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今年もロードのシーズンが幕あけた。 最初のレースが、駅伝のメインイベントというべき箱根駅伝に向かう各大学の勢力地図をうかがううえで、重要な指針となる出雲駅伝から始まることは、きわめて象徴的というべきだが、今年は前日にアジア大会の女子マラソン、夜にはシカゴマラソンがあり、その余韻をひきずってのスタートである。 シカゴマラソンの女子では、昨年この大会で世界最高をマークしたヌデレバ、初マラソンでこのヌデレバに迫る記録をひっさげて登場したラドクリフ、さらにはポスト・高橋尚子の1番手ともいうべき渋井陽子が出場、3人の火花散る競り合いで世界最高の期待がかけられていた。事実マラソン3度目の渋井にも高橋尚子につづいて20分を切る期待が高まっていた。 ラドクリフの圧勝ぶりをみて、世界はひろいな、と思った。昨年の覇者ヌデレバでさえ、もはや過去に人、日本期待の渋井陽子もラドクリフにまえでは、まるで「大人とこども」であった。後半になるほどペースがあがり、5キロを16分のペースで押し切ってしまう。そのスピードと馬力をみて、搭載しているエンジンのパワーがちがうな。世界は遠くなった、という感じである。 注目度の点では女子に一歩ゆずっていた男子の部で、高岡寿成が2時間6分17秒という日本最高で3位にはいった。レースの中盤ではあわや……というシーンもあっただけに、高岡の快走を高く評価したいと思う。だが、最後のツメの段階でハイヌーシに軽くあしらわれたのを目のあたりにすると、まだまだ世界とは大きな隔たりがあるように思った。 さて今シーズンの大学駅伝、下馬評では、「本命不在」で「大混戦」というのがもっぱらであった。レースはそれを裏付けるように3区までトップが変転、一時は伏兵・神奈川が混戦を断つかに思われたが、最終区で思わぬどんてん返しが待っていた。
短い距離をつなぐ出雲駅伝はいつも3区まではレースのゆくえが定まらない。4区あるいは5区で優勝争いの構図がみえてくるのだが、今回はいかにも大混戦を象徴するかのように、5区を終わったときにも、結末はまだ深い闇のなかにあった。 1区では候補のひとつ駒澤が内田直将が区間新記録の快走、早くもトップに立ち、「やはり……」と思わせたが、長続きしない。2区では32秒差の5位まで順位を落とし、かわって神奈川大が奪首する。3区の吉村尚悟で神奈川が独走するかと思われたが、なかなか安全圏にはいれなかった。それが最終的に敗因となってしまう。4区、5区とトップをまもったものの、アンカーにたすきがわたった時点で、2位の駒澤とはわずか14秒差、1分以内に、京都産業大、第一工業大、山梨学院大、大東文化大、早稲田大学と6チームもがひしめいていた。かくして優勝のゆくえは最長区のアンカー勝負にも ちこまれたのである。 今回注目すべきは優勝をねらえる圏内に京都産業大学と第一工業大学が最後まで残っていたことである。京都産業大は1区で9位と出遅れながら、2区で4位まで押しあげ、3区では3位、4区はトップと17秒差の2位まで追いあげてきている。第一工業大も3人の留学生の健闘もあって、3区以降は終始トップをねらえるポジションにつけていた。昨年は1区で区間賞をとったA・バイは今年3区登場、区間新記録で8位から一気に2位にあがってきた。4区は17秒差の3位、5区も4位に落ちたもののトップからの差はわずか26秒でしかなかった。 大東文化大、早稲田、順天堂大、中央大、帝京大など箱根の常連を一蹴した地力はあなどりがたいものがある。全日本でも要注意である。 箱根駅伝は今年から出場枠を5校増やしたが、その選考方法について大会本部は考えあぐねているようだ。それならば、たとえば京都産業大や第一工業大のように出雲、あるいは伊勢路の全日本で上位を占めた大学に門戸をひらく道を模索してはどうだろうか。
