ISO第3世代 52.環境監査その4

23.02.23

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは

「遵法と汚染の予防」の確認一筋に舵を切った、システムを見るのでなく、文書・帳票・現場しらみつぶしという新方式の環境監査を4月に初めて、初夏となった今までに5つの工場とひとつの製造業の関連会社の監査を行った。
監査員が目ざといというよりも、受査側が実態を見てもらおうという意識のせいだろうが、非常に多くの不具合を見つけた。上のほうも、問題が多くあったことを責めるのでなく、問題を多く見つけたことを評価してくれた。
山内参与が言い出し、関係部門を動かして始めたことであり、山内も直下の磯原、佐久間も始めて良かったという気持ちである。

今日は午後半日、環境監査に参加した本社関係部門の人が集まって反省会である。
出席は、監査部の早川と島田、法務部の浜口、今まで監査した工場が所属する事業本部の担当者、そして生産技術本部の山内、磯原、佐久間である。


島田 早川 浜口 清野 人 山内参与 磯原 佐久間
監査部 法務部 事業本部 生産技術本部
島田参与 早川参与 浜田 清野参与 別の事業本部 山内参与 磯原 佐久間

島田 「えー、私ども監査部の業務監査の一環として、法違反や環境リスクの予防するための新しい環境監査を始めまして、既に6か所になります。
本日は監査に参加された主要な方に集まってもらいまして、今までの反省点や改善について忌憚のないご意見をいただきたいと思います。

進め方としては、とにかくどんどんと気づいたことを挙げてもらいたい、30分もあればだいたいになるでしょう、それからは個々の項目について議論したいと思います。
書記はこちらでホワイトボードに書きまして、一杯になったらプリントして各位に配布いたします」

早川 「まずは主催者側から、全般論ですが事業本部の方が参加されるようになり、この環境監査も一人前のイベントにみられるようになったと感じてます」

清野 「私も環境監査に参加するよう本部長に言われたときは、どんなものか想像もできませんでしたが、参加すると今まで考えてもみなかった、環境管理のお仕事を知ることができました。環境担当に限らず本部にいるものは一度参加してみるものです」

人 「しかし監査すると必ず法の届を忘れていたり、会社規則を知らなかったりが見つかるものだね。まじめに仕事をしていないのかね?」

早川 「いえいえ、どんな仕事でも会社規則通りに仕事していないと思いますよ。定められた決裁権限者以外がハンコ押しているとか、報告すべきことが漏れていたりしませんか」

磯原 「それはありますね。多くの場合、多少逸脱しても許容範囲があるでしょうけど、法に関わる逸脱は問題になります。環境関係は法に関わることが多いということじゃないですか」

清野 「しかし今年から環境に関わった私の印象では、現在の環境監査はちょっと即物的すぎる感じがする。もう少し仕組みとか法を守る体制とかを調べるという観点のほうが良いのではないでしょうか?」

山内参与 「ISO審査とか、ISOのための内部監査などが、清野さんの思い浮かべる形態かと思います。過去そのような形の内部監査や外部監査が行われてきたのですが、遵法と汚染の予防にはあまり効果がありませんでした。
それで絶対に違法を出さない、事故を起こさないためには、仕組みを見る監査でなく、結果・パフォーマンスを見て遵法をチェックする、事故の恐れがないかを点検する、そういう即物的な監査をしようという発想に至りました」

清野 「そうなのですか、過去のことを知らず申し訳ない」

佐久間 「それについて考えていることがあります。
監査の方法は山内さんがおっしゃったように、仕組みでなく結果を見るということですが、点検の方法だけでなくその是正ももっと即物的であるべきと思います」

山内参与 「是正を即物的にとは?」

佐久間 「何か問題を見つけたとき、その問題の対策を考えるのか、その発生原因をなくそうとするのかですかね」

清野 「そりゃ根本原因をなくすことが理想でしょう」

モグラ叩き

早川 「うんうん、監査でも品質問題でも根本原因を追及して対策しなければモグラ叩きだ」

佐久間 「基本的に受査側のレベルが高く、問題を指摘されれば自らが原因を究明して対策を立案できるならそれが理想です。
しかし受査側がそういう考えがなく、というかできないレベルであれば具体的な問題を取り上げて指摘することが有効です。そして対策も是正処置(再発防止)というより処置(対症療法)であるほうが有効なのです」

