ISO第3世代 80.上西腰を上げる

23.06.19

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。

ISO 3Gとは

マグカップ 上西は自分の席でブラックコーヒーを飲んでいる。上西は岡山が自宅から大きなマグカップを持ってきているのを見て、負けじと自分も大きなマグカップを持ってきた。オフィスのコーヒーは給茶機でなく、本格的な業務用コーヒーマシンなので味は悪くはない。たっぷりのコーヒーを飲むのは楽しみだ。

何も入れないから当然苦いが、いつもはそれがうまい。しかし今日は悩みごとで、とても苦く感じ、正直 美味しくない。何を悩んでいるかといえば、相も変わらずだ。

熊本工場の事故が一段落したとき、山内さんからいろいろ言われた(第67話)。言われたことは、当たり前のことばかりだ。
簡単に言えば、仕事は積極的にしろ、人任せにするなということだ。いろいろ具体例を挙げて小言を言われた。

山内氏、のたまわ

山内さんから指摘されて耳が痛かったが、言われたことはその通りだと自覚している。小言を言われたときから4か月が過ぎた。あのときよりは進歩したかと言えば、まだまだである。だから悩んでいる。

上西は自分にはいくつも欠点があると自覚する。先日の岡山の報告(第78話)も素晴らしいといえばよいものを、検討が不十分だ、論理がおかしい、監査の改善より日常業務が完璧でないことが問題だとケチをつけてしまった。それは他人の素晴らしい提案やアイデアを見ると、羨ましく感じてしまったからだ。
今、考えると、そんなこと言う必要はなかった。報告は大変素晴らしいと言えば良かったのだ。

自分が参加していないから、僻んでしまったのだろう。磯原の代わりに自分が岡山に指示していたなら、
どんよりどよどよ 上西
どうすれば……
岡山の報告を受けて素直に評価できたと思う。
じゃあ自分が磯原に代わって指示できたかと言えば、できなかった。なぜかというとそれほど深く考えていないからだ。仕事を与えるとき目的・目標・アプローチ方法を示さないと、目指すところが伝わらない。
だが自分が詳細まで理解していないならどう指示するのか?

今問題となっていることが、何が原因でどんな減少でどんな不具合が起きているのか、それを良く考え、どうすれば良いのか、どこまで改善すれば良いのかと、熟考すればよかった。
だが、考えればアイデアが出てきただろうか。磯原や岡山と一緒に考えて、目的・目標を決めればよかったのか。
だけど元となる山内さんの指示を自分が良く理解できてないなら、それを展開することはできない。山内さんのビジョンを理解できないのは自分の能力がないのか、もっと考えれば良かったのか?
いろいろ思いめぐらしても考えはまとまらず、頭を抱えるしかない。


苦いコーヒーを飲み干して環境課の席を見回す。座っているのは庶務の柳田と田中だけだ。
そういえば昨日、増子が石川を宇都宮工場に連れて行くと言っていた。石川はほかの工場を見たことがないという。早いところ、主たる工場の環境管理課に顔を売っておかないと、仕事に差し支える。

坂本は環境監査の監査員の力量について、午前中監査部と話をすると言っていた。岡山は坂本について行ったらしい。
磯原は関連会社が相談に来たとかで、ロビーに行ったはずだ。
田中は環境管理課宛に来た報告書や通信物を処理している。最近は始めた頃より2倍以上処理が早くなったと自慢していた。
柳田は坂本がまとめた事故事例集を仮製本している。とりあえず環境管理課内に配るので、工場で活用できるか検討してくれとのことだ。


書類受け 上西のインボックスはカラだ。外部からのメールや書面はほとんど田中が見て彼が処理できるものは処理してしまうし、課長決裁のものと上西が知らないとまずいものだけを選り分けてインボックスに入れる。だから上西が見るのは一日10件もない。
インボックスがカラでも仕事がないわけじゃない。課長のすることはいくらでもある。改善…つまり事故が起きないように、違反しないように、費用を減らすこと、人を減らすこと。

だが上西は今まであまりそういうことを考えたことがない。なぜなら工場にいたときは、部下が考えて企画書を作ってくるからだ。そもそも工場の場合は仕事の幅が広くもないし、本当の意味でビジョンとか考えるわけではない。せいぜい設備の更新とか投資計画くらいだ。だから賢い奴が10年も働けば、考えなくてもよいルーチンワークになってしまう。
そして自分はそれを見てハンコを押していただけだ。

