SDGsとISO14001その3

22.04.18

最近、「ISO14001とSDGsを統合」とか「ISO14001をSDGs実現に活用」と語る認証機関とかコンサルがいる。そんなものをいくつか読んで感じたこと、考えたことを書いてきた。本日はその3回目である

今まで読んだ認証機関の広報誌とかネットにあるコンテンツを眺めた限り、ISO14001とSDGsの関りとか、その合わせ技を語るものは、奥行きのない思い付きというか理論的裏付けのないものばかりだ。それは単にISO認証を増やそうという下心としか思えず、吟味検討する価値がないと判断した。ということでこれが最終回になるだろう。


SDGsとISO14001は全く縁のないものではない。だがそれは親戚関係でいえば、親子どころか三親等(甥・姪)とか四親等(従妹・従弟)といった縁戚関係ではなく、もっと遠い関係だ。

私の田舎では遠い親戚を「かんぷらいとこ」と言う。「かんぷら」とは福島県の方言でジャガイモのこと。
なぜ「かんぷらいとこ」というかというと、ジャガイモを収穫したことのある人ならわかるだろうが、 かんぷら堀り ジャガイモの根は細くてそれがめちゃくちゃもつれている。そこからどこかで血縁が繋がっている人のことにつなげたらしい。

小学生の参観日に母が同級生の母親を見て驚いたが、親しそうに話をしていた。後で知り合いなのかと聞いたら、かんぷらいとこだという。聞くと、曽婆ひいばあさんかそれより前の時代に嫁に行った人がいたらしく、今も付き合いがあるのだという。田舎では法要が重要なイベントで義理だから、呼ばれたら断ることができない。相手が良い人たちなら良いが、そうでないと腐れ縁がいつまでも続く。

法律で親族とは6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族のこと(注1)法律で定める親族でなければ親戚と言ってはいけないことはないが、縁が遠い有名人を親戚と語るのはおこがましい。
私の家内の従弟の嫁さんの姉の夫が福島県の県会議員ですが(これは本当)、私は親戚に議員がいると言ったことはない。 わからない? 選挙応援もしませんけど……
SDGsとISO14001は全く縁がなくはないが、せいぜい「かんぷらいとこ」の関係くらいでしかない。

ちなみに法律同士の親子関係は明白だ。会社の手順書(範疇語である)も親がなくてはならない。とはいえ規則を作ったことのない人が作ると、親のない手順書ができてしまうことがある。文書管理をしている人は、そういう嫡子でない手順書を「ててなし子」と呼ぶ。
品質マニュアルとか環境マニュアルの中で最上位の文書と書いてあるのをときどき見るが、まさに親なし子なしである。なにが社内最上位の文書だ(笑)。単に怪しげな文書に過ぎない。

挑戦者よ現れよ もし環境マニュアルとか品質マニュアルが最上位の文書であるとお考えの方は、ぜひ論戦を挑んでください。
ここをポッチ ⇒


縁が遠くても相性が良くて相互補完するものだというかもしれない。相性は感覚的な言葉だから論評できないけど、相互補完なのかどうか?

ISO14001は普通「環境マネジメントシステムの規格」と呼ばれているが、正しくは「環境マネジメントシステムの要求事項」である。それは私の個人的意見ではない。その証拠にJISQ14001(ISO14001)の規格票にそう印刷してある。

要求事項(Requirement)とは「これを満たしなさい」という命令である。とはいえ材料や方法をどうするかは全部お任せ・丸投げである。ISO14001には要求を実現するための手法とか解法は書いてない。
だから「ISO14001に書いてある通りする」ということはありえないというか、できない。現実には「自分たちが考え工夫して要求事項を満す」ことになる。

それだけ言えば「ISO14001とSDGsを統合」とか「ISO14001をSDGs実現に活用」という表現がおかしいと思わないか?
もちろん統合と活用はれっきとした日本語で、「電卓と虫メガネを統合」とか「インターネットを公園デビューに活用」というのは、実際に意味があるかどうかはともかく文章に矛盾はない。

