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昨年の20回大会を経て、新時代に突入した観のある本大会は、全日本実業団女子駅伝とならんで伝統ある大会である。先ごろ京都新聞社から『全国女子駅伝20年記念誌』が刊行されたが、同誌をみると、本大会がいかに女子長距離の発展に大きな役割を果たしてきたかがよく判る。 女子マラソンや長距離のトップクラスがこぞって顔をみせている。最近では若いランナーの登竜門としての役割も果たしているが、本大会の活躍をきっかけにして日本を代表するランナーに育っていった選手たちも数えきれないほどいるのである。 今年で21回目を数えるわけだが、最多出場は今年兵庫から出場して、優勝のお膳立てをした早狩実紀(現・KIコーポレーション)である。 早狩は1991年の世界選手権3000メートルに出場した日本を代表するスピードランナである。現在30歳になるが、いまだ1500m、3000mでは日本のトップクラスにある。彼女が全国女子駅伝に初めて出場したのは5回大会(1987)である。早狩は当時、京都・槙島中学の2年生で、ジュニア五輪1500メートルで優勝している。以降、南八幡高、同志社大を経て三和銀行に進み、加古川市に移ってからも「ふるさと出場」で京都チームに加わって、17回大会まで、実に13年連続出場を果たしている。「ふるさと出場」の限度に達したあと、2年間のブランクを経て、昨年の20回大会から兵庫チームに加わって本大会にもどってきた。 京都が本大会を制したのは8度だが、そのうち早狩は6度の優勝に貢献している。まさに優勝請負い人というべき活躍ぶり、11回大会(1993)では1区で区間賞、14回大会(1996)では2区で区間賞を獲得している。 兵庫から初出場の昨年も2区に登場、さっそく11人抜きの区間賞の走りで、その健在ぶりをみせつけた。2年目の今年も2区に起用され、いかにもベテランらしい走りで、「優勝請負人」の真価を発揮したのである。
第1区は今回も奈良の山中美和子が最初からぶっとばした。1キロ=3分14秒、2キロ=6分04秒、3キロ=9分10秒……。昨年よりはるかに速い。小崎まり(京都)も弘山晴美(徳島)も、あっさり置いてゆかれた。誰もついてこない。渋井陽子(栃木)、川上優子(熊本)、橋本康子(大阪)、小鳥田貴子(広島)、小崎まり(京都)など、エース級の顔がずらりとそろっていた昨年にくらべて、今年はいくらか小粒な顔ぶれだったせいもあるが、山中は終始ぶっちぎりでトップを楽しそうに走っていた。区間新記録をねらう山中の迫力に圧倒されたかのようで、彼女に競りかけるランナーはひとりもいなかった。 山中美和子もまた本大会から巣立ったランナーである。中学時代(奈良・香芝中)に東四国国体3千Mで9分10秒18という驚異的な中学新記録をマークするなど、スピードランナーとして注目の選手だった。全国女子駅伝には中学1年の10回大会(1992)から出場、高校3年間、大学4年間、実業団に入って2年、合計12回連続出場を果たしている。中学時代は3年連続で3区を走り、3回とも区間賞を獲得した。なかでも11回大会(1993)でマークした9分15秒という区間記録は、いまだに破られていない。高校時代(添上高)は故障に泣き、大学時代(筑波大)もいまひとつ伸び悩んできた。高校、大学時代は1区をまかされてきたが、目立った成績は残せなかった。ところがダイハツに入社した昨年、突如として眠っていた素質が一気に開花した。前回は渋井陽子と競り合って念願の区間1位を獲得、そして今年は区間新をねらってきたのである。 大阪国際マラソンに出場する彼女にとって、今大会はいわば「足ならし」というわけだが、その意気込みをぶつけるような積極的な走りは実に迫力があった。5キロを15分30秒で通過、終わってみれば18分44秒……と、19分をやすやすと切ってしまった。 1区と3区の区間記録ホルダーになった山中もまた本大会の「顔」というべきであろう。
1区を終わったところで、候補の京都は19秒差の3位、兵庫は35秒差の6位と好位置につけたが、福岡は1分11秒差の25位と大きく出遅れて圏外に去り、愛知も41秒差の14位と想わぬ不覚をとった。昨年2位の長崎も1区に藤永佳子を欠いて21位に沈んだ。 勝負は京都、兵庫のマッチレースの様相がみえてきた。予想通り、京都は2区の池田恵美(立命館大)が2キロ手前でトップを奪う。6位の兵庫、ここで早狩実紀が登場である。早狩は2.5キロで速くも4人抜きで2位にあがってくる。力強くて軽快な走りに思わず眼を奪われた。年齢的に引退する選手が多いなかで、元気に走る姿を見てほしい、というわけなのだろう。この大会への思い入れの強さを見る思いがした。 