「図解と実践トレーニングでわかる! ISO14001内部監査」

20.11.02
お断り
このコーナーは「推薦する本」というタイトルであるが、推薦する本にこだわらず、推薦しない本についても駄文を書いている。そして書いているのは本のあらすじとか読書感想文ではなく、私がその本を読んだことによって、何を考えたかとか何をしたとかいうことである。読んだ本はそのきっかけにすぎない。だからとりあげた本の内容について知りたいという方には不向きだ。
よってここで取り上げた本そのものについてのコメントはご遠慮する。
ぜひ私が感じたこと、私が考えたことについてコメントいただきたい。

先週、津田沼駅前の医者に行ったついでに丸善書店に寄った。3階の専門書売り場の中ほどに「ISOコーナー」があるのだが、年寄りのひたいと反対で年年歳歳狭くなっていく。10年くらい前は本棚ふたつあったはず。今回行ったら本棚一つと隣の棚一段だけになっていた。資本主義は弱者に厳しい。
私はときどき、どんな新しくISO本が出てないかとパソコンで出版書誌データベースで見ている。それによると、2020年頭から11月上旬の現在までに、発行されたISO9001と14001に関する本は6冊である。

上記のうち4冊は環境法規制の解説本で、毎年法律の制定改定を反映して改定されている。
私は現役時代から法規制解説本なんて読む気はなかったし、読んだこともない。いや、私が環境法規制に詳しいわけではない。解説本を読むより、概論なら所管官庁の出しているパンフレットのほうが分かりやすいし、細かいところまで知りたいなら電子政府の法律、施行令、省規則の原文を読んだほうが間違いない。そして法律を読んで分からなかったら県の環境課、消防署などに問い合わせたほうが良い。
だから大金を出して環境法解説本を買うのは、どんな人でどんな目的なのか想像つかない。もしかしてISO審査のとき、これを参考にしていますなんて言うため?

今回は法規制解説書以外の2冊をチェックしようと考えていたが、「徹底排除!……」は出版されて間もないためか、書架にはなかった。
「図解……」は棚にありました。ということで本日はこれを読んで気が付いたこと、思ったことを書きます。


書名著者出版社ISBN初版価格
図解と実践トレーニングでわかる!
ISO14001内部監査
子安伸幸第一法規97844740718962020.10.062,750円

これほどISO本が少なくなった時代だから、どんな新しいことが書いてあるのかと興味があった。とはいえ2,750円もするのでわざわざ大枚をはたいて買う気にもなれず、まずは書店で立ち読みして、知らないことが書いてあるなら市立図書館に購入依頼をしようと思った。どちらにしても自前で買う気はさらさらない。

本書の構成は3部からなる。
第1章は、ISO14001規格とはどんなものかという解説。第2章は規格の項番順に規格の解説と若干のQ&Aがある。第3章は内部監査のトレーニングとあるが、実際は内部監査の質疑応答の事例が記載してある。

第1章
第1章はパスした。初めの10ページほど斜め読みしたが、大したことは書いてない。どんな本でも書いているようなISO規格とは何ぞや、マネジメントシステム規格とはなんぞや、第三者認証制度とはといったところだ。とはいえこの本しか読まない人もいるだろうから、そういったことを書くのも必要だろう。

第2章
第2章は真面目に読んだ。
ISO審査でも内部監査でも、することは規格要求事項と現実の比較である。だから規格要求を理解していなければ、審査も監査もできないことはいうまでもない。
そしてもちろん規格解説する人は、十二分に規格を理解していなければならないのは当たり前だ。著者は規格を自家薬籠としているであろう。

実を言って私はこのウェブサイトで言いたい放題書いているが、独りよがりというか、思い付きで書き綴っているわけではない。
名前は出せないが規格の理解については、ISOTC委員とか認証機関のエライサンにお聞きしたり、相談したりしていることを白状する。おっと普通の審査員に相談したことはない。
いや時系列を言えば、そうではない。仕事をしていたとき審査トラブルで困り果て、苦しまぎれにあちこちを聞きまわり問い合わせ教えていただいたことを、世の中のISO担当者にも知ってほしいと、ここに書いているというのが本当だ。
だから規格の解釈については、私個人の見解ではない。
但し、認証制度の先行きが暗いとかいう規格解釈以外の見解は、すべて私の私見である。

さて、この本の第2章の解説は、はっきり言って過去に出版された書籍に書いてあるようなことばかりである。新規な、あるいは素晴らしいと思ったことはなかった。
いや、はっきり言って問題が多々見受けられる。

いくつも書くのも疲れるから、二つだけ上げる。


第3章
第3章になると、いよいよ怪しくなる。
そもそも実践トレーニングとあるが、どこが実践なのかわからない。

内部監査というと、監査チェックリストが出てくる。そしてチェックリストを良くすると内部監査が良くなるというボケを語る人が多い。おかしいと思わないのだろうか?
ISO19011を読めば、監査チェックリストなど要求していない。重要なのは監査方針であり監査計画だ。
もちろんあなたは監査方針を受けて監査計画を立てるのだ。場合によっては、あなたが監査方針案を練って決済伺いを上げるべきかもしれない。
ところで監査計画って〇月にどの部門を監査する決めたスケジュール表ではない。監査方針をいかに展開して、どのような切り口で監査するのか、いかにして最大の成果をあげるかを考えたものである。

そもそも普通「計画書」といえばスケジュール表を意味しないだろう?
例えば「事業計画書」といえば、金融機関に融資……金を貸してくれというとき見せるものだが、相手にお金を出したいと言わせるものでなくちゃいけない。
 ・どんな事業なのか
 ・どうやってこの事業で収益をあげるのか
 ・どれほどの収益見込みがあるのか
 ・どうやってこの収益を見込んだのか