だが「ISO14001とSDGsを統合」とか「ISO14001をSDGs実現に活用」の「ISO14001」に「環境マネジメントシステムの要求事項」を代入するとどうなるかやってみよう。
「環境マネジメントシステムの要求事項とSDGsを統合」と「環境マネジメントシステムの要求事項をSDGs実現に活用」となる。
どういう意味なのか愚かな私にはわかりませんので、「ISO14001とSDGsを統合」とか「ISO14001をSDGs実現に活用」と語った人はその説明をお願いします。


ところで「環境マネジメントシステム」は、実は「組織のマネジメントシステムの部分」に過ぎない。妄想を語っているのではない。考えるまでもなく規格でそう定義されている。

ISO14001:2015
3.1.2 environmental management system
part of the management system used to manage environmental aspects, fulfil compliance obligations, and address risks and opportunities.

直訳すると
「環境側面を管理し、コンプライアンス義務を果たし、そしてリスクと機会に対処するために使われるマネジメントシステムの一部」
JIS翻訳は
「マネジメントシステムの一部で、環境側面をマネジメントし、順守義務を満たし、リスク及び機会に取り組むために用いられるもの」
JIS訳は「一部」と「用いられる」が離れていて修飾のかかりが分かりにくいが、意味は同じだ。


上記から前述したことが理屈的にお分かりいただけただろう。そして二点において違うこともわかる。

ひとつ、ISO14001は要求事項であり、目的を達するための方法や手順を決めたものではない。SDGsは方法を考えずに要求(おねだり)するだけで実現するわけがない。

ひとつ、ISO14001で定義した環境マネジメントシステムは、組織のマネジメントシステムの一部であり、環境に関わるものを抜き出したもの、言い換えると環境遵法と汚染の予防に関わらないものを除いたものなのだ。

なにを言いたいのかといえば、どう考えても「ISO14001とSDGsを統合」とか「ISO14001をSDGs実現に活用」というのはまったく意味が通じないということだ。
「組織のマネジメントシステムとSDGsを統合」とか「組織のマネジメントシステムでSDGsを実現する」なら意味は通じる。
もっともそれが正しい方法なのか、あるべき姿なのかについては保留する。


ともかく「ISO14001とSDGsを統合」とか「ISO14001をSDGs実現に活用」と語るようでは、出発点においてISO14001について基本的な認識が間違っている。もはやその先を読むまでもない。
いやSDGsについて書いた認証機関やコンサル会社の方々は、そんな当たり前なことは百も承知であろう。だが商売のためにはこじつけしてでもSDGsとISO14001認証をつなごうと苦慮したのであろう。そのご苦労に同情する。
だがいきさつはどうであれ、書かれた文章は読む価値がないことも間違いない。価値がない以前に意味もないのだが……


話はどんどんそれていくが、ISOMS規格は増殖に増殖を重ねている。
2022年現在、ISO規格以外のJISなどを含め下記のマネジメントシステム認証が行われている。

ISO9001品質マネジメントシステム
ISO14001環境マネジメントシステム
ISO/IEC27001情報セキュリティマネジメントシステム
ISO50001エネルギーマネジメントシステム
ISO13485医療機器の品質マネジメントシステム
ISO22000食品安全マネジメントシステム
ISO55001アセットマネジメントシステム
ISO/TS16949自動車産業向けの品質マネジメントシステム
LAQG9100品質マネジメントシステム-航空、宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項
TL9000電気通信産業品質マネジメントシステム
ISO45001労働安全衛生マネジメントシステム
ISO39001道路交通安全マネジメントシステム
ISO/IEC27017クラウドサービスセキュリティマネジメントシステム
ISO15001個人情報保護
PCI DSSカードセキュリティマネジメントシステム
CSMS制御システムセキュリティマネジメントシステム
ISO/IEC20000ITサービスマネジメントシステム
ISO22301事業継続マネジメントシステム

更に開発中のものとして中小企業限定の規格、環境ラベルや種々のアセスメントなどいろいろある。
その他、IAFやJABなどのISO第三者認証の仕組みの外での、簡易EMS規格や業界限定のグリーン経営認証などなどを含めれば、もうきりも限りもない。


安いよ、安いよ
ISO が安いよ
買った、買った

ISO認証機関
とはいえさまざまなマネジメントシステム認証を売り込むほうは一生懸命だが、買い手の企業はISO疲れしている。品質が良くなります、環境保護をしっかりしていることの証です、企業イメージが向上します、同業他社もしてますよ、 お断りします かわいい子がいますよ、そんな甘言で誘われても、認証の成果は数字では表れないし、売り上げに結びつかない、そして仕事ばかり増える、出る金は増えるばかり……
そしてISOMS規格の種類がたくさんあるのは、個々のISOMS規格は守備範囲は限定され、効用もないと認識されるのは当然だ。違うか?