山内参与 「分かったぞ、IBMの環境経営にあったことだな」

注:第45話の「IBMの環境経営」参照
その中で「長期的なビジョンとかあるべき姿を目指して環境活動を進めてきたわけではない。土壌汚染の問題を起こせば二度と起きないようにしっかりと是正処置をする、業務に無駄が見つかればそれを排除する、決めたことはルールにしてそれを遵守する、そういった積み重ねで世界から環境優良企業に認められるようになった」とある。

清野 「佐久間さんがおっしゃった方法は、初歩的というか原始的に思えますね」

磯原 「ISO14001の審査はまさに、仕組みをしっかりすれば問題は解決できるという発想で行っています。しかし現実にはそうではありませんでした。現に我が社では遵法も汚染の予防も大きな改善が見られません。そしてまた世の中でISO認証が機能していないとか信頼できないなど酷評されているのが実態です。(この物語は今2017年である)

環境管理レベルを上げるには、仕組みをしっかり作るという根源的な解決法よりも、今見えている不具合をとにかくひとつずつつぶしていく、そういう手法が効果があるだろうという発想がこの監査の起こりです」

清野 「うーん、そうなのか…」

島田 「環境管理部のお三方から説明がありましたが、まさにそのようないきさつから少しずつでも効果がある監査とはどうあるべきかということをだいぶ考えました。
改善にも不良対策にもさまざまな手法があります。しかし単純にどの方法が良いとは言えません。
時と場合によって最善の方法が決まるといいましょうか、この場合ならこのアプローチがベターだ、この場合はと……我々はベストではなく当社の現実に合わせたベターを選ばなければならないのですよ」

清野 「最強ではなく最適ですか。ダーウインと同じでね」


どうでも良いこと: 監査とは事実と基準を比較して、異常を提起することでしかない。
その方法はいろいろあるわけで、どの方法を選ぶかは組織を取り巻く環境、使えるリソース(人、もの、金、情報)によって定まる。
そのとき最善の……なんてものはない。存在するのは最適な方法だけである。



浜口 「新しい方式を始めるときは法規制対応で、法律の読み方、具体的には読み解けなくて法律の理解ができないこともあるだろうと、法務部の私が参加しました。
でも監査に参加してみると、法律の理解が足りないことによる問題はなかったようです。環境法は実務的に書かれており100%文字解釈で読めば誤解することはないでしょう。

ということで2回目以降は、法務部は参加しておりません。
ただ法律のハイラルキーとか条文の探し方の知識が必要です。これについては監査とは別に、環境担当者を対象に法令の読み方の講習会をするべきかと考えます」

磯原 「おっしゃることに同意です。しかし現実は法律を読んでも解釈が間違いないかどうか不安なこともあり、法務部で解釈というか、日常語で説明してほしいこともあるようです。工場から対応窓口とか作ってほしいという声があります」

浜口 「それこそ法務部の本務です。環境に限らず、条文の意味が確実に知りたいなら、上長経由で問い合わせいただければよろしいかと」

磯原 「工場の担当者から見ると、本社はものすごくおそれ多いのです。質問する方は藁をもつかむ心境ですから、問い合わせに申請とか上長の許可を得るとか、ハードルを高くしないで欲しいのです」

浜口 「お気持ちはわかりますが、問い合わせに法務部として回答するなら、職制を通していただかないと困ります。それに我々も日常そういう仕事をいかほどしているかを上長に知ってもらう必要があります。私たちの評価項目ですから」


どうでも良いこと: 環境でもなんでも仕事において、法律を知ることが目的ではない。遵守が目的なら、受ける規制を知ることが手段になる。「並び/及び」とか「又は/もしくは」の違いを知らなくても、環境法を読むときに、意味を取り違えることはまずない。
ただ法令のハイラルキーとか、引用している条文の探し方とか法律の言い回しを知ることは必須だ。そういう観点で基礎法学は学ぶ必要がある。



清野 「当初は不具合を指摘し、その原因究明と是正を求めるという形式だったが、何度か監査をした今は、監査の最後に問題の原因や対策について話し合いをしているので、非常に効果が出るようになったと思う」

佐久間 「ちょっと発言させてください。私は原因究明や是正策の検討も、監査員を交えて行うことに異論があります。
監査の基本的な考えですが、監査員は監査基準との差を指摘するだけが原則です。原因究明や是正検討にも参加するのは間違いではないかと思います」

清野 「それは……どういうことでしょうか?」

佐久間 「監査と是正を同一人物が行うのはコンフリクトが生じます。検事と弁護側の両方をするようなものです。
また問題の対策は、その工場の条件により最適解は異なります。監査員が是正策を問われたとき『例えば』と一例を説明しても、それが正解とか最善策と受け取られることもあるでしょう」

