お断り |
このコーナーは「推薦する本」というタイトルであるが、推薦する本にこだわらず、推薦しない本についても駄文を書いている。そして書いているのは本のあらすじとか読書感想文ではなく、私がその本を読んだことによって、何を考えたかとか何をしたとかいうことである。読んだ本はそのきっかけにすぎない。だからとりあげた本の内容について知りたいという方には不向きだ。 よってここで取り上げた本そのものについてのコメントはご遠慮する。 ぜひ私が感じたこと、私が考えたことについてコメントいただきたい。 |
先週、津田沼駅前の医者に行ったついでに丸善書店に寄った。3階の専門書売り場の中ほどに「ISOコーナー」があるのだが、年寄りの
私はときどき、どんな新しくISO本が出てないかとパソコンで出版書誌データベースで見ている。それによると、2020年頭から11月上旬の現在までに、発行されたISO9001と14001に関する本は6冊である。
上記のうち4冊は環境法規制の解説本で、毎年法律の制定改定を反映して改定されている。
私は現役時代から法規制解説本なんて読む気はなかったし、読んだこともない。いや、私が環境法規制に詳しいわけではない。解説本を読むより、概論なら所管官庁の出しているパンフレットのほうが分かりやすいし、細かいところまで知りたいなら電子政府の法律、施行令、省規則の原文を読んだほうが間違いない。そして法律を読んで分からなかったら県の環境課、消防署などに問い合わせたほうが良い。
だから大金を出して環境法解説本を買うのは、どんな人でどんな目的なのか想像つかない。もしかしてISO審査のとき、これを参考にしていますなんて言うため?
今回は法規制解説書以外の2冊をチェックしようと考えていたが、「徹底排除!……」は出版されて間もないためか、書架にはなかった。
「図解……」は棚にありました。ということで本日はこれを読んで気が付いたこと、思ったことを書きます。
書名 | 著者 | 出版社 | ISBN | 初版 | 価格 |
図解と実践トレーニングでわかる! ISO14001内部監査 |
これほどISO本が少なくなった時代だから、どんな新しいことが書いてあるのかと興味があった。とはいえ2,750円もするのでわざわざ大枚をはたいて買う気にもなれず、まずは書店で立ち読みして、知らないことが書いてあるなら市立図書館に購入依頼をしようと思った。どちらにしても自前で買う気はさらさらない。
本書の構成は3部からなる。
第1章は、ISO14001規格とはどんなものかという解説。第2章は規格の項番順に規格の解説と若干のQ&Aがある。第3章は内部監査のトレーニングとあるが、実際は内部監査の質疑応答の事例が記載してある。
第1章
第1章はパスした。初めの10ページほど斜め読みしたが、大したことは書いてない。どんな本でも書いているようなISO規格とは何ぞや、マネジメントシステム規格とはなんぞや、第三者認証制度とはといったところだ。とはいえこの本しか読まない人もいるだろうから、そういったことを書くのも必要だろう。
第2章
第2章は真面目に読んだ。
ISO審査でも内部監査でも、することは規格要求事項と現実の比較である。だから規格要求を理解していなければ、審査も監査もできないことはいうまでもない。
そしてもちろん規格解説する人は、十二分に規格を理解していなければならないのは当たり前だ。著者は規格を自家薬籠としているであろう。
実を言って私はこのウェブサイトで言いたい放題書いているが、独りよがりというか、思い付きで書き綴っているわけではない。
名前は出せないが規格の理解については、ISOTC委員とか認証機関のエライサンにお聞きしたり、相談したりしていることを白状する。おっと普通の審査員に相談したことはない。
いや時系列を言えば、そうではない。仕事をしていたとき審査トラブルで困り果て、苦しまぎれにあちこちを聞きまわり問い合わせ教えていただいたことを、世の中のISO担当者にも知ってほしいと、ここに書いているというのが本当だ。
だから規格の解釈については、私個人の見解ではない。
但し、認証制度の先行きが暗いとかいう規格解釈以外の見解は、すべて私の私見である。
さて、この本の第2章の解説は、はっきり言って過去に出版された書籍に書いてあるようなことばかりである。新規な、あるいは素晴らしいと思ったことはなかった。
いや、はっきり言って問題が多々見受けられる。
いくつも書くのも疲れるから、二つだけ上げる。
そもそもISO14001規格の環境側面の定義も分かりにくいんだよね。
本文の中で環境側面という語がつかわれている規格要求事項を拾い上げると…
それからこの本では環境側面の決定方法として「スコアリング法」を挙げている。それは算出の論理をしっかりしておかないと、恣意的になりやすいというコメントはある。
しかし重大なことだが、著者はスコアリング法以外の方法を知らないようだ。つまりこの本を読んで、さあ環境側面を決定しようとしたとき、ほかの方法が書いてないのだからスコアリング法を採用するしかない。
この本は監査の本だから環境側面の決定方法については書いてないんだという論は通用しないだろう。スコアリング法しか知らない監査員/審査員は他の方法を見たとき、審査できるのかどうか、どのような判定をするのか大いに興味がある。
私はスコアリング法を、間違いとまでは言わない。しかし物事を点数化して比較検討するならば、そこに論理的な数値化する手順・基準がなければならないだろう。
点数を比較するのだから、その数値化において環境影響をどのような算式で評価するかが最大の課題となる。当然、電気と廃棄物の評点が同じなら、環境影響は同等でなければならない。
しかし物事は簡単ではない。電気の環境影響と廃棄物の環境影響の点数はどのようなもので量るのか? 二つのデメンションは異なるのだが、どのように換算するのか?