実際に前に述べたように「SDGsを推進するためにISO14001を活用」といっても、ISO14001は企業のマネジメントシステムのほんの一部である環境マネジメントシステムだけが守備範囲だ。守備範囲外をどうするのかの説明もない。

ということはもはや今までのISOMS認証ビジネス戦略は失敗したというか、行きつくところまで行ってしまったと言えるだろう。
基本に戻って考えれば、情報セキュリティはISO9001の一部ではないのか? ISO50001はISO14001がそもそもカバーしているのではないか? 医療機器とか食品ならISO9001の業界固有の部分を追加すれば済むのではないか? そうとしか思えない。
なぜそうしなかったのかは、何度も言うけど認証のお金儲けのためだ!


私が「ISO14001とSDGsを統合」とか「ISO14001をSDGs実現に活用」を批判するのは、語ることが意味不明であることもあるが、そもそもISO認証ビジネスが迷走していることへの批判である。
いやISO認証ビジネスが迷走しているのでなく、ISOMS規格の構造が間違っているのではなかろうか?

ISO/IEC業務指針第1部統合版ISO補足指針で決められた共通テキストなるもので文書の項番などの形式は統一されたが、そもそもそういう形でなくすべきだった。
そんなことは私は2015年改定前から語っていた。
下記はもう何年も前に書いたものからの引用である。


−−引用開始−−
たくさんの○○マネジメントシステム規格がありますが、共通部分と固有部分をどのように分けるか・組み合わせるかということを考えなければならない。
簡単に言って二通りあります。

2015年版の構造 私の考え
ISO9001
品質固有の要求事項
共通要求事項
ISO9001 品質固有の要求事項
ISO14001
環境固有の要求事項
共通要求事項
ISO14001環境固有の要求事項
ISO????共通要求事項

現状の共通テキストを基にしたISOMS規格は、上図の左の形です。ですから個々のマネジメントシステム規格にはすべて共通要求事項が入っている。それが良いのか悪いのかとなりますが、端的に言ってエレガントでない、応用が利かない、故に悪いと結論される。
私は上の図の右側にすべきだとだいぶ前(リンク)に書いたことがあります。もっともISOTC委員もJTCGの委員も私のウェブサイトなんて見ちゃいないでしょうけどね、
認証を受ける会社にとって、右側の方がシンプルで手間がかからないと思うのです。そして「○○固有の要求事項」はとてもページも少なく手軽になります。どんどんと新しいマネジメントシステム規格を粗製乱造するには向いてますよ、
まずこの辺から考えていかないとダメでしょうね。
なぜこの方式が良いのかといえば、前述したように組織の文書体系は「○○マネジメントシステム」対応でできているわけではなく、業務プロセスに合わせて作られているからです。
審査のために文書を作るなんてばかみたいでしょう。会社の文書そのままに審査してあげないとお客様がどんどん減ってしまいます。
そういうことも考えずにJTCGがアホみたいなことをしたのを誰も止めないのですから、あまり認証ビジネスを本気に考えていないのでしょうね。あるいは企業の文書体系などご存じないのでしょう。
−−引用ここまで−−

戦略のミスは戦術では取り返せないといわれる。簡単に言えば戦において敵の殿様を狙うかお城を狙うかの選択を間違えたら、戦いで勝とうが戦争は負けだということだ。
戦じゃあ もちろんその時の戦争目的によって戦略は変わる。天下を取ろうとしたとき、将来台頭するであろう若手の大名をつぶすのが目的なら、お城とか豊かな農地を無視して大名とその嫡男の首を上げるのが目的だろう。そうではなく今年の冬領民が食うものがなければ敵の大名など追わずに、田んぼにある稲をかっさらうのが目的のこともある。前者なら大名を逃したら負け、後者なら稲を焼かれれば負け。
戦争は目的があって行い、その目的を達せなければ負けなのである。

