サービスの仕様

21.01.14

いつもバカバカしい妄想を書いているが、本日もまたバカバカしいお話である。
世の中で取引されるものは、形ある「物」と形のない「サービス」に分けられる。
形ある「物」は「財」ともいわれ、自動車とかトイレットペーパーなど工業製品もあるし、お米、お魚、野菜などの農産物・水産物もある。いずれも実態をもつ。

注:「財」も多様な意味があり、狭義では有形財を指すが、広義では役務を含む。

「サービス」は日本語で「役務」のことで労力や効用で、具体的にはマッサージとか輸送とか警備とか、みなさん大好きなISO審査も入る。

どうでもよくない大事な話… サービスは無料(ただ)の意味でつかわれることが多い。調べたが「サービス」が無料の意味を持つようになったいきさつはわからなかった。
ただひとつ、値引き販売で「サービス価格」と表示したことからという説があった。
なお「値引きした価格」は英語で「discounted price」といい、「service price」は「サービスに対する料金」である。値引きを「サービス価格」としたのは日本でのこと。

ボールベアリング IC
お魚
床屋
床屋
プロスポーツ選手
プロスポーツ
サービス
メガネ
野菜

目覚まし時計
ピアノ楽器演奏
落語家
落語家
政治家
政治家

では「ソフトウェア」はどうなのか? 日本では「財」とされている。確かに実態はないが、生産と消費が同時ではなく、また使えばなくなるわけではない。
なおソフトウェア業は日本では産業分類で製造業になっている(注1)


世の中でものを取引するときは、その仕様を決めて行われるのだろうか?
形ある製品の「仕様」は売買するときでも、開発設計する際にも、仕様は明確に決まっている。いや決めて行う。

トイレットペーパー
例えばトイレットペーパーなら、紙質、再生紙配合割合、色合い、ダブルかシングルか、包装、デザインなどである。
ロールの寸法はJIS規格のJIS41501で、幅114±2mm、芯の内径38±1mm、長さ27.5〜100mまで6種類、外径120mm以下と定まっている。
パソコンを買うときは、CPUの性能、メモリー容量、メモリーの速さ、ハードディスク容量、USBポートの数とか決めるべき仕様はいろいろある。

野菜やお魚や肉は仕様が決められないと思うかもしれないが、そんなことはない。合いびきといっても、豚と牛の割合が7:3とか6:4とかあるし、材料がすねやモモもあるし、余り肉を使うものもある。私たちがスーパーで買い物するときは仕様を確認するはずだ。
ところで豊予海峡で獲られたサバは、水揚げ港でお値段が違う。水揚げ港は仕様なのか、品質なのか?……不思議である。

ともかく物の仕様(スペック)がどんなものなのかをはっきりさせないと、作るも買うも始まらない。商取引においてスペックをはっきりさせることは必須で重要だ。


さて、本日はサービスの仕様を考える。
サービスには形がないゆえに特有の特徴というか性質がある。
いろいろあるが一例をあげると……

サービスの特徴の区分はこの他にも種々あり、研究者によっては「不可逆性」つまり取り返しがつかないということをあげている。まあ、これも消滅性の言い換え程度かもしれない。
マッサージ ネットで床屋で髪の毛を切りすぎたのをサービスの不可逆性の例としているものがあった。しかし髪の毛を短く刈ってしまうことは間違いなく不可逆ではあるが、サービス固有の問題ではない。製造業の機械加工で削りすぎても同じ問題は起きる。いやいや手直しのきかない不良はみな不可逆だよ。
サービスの不可逆性とは、例えばマッサージしてもらったものの好みに合わないといってもキャンセルできないということだ。だってサービスは既に提供され元に戻せないんだから。

このようにサービスの品質には特有の性質がある。ではサービスの仕様に特有のことはあるだろうか? サービスの品質については論文も記事もたくさん見つかるが、仕様についての記事は見かけない。
コンピューターシステムの仕様書というのはたくさんあるが、これは提供するサービスの仕様というよりも、システムやハード&ソフトの仕様である。警備業のサービス仕様書というと業務範囲とか作業手順のようだ。


本日は学問的な話ではなく、私たちが日常サービスを購入するときの問題と改善を考える。
もっとも私が学問的な話などできるはずがない……

フィットネスクラブで運動後は当然お風呂に入り着替えするわけで、脱衣所とかロッカールームで水虫に感染したと思われるケースは非常に多い。
一昨年、私は水虫になった…と思った。何も考えず一番近い皮膚科に行った。若い医者は私の足の指を見て「あ、これ水虫です」と簡単に言う。そしてチューブを渡してこの薬をつけろという。毎日風呂上りに指定された通り薬をつけた。しかし一向に良くならない。半年通ってやぶ医者だと見切りをつけた。
二番目に近い皮膚科に行った。年配の医者が一目見て「こりゃ水虫じゃない。湿疹だよ」という。そこでもらった薬をつけたら1週間で完治した。
これは医療というサービスにおける品質問題である。セカンドオピニオンの必要性を感じた 😃

