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まさに「鬱憤晴らし」と言うべきか。 大津聖(福岡・大牟田高)はスタートから突っ走った。1キロ2分46秒、1〜2キロも2分53秒……。ペースは衰えない。決して流麗なフォームではない。まるで躰を前に投げ出すようにして……。だが、熱い思いは過不足なく伝わってくる。 暮れの高校駅伝で大牟田高は1区で大きく出遅れたために、大津の17抜き(3区)の快走ぶりも、ほとんどテレビには映らなかった。福岡の斬り込み隊長として第1区に登場してきた今回は20分あまりにわたって主役の座を争った。 大牟田にとってまるで悪夢のようだった第1区……。惨敗の汚名を濯ごうというわけなのだろう。大津の気迫は鬼気迫るものがあった。埼玉の佐藤拓也が追ってくるがトップを譲らない。きわめてハイレベルの闘いがくりひろげられるなかで、候補といわれた愛知、広島、兵庫、熊本などがつぎつぎに脱落していった。 4.6キロ付近では佐藤に代わって岐阜の加藤直人、長崎の長門俊介が追いあげくる。暮れの京都でも1区で2位と快走した加藤は満を持していたのか。中盤になって一気に大津に襲いかかる。だが、大津は執拗に粘った。走りをみているかぎり、まったく余裕はないのだが、食らいつくように離れないのである。 福岡、岐阜、長崎が集団となり、激しく主導権を争ううちに長崎がまず遅れた。加藤と大津が激しく区間賞を争う展開になったが、6.4キロ地点で地力に勝る加藤がスパートをかけて決着をつけた。加藤は高校駅伝に続いての快走である。長身のやわらかなフォームに、このランナーの奥深さをみた。 大津聖は加藤に先んじられたものの、その差はわずか3秒である。展開面からみると第1区で絶好のポジションを確保したこと、何よりもエースが戦う姿勢を鮮明にしたことが大きかったのではあるまいか。 大津の闘魂がタスキとともにチーム一人ひとりに引き継がれ、最後は兄の大津誠がしめくくった。兄・大津誠がなんども両手を空に突き上げながらゴールする姿、そのとき心中に渦巻いたのは勝利の雄叫びだったであろう。
毎年のように本大会の優勝のゆくえを想定するのはむずかしい。先週の全国女子駅伝にくらべ、今年の男子駅伝のほうは容易にみえてこなかった。 原因のひとつは3区、7区を走る「一般・学生」の貌が見えづらいからである。誰が出てくるというよりも、実業団にしても、学生にしても、いずれもモーティべーションに疑問符がつくからである。実業団、大学生ともに、正月の全日本、箱根ですっかり燃え尽きている。いったん緩めた心身を奮い立たせるのは容易なことではないだろう。とくに実業団選手は思わぬ凡走に終始するケースが多い。出来、不出来のブレ幅がかなりある。そのことがレースのゆくえを不透明にしているのである。 かくして、優勝争いを想定するには高校生をベースにするほか道はない。過去の男子駅伝と前年暮れの高校駅伝の「ベスト10」の顔ぶれを都道府県単位でながめてみると、かなりの部分でオーバーラップしていることが分かる。最低でも5チーム、おおい時には高校駅伝ベスト10のうち7チームまでが全国男子駅伝でもベスト10入りしているのである。 高校駅伝の強い都道府県を目安にして、今回の優勝のゆくえを占うと、熊本、兵庫、福島、長野、長崎、福岡、愛知……、さらに実業団・学生のバランスからみて、岐阜、埼玉広島あたりも上位争いに加わるかもしれない……とみていた。 明暗をわけたのは第1区であった。候補のうち、連覇をねらう愛知は37秒差の19位、兵庫は41秒差の21位、長野は59秒差の32位、実業団が充実している広島はなんと1分06秒差の34位と大きく出遅れて、早くも圏外に去ったのである。このほか有力な候補とみていた熊本は31秒差の13位、福島も36秒差の18位に終わり、かなりの苦戦を強いられることになった。かくして早くも第1区で福岡の優位は動かないものとなるのである。