戦争とは行きがかりとか思い付きで始まるのではなく、戦う目的があって始めることなのだ。戦争反対という人は、お互いに仲良くすれば戦争が起きないと思っているだろうが、そんなことはない。商取引とか外交交渉で妥協できないときにするものだ。クラウゼヴィッツは戦争は政治的行為であると言っている。

ISOMS規格の目的は何か?
ISO9001を1987年に制定した時は「品質保証の国際規格(JIS訳のタイトル)」であった。しかし二者間の取引でなく第三者認証に使われることになり、しかも第三者認証が大々的に行われるようになったことから、第三者認証のための国際規格になった。つまり目的は多くの企業に認証してもらい認証機関の売り上げを伸ばすことになった。
だがそういう目的はありえるのだろうか?

20年位前に「環境によく家計によく景気に良いのは、新車を買って乗らないことだ」という言い回しがアメリカで流行ったらしい。新車が売れれば車メーカーだけでなく世の中の景気が良くなる、車を買っても乗らなければガソリン代はかからず、環境にも良い。だがもちろん車というのは人やモノが移動するためのものだ。それは本来の目的を達していない。

認証機関の売り上げが増えても、商取引において第三者認証が活用されなければ本来の目的は叶わない。まして守備範囲が狭いからとMS規格の粗製乱造をしていては、個々の規格の認証の価値はどんどん小さくなる(価値が下がるとは言わないでおく)。


ISOMS規格の構造を出発点で間違えたのだから、良い結果が出るはずはない。それをリカバリーしようとする気持ちはわかるが、ISOMS規格の乱立は悪手だった。そして認証件数減少を新規のMS規格で補おうというのは更なる悪手だ。そこですべきだったのは、ISO関係者が大好きなPDCAだったはず。原因を究明しその対策をすることだ。
既に手遅れだ。

しかし今、「ISO14001とSDGsを統合」とか「ISO14001をSDGs実現に活用」なんて言い出してはスパイラルアップどころかスパイラルダウンもいいところ。
おっと嫌なことを思い出したが、スパイラルアップなんて誰が言い出したんだ?

そもそもSDGsとはいったい何だ? 不況脱出の切り札なのか? ゼニ儲けのネタか?

間違っても持続可能ではない !
おっと文句を言う前に本屋に行って、経済誌、環境、ESGなどの雑誌や書籍をパラパラめくってみてほしい。SDGsでいかに儲けるか、事業を伸ばすのに利用しようなんて記事がてんこ盛りだ。
えっ、地球温暖化もインパクトが落ちたから、これからの飯のタネはSDGsですって!

とはいえ、金儲けはSDGsに限ったことではない。もう20年くらい前、環境ホルモンが大騒ぎされた時期があった。あれも環境ホルモンで食べていこうとした人がいたんだろう。

クジラ
海狼なんていうクジラで飯を食っている人たちがいる。おかげで最近は鯨が増えすぎオキアミを食べ尽くし、ペンギン人口が減っているという(注2)クジラ保護団体はペンギン殺戮団体なのだ。


うそ800 本日のオチ

本日はオチもなく面白みがないというか、一刀両断しないから不完全燃焼かもしれない。
あえてまとめるなら、いかなるものでも最も重要なことは固有技術だ。管理技術とは固有技術が完成しているとき、管理とか運用の効率を上げることしかできない。

SDGsのように目標はあるけどその方法が見えないもの、地球温暖化のように技術的に確立されていないものを、ISOMS規格ならうまくいくなんて語ることは恥ずかしい。固有技術がなければシューハートサイクルは空回りするだけだ。

更にISO認証の意味と必要性について考えねばならない。ISOMS規格が有効なこともあるかもしれないが、そのとき認証は必要なのかを考えなければならない……必要という結論になることはないと思う。

もし読まれていなければ その1その2もお読みください。




注1
民法第725条 次に掲げる者は、親族とする。
第1号 六親等内の血族
第2号 配偶者
第3号 三親等内の姻族

注2


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