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京都の空はよく晴れ渡り、ほとんど無風状態……。毎年、この季節になると、国立国際会館のある宝ヶ池界隈は小雪が舞うことが多いのだが、今年はめずらしく濃い陽ざしがにめぐまれていた。そんな穏やかな天候とは裏腹に、レースのほうは幕開けから、思いがけない波乱が待ち受けていた。 駅伝は走ってみなければわからない……。 「あたりまえ」で陳腐なことこのうえもない警句が、スタートの第1区でぼくたち観戦者を力ずくでねじ伏せてしまったのである。 立命館宇治の池田恵美といえば高校長距離界を代表する選手である。インターハイ1500Mで4分16秒74の高校新記録、3000Mではワボイの2位に甘んじたが、国体の3000Mでは9分03秒45の自己新記録で優勝している。日本人ランナーでケニア人留学生ワボイに対抗できるのは彼女ぐらいしかいない。 連覇を狙う立命館宇治のエースとして、池田は昨年につづいて1区に起用された。だが、区間の中盤あたりから、早くも苦しげにあえぎはじめるとは思いもよらなかった。 西京極競技場をとびだしたところで立命館宇治の池田と青森山田のワボイが集団をひっぱり始めたのは予想どおりだったが、2キロすぎでワボイがペースをあげたとき、池田はもう追ってゆけなかった。このときの反応の鈍さに、おやっ……と思ったが、4キロあたりから集団にのみこまれてしまったとき、もはや彼女になんらかの異変が起きていることが明らかになった。 体調不安の予感はスタート時の表情にあらわれていた。スタートラインに立った池田はなぜか集中力がなかった。ときおり眼をふせて、まるで放心したかのような視線を足もとに落とす。不安げな表情がしつこく顔から消えなかったのである。 4キロすぎではワボイの独走となり、池田は集団からもじりじりと遅れはじめる。苦しげに上半身をゆする姿、心なしか歯ぎしりするさまをみる思いだった。 池田は50秒差の20位……。立命館宇治の連覇はこの瞬間に絶望となった。秒差以上にエースの遅れがチーム全体に暗い影を投げかけたにちがいないのである。 最有力とみられていた立命館宇治、さらに須磨学園が第1区でつまずいたことにより、優勝争いは諫早、筑紫女学園、神村学園の九州勢を軸にしてくりひろげられていった。
真っ赤なユニフォーム、ぜっけん番号40番……。まったく腕が振れていない。上体がぶれ、顔がゆがんでいる。何人ものランナーが追いすがり、信じられないという顔で一瞥して抜き去ってゆく。第1区の中間点にも達していないのに、大牟田の土橋啓太は46番目であえいでいた。 険しい眉間にうっすらとにじむ汗。まるで身もだえするかのように 時おり太股をたたく。きっと思わぬ陥穽に愕然としながら、激しい悔恨に苛まれていたのだろう。 女子の立命館宇治以上に優勝が堅いと思われた男子の大牟田も、また奇しくも第1区で圏外に去った。カビル(仙台育英)に弾き飛ばされたのである。大牟田の土橋啓太も埼玉栄の佐藤拓也もトップクラスのランナーなのだが、勇敢にもカビルに競りかけて、あえなく玉砕してしまった。 土橋と佐藤は果敢にスタートからカビルに競りかけていった。1K=2分37秒というハイペースでゆくカビルを追ったのはいいのだが、力がはいりすぎていた。自分のリズムを失ってしまったのである。土橋は4キロ手前で急速に失速した。1分ぐらいの遅れならともかく、最終的には3分52秒の遅れてしまうのだから、これはハンパではない。 埼玉栄の佐藤も粘っていたが、後半になって失速、最終的には1分52秒差の19位に沈んでしまった。二人ともカビルに競りつぶされたのである。 大牟田と仙台育英のマッチレースというのが大方のみるところだったが、両雄の一角・大牟田が第1区で失地挽回ができないほど致命的なダメージを受けてしまった。京都洛南も第1区でなんと42位というありさま、九州学院も豊川工業、西脇工業も追ってこない。 有力校が低迷するなかで、カビルのつくった54秒の貯金が大きくモノをいうことになる。昨年はわずか1秒差に泣いた仙台育英だが、今年は2区以降は独走態勢でゴールまでタスキを運んでいった。その路線をしっかり敷いたのが、大牟田を競りつぶした第1区カビルの爆走だったのである。