早狩の区間賞の快走で10秒差の2位につけた兵庫は3区の中学生・小林祐梨子が京都を交わしてトップに立つのだが、それは早狩の勢いによるものだと思われる。いぶし銀のようなベテランの走りから勢いとリズムが生まれ、それが中学生、高校生に持てる実力をいかんなく発揮させたのである。 兵庫は4区から7区まで高校生4枚をずらりとならべている。勝又美咲、寺田恵、川島千依、竹内友紀……。いずれも力強い走法で突っ走った。前半は抑えて、後半あげるという沈着な姿勢で京都の追撃を断った。とくに光るのは4区の勝又美咲である。世界ハーフの代表になった京都の高仲未来恵(京セラ)と渡り合い、前半は追われながらも、後半は突っ放して、わずか1秒だが差をひろげて押しきってしまった。 兵庫の勝因をあげるとすれば、その第1は須磨女学園3人をふくむ4人の高校生パワーである。
6区を終わって兵庫・京都の秒差は53秒とひらいたとき、兵庫が独走態勢をきずくかに思われたが、連覇をねらう京都もしぶとく粘った。7区の古田菜穂子が区間賞の走りで追撃を開始して34秒差、8区の中学生がさらに7秒つめて、27秒という微妙な秒差でタスキは最終9区に渡ったのである。 逃げる兵庫、追っかける京都……。兵庫の大山美樹(三井住友海上)は3分15秒という穏やかな入り、京都の小川清美(京セラ)は懸命に追う。最後の攻防は、静かにして、息づまるせめぎあいとなり、なかなか見どころがあった。 4キロで13秒差、中間点の5キロで7秒差まで京都・小川は追いすがったが、前半を抑えていた兵庫・大山は踏ん張った。引きつけるだけ引きつけておいて、逆に7キロすぎからスパートするという味のある戦いぶりで、京都を突っ放して逃げきってしまうのである。 笑顔で拳をつきあげる勝者・大山、心中あふれてくる歓喜がはちきれたいたが、敗れて顔を覆った小川の後ろ姿には、能力の限界に迫りながら、ついに今一歩のバーを超えられなかった悔しさが隠しようもなくあふれていた。 京都の連覇はならなかったが、実力的にはほとんど互角とみるべきだろう。ただ勢いとリズムの点で、この日はわずかに兵庫が勝ったのである。
兵庫と京都のマッチレースの裏側で、3位以降は大混戦であった。3位から10位まではわずか40秒でしかない。最終区で順位は大きく変動した。たとえば1区で2位につけた熊本は、4位以内をキープして8区を終わったときにも3位につけていたが、最終区で一気に16位まで順位を落とした。高校生を中心に好走していただけに最終区のブレーキが惜しまれる。鹿児島も3位から4位あたりに付けていたが、やはり最終区で10位まで落ちてしまった。埼玉も最終区で順位を2つ落として入賞を逃した。 そんななかで大健闘したのは最終区できわどく3位を争った神奈川と長崎だろう。長崎は1区に藤永佳子を欠いて、1区では21位と出遅れた。5区を終わったときも14位と低迷がつづいたが、6区、7区の高校生、8区の中学生が踏ん張って6位、最終区は高校生の松元美香(諫早高)だったが、福岡、鹿児島、熊本を交わして3位まであがってきている。 最後は神奈川の萩原梨咲(第一生命)とのトラック勝負、全日本実業団駅伝で初制覇したメンバーのひとり萩原を相手に、高校生ランナー・松元は真正面から受けて立っていた。そして最後は持ち前のスプリント力で、あっさりとねじふせてしまった。そのスケールの大きな走りに超大物の片鱗をみた。 神奈川も東日本駅伝を制した好調さを持続していたようだ。高校生・中学生・実業団のバランスがうまく機能したようである。 序盤で大きく遅れた福岡も中盤で失地回復、8区をおわって押し上げてきている。それだけに1区の失敗が悔やまれるところだろう。愛知も広島も最終区だけで一気に入賞圏内にとびこんできた。大南博美、小鳥田貴子という大ゴマがフル回転した結果だが、やはり前半の遅れが致命傷になったようである。 エース1枚だけでは優勝にからんではこれない。優勝をねらうには高校生、中学生、実業団のバランスが要求される。年を追って中学生、高校生の底上げが進む昨今、優勝争いは今後ますます熾烈になってゆくだろう。 20回という節目を経て、新しい時代を迎えた全国女子駅伝、チャンピオンシップの大会ではないが、たとえば山中美和子や早狩実紀のようなランナーがそうであったように、とくに中学生、高校生にとってはあこがれの大会である。実業団のトップクラスも顔をみせ、模範になるような最高の走りをみせてほしいものである。 ★開催日:2003年1月12日(日) 京都市・西京極陸上競技場/宝ヶ池国際会議場折り返し、9区間42.195Km ★天候:出発時 晴れ 気温6.0度 湿度46% 南の風1.0m ★兵庫(加納由理、早狩実紀、小林祐梨子、勝又美咲、寺田恵、川島千依、竹内友紀、田中綾香、大山美樹)
区 間 最 高
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