CEARからJRCAへ

19.12.16
ISO14001の審査員資格は制度発足からCEAR(注1)が行ってきましたが、2019年10月にその登録事業をJRCA(注2)に移管しました。それについて考えたことを書きます。
昔々あるところに……そう語るほど昔のこと、第三者認証制度ができる前から二者間の品質監査はありましたし、品質監査をする人はいました。
イギリスでBS5570に基づく第三者認証制度ができたとき、認定機関はDTI(注3)でした。それが発展してISO9001となり、ISOMS規格の第三者認証制度ができたとき、各国に認定機関をつくり、認定機関の下に認証機関と審査員研修機関と審査員登録機関がおかれ、それらを認定機関が認定するヒエラルキーが作られました。
審査員になりたい人は、まず審査員研修機関で講習を受け修了試験を受けます。合格すると審査員登録機関に登録を申請し、登録されると認証機関に就職して審査員をするわけです。

認定機関は一国一機関ですが、審査員登録機関は一国に一つという縛りもなく、また日本で審査員するのに日本の審査員登録機関でなければならないというルールもありません。例えばIRCAという外国の審査員登録機関に登録している審査員も多数います。なんでもIRCAは日本の審査員登録機関のように書類の不備とか細かいことに文句をつけないからステキという話を聞いたことがあります。某認証機関は日本の審査員登録機関よりIRCAの登録料が安いからと、雇っている審査員全員をそちらに登録していました。
ともかく審査員として仕事するためには、審査員登録機関に登録されていることが条件でした。その後、別の審査員登録制度が作られたり、一つになったり変遷がありました。認証制度にも30年以上の歴史があるのです。もちろんそれぞれの組織・機関の呼び名も変遷がありました。

2011年にISO17021が制定されて、審査員は認証機関が審査員と認めればOKというルールになりました。そしてまた審査員研修機関は認定機関が認定するのではなく、審査員登録機関が承認することに制度が変わりました。
この結果、審査員研修を受けなくても審査員になれる、審査員登録をしなくても審査員になれるとなったわけです。となると審査員研修機関も審査員登録機関も存在意義がなくなってしまいました。審査員に登録することは、「資格」から「検定」にランクダウンしてしまったのです。

資格:
それを有していないと仕事につけないもの。
公害防止管理者資格をもっていれば公害防止管理者になれます。資格がないと能力があっても公害防止管理者になれません。
検定:
能力を外部の人が保証すること。それがなくても仕事はできる。おっ、ISO認証そのものですね!
実用英語技能検定を持ってなくても、英語を話すことは禁止されていません。珠算もワープロ検定も柔道の段位も囲碁の段位も同じです。
TOEICも、もちろん検定です。採用の際「TOEIC700点以上」といっても、それはその会社がTOEIC試験を借用しているだけです。

審査員研修機関で学ばなくても審査員になれるとしても、審査員研修機関には教育という付加価値があります。しかし登録がレゾンデートルそのものである審査員登録機関に存在意義はあるのか、制度が変わっても存続できるのか? それが当時 私の頭に浮かんだ疑問でした。

さて、いつか審査員になろうと考えて、会社勤めしていていながら大枚をはたいて審査員研修を受け審査員補に登録していた人は大勢いました。CEARが公表していたデータによれば、登録されている審査員の75%は審査員補でした。最大の時には8,700人もいたのです。20世紀には「私は審査員補です」なんて語ると、おおすごい!なんて思われたものです。当時は価値があったのです。
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しかし制度が変わって、種別に関わらず審査員に登録している効用はまったくなくなってしまいました。審査員登録制度に関わりなく審査員ができるなら、主任審査員も審査員も審査員補もありません。認証機関が「お前は虎だ、虎になれ」と言えばよいのです。
そして一般企業で働く人は、審査員補に登録しておく必要はなくなりました。出向とか転職して審査員になろうとしたとき、認証機関で講習を受けて「審査員として働け」と言われれば審査員なのですから。

では認証機関で審査員として働いている人であろうと、いつかは審査員と考えている人も審査員登録を止めてしまったのかと言えば、そこは簡単ではありませんでした。
実はそれ以前から大きな変化がありました。ISO14001の認証件数がピークだったのは2009年初めですが、EMS審査員登録数はそれより2年前に減少が始まりました。既に3年前から認証件数が減少していたISO9001の動向を見て、ISO14001もまもなく認証件数が減ること、当然必要な審査員も減ることが予想され、審査員補の人たちは審査員登録を止めたのでしょう。
2010年には審査員登録者数はピーク時から3割減り、制度が変わった2011年にはむしろ減少傾向が穏やかになりました。登録をやめようと考えた人はみなこの期間に登録をやめたのかもしれません。この期間において、審査員と主任審査員の合計は減っていないことに注目です。
それ以降は減少の傾きは穏やかになりましたが、それ以降も減少が続き2019年にはピークの40%まで減りました。