私がクロールで泳いでいた時、初心者が背泳でコースを寄ってきて、もろに私の頭にぶつかった。私は脳震盪を起こしてプールで溺れかけた。ぶつかった奴は逃亡しちゃったよ。
プールガード プールガードはいたが、まったくプールを見ておらず、近くで泳いでいた人が事務所に連絡してくれて、私は溺死を免れた。
とんでもないことであるが、これも仕様の問題ではなくフィットネスクラブの品質問題だ。
しかし私も馬鹿だね、そういう大問題があっても即フィットネスクラブを替えなかったのだから。次の年、再び同じ問題が起きた。さすがにそのときは即座にフィットネスクラブを退会して、少し離れたフィットネスクラブに鞍替えした。
若干会費は高くなったが、ジムもプールも貸しタオルもきれいだし、愛想もよい。なによりもそこでは常時プールガードがプール監視椅子に座っている。逆行したり飛び込んだりすると、ホイッスルを吹いて注意する。鞍替えしてから1年半、トラブルは経験していない。
まっ、それが当たり前と言っちゃ当たり前なんだが……

ではサービスにおける仕様問題とはどんなものか?
私は週に6日フィットネスクラブに通っている人間なので、例え話はすべてフィットネスクラブでの体験や伝聞から始まる。

会社を辞めたら水泳を習おうというのは、退職前から決めていた。辞めるとすぐにフィットネスクラブの成人スイミングスクールに参加した。その話は過去に書いた
申し込みの際のカウンターでのやりとりは、健康状態の口頭確認だけで他になにもなし。少しは泳げますかとか、全然だめかとかの質問もなし。

レッスンが始まった。生徒は、私の他に私より年上の女性ふたりの合わせて3人である。初日、コーチは泳げますか? 泳げませんか? という質問をして、全員首を横に振ったので、そいじゃといって頭まで水に潜るとか、うつぶせに浮いたり仰向けに浮いたりの練習をする。

その後、ビート板を持ったバタ足とか、けのびとかを練習する。ひと月ほどしてクロールの腕回しになったとき、私の腕が真っ直ぐ上に上がらないことが判明した。長年の運動不足で可動範囲が狭くなっていたのだ。コーチがプールの練習とは別に、ストレッチを習って腕が動くようにしなさいという。
それで私はジムのトレーナーに肘、腕、肩のストレッチを習って運動した。腕がまっすぐ上がるのに三か月かかった。その間スイミングスクールでは、他の二人が腕を回す練習をしているわきで、ひたすらバタ足をしていた。

そこで思ったのは、水泳のレッスンをする前に、生徒の体力、柔軟性、障害などを調べて、それを考慮して教習計画を立てる必要があるのではないか、そして問題あれば体力つくりとか柔軟性とか必要なことを示して実行させるべきではないか。それによって時間ロスを防げるし、受講者も気持ちよく励めるだろう。

いや待て、そもそも受講者が何を目的にしているのかをコーチは確認すべきだろう。マスターズ(注3)に出場したいのか、速く泳ぎたいのか、きれいに泳ぎたいのか、健康維持のためか、ゆくゆくはスキューバダイビングをしたいのか、目的によって同じ泳法でも教えることは異なるはずだ。
プールに入る前に、そういうことを一人当たり30分でも話し合いすることが、コーチにとっても受講生にとっても、時間のロス、お金のロス、トラブルの予防になると思う。

ある日のこと、プールサイドでおばさんが水泳コーチと口論している。数人ギャラリーがいたので、私も野次馬に加わる。
おばさんの言い分は、バタフライを2年も習っているが、いまだに泳げない。教え方が悪いんじゃないかという。私もそのおばさんがマンツーマンの指導を受けているのをいつも見ていた。マンツーマン45分の料金は、コーチの現役時代の成績によって大きく違うが最低5,000円くらいしたのではないだろうか? 週1回年48回として24万、2年で48万、本人が上達したと自覚できなければ不満を持つのは当然だろう。
しかし私が疑問に思ったのは、レッスン開始前に契約とまではいかずとも、泳げるまでの期間について話をしてなかったのだろうか?
それはスイミングスクールも同様ではあるが、こちらは低廉なので上達が遅くても文句を言う気にはならない。

