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世界をみわたして長距離王国をあげろといわれれば、つねにアフリカ諸国のなかからピックアップしなければなるまい。ケニア、エチオピアが抜けた存在だが、駅伝では必ずしも結果に結びついていない。エチオピアは男子はともかく女子に関するかぎり、つねに実力では日本にひけをとらぬ顔をそろえながら、今一歩のところで駅伝独特の雰囲気に翻弄されてあえなく後塵を浴びてきた。 ところが、今年は男女ともにエチオピアが強力なメンバーをそろえて勝ちに来た。 ツル(シドニー五輪1万m金金メダリスト)と今年の世界ジュニア5000m優勝のデファーを2枚看板にして、6人の5000mの平均タイムはなんと15分05秒である。数字のうえでみるかぎり、全員が福士クラスの実力の持ち主だということになる。 女子の場合、エチオピアのほかでは、ルーマニアが1万m31分台の選手を5人もそろえ、ロシアもエゴロワを始め、スキのない布陣でやってきた。中国も先のアジア大会で、日本のエース福士をまるで子供のように軽くあしらった孫迎傑を送り込んできた。エチオピア、ロシア、ルーマニア、中国……、女子の場合はまさに世界のトップクラスの競演というべき様相であった。 エチオピア、ロシアが実力通りの走りをみせれば、日本の出る幕はない。けれどもエチオピアは毎年のように、どこかでポカをやり、ロシアはいつもベストの状態では来ていない。かくして日本のは過去10年そうであったように、リレー・マラソンではなく「駅伝」の戦いにもちこんで、蓄積したノーハウにモノをいわせる。いつの場合も、そこにしか活路がない。 男子はエチオピアとケニアが強力だった。世界クロカンの王者ベケレを中心にして、1万m27分20秒台の選手が3人もいるのである。ケニアは今回、日本の実業団在籍選手だけでチームを構成してきた。実績のあるギタヒやサイモン・マイナなど、1万m=27分台の選手5人をそろえてきた。いずれも日本の駅伝で活躍している選手だけに、どんな戦いかたをするのか。勝敗以外の興味もあった。タイプのちがう2強の間に駅伝本家の日本チームが、独特の駅伝ノーハウで割って入れるのか。見どころはその1点につきた。
女子の見どころは第1区と2区であった。注目のランナーのうち昨年の世界選手権5000m金メダリストのエゴロワと日本のエース福士加代子は2区にまわって、超豪華な世界対決こそ実現しなかったが、シドニー五輪1万m金メダルのD・ツル、先のアジア大会で長距離2冠の孫迎傑が登場して、次代を占うという意味で、きわめて興味ある顔合わせを観ることができた。 2人のほかに注目のランナーといえば、ボテザン(ルーマニア)、クリミナ(ロシア)、日本の大越一恵(ダイハツ)あたりだったが、1キロの入りは3分12秒と意外なスローな展開、3キロも9分40秒で、ペースがあがってこない。日本の大越も千葉選抜の橋本康子もトップ集団にくらいつくことができたのは、ひとえにスローペースのせいだったろう。 中盤をすぎても容易にばらけなかったトップ集団に変化が生じたのは、6.8キロあたりだった。中国の孫迎傑が一気にペースをあげる。孫の得意の猛スパートに、さすがのツルもアジア大会の福士と同じように、あっさりと置き去りにされてしまった。 優勝候補筆頭のエチオピアは17秒差の3位、ルーマニアは15秒差の3位、日本は32秒差の5位、ともに15秒のなかに顔をならべて、まずまずのスタートをきった。だが候補ひとつロシアはクリミナがブレーキ、1分54秒も遅れ、早くもこの時点で圏外に去った。ロシアは出来、不出来のブレ幅が大きいようである。 日本の大越は千葉選抜の橋本康子にも交わされて5位でタスキを渡したが、トップから32秒遅れならば、むしろよく粘ったというべきだろう。
今回のクライマックスというべき第2区、屈託のない笑顔をふりまく福士加代子の走りが鮮烈だった。5位でタスキを受けた福士は0.7キロで千葉選抜をとらえ、2.5キロではルーマニア、中国のかたわらをすりぬけていった。そして2.8キロでは先頭をゆくエチオピアをとらえてしまう。しなやかで流れるようなフォーム、実に楽しそうに走っていた。これほど駅伝を楽しそうに走るランナーは、過去、現在をみわたして前例がない。誰が名付けたのか、「かっとび」福士の快走で日本はひとたび11連覇への望みをつないだのである。 2区では伸び盛りの福士加代子と頂点をきわめたエゴロワの対決が観られるかと期待したのだが、ロシアのポジションがあまりにも後ろすぎた。さらにエゴロワ自身も体調が万全でなかったようである。走りそのものに精彩を欠いていた。1区と2区でトップに立つだろうとみていたロシアの思わぬブレーキで、勝負は日本とエチオピアのマッチレースの気配が濃厚になってくる。 2区を終わったところで、トップ日本とエチオピアの差は13秒、ルーマニアとは40秒、ロシアとは1分と近くの差がうまれていた。ロシアの優勝戦線からの脱落はクリミナ、エゴロワの予想以上の不振によるものである。
