ISO審査所見報告書を読もう 2007.05.02

いつもバカな話を書いておりますが、本日もバカな話を・・・ナンノコッチャ
ISO審査登録といいますか、ISO認証の効果とはなんだろうか? なんて思うと、やはり規格適合か否かを判定してもらうということそのものではないかと愚考いたします。
いえ、当たり前のことですが、こう書いておけばいかなる方からもいちゃもんがつくおそれはありません。 
いえ、無駄なことでもないのです。これは審査に付加価値を求めていないという表明ですから。
じゃあ、その判定してもらった結果とはなんだろうといいますと、そりゃ審査所見報告書そのものでございましょう。
別に審査のとき、現場で審査員が壁に向かってつぶやいたこととか、書面審査で誤字があると言われたこととか、規定の文章が読みにくいといやみを言われたことなど、お代のうちには入らないはずです。
いや、現実にはいろんな審査員がいるんですよね、
「皆さんにいうとコンサルになるので独り言を言います」という方、ISO審査とは誤字脱字を探すことと勘違いしている方、「マニュアルが子供の作文だ」とおっしゃるマニュアルに文学性を求めるお方など・・世の中は広いです(意味不明)

なんといってもISOは記録、文書を尊重するわけですから、受査側はそれなりに対応しておりますが、審査側もそれなりに対応していただかないと困ります。
いや対応しているはずですよね?
「審査のとき口頭でアドバイスやコメントしたのを良く聞いてください」なんていう審査員とか審査機関がありますが、そんな独り言にお金を払うわけにはいきません。
そんなのは神々しいまでに精緻に構築されたISOの世界掟破りの反逆者 

ともあれ、我々組織側(企業側)はお金を払って審査をお願いするわけです。顧客は誰か? なんてこまかいことは言いっこなしとして、金を払うのは企業、お金をもらうのは審査機関ということを確認しておきましょう。私、この世界で17年生きてきて、いまだ審査側が受査側にお金を払って審査したというのを見たことがございません。

ですから我々は審査後にいただく所見報告書が審査費用で買ったもの、そこに書いてあることが審査の結果、成果であると理解してよろしいでしょう。 というかそれ以外の解釈はありえないでしょう。 以前、審査の質なんて駄文を書きました。本日はその続きというか、その改善策の提案でございます。
そして、本日のテーマはタイトル通り、ISO所見報告書を読もうでございます。

所見報告書が審査費用の対価、審査の成果物というなら、それが審査費用分の値打ちがなければなりません。
ところで、みなさん、この所見報告書って読んだことありますか。いえ、じっくりとお読みになっていらっしゃいますか?
普通、審査を受けた後、受査側企業は何をするかといいますと、審査のお土産に残された不適合、場合によっては必ずしも是正が必要ではない観察とかストロングポイントとかも含めて、適当に是正処置をして今年の審査のけりをつけようかということではないでしょうか? そして所見報告書など読まずに・・・
そういう態度、対応がやはり第三者認証制度というと大げさかな、所見報告書を良くしない原因のひとつだと思いますよ。

所見報告書には不適合だけではなく、適合も書いてあるはずだし、マネジメントシステム改善の糧が書いてあるはずです。・・・はずなのですが
なんですって! じっくり読もうとしても読むところがないですって!
そうなんです、審査機関によっては所見報告書が2・3頁しかなく全文を読んでも10秒もかからないものもあるんですよね。
それで百万とか数百万という審査費用は高すぎると前回書きましたが、文句を言っているだけでは建設的ではありません。本日は建設的なことを考え、日本のISO第三者認証制度を良くしようという提言でございます。

