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伊勢路を走る全日本大学駅伝(正式には全日本大学駅伝対校選手権大会)は駅伝シーズン前半のメインイベントである。名古屋市の熱田神宮西門前から、三重県伊勢市の伊勢神宮内宮宇治橋前までの8区間106キロ、ゴールするまでには実に5時間あまりもかかる。朝8時から午後1時20分ごろまで、テレビの前にかじりついている。昼食も観戦しながら……というありさまだから、駅伝シーズンになると毎年のように家族の顰蹙を買うことになる。 第33回にあたる今年の大会は11月4日(日)、全国8地区の代表25校が参加して行われた。秋晴れの穏やかな天候とは裏腹に、スピード勝負の過酷なレースがくりひろげられた。 前哨戦ともいうべき出雲駅伝の結果をみるまでもなく、例年にまして上位校の実力が接近しているだけに、前半は一瞬たりと眼を離せなかった。とくにこのレースは正月の箱根に向かう各校のプロセスを探るという意味からも興味深いものがあった。 出雲駅伝でかすかに見えてきた今年の勢力図に照らしていえば、各メディアが喧伝するように「紫紺対決」、つまり順天堂大学と駒澤大学のマッチレースというのが「本筋」予想であった。 昨今の大学駅伝界は「駒澤・順天堂時代」にある。ところが……である。監督の森本葵に代表されるように「お人良し」の駒澤は昨年、こともあろうに順天堂大学の学生3冠を許してしまった。さらに今年の出雲でも、また負けて、なんと4連敗である。もし伊勢時でも負けてしまえば、箱根も勢いで持っていかれる確率が高くなる。 駒澤陣営は「リベンジ」を合い言葉にしてきたらしいが、文字通り「背水の陣」で本大会にのぞんできたのである。後がないところまで追い込まれた駒澤の戦いぶりはいかに……。復活なった神奈川と大砲をもつ山梨学院と法政が2強にどのようにからんでくるのか。予選会をダントツで勝ちあがってきて早稲田の実力は、バブルに裏打ちされてものではなかったのか。見どころはいくつもある大会だった。
「勝ち」にきたきた駒澤は、前半勝負のオーダーでのぞんできた。1区・内田直将、2区・松下龍治、3区・揖斐祐治、4区・神屋伸行……。山梨学院も1区・モカンバ、2区・橋ノ口滝一、法政も1区・黒田将由、2区・徳本一善……とならべて、前半重視の作戦をとり、エース級の選手を配するラインアップを組んできている。だが駒澤の布陣は豪華なうえに厚みがあって、どこからでもリカバリーが利く。ライバルの順天堂も1区・奥田真一郎、2区・入船満、4区・坂井隆則と四年生クインテットのうち3枚までを使ってきている。自信を持って送り出した主力メンバーだが、自信が過信につながった。キーマンとみていた2区の出来が明暗を分けてしまったのである。 順天堂は出雲と同じく、比較的距離の短い3区に春田真臣を持ってきたが、これも相手が揖斐祐治では歩が悪すぎたようである。繋ぎの区間の3区に揖斐のような選手を配することのできる駒澤はいかにも強い。選手層がいかに厚いかを如実にものがたっている。 今大会はとくに選手層の厚さが勝負を決めたとみる。最近の駅伝はスーパーエースが一人や二人ぐらいいたところで勝てなくなってきている。徳本一善の法政、カリウキの山梨、藤原正和の中央……、レースのどこかで、見せ場をつくりはするが、しょせんは「脇役」どまりなのである。いつも今一歩のところで決め手を欠いて、勝負どころえでは、あっけなく後退してしまう。 今大会も法政、早稲田、山梨学院……と、順次に2位に浮上して、トップをゆく駒澤への挑戦権を手に入れたが、きわどく競り合うところまで迫れなかった。順天堂にいたっては3区で優勝争いから脱落するしまつ。そんなわけでレース展開からみるかぎりは、駒澤大学の圧勝だったということができる。2大会ぶり3度目の制覇には大会新記録というオマケつきである。
勝負のポイントは2区にあった。1区は例によって第一工業大学のA・バイがトップを占め、20秒から30秒の間隔で山梨学院、神奈川、順天堂、法政がほぼダンゴ状態で追いあげげる展開で始まっている。 順天堂・入船満、山梨・橋ノ口滝一、法政・徳本一善、神奈川・下里和義が集団で第一工業を追いあげ、2.7キロ付近でトップに立つ。後ろからは20秒後にタスキを受けた駒澤の松下龍治がひたひたと追ってくる。トップ集団を構成する四人の心理的な闘い、そしてトップ集団と追いすがる駒澤との息づまるせめぎあい……。今大会でいちばんの見どころであった。 レース全体をみわたして考えれば、注目は「入船満 VS 松下龍治」の紫紺対決だが、トップ集団では、「徳本一善 VS 橋ノ口滝一」という学生エースの後継者争いの構図がみえてくる。さらに「徳本一善 VS 松下龍治」といえばユニバ対決である。おたがいに負けれれないのである。 