審査員登録者数推移

グラフからわかるように、審査員登録者数の減少は認証件数の減少以上です。初めの頃は審査員補の登録者の減少でした。これはいつかは審査員になろうと考えていた人たちが、その見込みがなくなったから登録をやめたからでしょう。
2013年頃から審査員や主任審査員の登録数も減り始めました。2019年の登録者数はピークの4割、認証件数も減りましたがピーク時の約90%ですから、登録者の減は認証件数の減よりはるかに大きかった。これは元々職業としていた審査員も認証件数に対して多すぎたのでしょう。それと急激に損益が悪化してきた認証機関が、審査員の有効な活用(稼働率向上)を図ったこともあります。
そして2020年以降も大きな制度改革がない限り審査員登録者数の減少は続くでしょう。

審査員登録していても認証機関に所属している方の審査員登録料は認証機関が払うでしょうから当人にとってはどうでも良いでしょうけど、契約審査員の方やコンサルの方は審査員登録の効果と登録費用を天秤にかけたはずです。

ちなみに… 企業内で内部監査だけをしていても、要件を満たせば審査員にも主任審査員にもなれますし、そういう方は結構います。もっともそれがいかほどの価値があるのかとなると謎です。
認証機関では内部監査や二者監査で審査員や主任審査員に昇格した方と、第三者審査で昇格した人は別扱いです。

まだ審査員と主任審査員の登録は減りが少ないですが、ゆくゆくは職業審査員で登録が必要な方だけが審査員登録をすることになると思います。つまり認証機関の社員審査員はともかく、契約審査員は働く認証機関が流動的でしょうから、審査員資格というよりも審査員の能力証明のために登録を継続すると思います。

ちょっと思いついたのだが…… ひらめいた 認証機関の社員として働くときは認証機関が審査員であることを保証してくれる。しかし定年退職後に、契約審査員として他の認証機関で働くためには、審査員の力量保証がない。それでその時点で今までの経験を基に審査員補でなく審査員又は主任審査員への登録申請する方法が考えられる。
この場合、審査員登録制度は信用保証協会や家賃保証会社の役割と同じになるのかなという感じもする。

さて登録する方はそういう状況ですが、審査員登録機関はどうなのか?
CEARが2019年10月で登録事業をJRCAに移管したということは、事業として成り立たなくなったということでしょう。
CEARの費用構造なんて、一般人は関係ありません。私も関係ないです。でも興味があるじゃないですか。それにこれから資格ビジネスとか登録ビジネスをしようというなら重要な参考情報になるでしょう。

環境マネジメントシステム審査員評価登録センターとはどんなお仕事をして、どんな収支状況だったのでしょうか。
以下は全く私の個人的推測であることをお断りしておきます。






収支推移
ではCEARの収支決算はどのように推移してきたのだろうか?
家賃、講演会、季刊誌の支出は固定と仮定する。
もちろん登録者数の減少に合わせて、事務員や委嘱している人の削減とかしただろう。講演会にしても、会場は登録者数の減少に合わせて小さなところを借りるなどしたに違いない。そういった種々の手は打っているだろうが、ここは簡単にするために一定とする。

以上をまとめた各年度の収支見積もりは次の通り

 単位:万円
審査員登録機関の収支

この数表はエイヤだからが数字に確信はまったくない(笑)
でもなんだ、誤差があるとしてもこれじゃ全然割に合わない

もちろん現実には固定費削減の努力は行っていると思う。しかし売り上げの減少は間違いない。そして売り上げ拡大を自助努力ではできないことが問題である。
時代の流れかどうかはともかく、審査員の登録数は減少する一方、それに連れて審査員研修機関も減る一方、産環協全体は多角経営であるが、その一部門であるCEARは売り物が一つしかない。ISO審査員登録制度が変わった2011年時点に事業終息のロードマップを考えていたのだろう。だが事業移管が2019年とは少し遅すぎないか?
審査員研修機関 確かに2011年からの審査員研修機関の激減そして審査員登録の減少は、予想外だったかもしれない。だが結果論として追い詰められてからの処置という事実は否めない。
もっともそれを言うなら審査員研修機関も同じだし、認証機関も同じだ。EMS審査員登録を引き継いだJRCAだって、時間の問題で明日は我が身であることは間違いない。
ここはISO第三者認証制度の抜本的見直し、制度よりもビジネスモデルを再考すべきだろう。
どうなるのか、これは来年以降の楽しみである。

以前も第三者認証制度の費用構造について考えたことがある。
興味があるならこちらもどうぞ!


