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今シーズンの男子駅伝をしめくくる大会である。 中学、高校生の第一線級の顔がそろい、一般ワクで大学生、実業団のランナーが登場してくる。9区間で行われる女子の大会は一般ワクは4つだが、7区間でおこなわれる本大会は、わずか2つである。それゆえに戦力をみきわめるにはまず中学生と高校生を基礎票にして、一般ワクの2人でどれだけ上積みがみこめるかがポイントになる。 ところが大学生と実業団ランナーは、調子の見きわめがきまめてむずかしい。大学生は今年も箱根出場組が大挙してやってきた。実業団からも佐藤敦之や尾方剛、浜野健などを中心に若手が顔を見せてくれた。だが箱根に出場した大学生も実業団選手も、わずか3週間のインターバルである。さらに1週間前に朝日駅伝を走ったランナーも何人かいる。 過密なレーススケジュールのなかで、最後の一押しが効くかどうかが、このレースのゆくえを大きく左右するのである。 前評判では今回も大混戦、あえて候補をあげれば、前年優勝の福岡、地元の広島のほか愛知、長野、兵庫、熊本、福島などの呼び声が高かったが、結果的にはチーム全体ののモーチベーションのありかたが明暗を分けたようである。 注目の第1区は高校駅伝でも活躍したスピードランナーの再戦。土橋啓太(福岡)、北村聡(兵庫)、松岡佑起(京都)、高井和治(佐賀)、三津谷祐(香川)などがめまぐるしく先頭を争った。残り1キロで松岡、土橋、北村が抜け出した。最後は松岡が制したが、5位までが区間新記録という熾烈なスピード合戦、候補のなかでは福岡、兵庫、愛知などが生き残った。 広島は28位、長野は23位、熊本は21位……、いずれもこの時点で優勝戦線からは脱落した
今大会も最大のみどころは第3区となった。 2区を終わったところで、京都、福岡、佐賀、兵庫がトップグループを形成、いよいよ前半のポイントというべき3区にタスキが渡った。 京都は勝間信弥(佐川急便)、福岡は木野行純(九電工)、佐賀は前田和治(九電工)、兵庫は藤井周一(日大)という顔ぶれ、興味の一点は、いったい誰が主導権をにぎるのか。ここでランナーとして創造力を発揮した者のみが、優勝への道筋を描くことができる。 3キロで遅れ始めた京都がまず脱落した。兵庫、福岡、佐賀による三つどもえの形勢となったが、三人はそれぞれ過酷な状況にあった。兵庫の藤井周一は箱根の4区で目一杯のレースをしている。福岡の木野行純と佐賀の前田和治は九電工のチームメイトだが、ともに元旦の全日本実業団を走り、さらに13日には朝日駅伝を走っているのである。誰が踏ん張れるか……と思って見ているうちに学生の藤井が脱落、最後は木野と前田のマッチレースになっった。 チームメイトゆえに負けれれない。なりふり構わぬ闘志をむき出しにする二人の走り、抜きつ抜かれつのスパート合戦は迫力にみちていた。 木野も前田も全日本実業団や朝日駅伝というチャンピオンシップの大会では、脚光をあびることはなかった。前田和治は全日本実業団では1区に出場して区間15位、朝日駅伝では2区をまかされたが、区間11位だった。木野行純も全日本実業団では2区で区間16位、朝日駅伝では3区に登場して区間13位といういまひとつの成績だった。テレビにも映ることがなかったであろう2人が男子駅伝ではテレビ画面を独占、まさに今大会の主役を果たしたのである。 現実に2人の走りをみていると、区間11位や13位のランナーとは思えないほど走りにキレがあった。事実、前田は区間2位、木野は区間4位という見事な走りをみせてくれた。区間新記録の浜野健からも前田はわずか1秒、木野は8秒しか遅れていないのである。2人とも1区、2区の高校生、中学生のつくった快調な流れに乗って快走したのだ、ひるがえって考えれば、舞台さえととのえば、かれらにもトップクラスの走りが出来る実力があることを自ら証明してみせたということになる。 チームメイト同士ゆえの闘争心、さらに福岡は連覇がかかっている。そういうモーチベーションの高さが木野と前田の快走を生んだのだろうと思う。競い合う2人の一押しで、3位の京都に42秒、兵庫にには55秒もの大差をつけて、3区を終わってトップが佐賀、7秒遅れで福岡がつづき、優勝のゆくえはほぼ見えてきたのである。