正直言って、フィットネスクラブの個人レッスンは所用期間と達成レベルが不明確というか、はっきり話し合いをせずに始めていることが多い、というかほとんどだ。
最近 ❮RI⚡AP❯ というフィットネスクラブは、100%保証とか、達成できるまで付き合いますなんて宣伝している。私はそこを利用したことがないから実態は知らない。
しかし達成するまで付き合ってもらうよりも、あなたはこのレベルになるまで何か月かかりますと見積もりを提示してほしい。そしてそれを実現してほしい。
もちろんあなたの年齢とか体力ではここまでしかなりませんとか、あなたの場合上達は人並より遅いですよというのでも良い。
ともかくレッスンを受ける前に、具体的内容を話し合い、見通しをはっきりさせて、双方がそれに納得してから始めないとおかしいと思う。

それ後だいぶ経っておばさんと口論していたコーチから「平泳ぎを習いませんか」と声をかけられた。いわゆる営業である。
平泳ぎ 当時私はクロールは泳げたが、平泳ぎは昔、川で年上の子から習っただけだ。機会あれば正統な平泳ぎを習いたいと思っていた。とはいえクロールを習ったときのことやバタフライ騒ぎを覚えていたから、次のことを問うた。
私の能力・体力はいつもプールで見て知っているだろう。私の現状からみて、平泳ぎができるまで何か月・何回くらいレッスンを受ければ良いのか?
するとそのコーチは、そんなことわかるはずがない。あなたを誘うのを止めますという。
めんどくさい人は教えないということならそれでも良い。しかし教えたことがなくても、二三年そばで泳いでいるのを見ているのだから、私が泳げるまでの期間を見積もれないなら、コーチとして力量不足ではないだろうか。


水泳と同じく私の永遠の悲願で、彼岸に至るまで絶対に習熟しないと思われるものに英会話がある。
これも退職してから、ふたつほど英会話教室の体験レッスンを受けてみっつめに訪問したところで、 海外旅行 カナダ人のオーナー先生と私の怪しげな英語でなぜ英会話をやろうとするのか、目標とするレベルはどこかなど小一時間 話をした。
そんなことはそれまでの二か所ではなかったことで、これは期待できると思った。
そのとき私は海外旅行に行って税関、ホテル、買い物などで、今までワンワードで対応していたのを、センテンスを話せるようになりたいといった。留学とかビジネスに比べて、非常に低レベルな目標である。オーナーは了解したといった。

しかしレッスンが始まると私が言ったようなシチュエーションもないし、テキストも即海外旅行に使えない。初めは外人と話したこともない私だから、自分の英語がどれくらい通じるのか興味もあり楽しくやっていたが、二三年も経てばこれ以上続けてもしょうがないと思うようになった。
それでオーナーに面談して、まず希望のテーマがないこと、ロールプレイとかできないのかということ、自分のレベルが上がったとは思えないが、どういう尺度でみているのか、そんなことを話し合った。オーナーは能力のランク付けなど考えてくれたが、結局私は満足できずやめてしまった。

上達がビジブルにわかるようにしてほしいことと、自宅での勉強方法とかを教えてほしいこと、レッスンの会話がその日その日だから予習も復習もしにくい。そういった教育内容……つまり仕様だ……を工夫してもらいたかった。
オーナーはじめ先生たちの人柄も良く、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどバラエティに富んでいて、私としてはカリキュラムだけが残念だった。

英会話教室ではないが、会社員時代にTOEIC教室に通った。それについて過去に書いたことがある。
私が通ったのは八重洲のすみれ塾で、講師も有名な方だ。ここは英語を教えるところではなく、TOEICで高い点数を取ることを教えるとはっきりいう。そして学問じゃなくて、試験のテクニック、特に頻出問題やひっかけ問題などを重点的に教えてくれた。
それって英語の力が付かないんじゃない? と疑問を持つ人もいるかもしれないが、TOEICの点数を上げたいという需要は多いのだ。今はどうか知らないが、2000年頃は海外工場に赴任する管理者・監督者にTOEIC何点以上と要求するのが一般的で、点数を上げなければならない人たちが結構いて満員状態だった。TOEIC点数を上げたいという顧客の希望にマッチした顧客満足度100%である。

TOEIC教室の場合は、目的は明確、方法も明確、結果も明確で簡単だと言ってほしくない。なぜTOEIC専門の教室ができることが、一般の英会話教室でできないのかと考えるべきだ。目的に合わせて、生徒の生活環境に合わせた勉強法を教え、話題もテーマに合わせる、それが企業努力だと思う。
前の文で勉強法を教えると書いたが、教室で教えるだけでなく、自宅での英会話勉強法を教えることもまたひとつのビジネスではないか。あるいは英会話教室の付加価値になるだろう。