見どころをあげれば、やはり3区だろうか。 実業団、学生の名のある選手たちの顔ぶれがそろっていた。たとえば実業団では高岡寿成、尾方剛、帯刀秀幸、小澤希久雄、前田貴史などなど……。学生では箱根優勝メンバーの松下龍治、揖斐祐治、野口英盛など……。 1区でトップに立った岐阜は2区の中学生もよく粘りぬいた。そして3区は駒澤の揖斐祐治にタスキがわたる。以下3秒差で長崎、トップから8秒遅れで福岡、10秒遅れで埼玉とつづいていた。 1キロ手前で長崎の原和司が揖斐をとらえ、やがて福岡の木野行純も追ってきてダンゴ状態になる。後ろから埼玉の加藤俊英がひたひたと迫り、さらに山口の高岡寿成が大阪の野口英盛をひきつれて急追してくる。 長崎、福岡、岐阜のトップ争い、さらに埼玉を追ってくる山口、大阪のせめぎあいはテレビでも重層的によくとらえられ、迫力満点でなかなか見応えがあった。 形勢はめまぐるしく変転、トップ争いでは3.8キロで先ず岐阜の揖斐が脱落、福岡・木野と長崎・原の争いになるも、6キロ過ぎで原がスパートして奪首に成功する。2位以下も激しく変動、後半になって埼玉・加藤が猛追、第3中継所ではトップの長崎に1秒差まできていた。3位には山口の高岡とともにあがってきた大阪の野口英盛がトップから5秒差まで追ってきた。そんななかで同じ大学生の揖斐祐治はピッチがあがらず、終わってみれば区間32位で順位を7つも落としてしまった。 区間最高は後ろから追ってきた広島の尾方剛であった。広島は1区で大きく出遅れたせいもあって、尾方がタスキを受けたのは、トップの岐阜から1分05秒遅れの31位だった。そういう気楽さも手伝ってか24人抜きの快走で、広島を一気に7位まで押しあげてきた。24人も抜くことができたのは、それだけ後ろにいた証拠なのだが、そのせいでテレビにあまり映らなかったのが残念である。 最近のテレビ中継は経費をしぼっているせいか、臨機応変が利かず、細かいフォローができなくなっているようである。 直前になって出場が決まった高岡寿成も完全な状態とはほど遠い走りだったが、区間2位とまとめるあたりは、さすがというべきだろう。ほかに健闘したのは富山の西川哲生、区間3位は富山躍進の突破口になった。 学生で最も活躍が顕著だったのは順天堂大の野口英盛だろう。7位でタスキを受けて、トップがみえる5秒差の3位まで押しあげてきた。10位からハイペースで追い上げてきた山口・高岡に食らいついて一歩も譲らなかった。5キロ付近では逆に高岡を突き放した勝負根性にみるべきものがあった。実業団のエース級がそろうなかで、区間1位の尾方剛から24秒遅れの区間5位は大健闘である。大学生のなかでは文句なしにいちばん。タイムや区間成績以上に価値のある走りであった。どんなレースでも手抜きをせずに全力をつくす姿勢は高く評価されていい。
勝負は4区、5区の高校生区間で決着した。 勝負所に村上孝一、土橋啓太という2枚を残している福岡は強かった。村上は暮れの高校駅伝でアンカーをつとめ13位から6人抜きで7位まで順位を押しあげてきた。大津聖とともにかろうじて優勝候補のプライドを守った主力メンバーである。 4区の村上はやすやすとトップを奪い、2位の埼玉に29秒差をつけてしまった。流れはここで一気に福岡に傾くのである。そして、あの土橋啓太にタスキがわたるのである。福岡のメンバーのなかで土橋ほど、この大会を待っていた選手はほかに見あたらないのではないだろうか。 このままでは終われない……。 たとえば女子の立命館宇治・池田恵美と同じように激しい悔恨に苛まれ、きっと汚名を濯ぐ機会をまちわびていたにちがいない。序盤をゆっくり中盤からペースアップした今回の走りが、本来のものなのだろう。区間賞こそ福島の今井正人に奪われたが14秒差の区間2位でまとめた。貯金を34秒差までひろげた土橋啓太の快走によって、土橋みずからもよみがえり、この時点で福岡の優勝もほぼ確かなものとなった。 福岡を優勝に導いたのは大牟田高の3枚である。女子の場合と同じように、連覇はまちがいないといわれながら、暮れの京都でまさかの惨敗を喫した。その悔しさをバネにして無念を晴らした。つまり大牟田高の3人の熱い想いがチーム全体を巻き込んでいったといえる。
