草戸千軒
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成果と課題


 草戸千軒のもたらしたもの

 草戸千軒町遺跡の発掘調査は、日本の中世考古学調査の先駆けとなりました。それまで、考古学というのは、せいぜい奈良・平安時代より古い時代を対象とするもので、それより新しい資料が出てきても、「新しい」という理由で調査の対象とされませんでした。また、中世史の研究はもっぱら文字に記された記録を中心に進められており、物質資料が語る歴史にはなかなか目が向けられませんでした。

 この遺跡の調査をきっかけに、日本全国のいたるところに中世の遺跡が埋まっている可能性のあることが認識され、各地で大規模な調査が実施されるようになりました。また、それらの成果は、従来の文字の記録を中心とした研究では検討できなかった多様な問題を提起することになり、日本の中世社会像を見直すきっかけにもなったのです。

 残された課題

 そうした多くの成果をもたらした遺跡ですが、今後の課題もいくつか残されています。まず、膨大な出土資料の分析です。現在、出土資料は広島県立歴史博物館に整理・保管されています。しかし、個々の資料すべての検討が終わったわけではありません。まだ多くの情報が資料とともに眠っているに違いありません。また、過去に分析の終わった資料でも、最新の研究成果に照らしてみると新たな発見があるかもわかりません。博物館の厳重に管理された環境の中でも資料の状態は少しずつ劣化していますから、保存のための処置を講じる一方で、資料の分析を継続していかなければならないのです。

 また、これまで発掘調査した遺跡の中の研究をもっぱら進めてきましたが、遺跡は切り取られた空間として存在するわけではありません。周囲の自然環境や、歴史的・社会的環境との関係の中で考えなくては遺跡の理解は不可能です。遺跡の発掘調査終了した今こそ、地域社会の中に遺跡を位置づけるための研究に本格的に取り組まなければなりません。

 そして、研究の成果を地域社会の中に還元し、「草戸千軒」が私たちに伝えた情報を、地域住民の皆さんと共有することも重要です。現代の私たちにとって、中世集落「草戸千軒」とはどのような意味をもっているのか。私たちの地域社会をより良い方向に発展させるための材料として、「草戸千軒」の研究を進めていきたいと思っています。

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suzuki-y@mars.dti.ne.jp
1996-1998, Yasuyuki SUZUKI & Hiroshima Prefectural Museum of History, Fukuyama, Japan.
Last updated: June 10, 1998.