島田 「うーん、その可能性は大だね。だが途方に暮れているなら教えることは必要だ」

佐久間 「でも監査員の判断が正しいと検証される前に、是正を指導するのはおかしいでしょう」

清野 「監査員が間違えることもあるのか?」

佐久間 「可能性としてはありますね。ISO審査員だって間違える可能性があるから、審査結果を判定するステップを設けている。まあ費用のことからどんどんと簡略化されているようですけど。もちろん一旦下された審査結果に対する異議申し立てという仕組みもあります。
当社の監査員はそれよりは力量があると思いますが、間違えることを前提とした仕組みでなければなりません」

島田 「だが工場の環境担当者から選りすぐったメンバーなら、工場の人より明るいと思うが。
確かに佐久間さんがおっしゃるように、監査とは適否を判断することで是正を考えることではない。だが、監査部の監査では、純粋に適否を判断するというよりも、従来から指導を含めているのが実態です。それが良いか悪いかはともかく」

佐久間 「監査部が指導をすることの良し悪しは言えません。指導した結果の責任を負うでしょうから。
私とか磯原君なら指導をしても良いと思います。それは指導する力があるというわけではなく、指導した結果 問題が起きても後始末できるでしょう。しかし工場から派遣されてきた人が指導したことで問題が起きたとき、その責任を追及されても困ります。
だから監査員は適否を判定するだけで、原因の究明とか対策のアドバイスや指導をしないこと、させないことが最低条件だと考えます」

清野 「ということは生産技術本部は監査で問題が見つかったとき、原因究明とか対策検討の支援をしないということですか?」

佐久間 「そういうことではありません。監査と指導は別物であり、実施する人も別人でなければならないということです。
例えば磯原が監査をして不適合があったとき、その原因究明や是正処置の指導には磯原以外の者が行うことです。これは基本原則です」

清野 「形式的すぎると言いたいが、論理としては間違いない」

島田 「なるほど、監査部にいてもそういうことを学んだことはなかった。佐久間さんはそういうことを独学で学んだのか、それとも自分で編み出したのか?」


どうでも良いこと: 昔々、品質監査なんぞに関わったとき、会社で長年、官公庁向け製品に携わっていた人にいろいろと教わった。当時既に彼は嘱託だったが、会社の中では生き字引的存在で有名だった。
もちろん講義を受けたわけでなく、何かあると私は個人的に教えてもらいに行った。もっとも○○について教えてくれと言っても、直接関係ない昔話とか失敗談とかを聞かされた。無駄話ではなく、そこから何かをつかめという職人的指導である。
タバコ
そんな中で、彼から品質管理と品質保証は兼務できないとか、監査に行ったものが是正指導をしちゃいけないとか、基礎というか考え方をいろいろ教えてもらった(注1)
その方はそんなことを、煙草をスパスパ吸いながら語ってくれた。1992年頃は、まだ仕事机でタバコをふかすことは当たり前の時代だった。
生きているならもう90は過ぎているだろう。



早川 「工場からの派遣者も累計10数人になったが、玉石混交ですね。それが我が社の実力といえばそれまでだが、さすがと思う人は2割、初心者レベルが4割、監査員には不適かなと思う人も2割というところかな」

山内参与 「今年初めに監査員教育をしたときにも、見習い中の者ではなくベテランをと明記していたが、ベテランと言えるような人が工場にいないのかもしれない」

磯原 「派遣する側としては新人の勉強という認識もあったのでしょう。一応派遣依頼には得意分野とその仕事においての資格とか経験を求めているのですが」

早川 「せっかく遵法と汚染の予防は確実に点検すると明言しているのだから、派遣者の提案があったとき、基準を満たしていることをチェックしてほしいな」

山内参与 「おっしゃることは良く分かります。現実を踏まえると、力量のある人をそろえることも難しく、そこはここにいる佐久間とか磯原で補うという気持ちもあります。
工場に対してベテランだけとも言えず、新人が他の工場を見る経験でもありまして……」

早川 「それならば監査員としての参加と、見習いとしての参加とか区別が必要かもしれませんね」

清野 「提案ですが、監査員としてはベテランのみとする。そして勉強のためというなら同じ事業本部からのみ派遣する。そうすれば費用的にも監査部は負担しませんし、見学者が迷惑をかけても同じ事業本部ということで話をつけられるでしょう」

