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上州名物といえば「かかあ天下とからっ風」である。上州女性の「強さ」とならび称されるほど、群馬は「風」も強いというわけである。とくに冬の季節になると、赤城山、榛名山、妙義山の上毛三山から吹きおろしてくる猛烈な強風が平地を駆けぬける。 前橋で行われる全日本実業団駅伝は、「からっ風」という視えない強敵が息をひそめていて、時として路上に思わぬ波乱を巻き起こす。駅伝の実況放送に場ちがいとも思える気象予報士の森田正光を引っ張り出したのは、「風」がポイントになるとみての「演出」だったろうが、今年は5年にいちどあるかないかの平穏な元旦だった。 上州路はほとんど風もなく、温かい陽ざしにめぐまれ、ランナーの顔や首筋に噴き出た汗が光っていた。毎年のようにアゲンストの強風にみまわれる5区〜6区も、ほとんど風吹かなかった。むしろフォロー気味の風がランナーの背中を押しつづけ、5区〜7区で区間新記録が続出した。5区(15.9K)で坪田智夫が3分09秒、6区(11.8K)では松宮祐行が1分19秒、7区ではJ・ドゥングが2分04秒というように、大幅に記録を更新しているのである。 総合成績でも上位の4チームが前回の優勝タイムを上回った。さらに5時間を切ったチームは前回12チームだったが、今回は28チームにふくれあがった。いずれも「風」が吹かなかったことの恩恵に浴したとみるべきだろう。 「風」は吹いても、吹かなくてもレースの明暗を分ける。今回は「吹かなかった」ことによって「笑う」者と「泣く」者が際立つ結果になった。アゲンストで来るはずの風が無風あるいはフォロー気味になったことによって、一気にスピードで勝負するチームにきわめて有利な展開に傾いたのである。例年どおりに強風が吹き抜けていたら、あるいは優勝チームも異なっていたかもしれない。
2区の19キロ地点だった。まるで虚を突くように松宮隆行(コニカ)がスパートをかけたとき、佐藤敦之(中国電力)の面には、まるで予想しないパルチザンの抵抗に遭遇したかのような困惑が浮かびあがった。雁行していた日清食品(実井謙二郎)、山陽特殊製鋼(家谷和男)を振りきって追いすがるのだが、顔のこわばりに自らの油断を悔やんでいるさまが、くっきりと浮かびあがっていた。この瞬間からレースはたちまち急戦ぶくみの様相を呈してきたのである。…… 昨年のコース変更で2区が最長区間になってから、第1区はどちらかというと繋ぎの位置づけになり、各チームともに手堅いランナーを配するようになった。先行逃げ切りの戦略でJ・ギタヒという切り札を投入してきた日清食品はともかく、コニカ、中国電力、富士通、アラコ、カネボウなどは2区で先頭集団をうかがえるポジションをねらっていた。3キロ付近でギタヒが飛び出しても、誰一人も追わなかったのは、あくまで勝負どころは、もっと先にあると見越して、自分の役どころをきっちり果たそうと構えていたせいだったろう。 各チームの思惑が交錯するなかで、絶好のポジションを確保したのは中国電力だった。トップの日清食品から35秒遅れの4位なら文句のつけようがない。コニカの磯松大輔はいまひとつ伸びを欠いたが、それでもトップから37秒差の7位、40秒遅れの富士通とともに、ますまずというところ。好対照をなすのは上位の期待が高かったアラコ(手塚利明)で、何と1分20秒遅れの25位、復活をめざす古豪・旭化成(渡辺共則)も58秒差の19位と出遅れて早くも圏外に去った。 日清食品のベテラン実井謙二郎の先行する展開で始まった第2区は、今大会でいちばん見応えあった。中国電力の佐藤敦之、山陽特殊製鋼の家谷和男、富士通の帯刀秀幸にコニカの松宮隆行という若手の実力派ランナーが集団でひたひたと背後に迫る。10キロではとうとう実井飲み込んでしまうのだが、さらに後方からカネボウの入船敏が追いすがって12キロでは6人がトップ集団を形成する。激しい鍔せりあいのすえに15キロ手前で帯刀と入船が遅れ始める。再びトップ集団を引っ張り始めた実井を中心にして、佐藤、松宮、家谷が勝機をさぐり合う。そして、あの19キロを迎えるのである。 佐藤がちらと時計に目をやった瞬間にスパートした松宮の奔放なまでのみごとさ、大学駅伝のスターとしていわばエリートの道を歩んできた佐藤に挑んだ松宮の雑草魂をみる思いがした。
