憲法投稿その12002.01.10
本日、ななし様(このホームページでは匿名の方をこう呼びます)からご意見をいただきました。ありがとうございます。
なお、お便り全文を掲載してから後に私のコメントを書くべきでしょうが、分かりやすく文章ごとに分けさせていただきました。ご了承願います。
なおこれ以降、ご投稿を黒字、私の意見を緑で表示します。


憲法15条3項について
このコーナーなかなかおもしろい切り口からの憲法条文解釈、興味深く読ませていただきました。貴殿は頭の切れる方ですね。
私は法律を大学院修士まで勉強して来ました。さらに長らく司法試験も受験しておりますので、憲法の条文は貴殿に負けずとも劣らないほど読み込んでまいりました。そこで、何点か私から指摘させていただくことをお許しください。
ぎょっ!あなたのような方がお読みなるとは想定しておりませんでした。
お手やわらかに願います。
  1. 外国人に選挙権を与えるという点については貴殿の解釈は間違っておられると思うのですが。
    この問題は一元的に捉えるべきではないと思います。
    参政権については当然国政レベルと地方レベルに分けて考えるのが一般的です。国家の統治に直接関わる国政レベルについて外国人に選挙権を与える見解はごく少数でして、判例・通説とも認めないこととなっております。この点は貴殿のおっしゃるとおりです。
    一方、地方レベルでは地方自治の本旨(92条)が住民自治(地方自治をそこの住民に委ねる)と団体自治(国から独立した団体に委ねる)にあることから、その土地の住民に任せてもよいのではという点から、昨今の外国人に選挙権を与えるべきという議論が起こっているのです。地方公共団体の制定する条例は法律の範囲内であるから(94条)国家の決めた法律に反することを決めることもできません。
    憲法93条2項では「住民が直接選挙する」とあります。
    おっしゃるのはこれを基に地方自治は「住民」が行うのであり、「国民であること」を要件に問わないと言うことと理解します。
    憲法に「住民」の定義はありません。調べた限り地方自治法その他の法律にもないようです。
    しかし、15条1項には公務員を選定・罷免することは国民の権利であり、同3項に成年者の直接選挙を保障する。とあります。この文章からは地方公務員であろうと国民でない住民による選出を認めているとはとれません。

    思うに判例およびあなたの解釈は「住民とは国民でなくともそこに住んでいる人」であり、私は「国民であってそこに住んでいる人」と解釈します。
    しかしながら前者の解釈では憲法10条、15条1項、93条2項を並べて読めば矛盾が出ます。どの条文が優先するということでなく矛盾なく解釈すれば後者となります。なお、過去の在日韓国人の裁判で原告が日本に生まれ、育った日本の価値観を持った人は国籍に関わらず国民であるという論理には同意しかねます。もっとも、私は文字解釈ですからいずれかの法律に国民の定義があれば従います。国籍法以外に国民を定義したものがあるのか教えてください。