人 「なるほど、それなら良くても悪くても事業本部内のことだ。良いと思いますよ」

清野 「抜本的には環境業務従事者の育成が必要になる。単に工場で異動の人事発令だけでなく、環境部門に異動したものは生産技術本部の教育を受けることを義務付けるとかすべきじゃないのかな」

磯原 「確かにそうですね。人事とか購買担当者は、その逆に本社で採用して教育したものを、工場に人事担当とか購買担当として工場に派遣するという形式です。そして工場の人事担当者をコントロールするのは工場長でなく本社人事部です。そこまで人事政策としてできるかということになります。
とりあえずとして、環境管理従事者の教育制度を設けて、初めて仕事に就いたときと5年おきくらいに講習会受講を必須とするなど方法はありそうです」

清野 「突き詰めれば就社から就職ということになる。そういう改革ができるものだろうか」

人 「人事や事業本部の考えもあるだろうなあ〜、とりあえずはスモールスタートというか簡便なところから始めてみたらどうだろう」

山内参与 「それは検討しよう。先ほどの監査員についても、経験年数とか力量レベルなど監査員として参加できる要件を明確に決めることも良いだろう」

佐久間 「環境担当といっても内容的にはバラエティーに富んでいます。だから監査ができるといっても、廃棄物、省エネ、化学物質、水質、大気などカテゴリー分けになるでしょうねえ〜」

清野 「専門ごととなると、参加者が多くなるかな?」

佐久間 「いや、そうとも限りません。環境部門で10年もしていれば担当している以外も経験しますから、一人で二つ三つの分野は監査できるでしょう。監査員として登録するなら、専門分野というのを決めてもよいですね」

早川 「なるほど、監査する事業所に合わせて該当する分野に詳しい者を確保すればよいと」

佐久間 「それに支社とか非製造業の関連会社の環境監査なら、廃棄物と工事関連とかに限定できそうですね」


どうでも良いこと: 環境管理といっても内容はものすごく広い。そしてトータルしても仕事量が少ないから、多くの会社・工場では少数の人間で回しているのが実情だ。
だから知識が広く薄くなってしまうことは仕方がない。ボイラー技士が何人もとか、同じ種類の公害防止管理者が何人もいるなんてところはまずない。



佐久間 「監査においては、事業本部の方も積極的に質問してほしいですね。監査部が主催するといっても、事業本部の人が関心を持つことは工場の人が真剣になると思います」

浜口 「それは私も感じたわ。せっかく参加しているのだから大いに発言してほしい」

清野 「おっしゃることは分りますが、私はまったくの素人で、仕事や設備の名前もその要点は何かも分かりません」

人 「私もです。初めて見聞きするものばかりですから、良し悪しも分かりません」

佐久間 「事業本部の方の関心ごとは、報道された違反や事故が起きないかの確認ではないでしょうか。そういうことに留意して見ていけばよろしいかと」

人 「そう言われても思い浮かぶわけでもない」

山内参与 「過去の監査で問題になったことだけでもチェックしたらいかがですか。そのためには監査報告書を過去2年分読んでみるとか。もちろん立ち会う工場の過去の監査報告書は、事前にご覧になっていると思いますけど」

清野 「監査部や生産技術本部の方は、工場や関連会社の監査報告書すべてを見ておられるでしょう。しかし我々は自分の事業本部の監査報告書しか見ておりませんので、自分のところの事故や違反は存じてはおりますが、全社の状況は知らないのです」

山内参与 「ああ、そうか。島田さん、監査報告書をすべての事業本部に送付したらいかがですか?」

島田 「それはどうでしょう。各事業本部の監査情報はコンフィデンシャルです。それが他の事業本部に知られるのはどうですかね? あまり監査結果を知る人が多くなるのはまずいかと」

山内参与 「そうか、違法なことがあれば重大なコンフィデンシャルではあるな」

磯原 「それでは四半期ごとくらいに、その間に行われた環境監査の不具合や良好事例を無記名でまとめて各事業本部に送るというのはいかがですか。作業は我々がまとめます」

山内参与 「その場合でも違法事例の扱いは要注意だ。印紙金額の間違いくらいならともかく、重大なことは……」

浜口 「山内さん、他社の例ですが税務署の立ち入りで印紙金額不足が発見され、全国報道されたことがありました。早い話が脱税ですからね。
法違反はここまで知られても良いという線引きもできません」