本社の場合、工場の指導支援と監督業務もあるが、もっと大事なことは環境規制や社会の要求の変化に対して、会社の環境管理をいかに効率的に有効に改革していくかであり、そのための人材育成や組織の見直し、環境施設の長期計画などを考えることだ。
そういうことは工場で有能だっただけでは、足りないものがある。そして課長は部下が持ってきた企画をOK/NG言えば済むわけでもなく、仕事が進むわけでもない。

今までは人も少なく前向きの仕事まで担当者の手が回らないということもあった。いやいや公害の担当は上西本人ではなかったのか。だが上西は着任以降、公害関係の仕事をカケラほどもしていない。あげくに熊本工場で漏洩事故が起きたときは、自分が何もできないから省エネ担当の磯原に同行してもらうありさまだった。
自分が漏洩事故の対応ができたなら違ったのだろうか。違っただろう。だが磯原だって漏洩事故など初体験だったはずだ。だが経験も知識もないのに、法律をめくったり、行政に問い合わせたりしてなんとか処理してしまった。
それは破損した石油タンクとか防油堤を観察せずに、缶コーヒーを飲んで雑談していたのが悪かったのか?

そういえば今日、磯原を訪ねてきた関連会社は、ISO14001認証の相談と言っていた。磯原は工場にいたときは、ISOにタッチしたことはないと語っていた。本社に来て2年もいればISOのプロになれるのか?
自分は本社に来て半年経った。本社で働いた期間が彼の四分の一なら、彼がISOについて知っていることの25%は知っているのかといえば、全く知らない。
今までいた岩手工場ではISO事務局と称して2名が専属だった。彼らはISOは難しいのだと言って、毎年の審査では毎回ヒーコラしていた。
磯原はISO事務局なんて審査のスケジュール調整とお金を払うだけだと豪語する。岩手工場の二人よりも力量があるのか?
ISO認証なんて詳しくない上西はまったく分からない。


上西はもう一杯コーヒーを飲もうかと思い立ち上がる。
そんな上西に柳田が声をかけてきた。

柳田 「課長、顔色が悪いですよ。あまりコーヒーを飲まないほうがよろしいです。飲むなら緑茶とかにしたらいかがです?」

上西 「あっ、確かにコーヒーの飲みすぎのようです。
ちょっと悶々としていて」

柳田 「なにか調べものしているなら情報収集とかお手伝いしますよ。坂本さんからの依頼はあと10分くらいで片付きます」

上西 「それじゃ、少し話をしたいんだけど」

柳田 「ここじゃなんですから、小会議室に行きましょう。コーヒーじゃなく緑茶を持っていきますよ」


****

柳田 「悩み事は何ですか? 10月の人事異動で一応人も確保して、磯原さんと増子さんはだいぶ楽になったようですね。磯原さんは人事異動があってから、時間外は月70時間以上が30時間くらいになりましたし、増子さんも6時半以降までいたのは、片手で数えるくらいになりましたね。早い新幹線で帰れると喜んでいました」

上西 「磯原が70時間だって! そりゃまずいぞ。彼は裁量なんとか制度だろうけど、」

柳田 「課員の勤務状況を、課長がご存じないというのもおかしいじゃないですか。そもそも人を補強したのは、磯原・増子のお二人が過重だったからでしょう?」

上西 「いや、知らなかった。奴が毎朝早いのも、ときどき残業をしていたのも知ってはいたが…」

柳田 「ときどきじゃありません、毎日ですよ、毎日。
田中さんが今かかりきりで処理している、工場や関連会社からの問い合わせとか依頼も、今までは磯原さんが定時前に処理していたのですよ。
課長が転勤されてきたとき、工場からの問い合わせ対応は課長がすることに決めましたよね。でも課長がやらないから磯原さんが時間外をして必死に処理していたわけです。それで課長が田中さんを投入したと思ってましたけど」

本当は思ってません……柳田ユミの心

上西 「申し訳ない。そんなに負荷があるとは知らなかった。
しかし柳田さんは誰が何時間働いているかを把握しているの? 我が社にはタイムカードなんてないよね」

柳田 「今は入出門のチェックは電子的に行いますから、誰が何時間在場していたかは把握されてます。もちろん仕事でなくおしゃべりなのかは分かりませんけど。
人事は見ています。あまり一部の人が過重な状態では、人事が課長の管理能力を問題にしますよ。
まあ70時間は黒に近いグレーでしょうけど。75時間を超えると呼び出しがきます」