とにかく、じっくり所見報告書を読む・・・これが基本です。所見報告書は小説とは違います。その会社のマネジメントシステムについて論評しているはずです。なにしろマネジメントシステムを良くするために貢献すると語っている審査機関が多いです。この所見報告書は当社を良くするためのエッセンスがたっぷりとつまっているはずです。
ご注意
「古い版の文書があった」ことは些事ではないなんて異議があることにそなえましてあらかじめご教示申し上げます。
内部監査であろうと第三者審査であろうと、目的は規格に適合しているか否かを確認して依頼者に報告することである。 旧版があったことは些事ではないかもしれないが、報告事項というより報告をまとめるための情報・ネタである。
報告書に書かれるのは「○○社のマネジメントシステムはISO9001or14001に適合していることを確認した」とあるのは当然ですが、なにしろ経営に寄与するというのですから、それ以外になにが書かれているのか非常に興味があります。
経営に寄与?
それはいったい?
現場に古い版の文書があったとか、実施計画が予定より遅れていますなんて些事や下々のことではなく、経営改善につながるアイデア、ヒント、提言そんなものがザクザクとあるはずです・・・よね?
もし所見報告書を広げても文字数が少なく読むところがないというなら、読むに値する所見報告書がほしいと審査機関に要求しなくちゃいけません。
不適合は書いてあるけど、適合を示す記載がないんですか? それは困りました。審査機関に適合をちゃんと書いてもらうようお願いするしかありません。
マネジメントシステムの改善につながる提言がなければ、審査機関が語っている「経営に役立つ審査」とか「付加価値」ってなんですか?って聞かなくてはなりません。
ひょっとして、あまりにも難しく書いてあるので、私たちが読みとることができないのかもしれませんから

私は同業者の知り合いが多いものですから、そりゃたくさんの所見報告書を見る機会があります。審査機関もいろいろ、受査企業の業種もいろいろ、それぞれの所見報告書には読み応えのあるものもあるし、そうでないものもあります。大風が吹いても飛ばないような何十ページも厚さのあるものもあるし、そよ風でも飛んでしまうような薄くて軽い報告書もあります。
あるとき拝見した所見報告書の表紙に「この報告書を顧客に提出するときは全頁を配布すること」という注書きがありました。意味がわからなかったので、その審査機関に電話しました。
私は知らないことがあれば即どこにでも問い合わせします。
環境省であろうと、消防庁であろうと、審査機関であろうと、UKASであろうと

説明によると、「認証を証明するときには認証証だけでなく直近の所見報告書をアタッチして提出することを企業にお願いしており、そのときは所見報告書の表紙だけでなく全頁をコピーして添付していただく」という意味だそうです。
不肖私、所見報告書は審査機関と受査企業間の機密事項ではないのか? という気がしまして他の審査機関の審査契約書などを読み直しましたが、秘密であると書いてあるものは見当たりませんでした。審査にあたってみたことについて守秘義務はあっても、成果物である所見報告書には守秘義務は決めているところはないようです。
もっとも、審査機関を鞍替えするときは直近の所見報告書を新しく依頼する審査機関に提出しなければならないことになっています。

しかしここであらたな問題が・・・
認証証と所見報告書を入札などの際に提出するとして、他のコンペティターも同様としますと、お客様は各社の所見報告書を比較して読むことができることになります。このとき2・3ページの所見報告書を出す企業はちょっと恥ずかしいですね。いえ、所見報告書を書いたのは審査機関ですけど、そのような審査機関を選んだのは企業ですから見る目がなかったと思われるかもしれません。
おっと、その前に、高いお金を払って審査してもらった結果がたった2・3ページの報告書では審査費用がもったいないじゃありませんか。
ケニアのマータイさんが使ってから「もったいない」はいまや国際語
国際的にもったいないことがバレバレでございます。

ところでここまで書いてきて、疑問が湧き上がってきました。私が読んで「なんだこりゃあ!」というトンデモ所見報告書がザクザクとちまたに溢れているのに、それを発行している審査機関のエライさんは自社がそのような所見報告書を出していることをご存じなのでしょうか?
他社に比べて恥ずかしいような所見報告書がその審査機関の社名を表記して出されていることをいかが感じておられるのでしょうか? それともエライさんは読んだこともないのでしょうか?
各審査機関では判定委員会というのがあるそうです。判定委員は所見報告書を読んで判定されているのでしょう。彼らはISO規格への適合・不適合を判定する以前に、主語と述語がつながらない、わけのわからない所見報告書を理解しているのでしょうか?
審査機関のエライさんや判定委員の方は、他の審査機関の所見報告書を見たことがなく、これが普通だと思っているのでしょうか? それともこれでいいんだとたかをくくっているのでしょうか?

