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小さな巨人……。 東海大の2年生・伊達秀晃はそのように呼ばれている。身長162p、体重45s……といえば、いくら長距離ランナーといえども小柄な部類にはいるだろう。 昨年は順天堂の松岡や中央の上野、日本体育大の北村らとともにスーパールーキーといわれ、事実、入学直後からの活躍ぶりは眼をみはるものがあった。春5月の関東インカレでは10000mで2位、5000mでは1位、7月の日本インカレ5000mは2位(日本人トップ)。8月に疲労骨折に泣いたのはスピードランナーの宿命というものか。 だが競技に復帰した11月の上尾シティハーフでは、ハーフ初挑戦ながらジュニア日本新で優勝した。駅伝でも期待されたが、怪我の影響で出雲と伊勢路は欠場、ようやく間に合った箱根で、エース区間の2区をまかされた。それはまさに伊達への期待の大きさの顕れであろう。体調万全でないにもかかわらず堅実な走りで東海の往路優勝の道筋をひらいた。区間賞こそモカンバにゆずったが区間2位と快走、その潜在能力の高さをみせつけてくれた。 2年目の今年は名実ともに東海のエース格になった。「出雲」はそんな伊達にとって真のエースとして真価を問われるレース、まさに「勝負駈け」の一戦となった。 今年17回目を数える出雲、出場13回を数える東海にとっても、伊達にとっても、まさにおあつらえ向きの展開になった。 短い距離の区間をつなぐ駅伝ゆえに、今回も各区間ごと順位はめまぐるしく変転した。2区で東海はトップに立ったが、3区以降は箱根の王者・駒澤と激しく主導権を争った。4区で駒澤にトップを奪われたの5区で追いついた。 王者・駒澤と肩をならべた状態で、アンカーの伊達はタスキをもらったのである。後ろは28秒遅れで中央がつづき、42秒遅れで3連覇を狙う日大が追ってくる。 駒澤は主力の一人である佐藤慎吾、後ろから追ってくる中央大は上野裕一郎、日本体育大学は北村聡……、いずれも昨年はともにスーパールーキーとして騒がれた天才ランナーたちである。さらに日大は大砲・サイモンに逆転の望みをつないでいた。 逃げさせれば伊達は強い。それは昨年の箱根の2区ですでに実証ずみである。 タスキを受け取るやいなや、伊達はすかさず前に出た。 軽快な走りである。小柄だが大きな走り……。事実、走りはじめると実際以上に大きく見せる。追いすがる駒澤の佐藤をじりじりと引き離した。しなやかな身のこなし、実に柔らかな走りである。テンポよくリズミカルにピッチを刻んでゆく。さしずめ湘南エキスプレスとでも言おうか。流麗なフォームである。 同じ東海大の中井翔太の力強い走りとくらべれば、まさに好対照をなす。中井が「豪」ならば伊達は「柔」である。 伊達はスパートをかけたというわけではない。だが、佐藤慎吾はみるみる後ろに遠ざかっていった。そこに伊達の強さを感じる。 駒澤・佐藤を振り切って得意の逃げモードにはいったあとは独り旅、あの上野も、北村も、そしてサイモンも追ってはこなかった。
出雲は短い区間をつなぐ駅伝である。いつもながら前半は上位争いが熾烈だった。 3q=9:01というスローの展開で幕あけたのは、きっと風が強かったからだろう。法政の圓井彰彦、中・四国選抜のS・ガンガ(広島経済大)などが引っ張る展開でスタートしたが4qをすぎても集団ですすむ。 法政の圓井は期待のランナーである。あの黒いシャツにオレンジパンツ、それにサングラス、髪をなびかせて前のめりに走るフォーム、どこか徳本、黒田を彷彿させるものがある。これも伝統というべきか。 5qでトップに躍り出たのはIVYリーグ選抜のP・モリソンである。招待チームながら、あまりテレビカメラに現れなかったチーム、こういうチームが踏ん張りをみせてくれると大会はもりあがる。 P・モリソンをトップに圓井(法政)、ガンガ(中・四国選抜)、さらに土橋啓太(日大)が追ってくる。神奈川(小村章悟)は、このあたりで遅れはじめ、早くも脱落していった。 