上西 「それで山内さんが人を補強してほしいと行ったときすんなり通ったわけか。
それにしても磯原が毎月70時間も時間外をしていたとは………」

柳田 「磯原さんがいくら有能でも大変だったのですね。今は40時間くらいですが、坂本さんや岡本さんが仕事に慣れれば、ときどき残業するくらいになるとおっしゃってました。
おっと、田中さんもまだ慣れないせいもあるでしょうけど朝は1時間早く来てますし、夕方も1時間以上は仕事してますよ。時間外40時間ですか」

上西 「すべて私の責任だね」

柳田 「そうです。皆さん期待してますよ。課長には、残業が問題が多いという結果責任もありますが、それをなくす実施責任もあります」

上西 「それで相談なんだけど、恥を忍んで聞きますが、私はどうしたら良いだろう?」

柳田 「私が言うのもおこがましいのですが、課長はもっと積極的に前に出るべきです。会議ならば仕切る、計画ならば自ら立案する。
おっと勘違いしてほしくないのですが、課長がなんでも考えるとか知らなくちゃならないわけじゃないですよ。誰かが考えた案が良ければ、それを課の方針とすると課長が決めるということです。
ただ基本的に待ちの姿勢では誰もついてきません」

言うことは山内さんと同じかと上西は思う。

上西 「白状するけど私は環境管理といっても専門的な分野はないんだ。ここに来たとき公害担当となったけど、排水もばい煙も騒音・振動も実務をしたことがない」

柳田 「山内さんがしているのをご覧になってますか? 見てないでしょう。
あの方は大学院で、表面処理とか真空工学とか研究してきたと聞きます。論文データベースに載っている論文の数はこの会社で一番多いそうです。
でも山内さんが公害とかISOとかご存じだと思いますか?」

上西 「さあ〜、どうなんだろう?」

柳田 「しっかりしてください。みんなを引っ張っていくのはあなたなんだから」

上西 「全くふがいない」

柳田 「まったくですよ。
山内さんは公害もISOも素人です。でも問題が起きればその仕事とは本来どうあるべきか、どう具合が悪いのか、何が問題か、どうすれば良いのかを勉強します。問題が起きるたびに、山内さんは専門分野を増やしています。
具体例としては、ISO認証の担当者がいなくなれば自分が勉強して専門家になるし、廃棄物の問題が起きれば廃棄物の専門家になる。今は漏洩事故の専門家になったかもしれませんよ」

打ち合わせ軸
打ち合わせ
打ち合わせ
打ち合わせ
何人も座っていたのを、二人だけにするのが大変でした
どんな方法か、分かった人いる

上西 「そうなんですか。すごい人だな。まもなく定年だろうけど、もっと頑張ってほしい」

柳田 「何を語っているんですか。課長も同じく頑張れば良いでしょう。
感心するのではなく、負けるものかって闘志を燃やしてほしいですね」

上西 「私はそんなに能力はないよ」

柳田 「山内さんと同じことをする必要はないんです。課長の仕事は皆を引っ張っていくことです。課長が必要なのは管理する能力です」

上西 「ウーン」

柳田 「私も課長の仕事をしたことがないですから、どうすれば良いのかは分かりません。いろいろ思うことを言いますから参考にしてほしいですね。

専門的なことは各担当に分担して、自分は進捗フォローと問題点を把握するというスタイルが基本でしょう。上西さんが公害なら何でも分かると言っても、廃棄物や省エネや化学物質まで専門家になることはできないでしょう。だから専門分野がなくても同じです」

上西 「そうかな〜」

柳田 「組合の三役と言うと委員長、副委員長、書記長ですが、彼らの役割分担はどうなっているかご存じですか?」

上西 「知らないなあ〜、私は組合員だったのは入社したときほんの短期間で……あまり関りがない」

柳田 「三役は権限とか上下関係がどうこうじゃなく、仕事が違うのです。
委員長は支部のトップで本部の議員です。つまり委員長の仕事は支部では組合本部の代表であり、本部では支部の代表なのです。
副委員長は地域の労働団体とか地域の行政との交渉が仕事です。もちろん委員長不在時はその代行をします。
そして書記長は工場内部の組合員や会社との対応が仕事です。職場のトラブル、労金や保険などの取り扱い。
要するに役割分担がしっかりしています」

上西 「なるほど、そんなふうに役割を分けているのか」

柳田 「同じように環境管理課の仕事の分担も自分たちが考えたら良いのですよ。
課長は工場や本社各部門との交渉窓口、各担当は事故とか指導とかの対応とか、しっかり業務分担を決めるのもあるでしょう。
どちらにしても時間外70時間なんてのはなしですよ。今の時代そんなこと許されません」

