環境審査 レッスン7 2006.03.11
本日はちょっとクリティカルな話である。
ISOの審査ではいろいろな不適合が出される。その多くは妥当なもので受差側に役に立つものであると信じている。(誰だ、信じていないだろうと言うのは?)
でも中にはトンデモ不適合とかハップンNCなんてのもある。

最近の話である。96年版のISO14001 4.3.1環境側面では「著しい環境側面は目的目標設定のさいに考慮する」とあったのが、04年版では環境側面だけでなく「マネジメントシステムを確立し実施し維持するうえで確実に考慮する」と変わったので、「環境マニュアルの4.3.1の項にその文言がないので04年版に対応していない」と不適合を出されたというご相談を受けた。
odoroki.gif まず規格要求にあるものは漏れなく環境マネジメントシステム(はたしてそういったものが独立して存在するのかというところからして議論の余地があるが)に盛り込まなければならないのは確かである。しかしやっていることすべてを、あるいは規格にあることすべてをマニュアルに書かねばならないのか?というとそれも疑問である。
私はこの要求を満たすには、4.3.1に文言を書くことではなく、4.4以降のそれぞれの条項に環境側面を配慮していることを書くことでもなく <マネジメントシステムに反映されていること> が必須ではないかと考える。だってISO規格が求めていることは、環境マニュアルに文字を書くことではなく確立し実施し維持することなのであるから。
というか、そもそもISO14001規格では環境マニュアルそのものの作成を要求しておらず、規格要求事項が環境マニュアルでない複数の文書によって支えられていても十分規格適合なのである。
むしろ審査員は「受査側のマネジメントシステムを拝見して、著しい環境側面がマネジメントシステムの確立と実施と維持に確実に考慮されているか」を調べないとならないのではないか?という気がしてくるのであった。
そのためにお金をもらっているわけだし・・・
もう規格適合であると反論するする気にもならない。まあ、数文字追加するだけだからマニュアルを改訂する方が労力は少ないだろうとアドバイスした。
よく言うではないか、猫を追うより皿を引けと・・・審査員は猫か 

だがしかし、そのような積み重ねがISOを形骸化し負のスパイラルのトリガになるのではないだろうか?
でもこのような規格の読み方や審査員の趣向、審査機関の好みに関する程度ならまだ問題ではない。

本題に入る。
話は上のようなどうでもよいことではない。もっと深刻な話である。
別な方からのご相談である。ISO審査でマニフェスト票をチェックされて、過去に交付した記載漏れのあるマニフェストの欄を埋めておけというご指導を頂いたそうである。
最近のISO14001審査では順法を確認して、違法があれば認証しない、違法があって是正中であれば云々という決まりを設けている審査機関が多い。
じゃあ審査員は環境法規制を知っているのか?と疑問を持つ。
最近審査に立ち会う機会があったので審査員が順法チェックとして何をするのかと観察していると、廃棄物契約書とマニフェストを講習で習ってきたばかりという感じで数箇所を見ていた。オイオイしっかり見てくれよ。マニフェストはA票だけでチェックポイントが24箇所あるのだよ。
総務省平成17年10月7日発表の「産業廃棄物対策に関する行政評価・監視」によると廃棄物契約書の違反は調査対象の6割、マニフェストの記載不備は調査対象の7割あったそうだ。
赤信号みんなで渡れば怖くない・・・そんなこと言ってはダメです。
このように現実に、契約書やマニフェストに関する違反は多々あり、石を投げなくともいたるところ青山ならぬ違反があるのである。
だからマニフェストに記載漏れがあって珍しくなく、記載漏れがなければ珍しい。その会社に来た審査員は親切心で「漏れはいけないから埋めておきなさい」と言ったのだろうと推察する。決してここで恩を売っておけば後で別の不適合を出したとき反論しにくくなり、審査をシャンシャンと終わらせようと考えたのだろうなどと邪推してはいけない。
アイソスの05/03号では、不適合を見つけてそれを見逃してくれる審査員が受査側と審査機関に好まれているという記事があったが・・・いやいや決してそうではあるまいが
問題はそのような心の深遠ではない、単純明快、そんなことをすると恥の上塗り、違反の上塗りになってしまうということだ。決してその審査員のご指導に従ってはならない。
私ならそのような時は、まず行政にご相談しなさいというのみである。

また別の事例である。
塗装をしている仕事場でMSDSが掲示していないという不適合を出した審査員がいた。
製品安全データシート

1.化学物質及び会社情報
 日本人よ誇りをもて株式会社
 東京都千代田区本丸
 担当 任田 佐為
 TEL なし
 FAX なし
 化学物質のコード:1234-5678
 化学物質の名称:なんとかかんとか
2.危険有害性の要約
 ・・・・・・
 ・・・・・
 ・・・・・・・・

MSDSとは何か?なんて方はこちらを・・・
労働安全衛生法及び関連する法令ではMSDSを「掲示せよ」とは定めていない。決めているのは「参照できるようにせよ」ということである。
塗装ブースの壁に貼ったり、めっき槽のそばにぶら下げておかずに、ファイルにして置いておいても良いのである。審査員の指導に従い、たくさんのMSDSをぶら下げたら満艦飾の自衛艦のようで見栄えが良いかもしれない。
いや、邪魔になって仕事にならない可能性が大きいが 

聞いた話である。ある会社のISO14001の審査で、危険物取扱所の改善が必要であるという審査結果が出されたそうである。
指定数量以上の危険物を保管あるいは使用するには消防法及びその下位規則で定める基準を満たしてつくり所轄の消防署の検査を受けなければならない。言い換えれば、すべての危険物保管庫、取扱所は消防署の検査を受けて、かつ合格しているのである。
その仕様が不十分であるということは、消防署の検査が間違っているということである。
まず所轄の消防署は改善のために改造するということを認めない。官が検査して合格判定したものを、ISO審査員風情が覆すことはできない。
審査結果で改善必要というということは・・・受査組織はいったいどうしたらいいのだろうか?
義理と人情の板ばさみである。 
なんて悩むことはないか?
実は選択肢はたくさんある。
審査に異議申し立てするのもあるし、審査機関を鞍替えするのもある。審査機関を裁判に訴える手もあるかもしれない。 いずれにしても、私はこの問題に係わりたくない。

私が96年頃に審査員講習会を受けたとき、講師が決してアドバイスをするなと語った。その講師はアドバイスによって起きた品質問題から訴訟に至った事例ついて説明した。
そして、審査員は規格適合か不適合かを判定するだけであると念を押した。
また法律に関わる問題については、誰が見ても明らかなもの以外その評価判定は非常に困難だろう。
適法と判断するにしても違法と判断するにしても、ISO審査員は官でなく民間であるから、知識という観点でなく権限という観点からして断定することはできない。


本日の教訓

審査員はアドバイスしてはならないことを忘れてはならない。
そして法律に関わる判断は慎重の上にも慎重を期さねばならない。
それは己のためである。




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