認識の理解

19.12.09
ヤレヤレ 先日買った「ISO14001規格と審査がしっかりわかる教科書」を読み返していて何度か「おっ!」となったので一文書く。
もっともこの本を読んでいて「えー」とか「うそー」と声が出てしまったのが何度もあり、全部書いたらきりも限りもない。いや、また書く気になったら(ネタがなくなったら)書くかもしれないけど……

書名著者出版社ISBN初版価格
ISO14001の規格と審査が
しっかりわかる教科書
福西義晴技術評論社42971089922019/11/201780円

とりあえず今回は気になった「認識を持たせるために教育訓練やコミュニケーションを行う(p.131)」について文をひとつ書く。
以下暇にあかせて考えたこと、いや妄想である。

「認識」を真面目に知りたい方は以前書いたこちらへ⇒「7.3認識」
「認識とは」

私がいつも語っているが、ISO規格(JIS規格)を読んでいて、分からないとか気になった言葉の意味を調べようと広辞苑(税別9720円)を引いても日本国語大辞典(同21万円)を引いてもだめです。その理由は明快で、ISO規格は英文であり、それを日本語に翻訳したとき元の言葉に近い日本語を当てたにすぎません。だから言葉の意味を知りたくば、日本語訳の言葉でなく原文で使われている言葉を調べなければなりません。

さて「認識」と日本語に翻訳された元の言葉は「awareness」です。
「awareness」は1996年版と2004年版では「自覚」と訳されました。2015年版では「認識」になりました。日本語訳が替わっても、まさか英語の意味が変わるわけがありませんし、ISO規格のなかの意味が変わったわけではありません。まずこれを踏まえておきましょう。

ところで「awareness」についての要求は変わったのか?

1996年版
4.4.2
組織は、組織で働く又は組織のために働く人々に次の事項を自覚させるための手順を確立し、実施し、維持すること。
a) 環境方針及び手順並びに環境マネジメントシステムの要求事項に適合することの重要性
b) 自分の仕事に伴う著しい環境側面及び関係する顕在又は潜在の環境影響、並びに各人の作業改善による環境上の利点
c) 環境マネジメントシステムの要求事項との適合を達成するための役割及び責任
d) 規定された手順から逸脱した際に予想される結果

2004年版も1996年版と一字一句変わらない。

2015年版
7.3 認識
組織は、組織の管理下で働く人々が次の事項に関して認識をもつことを確実にしなければならない。
a)環境方針
b)自分の業務に関係する著しい環境側面及びそれに伴う顕在する又は潜在的な環境影響
c)環境パフォーマンスの向上によって得られる便益を含む、環境マネジメントシステムの有効性に対する自らの貢献
d)組織の順守義務を満たさないことを含む、環境マネジメントシステム要求事項に適合しないことの意味

「環境方針に適合することの重要性」と「環境方針」の差異は何だとなると、私は分かりません。どうせ大したことは言ってないでしょう。ということでバージョンによる差異は無視して次に進みます。
さて認識でも自覚でも痔核でもいいのですが、「awareness」の意味は何だろう?
ISO規格では「awareness」は定義されていないから、ISOの決まりごとで一般的な意味で使っていることになる。

ロングマン英英辞典
  1. knowledge or understanding of a particular subject or situation
    特定の事柄または状況についての知識または理解すること
  2. the ability to notice something using your senses
    あなたの感覚で何かに気づく能力

通常日本ではセンスをセンスが良いとか悪いとか美醜の感覚として使われていますが、senseの本来の意味は「五感によって体の内部・外部の変化を感じる力」のことです。

わたしがひっかかったのは、「認識を持たせるために教育訓練やコミュニケーションを行う」です。この文章は単純にandでつながっていますから、「認識を持たせるために教育訓練を行う」と「認識を持たせるためにコミュニケーションを行う」の二つの文章になります。「認識を持たせるためにコミュニケーションを行う」は意味が通じるのでOKとして、「認識を持たせるために教育訓練を行う」は日本語と思えなかったのです。
この文章は著者が書いた文章であって、ISO規格(JIS規格)では「認識を持つことを確実にする」であって、「教育訓練(トレーニング)しろ」という要求はありません。

「認識」に「特定の事柄または状況についての知識または理解すること」を代入すると、「ある事柄または状況についての知識又は理解させるために教育訓練を行う」となります。言葉に定義を代入して理解するというのは法律を読むときのベーシックな方法です。
でも「特定の事柄または状況についての知識または理解する」というものをトレーニングできるものでしょうか? トレーニングって元々は調教するとかスキルを教えることです。
知識とか理解するとかってスキルなのかといえばスキルなのでしょうけど、訓練すれば身に付くかっていうとちょっと性格が違うと思います。そもそもスキル(skill)とは「学んだり練習することで身につく能力」のこと(英英辞典参照)

なにを言いたいかって言うと、私は「認識(awareness)を持たせるためにトレーニングを行う」という文章がおかしい、変だなあと感じたのです。考えたのではなく、感じたことにご注意ください。つまり感じることはスキルじゃなくてアウエアネスなんですよ。

2015年版の規格でawarenessを要求しているのは、

2015年版
a)環境方針
b)自分の業務に関わる環境側面とそれに伴う環境影響
c)環境パフォーマンスを向上することの効果
d)法や会社のルールを守ることの重要性

でした。
こういうことをトレーニングつまり馬🐎を調教するとか毎日練習問題を解くとかエンドレステープを聞かせれば、身につくのかと考えると、ちょっと違うんじゃないですかね? 説得するとか納得させるというニュアンスかと思います。
山本五十六 山本五十六が言ったとされる「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」という言葉があります。
この文章の中で「言って聞かせて」の意味するところは、ある一つの仕事なり作業について教えやらせるときに、その仕事の意義・重要性・効果ということを認識させないといけないよということでしょう。そういう前後をなくして仕事の意義とか効果だけを一生懸命に教える(トレーニング)だけでは、目的を果たすとは思えません。
だから「認識を持たせるために教育訓練やコミュニケーションを行う」というのは変だなと思います。
私は言い回しを変えて「必要とする力量を与える教育訓練(トレーニング)をするときは、その仕事の持つ意義について認識させる」とでもすればいいのかなと考えます。
ともかく「認識を教育訓練(training)する」というのがちょっと考えられません。

言い回しの違いだとか、著者はそういうつもりで書いたはずだとか、著者の語ることとお前の語ることは同じだとか……いろいろ反論とかご意見があるかもしれません。
そうでしょうか?
私はちょっと認識(この場合は一般的な日本語の意味です)が違うかなと思いました。だからこそそこにひっかかり、読み進めることができなくなったわけです。そしてそれは単に言い回しの問題ではなく、著者の考えがおかしいことに起因しているのではないでしょうか。


うそ800 本日の論点
awarenessの訳語が自覚とか認識とか転々と変わっても本質は変わらない。規格初版制定後20年以上経過しても、いまだそれを認識していない方がいるということは、自覚とはいかに困難なのであろうか!
なんては思いませんね。単にISO規格をしっかりと読んでないからです。あるものごとをしっかりと理解せずに他人に教えようってのは、自信過剰なのか自覚が足りないのか、いずれにしても自覚・認識の問題です。
規格を理解するとき、ない言葉を追加したり、ある言葉を省略してはいけません。

うそ800 本日の二伸
日々、この本を読んでおります。なにせISOに関する本などめったに発行されません。それに私は大枚2000円も投じてしまったのです。ですから酒の肴に、この本をしゃぶりつくそうと思っております。新たな発見があればまた三伸、四伸を追加する予定であります。
蛇足はいらないって 困ったなあ〜





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