審査の顧客満足向上提案 09.01.17

いつも審査のレベルが低い、審査員よ、認証機関よ、しっかりせよ!と檄を飛ばしている。私は認証機関ではなく審査を依頼する組織側の人間だから、良い審査を求めるのは当然である。しかし要求するだけでなく、改善策を示さなければ無責任と言われかねない。いや責任がなくても、期待するだけでは向上しないようなので、本日は改善策を提案しようと思う。

審査はサービスである。
審査はサービスであるといっても、無料でしろとかお客様は神様ですなんて語るつもりはない。サービスマインドで誠心誠意審査にあたれ、なんていう精神論を語る気もない。もっと具体的、即物的な実効性のある顧客満足向上策を考える。
サービスとは役務(えきむ)、すなわち物でないことであり、それゆえ形ある製品と異なる性質があるために、過去よりサービスの品質とはなんぞやとかその品質向上、あるいはサービスの生産性などが研究されている。
そういうことを踏まえて「審査というサービスの顧客満足向上」の提言である。
サービス特有の性質といっても研究者によって考え方はさまざまである。古典的ではあるがコトラーの論によると この他にも種々の分類は多々あり、研究者によっては「不可逆性」つまり取り返しがつかないということをあげている。まあ、これも消滅性の言い換え程度かもしれない。

さて、審査はサービスであるから、当然これらの性質をもっている。
審査の顧客満足度を上げるというのが本日のテーマであるが、ます顧客満足とは何ぞやということを考えよう。ISO9000の専門家集団を相手に、品質とか顧客満足とは何ぞやとはおこがましいが、少しお許し願いたい。我々は手に入れた製品やサービスの品質が良い悪いによって満足が決定されるのかというと、そうではない。我々は期待していたことと提供を受けたものの比較によって満足の程度が決まる。
いつも遅刻している者が会議に遅れても「あいつならしゃあないな」で済むが、パンクチュアルな者が遅れると「あいつはなんだ!」と顰蹙(ひんしゅく)をかうという、矛盾した評価がされるのが世の常である。
そんなことならふだんからサボっていたほうがよいのだろうか?
良い審査を受けられるだろうと期待していて、あまりぱっとしなければ、「あの認証機関はだめ、あの審査員はいただけない、認証機関を変えようかしら」・・となる。
他方、あまり期待していなかった場合は、同じ程度であっても「まあ、まあかな?」となる。
そんなわけで顧客満足を向上させるということは、品質を上げることではなく、提供するサービスと相手の期待値を一致させることである。
まあ、そんなことも含めて審査の品質向上策を考えていきたい。

ISO審査なんて大げさに考えることはない。していることもレベルも、食堂とか床屋と全く変わらない。そして審査の顧客満足の向上も食堂とか床屋の場合と全く同じで、お客様が期待するものを期待通りに提供することに過ぎない。
審査は技術的に高度だから、そういった世間一般のサービス業とは違うなんて考えることは間違いである。
審査員が床屋より高度だなんて言ったら、床屋さんに笑われるぞ 
tokoya.gif また、認証機関はお金を払う人から見て上位にあると思うのも間違いである。床屋の親父さんがお客さんより偉いなんて思っているはずがない。お金を払う立場から見たら、一業者に過ぎない。認証機関を購買先として評価して、評価が悪いと鞍替えする知り合いがいる。
認証機関は床屋と同じ、審査員は理容師さんと同じである。
審査の顧客満足を向上する第一歩は、まず己がサービス業であることを自覚することである。そしてサービス業の特性を理解して、お客様の期待を把握し、それに応えることがすべてである。
なあんだ、審査の顧客満足向上とは簡単なことだったのだ。
だって、審査員は審査で企業が顧客満足を向上されているかを常に評価しているのだから、自分のしている仕事の顧客満足なんて言われる前からわかっているはずだ。

蛇足であるが、品質が良ければ顧客満足が得られるわけではない。顧客満足は事前の期待と受けたサービスの一致によって得られる。提供するサービスの品質が悪くても、苦情処理システムが整っていてお客様の不満を速やかに適正に処理できるなら顧客満足は得られる。
審査というサービスの品質がそれほどでなくても、審査時のトラブルをフォローする体制があればそれなりに評価はされるだろう。
そして提供する審査も悪くて、苦情処理も適正に対応できないなら、そりゃ顧客満足なんて無理な話だ。世の審査機関は審査後にアンケートをとるところはあるが、審査時に紛糾したとか、あるいは判定になかなか同意が得られなかった場合のフォローをするところはないようだ。それどころか、私が不適合の根拠がおかしいのではと認証機関に問い合わせても、けんもほろろのところもある。
いったい顧客満足というものをどう考えているのだろうか?

本日の疑問
審査員が組織の顧客満足を把握しているかを審査するのに、己の審査の顧客満足を向上できないのはなぜだろう?