うそ800 本日の期待
審査員研修機関は減る一方、審査員登録機関も事業統合となり、次に懸念されるのが認証機関の経営状況である。
しかし私は心配していない。ISO9001でもISO14001でも審査に来た審査員たちは「ISO規格は経営の規格です。ISOをやれば会社が良くなります」と語る。
オット、外資系の左右QAと美▼の審査員だけは、そんなことを言わなかった。
ともかく経営を指導できるドラッカー並みの審査員が多いようだから、認証機関は認証件数の減少については既に十二分に対応はしているだろう。いやいや、認証件数の減少だけでなく地球温暖化にも資源枯渇に対しても準備万端だと思う。
認証機関の今後は明るいと期待している。

おっと、認証機関や審査員研修機関それに審査員登録機関だけじゃない。認定機関はどうなのかとご心配ですか?
JABの経営は試算するまでもありません。公明正大に公表しています。過去から増益基調で心配無用です。
まさか一将功なりて万骨枯るなんてことは……ないと思いますよ。


注1
CEAR(環境マネジメントシステム審査員評価登録センター)は産業環境管理協会(産環協)の部門でISO14001審査員の登録を行っていた。

注2
JRCA(マネジメントシステム審査員 評価登録センター)は日本規格協会の部門でISO9001の審査員の登録を行っていた。2019年10月よりCEARの業務を継承した。

注3
DTIはイギリス貿易産業省と訳される。日本で言えば経済産業省である。ISO審査が始まっても1995年頃までDTIが認証機関を認定していた。後にイギリスの認定機関としてUKASが作られた。




外資社員様からお便りを頂きました(2019.12.16)
財務状況は、おばQさまのように、頭の働きがあれば公開資料で十分確認出来ますね。なるほど、このように大づかみしてみると、ISO認証(9000,14000)が飽和市場でRed Oceanなのが判ります。
五反田駅から御殿山へ行く途中に、JABの事務所があったのですが、いつのまにか無くなっておりました。田町に転居したのですね。
ご指摘の公開財務報告を見ると、昨年より賃料が変わっております。
150万→152万:微増ながら田町へ移動した方が良いと判断したのでしょうね。
五反田エリアは、東京シリコンバレーという名で、最近注目され賃料が大きく上がっております。田町近辺は既に高いので、同じ家賃ならと移転したのでしょうか。資産の部を見ると、敷金等が4100万→7800万へ大幅増加。なるほど、敷金は増えたのだと想像出来ます。

厳しい情勢で事業収益が増えているのは立派:12億→13.8億へ
支出では、委員手当(固定費?)は:8.7M→7.8Mへ減(人員減らしか、金額減だったのですね)
一般企業では外注費になると思われる「業務直接費」350M→414Mへ増加
これは売上が上がっているから、ある意味当然の結果。
そういう点で見ると、認証業務は登録審査員という専業の外注を使える、企業から見ると大変結構なビジネスモデルなのです。
一般企業では、外注や派遣を使いますが、外注は専業だと高め。
派遣は、個人差が大きくリスクあり。やっと仕事を覚えて使えるようになると、継続派遣は雇用期待権で、雇用の義務も出てきます。本当に使える人ならば会社としても歓迎ですが、多くは派遣費用を使って経験を積んで頂いている。
一方、登録審査員の場合は自費(?)で研修と登録をして、登録費用も毎年頂ける有り難い存在。資格なのでモラルも、派遣よりも高いのでしょうね。
そのように考えると、雇用側の負担を外注側が負う、雇用側には上手いビジネスモデルで、Red Oceanでも事業継続ができる理由が見える気がします。
似た様なモデルは、音楽教室。高いお金を払ってピアノを習い、音大を出て、教室を開けば毎年研修を受けてくれて看板料を払ってくれて、楽器も売ってくれる。
どちらも、派遣労働者では無いので、労働者としての法的縛りがありません。
浅学故知りませんが、職能組合が無いなら、団体交渉も出来ず使う側の理屈が通りますよね。

外資社員様 いつもご教示ありがとうございます。
経営なんてタッチしたことがない私と違い、立派な企業の経営者であられます外資社員様からみたら費目が漏れ漏れでしょうけど、そこは目をつぶってくださいな、
過去多くの認証機関は赤坂、渋谷あるいは銀座などに本社を置いていました。最近では神田や新宿など場末が多くなりました。家賃が倍は違うでしょう。
認証機関の審査員というのは社員といっても、出向受入者が半数くらいでしょう。認証機関が財団法人でも株式会社でも出向受入者の賃金負担は5割以下のはずです。ですからこれをジャンジャン活用して外注(契約審査員)を最低にするのがテクニックでしょう。
とはいえ大会社からの出向受入者の賃金負担が5割であっても費用負担は500万以上でしょうから、契約審査員より高くつくことになります。外資社員様が認証機関の経営者ならナタを振いどころがあると思います。
まあ審査を依頼する側からすればQCDのCを下げてもらうより、Qを上げて欲しいところです。ますます外資社員様の腕の振るいどころですね。
非常にうまみのあるビジネスモデルだったのですが、とにかく客がいなければビジネスになりません。今認証規格というのは9001や14001だけでなく校正機関や臨床検査など特殊なものを除いても、労働安全とかエネルギー管理など10種くらいあります。じゃあ前途洋洋かといえば、全体で約45,000件の認証がありますが、そのうち9001と14001で43,600件、なんと97%を占めています。ISO9001かISO14001がこければISO認証制度は崩壊です。
旨いビジネスモデルどころかハイリスクロウリターンですね。
ISO認証制度側は、ヤマハやアムウェイに商売を習ってビジネスモデルを再構築すべきでしょう。


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