電気の環境影響を考えるといっても、資源枯渇か?、自然破壊か、CO2の増加か?か。電気を作る一次エネルギーが再生エネルギーであれば、それから発生する公害問題なのか?1年間に死滅する生物の種か、個体数か?、環境影響を回復する費用を合わせるのか?、
電気と廃棄物の比較となると難しさが桁違いになる。それぞれをどんな尺度で測ろうと、環境影響が同じなら点数も同じでなければならない。
当然電力消費量が倍なら点数も倍、廃棄物も倍なら点数が倍になるだろう。あちこちで見かける消費電力が20倍で点数が倍、廃棄物は10倍で倍なんて配点はありえない。そういうのって世の中にたくさんあるよね 。
電気と廃棄物では性質が大きく違うが、似たようなものでも比較は難しい。
例えば、ガソリン、灯油、軽油そして重油の違いは、分子量と税金くらいだが、それらをどう比較して評点を付ければよいのだろう。
引火点なのか?、指定数量なのか?、毒性か?……毒性といってもそれは、許容濃度もあり、摂取であれば動物への経口投与・飲水投与・蒸気吸入?、あるいは植物への影響なのかといろいろある。毒性も、急性、慢性、発がん性、遺伝、変異、汚染の残る期間、そういった要素をどう考えて比較すべきか?
ガソリンと重油の危険性の比較なんて、危険物保安監督者や作業環境測定士をしてきた私も分からない。
ちなみに私はスコアリング法を採用できるほど、生物学や化学や資源経済学に明るくないので、そんな難しい方法を採用したことはない。
スコアリング法を採用している方は、ノーベル賞級の頭脳を持っているはずだ。
もちろんこの本の著者もそうに違いない。来年あたりノーベル賞受賞者として名が出るのではないだろうか?
何事でも本に書くなら、その他の方法の例を挙げ、監査においてはどの方法でもよいが理屈がまっとうであることを確認せよくらい書いてほしいものだ。
著者は著しい環境側面の決定方法を幾通りご存じなのか、それは上記したような矛盾の出ないロジックであろうか? それを示すことができて、はじめて著述することができるはずだ。
著者は環境側面とは何ものかを、よく分かっていないのではないかと思えてならない。
アホじゃない?
実際に企業で働いていた人ならそうは考えない。
そもそも企業において期日前に達成できるような目標を設定するはずがない。頑張って、頑張って、最後に鉛筆をなめて、なんとか目標を達成できるかどうかというのが普通だろう。
もしたいして努力もせずにすんなりと達成したならば、目標設定が甘いと酷評されるだろう。
そしてまた目標を達成すれば、そのテーマの目標値を上方修正するということはまずない。
計画策定時においては、そのときの諸般の事情から組織が改善を必要とする項目について、それぞれの重要性や優先を考慮し達成目標を定め、リソースを配分するはずだ。
一定期間 経過時にある項目について目標を達したならば、その時点において組織が改善を必要とする項目を改めて取り組むべきテーマを見直し、新たなテーマを決定しリソースと目標を割り当てることになる。
わかりにくいと思うから具体例を挙げる。
今年度は廃棄物削減10%と省エネ10%という目標を決めたとする。半年後に廃棄物10%削減、省エネは通年で7%の見込みとなったとき、廃棄物削減目標を20%に変更することはまずない。そのリソースを未達の省エネに投入するだろう。
あるいはまったく別のテーマを取り上げることもあり、廃棄物削減の目的は達したと廃棄物削減活動を終わりにするという経営判断であってもおかしくない。
それに例えば新しく導入した排水処理設備の稼働予定日を期日前に達成したとき、更に早めろ……なんて考えるはずがない。
新型コロナウイルス流行で世界は 変わった。壊滅した業界もある。 結婚や就職や進学の計画が狂い、 コロナで人生が変わった人は多い だろう。 |
まあ著者は、私のようなやくざな仕事をしてこなかったのかもしれない。だが現実は、この本に書いてあるのとはちょっと違うのではないか。
ここまで書いてきてハッと気が付いたことがある。
まさか、ISOの目標と会社の本当の目標のふたつがあるのではないだろうね!
20世紀はISOの目標は絶対に未達にしないために低めに設定し、会社の本当の目標とは違っていたところが多い。というのは目標未達を審査で不適合とする審査員が多々いた。それを避けるためであった。
でもさ、目標未達がいかなる要求事項に反するのか私は知らない?