上西 「工場や本社各部門の窓口というと、田中さんの仕事を私がすることだよな。田中さんはメールの処理だけで午前中かかると言ってたな」

柳田 「あのうですね、私はいろいろな事例を示しているだけです。課長がどう役割を割り付けるのか、それは組合とは仕事が違うのだから、そのままということはできません。私は例えばの例を申し上げているのです。
それに一度課長がすると言ってしなかった仕事を、既に田中さんがしているのに、課長がすると言えますか?」

上西 「お願い、ざっくばらんに、今すぐすること、次にすること、長期的にすること、簡単に三つくらい教えてよ」

柳田 「まあ乗り掛かった舟ですから……でも責任は負えませんよ。
この職場では週報というものを書いています。転勤者が来たときに皆で話し合って、それぞれ担当の実施事項、進捗と問題点をまとめて磯原さんに送り、磯原さんが全員のをとりまとめて、課長と山内さんに提出することにしました。

それを磯原さんでなく課長に報告することにしたらどうですか。課員を課長が指揮監督することが明確になりますよ。命令する人は報告を受ける人ですからね。
もちろんそれは、課長が問題を解決することを意味します。できなければ信頼を失います。良いとこ取りはできません。

正直言って、今は皆から来た週報を磯原さんが見て、問題があれば関係部門と交渉したり、問題解決のために手を打っています。彼の命令を受けて仕事をする限り、発生した問題は磯原さんが責任を持って解決してくれるのです。だから皆が文句を言わずに磯原さんの言う通り動くのは当然です。
現在は課長に週報が行くときは、既に問題は解決されているのです。もちろん、それは課長のすべきお仕事ですから、磯原さんは越権行為をしていることになります」

上西 「うーん、ちょっと話が違うけど、田中さんが毎日入ってくる発信文やメールを処理してくれているから、私が処理しなければならないものは10件くらいしかない。もしそれをみんな課長が見て割り振りとか決裁するなら、毎日100件くらい処理しなければならないね」

柳田 「呆れてものが言えませんね。課長の仕事ってそういうことでしょう。そしてそれをするから、指揮監督ができるのでしょう。それをやらずに何をするのですか? 現在は課長の仕事を磯原さんがしちゃっているわけですよ。それを楽だと思うのでなく、自分を馬鹿にするなと怒るべきでしょう。

管理職の仕事は部下に仕事をさせることでしょう。命令すれば下が動くのは、結果責任を命令者が負うからです。命令して上手くいかなかったら、部下の責任だったら誰も動きませんよ。
また命令するならそれが実行できるリソース、人工、予算、仕事に必要なインフラを上長が確保して部下に与えるのは当然です。そして相手に仕事の意義を教えて、進んでするように説得しなければなりません。

石川さんが廃棄物削減よりも省エネのほうが価値があるとか言ったそうです。増子さんが困っているのを、磯原さんはなぜ廃棄物削減をしなければならないのかを教えて納得させたそうです。ずっと年下なのに命令しないで納得するように説明する、そういうのが大事ですよね。

そして大事なのは……」

上西 「ええ、もっとあるのかい?」

馬とニンジン

柳田 「ありますよ。それは、報酬です。それがなければ人は動きません。
成果を出せば昇進させるか、少なくても職階とか昇給などの見返りがなくちゃ人は動きませんよ」

上西 「私にそんな権限はないよ」

柳田 「おやおや、部下を昇進や昇給させない上長に部下が付いてくるわけありません。成果を出した人の昇進や昇給を、人事と交渉するのが管理者の仕事でしょう」

上西 「柳田さんに期待したのは、もっと簡単にできることなんだけど……」

柳田 「それじゃ、ずーっとレベルを落として即物的なことを……
そうですね……まず先日の岡山さんの報告書の説明会には私は出てませんでしたが、後で増子さんたちからいろいろ聞きました。

えーと ひとつ、ケチをつける代わりにほめましょう。
岡山さんの報告に皆さんからいろいろ意見が出たようですが、課長はケチをつけるだけでほめなかったと言ってました。
あっ、誤解しないでください。批判するのは良いのです。批判とは否定することじゃないです。辞書を引けば『良し悪しをはっきりと評価すること』とあります。岡本さんの報告の悪いところは悪いと言って良いのです。でも良いところは良いといわなくちゃ批判じゃありません。