日本女子は2区で流れに乗り、11連覇への道筋を確かなものにしたかに思われたが、ポイントになる3区では思ったほど伸びなかった。小鳥田貴子の走りが悪かったというのではないが、ルーマニアのタルボシェが40秒あった差を23秒まで詰めてくる。エチオピアも粘って36秒差。結果的に4区で思ったほど稼げなかったことが、エチオピアに逆転を許す伏線になった。 エチオピアは4区・デババで3秒まで追いすがり、5区のデフォーであっさり逆転、6区のギタネの区間賞で勝利を不動のものにした。日本の高橋教子、奧永美香、真鍋裕子も出来が悪かったというのではない。むしろベストに近い走りでカバーしている。エチオピアが強すぎたのである。彼女たちに実力通りに走られてはどうしようもないのである。 日本女子チームはこれまで実力では劣りながらも、トラックの延長ではなく「駅伝の勝負」に持ち込んで勝利を収めてきた。今回はその戦略が通用しなかったようである。
男子は1区でみるかぎり2強対決の様相であった。エチオピアのD・ビルハヌとケニアのJ・マイナが2、8キロでスパート、レースは長距離王国の本家争いを演じる両チームを中心にまわりはじめた。日本の山口洋司は走りが重い。むしろ学生選抜の清水将也が全日本大学駅伝でみせた好調ぶりを堅持していた。 8キロすぎでD・ビルハヌが一気にスパート、勝負の流れは一気にエチオピアに傾いた。以降、エチオピアはいちどもトップを譲らず、独走でタスキをゴールまで運んでいった。いつもなら、どこかでつまずくのだが、今回に関するかぎり完璧なレースぶりで、ほんの一分のすきもなかった。 エチオピアの勝利を決定づけたのは2区のベケレである。5キロという短い区間で、2位のケニアに1分の差をつけてしまった。1キロ=2分28秒ではいると、3キロは7分30秒、最終的には13分07秒という区間新記録で突っ走り、ケニアのS・マイナを寄せ付けなかった。 終わってみればエチオピアは5区間のうち4区間まで区間賞を獲得、日本はもちろんライバルのケニアでさえもまったく寄せ付けなかった。駅伝の闘いかたを熟知している在日ケニア軍団、実力的にはほとんど互角と思えるのに、まったく歯が立たなかったのは、いかにも皮肉な結果というほかはない。
日本チームは1区の山口洋司が5656秒差の8位と出遅れた。2区の岩水嘉孝が区間2位でカバーしたが、それでもまだ7位、2位のケニアとも50秒もの大差があった。学生選抜にも遅れるありっさまであった。だが3区の三代直樹が区間2位の走りで3位まで追い上げてきた。三代の果敢な追い上げはみどころがあった。 今回もつとも切れ味するどい走りを見せたのは5区の佐藤敦之である。5キロという短い区間ながら、ケニアを猛然と追いかけた。顔には笑みがこぼれているが、両目は獲物をみすえる鷲のようにらんらんと輝いている。ケニアを一気に4秒差まで追い上げる区間新記録の快走で、エチオピアの完全制覇を阻止した。 佐藤の走りはまさに「駅伝」そのものというべきで、日本チームは出遅れながらも「駅伝」レースのテクニックでもって、最後は実力では一枚上とみられていたケニアとの2位争いにもちこんだのである。 逆にケニアは駅伝経験者ばかりをそろえてきたなずなのに、皮肉にも「駅伝」ができなかった。つまりチームとしてのまとまりを欠いて、エチオピアに大敗しただけでなく、日本にもきわどく詰め寄られた。現実にアンカーのギタヒにしても、真面目に走っているとは思えなかった。 健闘したのは今回初出場の学生選抜である。最終的には10位に終わったが、前半は日本チームをい上回り、中盤まで6位をキープしていた。とくに日大の清水将也、東洋大の三行などは箱根予選会、全日本学生でみせた好調さを活かして好走した。とくに1区に出場した日大の清水将也はしぶとく先頭集団にくらいついていて。観るべきものがあった。 i 清水、三行は箱根で、佐藤敦之はニューイヤー駅伝で、いったいどんな走りをみせてくれるか。大いに自信を付けたであろうかれらの走りが楽しみである。 ☆本文に登場する福士加代子、佐藤敦之が力走する姿は、岡崎誠さんのサイト(ekidenn@photos)で観ることができます。今回もまた迫力ある写真作品の数々がアップされています。必見! ★開催日:2002年11月23日(土) ★天候:曇り 気温10.1度 湿度74% 北の風3.7M ★男子:エチオピア(D・ビルハヌ、K・ベケレ、A・ディンケサ、G・ゲブレマリアム、S・シヒーン) ★女子エチオピア(D・ツル、M・デンボバ、E・クマ、T・デババ、M・デファー、W・キダネ)
区 間 最 高
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