そういう会社なら目標を達成したら、計画書の目標値を書き換えるだけだから「目標を上方修正して更に推進すべき」というのは模範解答なのかもしれない。
第3章
第3章になると、いよいよ怪しくなる。
そもそも実践トレーニングとあるが、どこが実践なのかわからない。
内部監査というと、監査チェックリストが出てくる。そしてチェックリストを良くすると内部監査が良くなるというボケを語る人が多い。おかしいと思わないのだろうか?
ISO19011を読めば、監査チェックリストなど要求していない。重要なのは監査方針であり監査計画だ。
もちろんあなたは監査方針を受けて監査計画を立てるのだ。場合によっては、あなたが監査方針案を練って決済伺いを上げるべきかもしれない。
ところで監査計画って〇月にどの部門を監査する決めたスケジュール表ではない。監査方針をいかに展開して、どのような切り口で監査するのか、いかにして最大の成果をあげるかを考えたものである。
そもそも普通「計画書」といえばスケジュール表を意味しないだろう?
例えば「事業計画書」といえば、金融機関に融資……金を貸してくれというとき見せるものだが、相手にお金を出したいと言わせるものでなくちゃいけない。
・どんな事業なのか
・どうやってこの事業で収益をあげるのか
・どれほどの収益見込みがあるのか
・どうやってこの収益を見込んだのか
「創業計画書」というのもある。
俺はこんな会社を作るぞと皆に示し、投資と参画を求めるものだ。
スケジュール表ではないよ。会社登記や社員募集の予定があれば良いはずがない。
日本政策金融公庫というところに創業計画書のひな型、記入例がある。
そういったものを思い浮かべれば、計画書とはどういうものかお分かりいただけるだろう。
社内だって、自分のしたいことを企画書にするときスケジュール表だけではあるまい。
監査計画書になると、なぜスケジュール表しか思い浮かばないのか? 不思議である。
もちろん毎年行う監査のために、事業計画書ほどの事前調査とか資料を作成することが必要だというわけではない。しかしスケジュール表1枚作ってオシマイではないことはお分かりだろう。せめて企画書程度のものは作ろうよ、
監査をしようという前に、この監査では何を求めているのか? そのためにどうするのか、監査計画とはそういうものであり、良い監査をするためにはしっかり監査計画を考えなければならない。
それと多くの人がしている勘違いがある。品質を良くするのは品質システムだ、会社を良くするのはマネジメントシステムだと言いながら、監査を良くするのは監査システムだと考えていない人が多い。
実際に良いチェックリストを作ればよい監査ができると寝言を語る人が多い。そんなことない。
システムとは組織を決め、機能を決め、手順だ。監査体制、メンバーの役割、監査の進め方・監査基準を明確にする……それをまず決めなくて監査を実行できるのか? そして監査をよくするのはそのシステムを継続的改善していくことなのだ。
それに言及していないのでは、実践と程遠い。
さて、批判だけしてもしょうがない。建設的()な意見を述べる。
論文の三要素というのを聞いたことがあるだろう。
これは別に論文に限らない。それは本でもウェブサイトでもブログでも同じだ。
そのブログを読むと、新しい情報がある、嘘は書いてない、とても面白い、となればそのブログは三要素を満たしていることになる。
この本「図解と実践……」を考えてみると、
■新規性?
まず新規性がない。論文を書く時、初めにすることは先行研究調査である。自分がやろうとしていることを既に誰かがしているなら、走り出す前に負け決定だ。
先行者がいるのを知ったなら、先行研究の間違いを探すか、別のアプローチをとらねばならない。先行研究が完璧ならば、二番煎じを避けて別のテーマを考えるしかない。
■信頼性?
環境側面の解説を読むと、いかなる論理なのか疑問である。他人が書いたものから借用したのではないだろう。自分が考えたなら、その理屈も考えたはず。それを書け。
書籍を出すというなら、その一字一句を確固たる根拠を基に書くべきだ。いや、書かねばならぬ。ともかく根拠をたどれることが必要だ。
根拠とは引用でもが、引用元が信頼できるものでなければならない。既に引用元が批判されているなら、それも明記しておくべき。
■有効性?
この本を実践すると、内部監査の有効性はいかほど向上するのか?
監査の有効性とは具体的には、不適合は間違いなく見つける、従来の方法では検出できなかった不適合を見つける、マネジメントシステムの有効性を高める、潜在している不具合を見つける、そんなことだろうか?
申し訳ないが、そういうことがこの本から読み取れなかった。
監査で重要なことは計画であるが、監査の場で重要なことはコミュニケーションである。この本ではそれを重要視していない。それだけでどうかなと思う。
本日の締め
はっきり言ってこの本を読むなら、私のケーススタディでも読んだほうが、はるかに役に立つ。
おばQじゃあ信用できない……というなら、ISO19011対訳本を買って読みなさい。7,480円とこの本の3倍近くするけど、3倍以上の価値がある。
しかしどう考えても、この本が2,750円という値付けは異常である。それだけの価値があると自信をお持ちなのだろうか?