健闘したのはまず3位の長崎、5位の岐阜、7位福島、10位の富山、12位の栃木あたりではないだろうか。 長崎は第1区で3位につけて、そのまま流れに乗ってしまった。高校駅伝で6位と健闘した諫早の2人を含めた高校生を中心に、実業団の原和司、箱根の2区でも区間3位と好走した亜細亜大の前田和之、バランスのとれたチーム構成であった。 5位の岐阜は3区半ばまではトップをキープしていた。一時は7位まで順位を落としたが、最後は早田俊幸が本来の走りではなかったものの、5位までもってきた。意地のなせる技というべきか。 7位の福島は1区で18位と出遅れながら、5区の今井正人の区間新の快走で5区を終わったとき、トップの福岡から遅れること34秒まで追いあげてきている。6区の中学生も健闘して29秒差と、7区のアンカー勝負にもちこめるところまできたが、コマが一枚足りなかったようである。小川博之が使えていたら、あるいはきわどい勝負にもちこめていたかもしれない。 10位の富山は3区の西川哲生が区間3位の快走が活きた。12位の栃木も1区で4位と高校生が健闘してはずみをつけた。ほかでは鳥取も前半は10位以内につけるという健闘ぶりをみせていた。最終的には18位におわったが、大コマがもう1枚あれば、こういうチームも入賞圏内にとびこんでくるかもしれない。 最終7区「一般・学生」の区間には今年も実業団、学生の主だったところが顔をそろえた。早田俊幸(岐阜)、花田勝彦(滋賀)、浜野健(和歌山)、油谷繁(広島)、永田宏一郎(鹿児島)、学生では高橋正仁(秋田・駒澤大)、藤原正和(兵庫・中央大)、堀口貴史(埼玉・国士舘大)など。区間賞を奪ったのはエスビー食品の花田勝彦であった。浜野健(和歌山・トヨタ)も結果を見るとちゃんと2位に来ている。さすがは区間記録保持者である。両者の区間賞争いはトップ争いとは無縁のはるか後方で行われていて、テレビ観戦する私たちは知るよしもなかった。 区間賞をさらった花田のほかに注目すべきは堀口貴史(埼玉・国士舘大)が3位に顔をみせていること。花田も堀口も今シーズンは駅伝の大舞台とあまり縁のなかった選手である。全日本に出場した油谷繁や早田俊幸、あるいは箱根組の高橋正仁、藤原正和がいずれも今ひとつだったのと好対照である。燃え尽きている選手と、そうでない選手の差が出たというべきかもしれない。ほかでは永田宏一郎が1位の花田とは35秒差の15位に入っており、いくらか復調の兆しがみえてきた。 優勝した福岡は最後まで大会新記録に肉薄していた。ほとんど無風状態という気象条件にめぐまれたせいもあるが、7区間のうち5区間まで区間新記録というスピード駅伝になった。各チームともに底上げが進み、実力が接近している。中学生も着実にレベルがあがってきており、今までのように3区と6区で有意差がつかなくなってきた。中学生の全般的な底上げで、お祭り駅伝といえども、ますます高速化が進むだろう。 ☆2002年1月20日 平和記念公園発着 7区間、48キロ ☆福岡(大津聖、足立芳之、木野行純、村上孝一、土橋啓太、爪丸晋吾、大津誠) ☆天候・くもり、気温12.1度、湿度70%、西南西の風0.4メートル(正午)
区 間 最 高
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