受査企業のエライさんだってひとごとではありませんよ。
日本語として意味の通じない所見報告書を読んで、おかしいとか、これに百万とか二百万も払ったのか、値切れとか転注しろとか考えないといけません。
だってあれでしょう。同じ品物を買うに当たって、二百円より百円の方がいいに決まっています。そして同じ値段なら、悪い品物より良い品物がいいのも当然です。
これこそがグリーン調達かもしれませんよ

おおっと、事務局の方も同罪ですよ。中身のない所見報告書を見て、こんなものだと思っているのでは不勉強であるだけでなく、会社の費用を無駄にしているという背任行為です。あるいは国家的損失、反社会的行為かもしれません。事務局は審査機関に対して、もっとちゃんとした所見報告書をだすようにと要求しなければなりません。
そしてそれに対応できない審査機関には審査を依頼しないことが企業人としての当然の勤めではありませんか。

入札などをする大手企業あるいは官公庁の方は、認証証があれば良いという安易な態度ではなく、じっくりと所見報告書を読んでください。
そして中身がないような所見報告書を出してきた応札者には発注しないという選択も当然です。だって見積書の内容がこまかくて納得できるところと、内容がわからないようなところを比較するのと同じことじゃないですか。
万一、納品あるいは工事完了後に不具合があったりしたら、ISO認証していたので安心していたとはいえないじゃありませんか。もし所見報告書にしっかりと記載されていたら、それを読んで安心したと言い訳できるじゃないですか。


本日の結論

受査企業の事務局も、管理責任者も、審査機関の幹部も、審査員も、他の審査機関の関係者も、発注者も、その他の利害関係者も、みな所見報告書を読み内容を吟味しましょう。
そして、価値のない所見報告書を駆逐しようではありませんか。
それが第三者認証制度を良くする手っ取り早い方法です。


本日の駄文作成に要した時間は、1時間でした。もっと熟考すれば質が向上するかといえば、そんなことはないというのが答えでしょう。 


ISO審査所見報告書を読もう 2 2007.05.12

私は商売柄というか半分趣味というか、つてを頼って入手できる限りあちこちの環境ISOの審査所見報告を集めている。過去何年か多数の所見報告書を見ていると、不適合の傾向が変わってきていることがわかる。本日はそんなことについて書く。

昨年の審査では、やはりIAFの変化を反映していると思われる不適合が多数見られる。IAFの変化というか環境ISO関係者の懸念というべきだろうか? 個々の審査機関の対応なのかもしれない。ただ、どの審査機関でも同じ傾向が見られるので、やはり独自の対応というより全体的な傾向といえるだろう。
具体的にいうと、事故や違反に関わるような項目についてかなり神経質となっていること、そして規格により忠実に審査するようになってきたと思われることだ。それは悪いことではないと思う。
そして審査員の質が向上してきたせいか、ナンセンスコールというべきか、なぜ不適合としたのかわからないような不適合(?)が年毎に減ってきている。喜ばしいことだ。 quest.gif
とはいえ私がみた昨年度の100件近くの所見報告書に書かれた不適合のうち10数パーセントがいまだになぜ不適合であるのか理解できないというのも事実である。一層の質向上を期待したいところである。
exp.gif しかし、それ以外の不適合がISO19011やIAFガイドに照らして適切な記述であるかという観点で見ると、私の判定では約2割しか及第でないという状況である。残り7割は不適合を立証する証拠がない、不適合の根拠が書いてない、ひどいものはどちらも書いてないという『所見報告の不適合』で埋まっている。これでは審査費用はもらえないのではないか?
お断りしておくが、私が入手できる所見報告書は10以上の審査機関に渡っており、見た限り審査機関の差はあまりないと申し上げておく。
話を戻す。
06年度の不適合のトレンドはまず順守評価・・・・である。
これは排水測定記録のかいざんや、大気測定データの捏造などなど環境法違反が相次いだのだから当然であろう。
順守評価の方法や仕組みについて多くの不適合が提示されている。私は所見報告を読むだけで審査現場を知らないから、その問題提起が正しいか否かまではわからない。しかし不思議と感じることはある。
それは、非常に多くの順守評価の不具合があるが、1件たりとも法違反を取り上げたものはなく、また不適合の証拠として法違反を取り上げたものもないということだ。
4.3.3で特定した法規制の中で順守評価が漏れている法規制があれば、それはそのまま不適合として良いと思う。
しかし、順守評価の仕組みや方法を悪いとするには、悪い何か証拠があるだろうし、結果として一切不適当な証拠がなければ順守評価の仕組みや方法が悪いと断定することはできないのではないだろうか?
ということは、実際には審査において法違反を見つけたものの、それを証拠として提示せずに順守評価の仕組みが悪いという結論のみを提示しているのだろうか? あるいは法違反もなく、確固たる不適合の証拠はないのだが、遵守は重要だからもっとしっかりしろという意味合いで順守評価の不適合をだしているのだろうか?
非常に興味がある。
できたら、所見報告を見るだけだけでなく、審査に立ち会って見学したい。
本当はJABの認定審査員が審査の質維持とばらつき防止のために、私に代わってこの仕事をしているはずなのだが 
次は化学物質管理についてかなり不適合がある。具体的にはRohsとJmossに関する対応が不足というものである。以前輸出していない会社でRohs規制が法規制に漏れているという指摘を受けた例があったが、今回見た中でそういったナンセンスコールがあったのかは判らなかった。
いずれにしても審査員も人の子、流行に遅れるなとRohsに注力した審査をしたのかもしれない。あるいは審査機関が06年度審査での重点テーマとして取り上げたのかもしれない。
来年はREACHとかEupが旬になるのだろうか?

