憲法32条 (2003.08.15)
「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」

このところ憲法のコーナーの更新がないが、「先日のご批判」「日本国憲法七つの欠陥の七倍の欠陥」を受けてめげたのか?なんておっしゃいますか?
歳を取るとだんだんしたたかになるもので、そう簡単にめげたり宗旨を変えたりはしなくなるのです。
なにしろ私が戦っているお方は「頑固に護憲」と宣言していらっしゃいますので、私も頑固でないと対抗できません。 

さて、本日は第32条について考えましょう。
「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」と言っています。
受身形ですが真の主語である「裁判を受ける権利を奪おうとしている人あるいは機関」は誰なのでしょうか?
「そりゃ国家に違いない」なんて簡単にいっちゃいけません。
制定時のことを考えると、連合軍あるいはGHQかもしれませんよ! 

おっとその前に、奪うというならば「国民は元々裁判を受ける権利」を持っているのでしょうか?
私が読む限り、憲法の中で国民は裁判を受ける権利を持つとは断言していません。
この憲法で国民の権利に関する文言の述部はどのようになっているのでしょうか?調べてみましょう。
「第3章 国民の権利及び義務」は10条から40条ですが、主要な権利についての述部は次の通りとなっています。
条文
述部
第十五条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。権利を認めている。
第十六条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、(以下略)権利を認めている。
第十七条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる権利を認めている。
第十九条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない第十三条  (略)生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利(略)を認めているからこれを侵してはならないと解すれば論理は合う。
第二十条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する権利を認めている。
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する権利を認めている。
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する権利を認めている。
第二十三条 学問の自由は、これを保障する権利を認めている。
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。権利を認めている。
第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。権利を認めている。
第二十七条 すべて国民は、勤労の権利を有し、(以下略)権利を認めている。
第二十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。権利を認めている。
第二十九条 財産権は、これを侵してはならない第19条と同じく幸福追求の権利に含むと解することができるのだろうか?
それとも財産権は基本的人権に含まれるのか?含まれるとするならば私有財産を認めない共産主義は基本的人権を認めないことになる!

上表のようにすべて権利があると断言しています。「侵してはいけない」というものも前段があれば論理的につながるのですが・・・・
裁判を受ける権利というのは「13条 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」に含まれるのでしょうか?それとも「11条 基本的人権」に含まれるのでしょうか?
直接的に文章だけからは『日本国民(および日本に居留する人)は裁判を受ける権利がある』とは読めないところです。
「そう読むんだ!」なんておっしゃらないでください。それじゃあ話はおしめ〜です。 寅さん語調
もしそう読むと主張されるのなら上表の左側の条文すべてが不要となってしまうという憲法の矛盾をあらわにする『危険な論理』ですよ。  

権利があると言わずして「奪われないとはこれいかに?」
わからん?
この憲法では妙なところが非常に詳しく書いてあって、別な事項は網の目が粗いといいましょうか、ほとんど記述(規定・define)していないところが多いのです。このアンバランスはなぜなんでしょうか?
権利を規定せずに、「奪われない」と記述したのはなにか意図があったのでしょうか?
あまりこと細かく裁判に訴える権利や手順に関して記述するとあとあと訴訟社会になると懸念したのでしょうか?(しかしながらアメリカ憲法は裁判に関して日本国憲法ほど詳述してないけど訴訟社会であるということは憲法の詳しさとは関係なさそうです。)

なぜそんなことにこだわるのか?とお尋ねですか?
良くぞ聞いてくれました。
この条文は刑事事件だけでなく民事や行政訴訟についても含むと解されています。
イエ、本当を言えば民事に関する憲法の条文と言えばこの32条しかないのです。
では刑事事件に関する規定は?とお尋ねですか?
良くぞ聞いてくれました。
刑事事件に関しては憲法第33条から40条まで、こと細かく書いてくれているのです。

関係を図にまとめてみました。
刑事事件の際の規定はこんなにあります

ええとですね、この関係図を見ますと、刑事関係に関する条項は多々あるのですが、重複していると感じませんか?
私は第35条1項と2項、第37条2項と3項、第35条と第34条なんてほとんど重なっているように感じます。
それにしてもよくもまあ、あれもだめこれもだめ、ああせいこうせいと書き連ねてくれたと思いませんか?
戦前の特高の忌まわしい記憶があったのでしょうか?
それとも想像力のたまものでしょうか?
でも、なぜ民事については想像力が枯渇してしまったのでしょうか?
謎としか言いようありません。
謎が謎を呼ぶ憲法の構造上のハイラルキーに関して非常に疑問を感じる条文です。
少なくとも文章として真の主語のない読者によって理解が異ならないように文章を見直しべきです。
あまり凝ることもなく次のような条文でいかがでしょうか?



本日の結論


憲法32条改正案
「何人も、裁判を受ける権利を有する。」

   積極的に表現するならば
「何人も、裁判に訴える権利を有する。」
   なのかもしれません。
国民の権利を明確にしましょう



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