6qでIVY、法政、駒澤(藤山哲隆)が抜けた。6.7qからはモリソンと圓井のマッチレースとなり、最後はスピード力のまさるモリソンが1区を制した。 5秒遅れで法政、連覇を狙う日大は16秒遅れの3位、候補の一角・東海(杉本将友)は17秒遅れ、駒澤は18秒、中央は20秒遅れでつづき、まずまずのスタートだったが、日本体育大(岩崎喬也)は34秒遅れの12位、順天堂(小野裕幸)は35秒遅れの13位と後手を踏む結果になった。 1区と2区はセットで考えるのが出雲駅伝である。1区で紛れがあれば2区で微調整してエース区間のひとつ3区にタスキをつなぐ。 候補の一角・東海はここで期待の1年生・佐藤悠基を使ってきた。5000M=13:31の持ちタイムならば抜けた存在である。1区と2区に一年生を使ってきた。このあたり東海の戦略がほのみえる。 佐藤は1.1qで2位にあがったが、そこからはなぜか待機作戦に出た。3.3qでは京産(村刺厚介)、駒澤(高井和治)、中央(小林腎輔)、亜細亜(板倉克宣)が追ってきて集団となる。 5人の先頭集団を割ったのは東海の佐藤であった。まるでチャンスをうかがうかのようにじっくりと力を溜めているふうであったが、4.5qすぎで向かい風をものともせずに一気にスパート、そのまま中継点にとびこんだ。 佐藤の冷静なレース運び、1年生らしからぬ巧者ぶり、それが東海初優勝の道すじをきりひらいた。
今回は関東勢以外では京都産業大と第一工業大の健闘が顕著であった。 たとえば2区では京都産業大の村刺厚介が区間2位で5秒差の2位まで順位を押しあげ、さらに3区では井川重史が東海の丸山敬三に執拗に食らいついていた。東海と京産を追って、中央(池永和樹)、第一工業(K・E・キプコエチ)、駒澤(村上和春)、亜細亜(綿引一貴)が急追してくる。4qをすぎて第2集団がトップ集団をとらえた。 集団の主導権をにぎったのはK・E・キプコエチ、6qでトップに立った。だが、駒澤の村上、東海の丸山はしぶとかった。のこり1qで村上がスパート、第一工業、東海、駒澤はほとんど同時に中継所にとびこんだ。 3区を終わったところで駒澤、第一工業、東海、京産、中央まではほとんどタイム差はなかったが、ようやく勝負の太い流れがみえてきた。 連覇を狙う日大は34秒差の崖っぷちに追い込まれた。そのほか有力どころでは日本体育大(保科光作)は42秒遅れ、順天堂は1:35 遅れで圏外に去った。 4区は駒澤(斉藤弘幸)と東海(宮本和哉)、中央(宮本竜一)が抜けだす格好になったが、最後の残り1qで駒澤がスパート5秒差でトップに立った。 4区を終わってようやく勝負の道筋が解けてきた。駒澤、東海、中央がはげしく主導権争いを演じた。そういう意味ではつなぎの区間といわれる5区も、それなりになかなかみどころがあった。 駒澤は平野護、東海は皆倉一馬、中央は増田紘之……、3qすぎて駒澤と東海がとびだして中継所では同タイムであった。かくして勝負は今回もアンカー決着にもちこまれたのである。
東海の勝因はアンカー勝負にエースの伊達秀晃を使えるような展開にもちこんだことだろう。さらに東海には固有の事情もあって「出雲」は勝負駈けになっていた。思わぬアクシデントで、今年の東海は伊勢路の「全日本」の出場権を失っている。 6月の全日本の予選で、期待の1年生・佐藤悠基が左足甲を傷め、なんと途中棄権……。ひょうんなところであえなく出場権を失ってしまった。大学王座奪還の夢はむなしく費えたのである。かくくして今年の東海大は「出雲」から「箱根」に向かうことになった。駅伝はこの2レースのみとなったのである。 そういうモーチベーションの高まりが出雲初優勝にむすびついた。その具体的な現れのひとつをあげれば、5区の皆倉一馬の走りである。 駒澤の斉藤と激しくトップを争っていた皆倉は最後は斉藤のスパートに振り切られた。だが中継所の直前になって、まるで短距離走者のように猛然とスパート、同時にタスキを渡した。 皆倉の走りに東海の執念を見る思いがした。