47チームが出場する全国駅伝ならではの見どころのひとつに、2桁以上の「追い抜き」がある。10人抜き、15抜きなどは有力チームが前半に思いがけないブレーキで下位に沈んだとき、あるいは下位チームに抜けたエースランナーがいたときに起こる現象である。だが、何よりも出場チーム数が多くなければ……。 今回も3区、5区、7区で派手な「追い抜き」が散見された。3区では区間新記録の浜野健(和歌山)が23人抜き、小畑昌之が16人抜き、佐藤智之(宮崎)が18人抜き。5区の高校生区間でも区間新記録の上野裕一郎(長野)が17人抜きで、長野を一気に入賞圏内の7位に押し上げ、今井正人(福島)は15人抜きで、4区で30位まで落ちた福島を15位までもってきている。 入賞ラインでの大混戦を尻目に、佐賀と福岡のトップ争いは4区、5区の高校生区間にもちこされたが、分厚い戦力を誇る福岡は5区の石橋洋三で逆転、逆に20秒の差をつけてしまう。6区の中学生はさらに26秒秒をかせいだ。 福岡は誰一人も区間賞をとっていないが、それぞれが自分の役割を理解して、堅実にタスキをつないだ。連覇という目標でチームがひとつになり、しっかりと勝利への道筋をつくったのである。そういう意味で5区の石橋洋三、6区の中学生小野兼嗣の走りは高く評価できる。
3区についで見どころをあげれば、やはり最終区だったろう。 先行する福岡は独走態勢を固めていたが、2位は佐賀京都が激しく争った。4位以降は後方から追い上げてくる福島を中心に、入賞のボーダーをめぐって、めまぐるしく順位が入れ替わる。まるで異なる3つの次元でレースは終盤を迎えようとしていた。 福岡の尾田賢典(関東学院大)は箱根駅伝では2区に出場、15人抜きの順天堂大・中川拓郎と途中まで併走、9人抜きを果たしたが、あのときと同じように軽快な弾むような走りでトップを独走した。区間新記録をマークした佐藤敦之からわずか19秒遅れの区間2位、尾方剛、前田貴史、板山学などの実業団中堅どころ、松下龍二や三行幸一、高見澤勝などの学生トップクラスをあっさりと退け、箱根の疲れを見せなかった。尾田にあと一押しが効いたのは、駅伝でトップを走ることの快さのせいだろう。 2位争いは最後まで熾烈をきわめた。佐賀の飛松誠(帝京大)と京都の渡辺共則(旭化成)が最後まで激しく争った。顔をゆがめながら踏ん張る飛松のあの背中をまるめた独特のフォーム、いくどか遅れそうになりながらも、食らいついて離れなかった飛松の気力が最後はモノをいったようである。 4位以降は最終区で大きく変動した。入賞圏にたむろするチームをまぜかえしたのは福島から「ふるさと出場」の佐藤敦之(中国電力)である。前半出遅れた福島は5区の今井正人が15人抜き、6区の中学生が3人抜きで、6区を終わって12位まであがってきた。そこでエース・佐藤敦之の登場である。 佐藤は最初から猛然と突っ込んだ。あの笑顔をふりまきながらの独特な走法は健在だった。前をゆくランナーを次つぎにとらえ、とうとう7,5キロ地点では兵庫、愛知に追いついてしまった。最後は8人抜きで4位まで浮上、なんと2位を争う佐賀、京都がみえる位置までやってきたのである。中国電力に籍をおく佐藤にとって広島は地元だが、全日本実業団に出場できなかったウサを晴らすかのような快走をみせ、区間新記録で最後をしめくくった。
福岡の勝因はすでにのべたが、中学生、高校生、実業団のバランスのよさ……につきるだろう。区間賞はひとりもいないが、7人のうち5人までが区間2〜3位でまとめている。 強力な高校生をかかえる佐賀が前半上位にくることは、あらかじめ予測されていたが、トップに立つまでにあまりにも苦労しすぎたのが誤算というべきか。3区でようやくトップを奪うのだが、4区までに貯金がつくれなかったことで福岡に逆転を許した。 健闘したのは京都である。1区の松岡佑起の快走で流れにのった。実業団の2選手がウイークポイントだったが、それでも最終3位をまもったのは大健闘といっていい。 福島は4区で30位まで落ちながら、最終4位まで押しあげてきた。それだけに前半の遅れがなければ優勝争いに加わっていただろう。福岡と対照的にバランスが悪かった。佐藤のようなスーパーエースがいてとしても、最近の駅伝ではチームとしてのまとまりを欠いては勝てないのである。 ほかに健闘したのは7位の岡山あたりか。1区で18位と出遅れ、3区を終わっても13位、だがそこから入賞圏内に押し上げたのは2人の高校生と中学生のがんばりである。 福島と対照的に1区で出遅れた長野、熊本、広島はいずれも低空飛行のまま終始した。長野は6区を終わって8位にいたが、最終区で順位を落とし、熊本は12位、広島は20位までくるのがやっとというありさまだった。 全国男子駅伝はとくに将来を担う高校生、中学生のための大会という色彩が強い。今回も実業団では佐藤敦之などのトップクラスのランナー、大学生では松下龍治や尾田賢典をはじめとする箱根ランナーが大勢登場した。トップクラスのランナーとともにレースに出場する。あこがれの選手から刺激をうけた高校生・中学生ランナーたちが、やがて一般ワクで大会にもどってくることを期待したい。 ★開催日:2003年1月19日(日) 広島・平和記念公園発着/中電大野研修所、7区間=48Km ★天候:出発時 晴れ 気温14.0度 湿度73% 北西の風0.3m ★福岡(土橋啓太、中原知大、木野行純、吉井克、石橋洋三、小野兼嗣、尾田賢典)
区 間 最 高
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