第三に内部監査の質、レベルについての不適合が相当増えている。組織を良くするにも内部牽制を効かせるにも内部監査は重要である。そういう認識、観点の審査なら大歓迎である。
「内部監査で不適合とする判断基準が不明確」という不適合があった。ISO審査で不適合とする判断基準の方が不明確な気がするのは私だけであろうか。
「内部監査で適合を確認した記録が不十分」というのもあった。その審査機関の所見報告では適合とした条項には「V」印しかないのだが・・・自分がしていることと人に要求することの違い、このダブルスタンダードはいかがなものだろうか?
「内部監査で遵法を見ていない」というものもあったが、その会社の内部監査規定では遵法も見ることに定めていたのだろうか? そうでなければこの不適合は規格不適合である。
笑ってしまったのは「内部監査員の認定要件に監査経験がない」というものがあった。そういう規格要求があったとは知らなかった。もちろん内部監査をするのに監査に参加した経験があった方が良い。しかし、そんなルールを定めたら最初に内部監査をするときいったいどうすればいいんだろう?
審査員が思い描いていることが悪いとか間違っているというつもりはない。しかしそういった不適合を出した審査員の頭の中にはISO規格ではなく思いこみがたっぷりと詰まっているような気がする。

そのほかに、「ヘエ、こんなのもあるのか!」と思ったものもある。
それはマニュアルの記述において、4.1では「適用範囲が不明確」、4.2の環境方針で「汚染の予防について言及していない」、4.3.2法規制において「その他要求事項の文言がない」、4.3.3実施計画に「責任・手段・日程の文言不足」などを不適合としているものだ。その他の項番においても「規格に対応する文言が不足している」というものが多数ある。
しかしどの受査組織も認証してから数年以上経過しているのである。本来ならこういった文言不足といったことは初回審査のとき、それもマニュアルを審査した時、あるいは遅くとも2004年版への切り替え時に見つけなければならないはずだ。
邪推であるが、これらは審査機関が過去何年か見逃していたものを、JABから指導を受けて時期遅れではあるが不適合としたのではないだろうか?

ところで、一昨年(05年度)の不適合ではISO14001規格04年版に未対応というものが多かった。 幸いこういった不適合は昨年の所見報告書の中ではひとつも見かけなかった。これは審査を受ける側が対応したこともあるだろうが、審査側も規格の文言の細かなことにこだわったり拡大解釈をしなくなったこともあると想像する。

所見報告書を数多く見ていると、不適合の流行りすたり、審査で重点チェック事項、審査員の力量の推移といったものがよくわかる。
ぜひとも審査機関は自社の所見報告を再読して、質向上に努めていただきたい。
認証している企業の事務局の方も、可能な限り他社のものを入手して比較検討することをお勧めする。自社の所見報告書を見られると恥ずかしいなんて気持ちは捨てた方が良い。


本日の提言

所見報告書を数多く見ること、特に良いものを見ると、内部監査の向上に役立つでしょう。

もっともそういう意味では、現状の所見報告書をいくら見ても内部監査の向上は無理かもしれない。 


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