ふたつめは週報です。本来なら課長がまとめて報告するわけですが、先ほど各人から週報を受けたら、全体を把握するのも各人にコメントするのも大変とおっしゃいましたね。
それならまず磯原さんが直接山内さんに報告するのを止めさせる。そして磯原さんが課長に報告して、課長と磯原さんと相談して加除修整して、課長が部長と山内さんに送るのはいかがでしょう。

しばらくそうすれば、課長が仕事の状況を把握できるようになるでしょうから、次の段階として毎週全員集まって各自が前の週に行ったことを報告させる。それを聞いて課長が課の週報をまとめる」

上西 「なるほど、それなら抵抗がないかな」

柳田 「それから課長にお願いしたいのは、何事も自分から動く習慣をつけることです。動くというのは文字通り動くこと。
問題や疑問があれば関係部門に聞きに行く、自分が調べる。そして自分で考える。問題点を考える、対策を考える、指示する、フォローする、絶対にプロジェクト崩れをさせない。

任せるときは、担当者と方向性とか目標の認識を合わせる。そして細かいことは担当者の裁量に任せ余計なことは言わない。スケジュールだけは守らせる。結果責任は課長が取る。

当たり前のことばかりですよ。もちろん課長は言ったことはする、約束は守る、棚上げ・先送りはしない、決定を逃げない。
アニメで『今使わずにいつ使うのだ』なんて言いますね。あれの元ネタは『ここがロドスだ、ここで跳べ』でしょうね。
「今」はいつかではありません。常に「今」です。そして「ここ」は今いるところです。決断でも週報でも積極的もほめることも、すべて今・ここでするのです。次も他日もありません」



うそ800  本日の恨み

そんな子供みたいな管理者がいるのか
そうおっしゃる人が多いでしょう。
いやね、私は18から63までサラリーマンしてきて、その間に直属上長といえる人は20人ほどいました。立派な方もいましたが、こりゃダメだと思った人も3割はいました。

最悪だったのは私が30代半ばのときの課長でした。A氏としましょう。
Aは大層優秀だという噂でした。確かにゴマスリとゴルフは優秀でしたが、管理能力はゼロ、約束は守らず、無責任、人間性は最悪という人物でした。
Aは出勤すると仕事はせず、毎日ひたすら歩いていました。管理者が現場を歩くことは良いことだ。だけど歩くだけでなんのアウトプットもない。あそこのレイアウトが悪いとか、仕掛かりがどうこうとか、こう改善すべきなど一言も語ったことがない。毎日定時に帰りましたが、そのとき今日は1万何千歩 歩いたと自慢してました。
現場にいないと思えば、他の職場に行っては、私たち部下の棚卸しをしていました。
その結果、仕事は滞り、問題多発、現場の不満は高まるばかり。

あるとき現場に営業課長が来て、生産計画が変わっているのになぜ切り替えないのかと言います。Aが私たちに生産変更を連絡してませんでした。そんなこともできないのでは、ゼロどころかマイナスでしかありません。

あるときAは、外部の研修会に出かけて、そこで会った人から仕事を取ってきました。現場の課長が商談を取ってきたといえば立派なことです。残念ながら製品の大きさが縦横4mくらいあり、会社の設備では作れません。しかし約束したからには作らないとならない。そのとき保有していたNCフライスのテーブルが最大のもので0.9×1.8mくらいだったので、いくつにも分割して加工し、組み合わせました。
塗装するにもそんな大きなブースはない。薄曇りの湿度の低い日に表で塗装しました。後で工場内はもちろん近所から、臭気がひどいと苦情が来ました。
なんとか作り上げましたが、相当足が出ました。何のための仕事だったのでしょうか?

そんなことばかりで会社はめちゃくちゃ、報連相がなくトラブル続出の中で生産を全うしようと、私は毎朝出社は7時前、帰宅は12時頃、正直言って当時の記憶は定かではありません。辛いことがあると記憶をなくすというけどそんな感じです。
そんなことを2年もしていて私は壊れていました。

この小説の磯原のように頑張ればよいのにとは言わないでください。
磯原は事務所のみで、相手する人数は数人です。私の場合は1個中隊くらいの人数がいる現場の管理者であるばかりでなく、新機種が出ると加工や組み立てのジグ設計、NCプログラム作成、刃物や塗料の手配、作業要領書作成を自らしていたし、生産に入れば指導や検査との交渉、製造現場の人の管理、生産が遅れれば現場を手伝いました。
それもできるはずと言われると、能力が足りなかったと言うしかありません。