女子では立命館宇治が圏外に去ったあと2区、3区は神村学園、仙台育英、諫早、筑紫女学園の主導権争いになった。勝負の流れがどのように傾くのか。固唾をのんでみまもる大混戦の血路をひらいたのが、諫早の牧島さおりだった。タスキをつなぐ直前で一気に神村学園を抜き去った彼女の力強い走りが、チームに活力をそそぎこんだ。ここでトップに立った諫早は4区で加来美咲、5区では松元美香が区間賞の快走ぶりをみせてゴールにとびこんだのである。そういう意味で3区の牧島の走りが諫早優勝のポイントになったということができる。 昨年のメンバー5人がそっくり残り、有力な新勢力が台頭するなど、諫早はここにきて戦力が充実してきていた。そういう層の厚さが本戦で活きて、3年連続3位の汚名を濯いだのである。藤永佳子のいた時代は優勝候補の筆頭にあげられながら、いつもいま一歩およばなかった。ところが今年は藤永のように絶対のエースがいないのに、あっさり勝ってしまう。そのあたりも駅伝のおもしろさだろう。 筑紫女学園は1区で10位ながら2区から追いあげて、4区1年生の浦田佳小里がトップに10秒差まで追いすがった。きっちりと2位まで追ってきたあたりは伝統の強さというものだろう。 神村学園は力がありながら毎年、第1区でつまずいて失敗している。今年は第1区で3位につけ2区片渕綾子の区間賞で、ひとたびはトップに立った。終始優勝をうかがうポジションをキープしての最終3位は大健闘である。 須磨学園はいまひとつ伸びを欠いた。筑紫女学園、立命館宇治、諫早とならんで須磨学園は4強に数えられる強豪である。筑紫、宇治はすでに優勝経験がある。順番からすれば、今年は須磨学園が諫早のどちらか……という見方もあった。優勝するに十分の戦力がありながら、今年も4位に甘んじてしまったのは、やはりエースの田顔朋美を欠いたショックが尾を引いていたせいだろうと思う。 立命館宇治は3区金指亜由美の快走で一気に6位まであがったきたが、最終的には8位にとどまった。駅伝はタスキをもらう環境や条件が、各ランナーの心理をも微妙に支配してしまう。今年の立命館宇治は総じて池田ショックから立ちあがれなかったようである。 それにしても……。立命館宇治はつねにエースが故障している。今年の池田も体調を崩していたようである。近年まずまずの状態でレースに臨めたのは、初優勝した昨年だけである。なんども優勝候補にあげられながら、たった1回しか勝てていないのは、エースがいつも故障しているからである。今年も池田が万全なら、連覇はそれほど困難ではなかったはずである。諫早に名をなさしめたのは、はっきりいえば宇治が自滅したからである。かくも同じ失敗を繰り返すのは、監督・コーチ陣の指導体制に問題があるからである。
仙台育英にあれほどやすやすと優勝をさせた責任は大牟田のていたらくにある。大牟田はなぜ第1区に大津聖をもってこなかったのか。正攻法でレースにのぞむなら、やはり第1区にはチームのなかで最も信頼のあるエースを配するべきである。 今年の大牟田は相手を甘く見たのか。うがったみかたをすれば奇策におぼれたという側面もある。監督・コーチ陣の戦略上の失敗が土橋啓太のブレーキにつながったというみかたもできる。奇策は当たれば、「思いきった作戦……」などと、賞賛をあびる。だが、失敗すれば、これほど激しい悔恨に苛まれることはない。 大牟田は2区を終わった時点でもトップ仙台育英とは4分4秒差の43位、まさに地獄の底に落ちた名門校を救ったのが、皮肉にも第1区から第3区にまわったエースの大津聖だった。大津は気迫の走りで17人抜きの区間賞、チームを28位まで押しあげた。4区の中村和哉も9人抜き、5区の近藤隆太は4人抜き、6区の黒木文太、7区の村上孝一も区間賞を獲得するな快走ぶりで、最終的に順位を7位まで順位を押しあげてきた。全コース7区のうち3区間で区間賞を獲得して、「さすがは大牟田」と思わせたが、肝心要の勝負に敗れてはどうしょうもないのである。 第1区で早くも仙台育英の独走態勢ができあがって、レースに対する興味は半減してしまったが、観戦者をして最後までテレビの前から立たせなかったのは九州学院の追撃である。3区を終わったとき、トップをゆく仙台育英との差は1分17秒、ところが4区では47秒、5区では42秒まで詰め、6区からアンカーにタスキが渡ったときには30秒差まで迫っていた。最後は15秒差までくるのがやっとだったが、あきらめずに前をみつめてひた走る姿勢に好感がもてた。 ほかではエースの熊本剛を欠きながらも3位まで追ってきた西脇工業、予選タイム14位ながら4位にとびこんだ田村、6位の諫早も予選タイム20位だったから、大健闘というべきだろう。諫早は多分に優勝した女子の勢いをもらった観がある。 高校駅伝もスピード化がすすみ、全体のレベルが底上げされている。男子でみると出場47チームのうち37チームが2時間10分を切った。ほんの些細なミスでも致命的になる。優勝候補といわれるチームでもコンディション作りに失敗したり、作戦上のミスがあれば、下位に沈んでのたうつことになる。21世紀になって高校駅伝も過酷な大激戦時代に突入した。 ☆2001年12月23日 京都市西京極陸上競技場発着 男子・マラソンコース 女子・ハーフマラソンコース ☆諫早(大渡泰子、福田千尋、牧島さおり、加来美咲、松元美香) ☆仙台育英(S.カビル、内海優作、清野純一、村上歩、佐藤影洋、山田勇樹、佐藤和也)
区 間 最 高
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