    私の見解を申し上げれば、判例は考慮外であり(はじめにで述べております)、憲法を字義とおり読めば、議員を含む公務員は国民が選出するのであり、国民以外の人を含めて決めるとはよめません。
    また、外国人といっても一時在留者などは対象外であって、定住外国人を対象にしています。特に、戦前本人の意思とは裏腹に強制的に日本に連行された在日朝鮮人・中国人の子孫なんかを想定しています。その方たちの祖先の中には戦前は、本国から強制連行されて日本人として戦争にも出されて戦死したのに、戦後になると日本人でないという理由で遺族に恩給が払われなかった方もいます。
    日本人と同じように生まれ、日本語のみを話し、日本人と同じように納税している方たちを日本人と同様に扱わないのは不平等でしょう(14条)。
    台湾の元日本人兵士の恩給などの問題は日本の名誉にも関わることと理解します。しかし戦争中日本につれてこられた朝鮮人のほとんどは帰国し、現在の在日韓国人、朝鮮人の大分はそれと無関係の子孫が占めるという調査を見たことがあります。この辺になると法律というより政治的な論戦になりますから、関わらないこととします。
    外国に長期間住んでいる外国人に地方自治に参加させるというのは普遍的なことでしょうか?韓国は最近そういった決定をしたようですが、これは在日韓国人との関わりを見たものと考えます。実際に該当する人数はどうなんでしょうか?
    ユダヤ人、ジプシーなどをみれば同化、帰化する努力は見られますが国籍が違ったままで地方自治参政権を要求した事例を知りません。
    私の見解は地方自治に限ったとしても外国人参政権は普遍的なものではないと考えます。
    井沢元彦さんなどの著書にあるように、参政権は国防の表裏であると考えます。祖国防衛の義務を誓った者でなければ本来参政権はありえません。
    シビリアンとはそういう意味です。
    もちろんそういう人は帰化しろと言われるかもしれませんが、地方レベルにおいては先述の住民自治の点から許容範囲内ではないでしょうかね。
    「在日韓国人の終焉」(鄭 大均)という本を読みました。もちろんそれがすべての在日韓国人の考えではありませんが、どうなんでしょうね?
  2. もうひとつ、桜井良子氏も言われてますが、憲法には国民に遵守義務がないのはおかしいと。
    これは、過去に国家が国民の人権侵害をしてきた歴史を踏まえ、国家権力が暴走しないように、歯止めをかけるために日本国憲法ができたということです。ですから、国民はその主体ではないのです。
    ただし、ミクロ的にはじゃあ第三章はなんだ?義務ってあるじゃないかとなりますが・・・
    おっしゃるとおり小室先生の本でも、憲法の起源は国家を規制するためであり、国民を規制するものでないとあります。それは日本国憲法に限ったものではないようです。
    確かにアメリカ憲法を読んでも、国民の義務は○○とは書いてありません。しかし、連邦議会は何をする、州政府は何をする、ということが明記されています。その結果として国民の義務が明確になっています。
    現行憲法の問題は国民の義務が書いてないことではなく、国民の義務が明確でないことが問題であると考えます。
  3. さらに、もう一点
    侵略戦争を放棄した憲法は世界にいくらでもあります。
    自衛戦争を放棄した憲法は日本国憲法のみです。
    自衛戦争を放棄したかは議論の余地があります。
    制定時の裏話を読めば、9条2項は日本側が入れたそうです。(芦田修正)
    GHQのケーディス大佐がこれを見た瞬間に自衛のための戦力を持つことが可能と理解して66条2項を追加したされています。すなわち制定時、自衛戦争は日本側、GHQ側とも当然認めたものと理解されます。
    過去の政府答弁や判例に関わらず、成立時に自衛権を放棄したという考えは日本側、GHQ側ともなかったはずです。
    以上別に私は現行憲法を変えてはいかんと言ってるのではありません。必要があれば時代に見合ったものに変えればいいでしょう。難解な文章も改めるべきでしょう。しかし、その前に政治家にどれくらい憲法をまじめに理解しようとしてるのか、と言いたいです。まず、変えると言うならしっかり憲法を読んで理解しようとしてくれ。それから改正点があるのなら96条にしたがって変えて見やがれ!と。真剣に法律を学んだ者としてはそれを言いたいのです。
    貴殿のような法律とは縁のなかった方が憲法に関心をもたれたことに敬意を表します。

  4. 最後に、いろんな文献を読まれているようですが、一つオーソドックスな学術書をお勧めします。
    「憲法」芦部信喜 岩波書店
    芦部先生は日本の憲法学の第一人者です。法学部1年生が買います。読みやすいが、読めば読むほど味の出る本です。
    それからもう一つ。貴殿と全く考えの逆の人の著書です。「憲法のことが面白いほどわかる本」 / 伊藤真/著 中経出版
    ありがとうございます。今後勉強することをお約束します。
    ただ、申し上げておきますが、私はここでは文字解釈がすべてであり、判例は無視して展開します。
    こうあるべき、こう読むべきという解釈は排除しましょう。こう書いてある、それは正しいか、現実的かという観点でいきましょう。
    お願いですが、お気を悪くなさらないでください。
    私は各種監査のしたり、されたりの日常で感情的にならない論戦に明け暮れています。
    ぜひ私の上記コメントに対する再反論と、これ以外の条項についてもご指導をお願いいたします。

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