幸いなことに3年目、上のほうが異常に気付き、Aは課長解任され子会社にいきました。引き取った子会社は大変でしょうけど、私は助かりました。あと少し長ければ私は本当に壊れていたと思う。
その後私もいろいろあって転職したが、10年くらいして元の会社でお世話になった方から、Aが亡くなったと聞きました。それを聞いて、もうAが誰にも迷惑をかけることはないとホッとしました。
Aをモデルにお話を書けと言われても、昔の嫌なことを思い出したくありません。ブラック企業は忙しいとか賃金が安いことではない。人を壊す職場のことです。

オオカミ

ともかく管理者の責任は重大です。
ナポレオンは「狼に率いられた羊の群れは、羊に率いられた狼の群れに勝る」と語りました。
今回のお話には「真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である」の方が適切かもしれない。これもナポレオンの言葉といわれているが、その証拠はないらしい。


うそ800  本日の疑問

タイトルを「上西 腰を上げる」としましたが、上西は腰を上げたんでしょうか?
まだ解脱してないようですから、このまま波間に沈むのでしょうか?
せめてAのようにならないことを祈ります。



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外資社員様からお便りを頂きました(2023.06.22)
おばQさま 雨にも負けず、定期的な更新有難うございます。
更新記事拝見しました、相変わらず残念な課長ですね。
私なりの経験ですが、管理者やTOPに一番重要な資質は「決断する事」と「自部門と権限の結果に責任を負う」という2つだと思っています。 おばQさまの以前の御体験にもありましたが、責任を負わない上司は最悪だと思います。
加えて言えば決断はしない、つまりリスクは負わない上司も最悪です。
部門や会社の責任者ならば、情報を集めて最終的には決断する事が一番重要な仕事。
部下が優秀で、その週報や提案を、そのまま上に出そうが、自分が決断し責任を負うならば上長の功績。
裏返せば、失敗した時や問題があった時に、部下に責任を負わせるならば役職者の存在意義無し。

以前の記事にあった「社長候補」の問題にも似ていて、赴任先が「お預かりして大事に」してリスクや責任は負わせないならば、わざわざ決断は責任を負う事を回避するのが当たり前の駄目管理職を養成するだけですね。
前回の処分ではまともでした、そして週報も、部下のものをそのまま流用するけれど、自分が責任を負う事は明言しましたので、やっと当たり前の方向になりました。
これからは、新たな組織の中で、部下に目標ややるべき事を示し管理を行う事でしょうか。

記事を見る限り、まだまだ見たいですね。

>「担当といえば担当だけど、ハンコを押していただけ」
ここまではっきり言えるのは、清々しい(笑)
ならば、そのままにすれば良いのに本社に来たら突っついてみるとは。

以前の部署から見れば、自分が担当の時はシランプリ、本社に行ったら「問題は無いのか?」って
悪い冗談にしか見えません、おばQさまの人生経験の深さゆえのリアル描写でしょうか?

外資社員様 毎度ありがとうございます。
初めに謝っておきますが、このところ多忙でメールを読んでいませんでした。
定年して10年も経っているのにと言われそうですが、フィットネスクラブとか図書館は行かなくてならず、残った時間で家のお仕事とか付き合い(クラブの文書作成など)があり冗談抜きに大変です。
本当を言えば自分から進んで仕事を集めている感じも無きにしも非ずで同情の余地はありません。

えー、小説のお話ですが、正直って筋書きをしっかりと決めて書いているわけではなく、現役時代の同僚や取引先とか下請けとかで特徴ある人を思い浮かべてこの人はこんな風に動くだろうなあという感じで書いてます。
おっしゃるようにどうしようもねえなあ〜という人って実在するのですよ。学問的に異常なのかどうか知りませんが、某氏は会議で発言してそれが上手くいかなかったとき、「誰があんなのを考えた。俺は絶対反対だと言っていた」と語っていました。いくら説明しても彼の頭の中は完全に自分の発言とは違うことを記憶しているのです。ごまかしとかでなく信じているというのを感じて恐怖でしたね。会議だけでなく出張の待ち合わせなども同じことで、集合場所に時間通り来ない、間違えた場所にいたとか言われて、私はたいそう困りました。とはいえ皆が知っているので特段私の評判は落ちませんでした。
社会人半世紀すると人間の多様性、恐ろしさが良くわかります。遠くから見ていれば面白いのでしょうけど、当事者になると逃げたくなります。


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