駅伝ではそういう「思い」や「気力」というものがタスキを通じて、次の走者に伝えられ、時として思わぬ展開になる。駅伝のおもしろさはそういうところにもある。 敗れたとはいえ駒澤もさすがと思わせるレースぶりであった。あえて勝ちにこだわらないところに王者の秘めたる底力を感じさせる。 中央の2位も評価できる。終始上位を争っていた戦いぶりは評価できる。終わってみれば3位に来ていた日本体育大も健闘した部類だろう。 ほかでは6位にあがってきた第一工業大、留学生を起用しての前半だけでなく、後半も落ちなかったのは地力がついてきた証左というものだろう。最後は7位に終わったものの京都産業大も、一時はトップ争いを演じるほどの奮闘ぶり、大いに評価しておきたい。 期待はずれは3連覇の期待がかかっていた日大だろう。敗因をあげれば前半で流れに乗れなかったことか。3区を終わって42秒の遅れ、そこから踏ん張ってアンカー・サイモンにタスキが渡ったときも41秒差である。サイモンが額面通りに力を発揮すれば逆転が可能なポジションにあったが、そのサイモンが何と区間7位の凡走してしまった。 他に精彩を欠いたのは順天堂だろう。松岡、今井の両エースを故障で欠いたとはいえ、10位というのはいかにも悪すぎる。9位の法政、11位の中央学院大、12位の神奈川もちょっと期待外れ……というべきだろう。
出雲は全日本、箱根へ向けて相手の戦力だけでなく、自らの戦力も量るレースであるが、初優勝によって東海は確かな手応えをつかんだだろう。1区と2区に一年生を使ったところに東海の戦略が見てとれる。その1年生たちが前半の流れをしっかり築いたのだから、試みは大成功……。1年生にしてすでに大学長距離を背負う存在といわれる佐藤悠基にメドが立ち、さらには箱根では、あの中井翔太、一井祐介も復活してくる。選手層の厚さにかけては駒澤にひけをつとらない。むしろ大砲の数では上回る。駒澤の4連覇に大きく立ちはだかる存在になるだろう。 駒澤は出雲では毎年のように優勝に手が届きながら、最終区で大きく順位を落としている。だが全日本、箱根をにらんで考えれば、順調な足どりというべきで、やはり今年も中心的な存在であることには変わりはない。全日本ではどのような布陣で、どのような戦いを挑んでくるか。しかと見きわめたい。 日大はエース・サイモンの調子がいまひとつ、他の選手もいまひとつ仕上がっていないようである。全日本でどのように立て直してくるか、きわめて興味があるチームだ。 中央は出雲でも常に上位をキープ、その安定した戦いぶりは注目に値する。箱根では毎年のように駒澤を脅かす存在といわれながら、どこかで大きなポカが出てします。それさえなければ駒澤を脅かす一角を占めそうだ。 日本体育大も地力がありそうだ。展開次第では上位を争う力があるとみた。 あとは潜在能力は上位とみるべき順天堂だが、出雲の戦いぶりをみるかぎり、今年はかなり苦しいところにいる。どのように立て直してくるのか。指導者の手腕をみまもりたいと思う。 出雲をみるかぎり、今シーズンは駒澤と東海の実力が拮抗、どうやらマッチレースになりそうな様相である。 中継車を2台というのは手抜きと誹りを受けてもしかたがないだろう。駅伝というものを立体的にとらえることができないだけでなく、放映内容自体がきわめて平板になっている。駅伝は順位変動がめまぐるしい。もっと後方の展開や選手の表情を過不足なく伝えてこそ、駅伝のおもしろさが惻々と伝わるのである。マラソンと駅伝は基本的にちがうう。フジテレビの制作サイドは、そこのところの理解が欠けているようだ。 ★開催日:2003年10月10日(祝・月) 島根県大社町出雲大社正面鳥居前〜出雲ドーム前 (6区間44km) 13:05 スタート ★天候:出発時 曇り 気温23.0度 湿度48% 東北東の風3.8m ★東海大学(杉本将友、佐藤悠基、丸山敬三、宮本和哉、皆倉一馬、伊達秀晃)
区 間 最 高
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