2区を終わって早くもレースの主導権はコニカに傾いたかにみえたが、マッチレースの展開にもちこんだのは、中国地方の予選でカネボウを5分もちぎった中国電力である。 2区に起用された佐藤敦之のほか世界陸上にも出場した油谷繁、五十嵐範暁、尾方剛など発展途上のマラソンランナーをかかえる中国電力だが、コニカの連覇に待ったをかけたのは内冨恭則(3区)、森政辰巳(4区)という繋ぎの区間をまかされたランナーだった。 3区の内冨はベテランらしい落ち着いた走りでコニカの小沢希久雄を追っかけ、7.8キロでスパートして21秒も稼ぎ、4区では森政が区間新記録の快走で、コニカの迎忠一を1分03秒も突き放している。中盤で中国電力のペースに持ち込んだという意味で、この2人の働きは高く評価すべきである。300メートルあまりの差といえば、肉眼で前をとらえることはできない。ほとんど独走状態である コニカに傾きかけた勝負の流れをひとたび断ち切っただけでなく、逆に初優勝も見えてくるところまで相手を追いつめたかにみえた。だが、あまりにも順調すぎるという陥穽が間近にぽっかりと口をひらいていた。この時点でそれが上州名物の「風」であることに誰もが気づいていなかった。
坪田智夫といえば昨年の大会でアンカーをつとめ、入社1年目ながら区間賞の快走でコニカ初優勝のテープを切ったランナーである。 最初からオーバーペース気味に突っ込んでいったのは、どんな条件でもプラスに転化しようというのが坪田の勝負哲学をもってすれば、当然だったろうが相手はマラソンで実績のある五十嵐範暁である。後半になってにわかに失速するのではないか……と、誰もが懸念するほどだったが、端正なフォームで刻むリズミカルなピッチは最後までゆるがなかった。 タスキを受けたとき1分03秒もあった差が、8キロでは20秒差に迫り、なんと10キロでは11秒差まで追ってきた。そして12キロ過ぎであっさりと五十嵐の傍らをすりぬけていった。ようやくにしてつかんだチャンスを手放すまいと自らにいいきかせるように五十嵐も眉間に汗を浮かべて追いすがろうとしたが、ギアがひとつ足りなかったようである。 呼吸を乱すこともなく五十嵐を置き去りにした坪田は区間新記録を3分あまりも更新してしまった。熱っぽさがそのまま伝わってくるような爆走ぶり、久しぶりに大物の相を見る思いがした。「風」というバブルの要素を割り引いたとしても、3分もの区間記録更新は特筆ものである。 坪田が5区で中国電力を32秒も逆転、さらに6区の松宮祐行も区間新記録で快走して、中国電力との差を1分08秒までひろげ、コニカの連覇は動かないものとなる。それはひとえに風がなくてスピードが活きる展開になったからとみる。いつもは強い逆風が吹きすさぶのだが、今年はめずらしく追い風になった。だから坪田、松宮というスピードランナーが風に乗ってスイスイと走り、区間記録を大幅に更新したのである。 対照的に中國電力の5区・五十嵐範暁、6区・梅木蔵雄はどちらかというとスピードのキレというよりもスタミナと粘りで勝負するランナーである。もし例年どおりの強風下であれば、持ち味を発揮して坪田の猛追を凌いでいたかもしれないのである。 風が吹かなかったことで「笑った」のはコニカで、「泣いた」のは中国電力だったとみるのだが……。
新世紀の王者としてコニカは真価を問われる大会だったが、史上5チーム目の連覇を達成した。スーパーエースともいうべきガソを欠きながら、地力強化著しい中国電力や日清食品を力でねじ伏せたのは、個性あるランナーがそろっているからだろう。女子の三井住友海上と同じように、チャレンジャーを見つけるのはむずかしい。 大健闘したのは3位の日清食品、4位のトヨタ自動車である。とくに日清食品は東日本の善戦ぶりから、あるていどの期待感はあったが、終始4位以内をキープしていた戦いぶりには見るべきものがあった。小川博之、北田初男という新勢力の台頭でさらに飛躍が期待できそうである。 5位の富士通は前半の遅れがひびいたようだである。藤田敦史や三代直樹、高橋健一らの調子もいまひとつであった。それでも5位に残っているのは地力ある証拠とうべきか。コニカを中心にして中国電力、日清食品が新3強、それに富士通を加えた4強時代がしばらくつづく気配である。 大きく期待を裏ぎったのはカネボウ、旭化成というかつての強豪、新勢力ではアラコである。 カネボウは高岡寿成、入船敏という2枚看板をもちながら、トップ争いに顔を出すこともなく最終的に16位に沈んでしまった。新鋭のアラコは予選でトヨタを敗って、かなりの期待を集めたが20位に終わった。1区の遅れがすべてだったというべきか。 昨年8位の旭化成は今年も10位に終わり、古豪の復活はならなかった。1区で大きく出遅れたうえに、入社2年目の永田宏一郎を最長区間の2区に使わねばならないチーム事情がすべてをものがたっている。永田は期待のランナーだが、素人がみても万全ではなかった。素質のあるランナーをまったく調子のあがらないままにあえて使って、スポイルしてほしくない。カネボウといい、旭化成といい、古豪の復活は茨の道のようである。 ☆2002年01月01日 前橋・群馬県庁発着 7区間 100キロ ☆コニカ(磯松大輔、松宮隆行、小沢希久雄、迎忠一、坪田智夫、松宮祐行、酒井俊幸)
区 間 最 高
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