今大会の最大のみどころをあげれば、やはり最終区の攻防だろう。 およそ40秒差の5位でタスキを受けた山梨・モカンバのい走りは迫力があった。オーバーぺースではないかと思うほど、ハナから猛然と突っ込んでいった勇気、チマチマとまとめようとするランナーが多いなかで、久しぶりに感動させてくれた。5位でたすきをもらった彼は1.4キロでは早くも3位まであがり、2.3キロではあの松下龍治の駒澤大、第一工業大を置き去りにして、3.6キロでトップをゆく神奈川の原田恵章をあっさりと捕らえてしまうのである。 かつてのオツオリやマヤカの再来を思わせるモカンバの目の覚めるような快走で、山梨学院大學は7年ぶり6度目の優勝を果たした。留学生のパワーで圧勝。山梨学院の勝利の方程式が復活した。 前半はもたついたが、終わってみれば、たしかに山梨は強かった。本命不在がささやかれるなかで、大会前から山梨の評価はかなり高かった。事実、橋ノ口滝一、高見澤勝、岩永暁如、モカンバ……とならべてみると強力な布陣なのである。そのうえ、いずれも今シーズンは好調が伝えられていた。 ところが皮肉にも橋ノ口、高見澤のエース2枚をつかった前半で山梨は後手を踏んでしまった。3区を終わったとき、なんとトップとは1分30秒差の9位に甘んじていた。距離の短い駅伝だから、「山梨はもはや、これまで……」と思った。かんじんかなめのところでポカが出る。いかにも山梨らしい……と失笑していたが、4区、5区で驚異の粘りを発揮した。ひとたび圏外に去りながら、岩永暁如と清家健が粘りに粘って、再び圏内までもぐりこんできた。繋ぎ役のの2人の好走が優勝をもぎとった。見事とというほかない。 大混戦といわれる時勢ゆえに、大砲の存在が最後にモノを言ったというみかたもできる。それはともかく今回の出雲はモカンバにとって大きな自信になり、負け癖のついていた山梨の選手たち、とくに近年は冴えない上田監督にも勇気を与えたのではないか。 今年の山梨は出雲でひと皮むけた。箱根ではもう9位争いに甘んじることもないだろう。久しぶりに優勝争いにからんできそうである。
王者・駒澤大は昨年も出雲は勝てなかったが、今年も3位までくるのがやっとというありさまであった。松村拓希が使えず、エースの松下龍治も本調子を欠いていた。3区といえばエース区間だが、そこに2年生の塩川雄也を使ってきたのは、大学駅伝、箱根に向かううえでの思惑がらみだろうが、全般的にみて昨年までの勢いが感じられない。 前半で致命的な失敗をして、ひとたび圏外に去った山梨にやすやすと逆転優勝させてしまったのは、この駒澤をはじめ、中央大、大東文化大、順天堂大、早稲田大、帝京大などがこぞって不振だったせいもある。 とくに10位の中央大と11位の順天堂は大きな誤算だったのではあるまいか。中国・四国の徳山大あたりに負けるようでは、言い訳のしようもないだろう。いったい夏合宿でどういう練習をしてきたのだろうか。中央は野村佳史を欠き、エース藤原正和も精彩を欠いていたが、優勝できるほどの陣容をもち、その潜在能力からみて、10位というのは理解できないのである。 順天堂大も四年生クインテットが卒業したアナが大きいようである。1区に出てきた中川拓郎あたりが中心になるのだろうが、長山や春田など中堅どころが伸び悩んでいる。戦力アップどころか、現状ではマイナス要因ばかりが目立っている。今回2区と3区に1年生の村上康則、難波祐樹を使ったのは新戦力を試す底意からだろう。それなりに箱根に向けての戦略がほのみえるのだが、今年はかなり苦しそうである。予選会回りは必至とみた。 そんななかで、見通しが明るくなってきたのは神奈川大ではないか。昨年は箱根の往路優勝で復活の兆しをみせたが、今回のレースでも層の厚さ、チームとしてのバランスの良さが、きわだっていた。吉村尚悟だけでなく、昨年出雲でデビューさせた下里和義なども順調に育ってきている。3区でトップを奪い、一時はそのままゴールまで突っ走るのではないか、と思わせるほど、今回のレースは神奈川中心にまわっていた。他の大学がいまひとつピリっとしないだけに、とくに箱根では昨年以上に期待できそうである。昨年の箱根で大健闘した早稲田の5位、亜細亜の6位もまずまずといったところか。早稲田は全日本の闘いぶりをとくと見定めたい。 出雲でみるかぎり今年の全日本、箱根で軸になるチームがみえてこない。駒澤大、神奈川大、山梨学院、中央あたりが、伊勢路でどのように陣容をととのえてくるのか。大混戦というより、ますます混迷深まる形勢、各大学ともに、どのように立て直してくるのか。きわめて興味深いものがある。 ★開催日:2002年10月14日(月) ★天候:晴 気温24.5度 湿度41% 北北東の風0.4M ★山梨学院大学(橋ノ口滝一、吉田幸司、高見澤勝、岩永暁如、清家健、O・モカンバ)
区 間 最 高
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