私の考える講習サービスの方法とは……
水泳なら、まず泳がせてみる。平泳ぎを習いたい人がクロールしか泳げないならクロールを500mくらい泳がせて、
ヒラメキ
ストロングポイントとかウィークポイントを把握する。そして受講者と面談して希望する到達レベル、希望納期を確認する。体の状況、体力、体幹、可動域、そんなことを確認するために、30分くらい話し合ったらどうだろう。
その結果、本人の希望が変わることもあるだろうし、半年が無理だから10か月で達成しようとかコーチ側の見解もあるだろう。
その結果で教習計画を立てれば、生徒側も進み具合を確認できて、情報不足による不安、不満は起きないだろう。長期計画を知らずに半年キックだけ練習させられたら誰だって不安・不満を持ちますよ。
またバタフライの免許皆伝に3年かかるとか、あなたは無理だというなら、別のことにチャレンジするという選択もありうる。それは生徒にとってもコーチにとっても良いことだろう。

聞いた話だが、従来は平泳ぎできる人にしかバタフライを教えないというのがデフォだったそうだ。だが今は全く泳げない人が最初にバタフライに挑戦するといっても、それを請け負うコーチもいるそうだ。
私のような初心者だって、そりゃ難しいと思う。レッスン代どうこうでなく、本当に泳げるまで指導できるのかどうか考えるべきだろう。


英語でも同じだ。まず現状把握して、本人の希望する到達レベル、希望納期、自宅でいかほど勉強できるのかなどを把握する。それをみて英会話教室を週何回か、自宅学習の方法、何か月で希望レベルにするかを計画するのが当たり前だろう。

水泳でも英会話でも、レッスン前に現状把握を含めて1時間とか2時間有料でそういう相談をしてくれるなら私はお願いしたい。
それにより提供するサービスの仕様がはっきりするし、サービスの達成確率も把握できると思う。
計画通り進捗しないなら原因があるはずだ。いやその前に、予定より遅いか早いかをはっきりさせなくちゃ、話にならないよね、

そして、そういうサービスを提供する力のないスイミングコーチもダメだし、英会話教室も存在意義がない。

お前はスイミングと英語しかないのかと言われそうだ。これは人から聞いた話だが……
電車に乗ると必ずと言ってよいほど、脱毛の広告のふたつやみっつ目に入る。3回500円とか終わるまでこの金額とか、
知り合いの若い女性(といっても30代)によると、契約前にいついつまでに完了する、どういう順番で行う、異常があったとき、期限までに終わらないとき、そんなことを細かく説明を受け文書をもらうと聞いた。お店により、医療機関とエステの違いなどもあるのだろうが、その女性の通っているところはたいしたものだと感心した。


では、最後に短い本論である。
ISO審査というサービスを「購入」する際に考えるべき仕様とはどんなことだろうか?
審査能力がISO17021を満たすことは、仕様なのか品質なのかはともかく必須だ。
本来ならそれだけで十分なのだろうか? 顧客がいろいろ注文を付けることは合法であり当然だ。だって客が望むものを提供できない供給者からは買わないってのがISO9001の本質だからね。
別に驚くことはない。我々が物でもサービスでも調達するとき、注文書に購買仕様書をつけて発注するか、いくつかの供給者(売り手)に対して買い手の希望を述べて、それを満たすなら見積書を持ってこいというのは当たり前の行為だよね。

さて、何を望むだろうか?
私なら余計なアドバイスを言わない審査員かな?
「ISO審査に付加価値はない。審査そのものが付加価値なのだ」と加藤重信氏は語った。「経営に寄与する審査」などとアホなことを騙るのでなく、「当たり前の審査」をすると宣伝してほしい。
おっと、もちろん実践してほしい。


うそ800 本日の茫然自失
だいぶ前に「審査の顧客満足」というタイトルで書いたことがある。日付を見るとなんと12年前である。書いていることは今回と全く変わりない。
私も進歩しない男だが、ISO認証も進歩してないね。生まれた子供も12年たてば中学生になるのに……

本日の文字数を数えたら、またもや8,000字を超えていた。コンパクトでエレガントな文章を書こうとしているのだが、いかに私が進歩していないかと……



注1
日本標準産業分類では大分類「G情報通信業」中分類「39情報サービス業」小分類「391ソフトウェア業」
更に受託開発ソフトウェア業、組み込みソフトウェア業、パッケージソフトウェア業、ゲームソフトウェア業に分かれている。

注2
印刷は製造業、著述や翻訳はサービス業である。
大分類は「学術研究,専門・技術サービス業」、中分類は「専門サービス業」、小分類は「著述家業」になる。

注3
(社)日本マスターズ水泳協会が主催する25歳以上のスポーツスイミング団体
実際は50歳以上のシニアがほとんどで、学生時代は水泳選手だった人が多い。
私のように定年後に水泳を習った者からすると雲の上の人たちである。



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