佐久間 「IBMなんてCSR報告書に、事故や違反、払った罰金額、社員の使い込みまで書いている。我が社もそういうことを広報してもよいと思うがねえ〜」

浜口 「そうしたとき社会が素晴らしい会社だと評価するか、悪い会社だと思うか、社会の成熟度合いもあるのではないですか」

磯原 「ならば社内外の事故や違反を無記名でまとめるということでどうでしょう。ついでといってはなんですが、そういう事例集を定期的に各工場や事業本部に送ることにしましょうか」

山内参与 「せっかくそういうものを作るなら、冊子にして年に一度環境課長とか環境担当部長を集めて説明会をしたいね。インパクトがありそうだ」

早川 「それはそれで検討してもらうとして、監査に限らず社内外で環境に関して重大問題が発生したら、それを事業本部や工場に参考情報として知らしめるというのはいかがですか」

山内参与 「そういうものなら秘密についてハードルが低いか。万が一、そういう資料が社外に流出しても著作権以外の被害は少ないだろう。磯原君そこからスモールスタートしようか。
年一度のイベントも捨てがたいが」

磯原 「弊方で叩き台を作って皆さんのご意見を伺うこととしましょう」


どうでも良いこと: 「人・モノ・金」が今は「人・モノ・金・情報」と言われるようになった。環境管理で最も必要なのは情報だろう。情報といっても最先端のことでなく、水処理にしても廃棄物業者情報にしても、足りないということが現実である。
しかし前述したように環境管理そのものは工場では微々たる部分であり、情報に投資など期待できない。
エコだSDGsだとカッコいい言葉が飛び交うが、もっとも重要なのは遵法と汚染の予防であることをわすれてはいけない。そこをしっかりしないと足をすくわれる。経営者はそれを忘れてほしくない。



清野 「ところで私はまだ2回くらいしか監査に参加していないが、気になったのは生産技術本部の方があまり発言しないことだ。
磯原君にしても佐久間さんにしても、工場で環境管理をしてきたと聞く。だったら工場からの派遣者がモタモタしているならパッパッと進めてほしい」

磯原 「うーん、あまり私たちが主導権を取ると工場からの派遣者が引いてしまうかと思っているのです。正直言って、私が目ざといとか詳しいということはないですが、多くの工場を見ていますから、相場というかこれくらいなら良いとか、ここはレベル以下だという見分けは、一つの工場しか知らない人よりは詳しいでしょう。
でも我々が真っ先に言ってしまえばおしまいですから、工場の人に見つけてほしい。見つけないときに発言することにしています」

浜口 「それもおかしいわよ、監査が工場の人の勉強の場なら、積極的に発言や質問をしなくちゃならないわ。参加条件に積極性ある者としてよ」

佐久間 「先ほどの話に戻りますが、監査員であれば責任があるという意識づけも重要ですね」


どうでも良いこと: ISOの内部監査でなく、遵法と汚染の予防のための監査となれば要求されるレベルは高い。そんな人がそろうのかとなるとよほどの大会社でなければ難しい。
それに排水処理施設が社内にひとつしかないなら、それを担当者以外で評価できる人を確保することも難しい。
結局ISOのおままごと内部監査しかできないのかもしれない。


うそ800 本日はなんだって?

「今回はいったい何を書いているのか?」という疑問をお持ちになったかも?
いや特別の意味も主張もありません。私が関わった環境監査では、関係者が集まって問題や改善案を議論したり試行してみたり、常に継続的改善を図りました。
なによりも監査の質をよくするには、監査システムの見直し、監査方針の見直し、関係者の教育、教育資料の整備、教育の実施と評価、監査員の指名方法、監査の実施……
まあ一筋縄ではいきません。その辺の審査員研修機関以上の工夫とトライアルはしたと思います。
そんな思い出であります。

それから完璧とか最高とか、もちろん至高とか究極なんて監査はありません。理屈から言って存在しません。あるのは最適な監査だけです。なぜなら周囲環境とか重大性などによって監査の方針も方法も判定も変わります。
コロナ流行で、リモート審査が広まったように、すべてのものごとは取り巻く環境、使える技術や監査員の技量、受査側のレベルによって最適は変わります。
耳 「審査員に合わせろ」「審査員に分かりやすく」なんてアホなことをいう人は、審査員/監査員に不適です。相手が東北弁を語ろうが、相手に合わせて臨機応変に聞き取り(audit)できる人がauditor(審査員)なのです。できない人は似非えせ審査員です。
そんなことはISO19011に書いてありましたね(注2)

なにものであれ、置かれた環境に合わせて、仕組みや方法を常に見直し最適化していく…それが仕事だと思います。
おっ、とすると私は保守でなく革新なのか?


