グループを作り職場の問題をみんなで解決しようと活動し、毎年その成果発表会もしたもんだ。
今はそんな活動をしていないけど、職場で自主的な改善活動をしてないわけじゃない。問題意識を持つこと、それをボトムアップも含めて改善していくということが当たり前のこととなった。社員だけでなくパートも派遣も改善提案をしてよければ採用され表彰される。そういうのが当たり前になっている。ISOで語っていることもISO審査がなくても認証を止めても、当たり前のこととして職場に定着していくんじゃないかな。
おっと十分に理屈があり効果があることだけだろうけどね。審査員の思い付きとかでたらめはすぐに淘汰され消え去っていくだろう」
木村
「じゃあ小集団活動と同じく、認証制度もやがてなくなってしまうのか」
三木
「消えてしまうということじゃない。発展的解消というか、そういうことが当たり前になるということで、それは望ましいことじゃないのかな。
とはいえ認証ビジネスというカテゴリーでは生き残るのは、万が一のとき損害を補償するあるいは保証する人の代行をするものだけじゃないかな」
木村
「そんな認証ってありましたっけ?」
三木
「ISO第三者認証にはない。だけど石油プラントの品質監査とか船級検査なんてのは保険会社の代理として審査をするわけだ。審査で合格すると保険会社が保険契約を結ぶ。ということは、問題があった場合、保険会社が責任を負うということだ。認証のそもそもの始まりは結果責任をしっかり負う仕組みだったんだよ」
木村
「責任を負うなら存在意義があるというわけですか」
三木
「そりゃ当然だよ。口先だけで責任を負わない人を誰が信用するんだ。我々第三者認証制度そのものが口だけで一切の責任を負わないという鬼っ子で、存在するのが不思議なしろものなんだ。
いや、そう否定してはいけないな。我々は各組織が自立した仕組みを作り運用できるまでの、過渡的というよりも一時的な産婆的な存在なのだよ。最後まで面倒を見て責任を負うのは親なんだ。企業の結果責任を負うのは企業であるし、自分がすることを決めるのも企業しかない。我々のするのはおせっかい」

しばしの沈黙ののち三木は口を開いた。
三木
「そんなことを考えると私が今審査員を辞めるのは必然であり潮時なのかもしれないね」
木村
「ええと、話を戻しますと、私は定年後どうしたらいいもんでしょうかね?
アドバイスいただけないですか」
三木
「木村さんの持っているコンピタンスを洗い直し、世の中の需要にあうものを提供できないか考えるべきでしょう。
それとなんていうかなあ〜、どんな製品でも寿命があってね、普通は6年長くてもせいぜい10年だよ。私は営業の現場にいて、常に次の製品を考えていた。木村さんもそういう先を読んでチャレンジするという心意気を忘れてはいけないよ」

木村は感心したように三木を見つめていた。

うそ800 本日の予告
この審査員物語もあっちに飛び、こっちに流れ、どうなるのかと思いましたが、なんとかゴールにたどり着きそうです。あと2回くらいでオシマイでしょうか。もう少々お付き合い願います。

うそ800 本日の後出し
諸事情によって年配になっても働きたい、そのためにISO審査員になったという方を何人か存じ上げている。いろいろ事情があるでしょうしその気持ちはわかるけれど・・・ISO審査員というお仕事がその要望を満たすとは思えない。
年老いても働きたいというには、余人をもって代えがたいと言わせるほど高いスキル、能力がなければならないだろう。凡人は凡人の生き方しかできない。


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