本日は、いつになく長文であると思われたお方もいらっしゃるだろう。私は思い返してとか仮定の話を書くのは非常に苦手だが、実際に体験し問題を感じたときはキーを叩くのが止まらない。アドレナリンが加速するのである。


ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(09.01.18)
今現在でも、審査員を指名する会社は多い。ただその審査員が提供するサービスが高度だから客がついているのか、馴れ合いで不適合を出さないから客がついているのかは私は知らない。

審査員を指名している組織は多いと思います。
ところで、後者は論外として、前者であったとしても認証機関は、これを恥じるべきでしょう。
なぜなら、そういう組織はその審査員個人の属性を信頼しているのであって、認証機関及びその審査スキームを信頼しているのではないということになるからです。
バラつきをゼロにはできないものの、審査員の力量はいい意味で金太郎アメのように平準化されていなければならず、認証機関は「ご指名のA審査員だけでなく、他の審査員も彼と同等の力量を持っていますから個人指名する必要はないですよ」と言えなければなりません。
あるいは更に一歩進めて、組織側の審査ニーズに最も合致した審査員を提供することができなければなりません。17021にこうした要求はないでしょうが、組織は9001の7.4.1に基づいて認証機関を選定・評価するのですから、当たり前のことです。

認証機関を購買先として評価して、評価が悪いと鞍替えする知り合いがいる。

あら? 誰ですか、そんな思い切ったことをする知り合いは? 
そもそも、認証機関によってISO登録証の重みや価値が変わることはないとしても(これはこれでおかしなことですが)、審査によって組織が受ける影響は大きく異なります。社用車の指定ガソリンスタンドを選ぶのとはわけが違います。
認証機関は、審査によって組織のマネジメントシステムの運用にどういう変化が生じるのかについて説明できなければならないと思うのです。
これを果たさないばかりか、「安い、早い、カンタン」と牛丼のようなセールスプロモーションをする認証機関が多いのは、不可解なことです。

審査員が組織の顧客満足を把握しているかを審査するのに、己の審査の顧客満足を向上できないのはなぜだろう?

認証機関だけは特別だと思っているからではないですか。
それが証拠に、購買プロセスの審査で「認証機関はどんな基準でどのように評価しているのですか?」と質問されたことがありません。この質問を毎度楽しみに待っているのになあ。

おお!ぶらっくたいがぁ様
早速のご意見ありがとうございます。
少なくともたいがぁ様と私は同じ疑問を持っていることは間違いないようです。
その他の大勢の方々は疑問を感じていないのでしょうか?
疑問を持っていても、どうしたらいいのかわからないのでしょうか?
あまり厳密に考えると、かえってぼろが出るので黙っているのでしょうか?
それが疑問ですね


高橋様からお便りを頂きました(09.01.20)
審査の顧客満足向上提案 09.01.17
所見報告書を公開する、それ自体は有効なことと思います。ただし、これからは少ないでしょうが、本来大多数である初めて認証を受けようとする企業にとって、あるいは不満をもって変えようとする企業にとっても、いったい本来どの程度のサービスを受けられるのが標準レベルの審査なのか、見当がつかないのではないでしょうか。事前に模範的な審査を他社で体験できれば別ですが、現実的には無理でしょう。
以前、審査機関が宣伝のために作成した審査風景のビデオを見たことがありましたが、今から思えば審査の儀式を紹介したようなもので、それを見ればはじめての人は、「ああ、そういうものか」と思ってしまうでしょう。もっとも、それはそれで余計な指摘はなかったかもしれませんが。
ということは、おばQ様のような方が、審査とはこういうものですよ、というサンプルを日本中に公開する(Webではなく、認証を受けようとするあるいはなんとなく不満を持っている企業に送りつけて知らせる)しかないのでは?

高橋様 毎度ありがとうございます。
まず基本的な例を考えてみましょう。

例1 高橋産業株式会社というところがありました。
そこでは親会社おばQ(株)から、ISO9001を認証しないと取引しないと言われています。すぐさま認証が欲しい。高橋産業では今まで、認証なんて見たことも食ったこともありません。さあ、どうしましょう。
コンサルタントとか同業他社にお願いするすることもありますが、審査とはどういうものなのかを事前に、隠し立てなくあからさまに知りたいと思うのは当たり前です。
所見報告書を見れば「アッ、こんなものか」となるのではないでしょうか?
要するに大したことは書いてありません。それならば大したことをすることもないでしょう。何もせずに認証は得られそうです。もし審査で不適合があればそれだけチョチョとなおしましょうか。あるいは審査員に不適合じゃないとすごむ手もあります。

例2 高橋産業株式会社というところがありました。
そこでは経営者が会社を良くするにはISO9001を認証すると言いと聞きました。それで総務部長に「オイ、ISO9001の認証について調べてくれ」と言いました。
総務部のおばQは公開されている他社の所見報告書をインターネットで10件ほど集めて、それを表にまとめました。なんだか大したことが書いてなく、高橋社長の思っているように会社を良くするようには思えませんでした。
「社長、とりあえず他社の審査報告書の例です。これを読んだだけではあまり効果はなさそうです。」

言いたいことはこういうことです。
認証とか審査とか審査報告書というものが広く知られれば、それにまつわる誤解、勘違い、期待のしすぎはなくなって、実際のサービスを受けたときの落胆は少ないだろうということです。
おっと、期待以上の成果であることはまずありません。


うそ800の目次にもどる