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注1
審査員は是正のアドバイスをしてはならないとISO9001審査員講習で習った覚えがある。1994年か5年だったと思う。今も教えているとは思うけど?

注2
ISO19011:2018 7.2.2参照のこと




外資社員様からお便りを頂きました(2023.02.24)
おばQさま
今回も深いお話有難うございます、勉強になります。

>「ISO14001の審査はまさに、仕組みをしっかりすれば問題は解決できるという発想で行っています」
私はISO審査の経験が無いので、何となくそうなのだといか言えません。
けれど経営の立場で言えば「会社の経営ではあらゆる問題(外部要因や想定外の事故など)が発生するから、会社の仕組みのような手が届く部分はしっかり管理が必要」という事だと思います。
つまり人事を尽くしても、会社では問題は起きるから、日常では人事を尽くすべき。コントロール可能な部分への対応の一面としてISO審査があるのだと思います。

>環境に限らず、条文の意味が確実に知りたいなら、上長経由で問い合わせいただければよろしいかと(法務の役割)
正にその通りですね。特許も同じで、あの独特の言い回しを、技術者に判るように説明してもらう。
技術者が書いた文書を、特許固有の書き方に書き換えるのが法務の役割であり、法令や特許の読み方・特許の書き方の講習をするのも重要ですね。専門家というのはそういうものです。
だからISO事務局も同じで、審査員やISOの独特の言い回しや用語を、社内に向かった翻訳する。審査では、その逆をやるのが役割だと思います。

>監査と指導の問題
理屈で言えば利益相反、でもそれが問題になるのは業として行う場合な気がしました。
社内ならば、さっさと対策した方が良いかも。
両方やる事の弊害は、見つけた人が想定できる範囲でしか対策出来ない点と他者の目が無い点。
会社の規模が大きければ、別の人と現場が対策した方が、監査が思いつけなかった対策が出る可能性もあるし、そもそも監査の判断がオカシイ時は反論も出来ます。

外資社員様 毎度ご指導ありがとうございます。
はっきり言って正解はないと思います。ただ置かれた立場で最善を尽くすしかありません。
その1 仕組みを作れば良いのか?
私は物事はすべて三要素、つまり技術(知識)、管理、士気で成し遂げられると考えてます。ISO規格のマネジメントシステムとはこの中で「管理」だけを扱っています。
例えば届け出漏れがあったとき、それは知識がなかったのか、管理が悪いのか、怠惰だったのか、いずれかのはずです。仮に知識がなかったとすると、教育の仕組みが悪いのか、管理が悪いのか、と考えても無理気味です。とにかく目の前の問題解決には正しい手順・基準を教え込むのが最初の一歩です。あまりナゼナゼ分析のようなことをしても実効はないです。実際にはISO審査というかISOの考えは高尚なので、それに染まっている人たち…外資社員様のことではなく世の審査員や企業のISO事務局のことです…仕組みを直せば間違いは出ないと信じ込んでいます。
現実の対策はそんなことではなく、知らなかったなら教える、まずそれが大事です。まず担当者が知識・技能を身に着けたら、次に暗黙知から形式知とするために文書化して定着させる、仕組みは再発防止には必要かもしれないが、目も前の問題解決には直接的ではありません。漢方薬なのです。
それとそもそも技術が確立していないときは、再発防止など不可能です。歩留まりとか直行率とか美名を付けてそれを管理するしかありません。それでいいと思います。問題が分からなければ定性的でもしょうがない、代用特性でも仕方ない、実行可能な手法で不具合が出るのを耐え忍ぶしかありません。それを完璧を狙って百年河清を待ってもしょうがありません。
さんざん不良対策とかしてくると、ナゼナゼとか完璧な是正処置を狙うというのは長期計画でしかなしえないと体で覚えます。今の問題をとにかく60点にしよう、期末には70点、2年後には90点、それが現実です。
その3 監査と指導
監査に行ったとき、その組織の状況はまず分かりません。モノや状況を見てダメとは言えますが、改善策を言うのは難しい。看板が破損しているなら直しましょうで済みますが、設備が老朽化しているなら、事業計画など考慮しないと何とも言えません。また行政と相談しなければならないことは、その結果次第ですから、すぐにはできない。
そして私は気が小さいから、自分が出した判断を第三者に見てもらいたい(検証してほしい)と思いました。図面だって照査があり、製造なら検査があり、監査にだって検証があってしかるべきでしょう。責任逃れかもしれません。


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