「創業計画書」というのもある。
俺はこんな会社を作るぞと皆に示し、投資と参画を求めるものだ。
スケジュール表ではないよ。会社登記や社員募集の予定があれば良いはずがない。
日本政策金融公庫というところに創業計画書のひな型、記入例がある。
そういったものを思い浮かべれば、計画書とはどういうものかお分かりいただけるだろう。

社内だって、自分のしたいことを企画書にするときスケジュール表だけではあるまい。

監査計画書になると、なぜスケジュール表しか思い浮かばないのか? 不思議である。
おわかりいただけいただけましたか もちろん毎年行う監査のために、事業計画書ほどの事前調査とか資料を作成することが必要だというわけではない。しかしスケジュール表1枚作ってオシマイではないことはお分かりだろう。せめて企画書程度のものは作ろうよ、
監査をしようという前に、この監査では何を求めているのか? そのためにどうするのか、監査計画とはそういうものであり、良い監査をするためにはしっかり監査計画を考えなければならない。

それと多くの人がしている勘違いがある。品質を良くするのは品質システムだ、会社を良くするのはマネジメントシステムだと言いながら、監査を良くするのは監査システムだと考えていない人が多い。
実際に良いチェックリストを作ればよい監査ができると寝言を語る人が多い。そんなことない。
システムとは組織を決め、機能を決め、手順だ。監査体制、メンバーの役割、監査の進め方・監査基準を明確にする……それをまず決めなくて監査を実行できるのか? そして監査をよくするのはそのシステムを継続的改善していくことなのだ。
それに言及していないのでは、実践と程遠い。


さて、批判だけしてもしょうがない。建設的()な意見を述べる。
論文の三要素というのを聞いたことがあるだろう。

これは別に論文に限らない。それは本でもウェブサイトでもブログでも同じだ。
そのブログを読むと、新しい情報がある、嘘は書いてない、とても面白い、となればそのブログは三要素を満たしていることになる。


この本「図解と実践……」を考えてみると、
新規性?
まず新規性がない。論文を書く時、初めにすることは先行研究調査である。自分がやろうとしていることを既に誰かがしているなら、走り出す前に負け決定だ。
先行者がいるのを知ったなら、先行研究の間違いを探すか、別のアプローチをとらねばならない。先行研究が完璧ならば、二番煎じを避けて別のテーマを考えるしかない。

信頼性?
環境側面の解説を読むと、いかなる論理なのか疑問である。他人が書いたものから借用したのではないだろう。自分が考えたなら、その理屈も考えたはず。それを書け。
書籍を出すというなら、その一字一句を確固たる根拠を基に書くべきだ。いや、書かねばならぬ。ともかく根拠をたどれることが必要だ。
根拠とは引用でもが、引用元が信頼できるものでなければならない。既に引用元が批判されているなら、それも明記しておくべき。

有効性?
この本を実践すると、内部監査の有効性はいかほど向上するのか?
監査の有効性とは具体的には、不適合は間違いなく見つける、従来の方法では検出できなかった不適合を見つける、マネジメントシステムの有効性を高める、潜在している不具合を見つける、そんなことだろうか?
申し訳ないが、そういうことがこの本から読み取れなかった。

監査で重要なことは計画であるが、監査の場で重要なことはコミュニケーションである。この本ではそれを重要視していない。それだけでどうかなと思う。


お断り 私がこの本を役に立たないと批判しても、ISO規格が役に立たないとか、第三者認証制度は無用だと考えているわけではない。
ISO規格はまっとうだと思う(和訳したものは問題がある)し、第三者認証制度も真面目に運用していたなら、大きく育っただろうにと考えている。
しかしまっとうな規格解説本も少なく、実際の審査では基本的なところを間違えた審査がメジャーになってしまった。だから私は間違えた解説本や恣意的な審査を徹底的に棚卸している。
環境側面はスコアリング法がメジャーとなり、それ以外は異端だと考える審査員も多い。それから著しい環境側面は20個程度とか、一定点数以上が該当するなんてバカげたことを騙る審査員も多い。
著しい環境側面は20個と決めたら、毒物が21種あるとき、21番目以降は著しい環境側面ではないのか?、点数で著しいものを決めていたら毒物の使用量が減れば著しくなくなるのか?
笑止である
そんなおかしな理屈ではなく、著しい環境側面は法規制を受けるもの、事故の恐れがあるものを該当とすれば済む簡単な話だ。
しかし今更どうしようもないと思う。現実にはISO第三者認証は先細りだ。それは関係者がまっとうな理解をせずに、まっとうな審査をしてこなかったからだ。己の咎は己に還る。
私はここで20年も大声で語ってきた。だがしかし、諦めたらそこで終わりという言葉もある。本当にISO第三者認証制度が終了するまで、私は目を覚ませと叫び続けたい。
実を言って、私はISO第三者認証制度に15年、会社員人生の3分の1もの期間関わってきた。私の人生はくだらないことをしていたとは思いたくない。
あなただってそうでしょう?

うそ800 本日の締め
はっきり言ってこの本を読むなら、私のケーススタディでも読んだほうが、はるかに役に立つ。
おばQじゃあ信用できない……というなら、ISO19011対訳本を買って読みなさい。7,480円とこの本の3倍近くするけど、3倍以上の価値がある。

しかしどう考えても、この本が2,750円という値付けは異常である。それだけの価値があると自信をお持ちなのだろうか?



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