トップ集団は5キロで神奈川が落ちて、徳本、橋ノ口、入船の争いになったが、終始この集団をひっぱっていたのは二年生の橋ノ口だった。徳本は出雲のときもそうだったが、どこか反応がにぶく、今大会も切れを欠いていた。本調子ではなくてもカタチをつけるところはさすがエースの貫禄である。8キロ付近でスパートして橋ノ口との一騎打ちムードになってくる。新旧両エースの火花散るつばぜり合いに弾きとばされたのが順天堂の入船満である。8キロすぎからにわかに失速して、9キロすぎではハイペースで追ってきた松下龍治にもつかまってしまう。紫紺対決は、この時点であっけなく決着がついたのである。1キロ=2:45秒というハイペースで入った松下は、最終的にトップに出た徳本を7秒差まで追いすがり、区間記録を更新するという快走ぶりをみせた。 トップをうかがう位置にいながら失速した順天堂、1区で遅れながらも、冷静な判断で追いあげて、一気に勝負の流れをつかんだ駒澤……、かくして2区が勝敗の分かれ目になったのである。 松下のつくった「流れ」は、3区の揖斐の奪首につながり、さらに繋ぎの区間とうべき5区、6区で北浦政史、松村拓希がともに区間賞を獲るという快走をもたらした。
今大会で大健闘したのは6位でシード権を獲得した早稲田である。1区は9位だったが、2区で8位、3区では6位につけ、4区ではトップ駒澤と1分28秒差の2位まで押しあげてきた。久しぶりにエンジのユニフォームが上位うかがう位置までやってきて、楽しませてくれた。 4区はこのところ区間賞に縁のない神屋伸行(駒澤)が狙ってきたが、その足もとをすくったのが早稲田の原田正彦であった。原田は先の予選会で59分台(個人4位)をマークした好調ぶりを今大会でもいかんなく発揮した。 トップをゆく神屋はアンカ対決で敗れた出雲の汚名をそそがんばかりに、1キロ=2分45秒というハイペースで突っ込み、区間賞はほぼ確実と思われた。ところが原田は落ち着いた走りで、神奈川をとらえ、山梨学院の岩永とともに追いあげにかかり、10キロでは2位をゆく法政の中村までとらえてしまう。とくに後半の伸びがすばらしかった。テレビは終始トップをゆく神屋伸行をとらえていたが、現実のレースは追ってきた原田中心にまわっていたのである。終わってみれば20秒も神屋を上回わり、あっさり区間新記録も更新してしまった。同じ4年生としての意地をみる思いがした。 順天堂はこの区間は坂井隆則だったが、すべてが良循環する駒澤とは裏腹に伸びを欠きいて、5位、6位にあえいでいた。
駒澤のアンカー・高橋正仁の走りは実に爽やかであった。リズミカルに小気味よくピッチをきざみながら、ひたすら前へ前へと体躯をはこんでゆく。1分40秒の貯金をもっていながらも、最初から猛然と突っ込んでゆく。ひたむきな姿勢に好感が持てた。 山梨学院のエースカリウキとようやく3位まで浮上してきた順天堂の岩水嘉孝が併走しながら駒澤を追っかける。学生長距離界の代表選手が区間賞をきわどく争いながら、前を追ったが10キロをすぎても差はつまらない。牽制し合っているわけではなかったが、とうとう追いきれなかった。まんまと高橋に逃げられた2人だが、そのままではプライドが許さない。最後は学生ナンバーワンのプライドをかけての区間賞争いになった。併走している2人の顔の表情、とどまることなく微妙に動いている。終盤になってカリウキが地力を発揮して岩水をねじふせたが、長くつづいた息づまる併走に観戦するほうも息がつまった。 前半低迷した中央大学は後半ふんばって最終区では4位まであがってきて、なんとか帳尻を合わせたが、神奈川大学の不振は思いがけなかった。あるいは2強対決に割ってはいるかという期待があっただけに納得できないのである。1区の吉村尚悟が3位につけて好発進しながら、勝負どころの4区で10位に沈んでしまい、早くもこの段階で大きく脱落してしまった。 拓殖大学もいぜん底なしの絶不調にあえいでいる。あるいは予選会での汚名を晴らすかと思われたが、終始いいところが見あたらなかった。帝京大学も伸び悩んでいる。いずれも建て直しには時間がかかりそうである。 出雲と本大会の結果から箱根を占ってみると、本命はやはり駒澤だろう。選手層の厚さがさらに生きてくるとみるからである。次いで順天堂だが、同学の弱点が本大会ではっきり出てしまっただけに、どのように修正してくるか、興味をもって見守りたい。2強いがいに期待がもてるのは、山梨学院、早稲田、法政といったところか。神奈川大、中央、帝京なども特徴のあるチームだけに、出来うるかぎり建て直して、2強に肉迫してほしいものである。 ☆駒澤大学(内田直将、松下龍治、揖斐祐治、神屋伸行、北浦政史、松村拓希、河村、高橋正仁)
区 間 最 高
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