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第20回 横浜国際女子駅伝

日本女子、弾ける笑顔、横浜で冬祭り
最強の布陣で3年ぶり8度目の制覇!


古い記憶
雪のなかを疾走する青い目のお下げ髪

 横浜国際駅伝といえば、鮮烈に脳裏に刻みこまれている、ひとつの光景がある。
降りしきる雪のなかを、けんめいに疾走する青い目のお下げ髪……である。ブロンドのお下げ髪の少女……といえば、いかにもに横浜にふさわしいワンショットというべきではなかろうか。
 雪の山下公園を駈けぬけ、まっさきにゴールにとびこんだ彼女は、たしかイギリスの選手だったと記憶している。
イギリスが優勝したのはいつだったのか? 古い記録を調べてみる、第2回大会(1984年)である。イギリスは第1回大会こそロシアの2位に甘んじたが、2回大会ではオーストラリア以下を退けて圧勝している。数えてみるといまから18年も前の話である。
 横浜国際女子駅伝は実業団女子駅伝、全国女子駅伝とならんで歴史のある大会である。クリスチャンセンが走った。ロサ・モタも走った。ベノイトやスレーニーも……。日本選手では第1回に佐々木七重、第2回にたしか増田明美が出場していたように思う。国際駅伝としては千葉国際よりもはるかに歴史がある。
 日本が初優勝したのは90年の第8回大会である。日本チームは横浜にやってくる外国チームの胸を借りて次第に強くなっていった。横浜の市街を走る海外のトップ選手を直に眼にして、あるいは陸上競技を志す少女もいたにちがいない。そういう意味でもまさに日本女子長距離の原点につらなる大会のひとつだといっていい。
 今回は第20回の記念大会というわけで、日本のナショナルチームは史上最強の布陣でのぞんできた。山中美和子、福士加代子、小崎まり、藤永佳子、渋井陽子、坂下奈穂美……という顔ぶれ、いずれも今シーズンのトラック、マラソン、駅伝で活躍した実績のある選手ばかりである。それゆえ勝負のゆくえはすでしてに明らかであった。もっぱらの興味は文字どおり実力主義でナショナルチーム入りした選手たちが、どういう走りをするのか。見どころは実力本位で選んだ今シーズンのオールスターの競演にあった。


勢い」で押しきる!
山中美和子 VS ヘルナンド・リベイロ

 第2中継所を目前にしたときであった。独走態勢をつくりあげた福士は、満面の笑みをたたえ、タスキをやにわに頭上たかくかざした。そして、ぐるんぐるんと回しながら、待ち受ける次走者に笑いかける。
 「雪のなかを疾走するお下げ髪」とともに、勝利を確信したかのような福士のパフォーマンスを後のちまでも忘れないだろう。
 19年まえといえば、福士加代子も藤永佳子もまだ生まれたばかりである。横浜国際女子駅伝とともに20年という時を経た彼女たちは、まるで第20回の記念大会が成人式だといわんばかりに、強くなった日本チームの主役を果たした。そんなところにも何か因縁めいたものを感じる。
 日本チームは1区と2区であっさりと勝負をきめてしまった。前年の覇者ロシアもルーマニアもメダリストチームも力でねじふせた。
 第1区の山中美和子は実業団入りした今シーズンになって、にわかに成長した選手である。中学時代は天才、高校時代はインターハイ上位レベル、大学時代は「並」のランナーという印象だったが、昨年の暮れからロードではめっぽう強い。12月の山陽女子ロード10km、神戸女子ハーフに圧勝、1月の全国女子駅伝は1区で渋井を置き去りにした。まさに絶好調である。2区に登場した福士加代子とともに、現時点で最も「勢い」を感じる選手である。
 山中の「勢い」は、今大会でも衰えていなかった。ヘルナンド・リベイロといえばアトランタの金、シドニーの銅メダリストだが、レースを終始支配していたのは、この山中であった。リベイロにしてみれば、名前さえ知らない日本の若いランナーに足もとをすくわれて、きっと泡を食っただろう。
 リベイロと山中は2.8キロ地点で集団から抜け出したが、終始イニシャティブをにぎっ ていたのは山中のほうである。3.8キロでは、一気に突き放してしまうのである。メダリストを相手にしえもひるまない勝負根性、ひと皮むけた山中の落ち着いたレースぶりが勝負の流れを決定づけたとみる。


かつ跳びの福士が本領を発揮
福士加代子 VS デラルツ・ツル

 1区を終わってところで、ロシアは5位、ルーマニアは7位と出遅れた。2区は福士加代子とエドモントンの金メダリストデラルツ・ツル(エチオピア)のトップ争いになった。
 10秒差で追うツルと後ろからひたひたと迫るロシアのロマノワー……という展開になって、福士はどんな走りをするのか。これは、ちょっと見ものであった。今シーズンの福士は駅伝では負けなし(日本選手に対して)だが、それは、いずれも後ろから追う展開によってもたらされた結果である。攻めまくって快走してきたのである。福士がトップでタスキをもらうことはきわめて稀である。それゆえに今回のように僅差のトップでタスキを受け、追われる展開になったとき、どういう走りをするのか、きわめて興味があったのである。
 守りにはいったとき、あるいは……。そういう懸念は2キロもゆかないうちにふっとんだ。福士の1キロは3分05秒、2〜3キロが2分59秒、中間点が15分22秒……と、かっ飛んでいった。区間新記録ペースで追ってくるツルをどんどん引き離した。8キロではひとたび区間新記録ペースを下回ったものの、終わってみれば31分22秒である。あのツルを1分近くもちぎっていたのである。
 2区を終わって、メダリストチームに1分02秒、ルーマニアに1分46秒、ロシアに2分17秒もの大差をつけ、かくしてこの時点で日本の優勝はほとんど確実なものとなった。
 福士が走っているとき、全身からある種の剛毅さがみながいるが、タスキを渡すとき、満面にはじける笑顔は、19歳という年齢相応にいかにもあどけなく、そのギャップがおもしろい。


トップの意地がもたらした区間新記録
渋井陽子の「爆走」と「余裕

 日本チームは終始いちどもトップをゆずることがなかった。6区間うち1区・山中美和子、2区・福士加代子、3区・小崎まり、5区・渋井陽子の4区間で区間賞を獲得している。4区の藤永佳子は7秒、6区の坂下奈穂子は10秒あまり足りなかったが、いずれも区間2位を占めており、ほとんど区間賞に匹敵する走りをみせている。
 藤永佳子は惜しいところで区間賞をのがしたが、何とも不思議なランナーである。高校時代に世界選手権代表になるなど、トラックではめっぽう強いが、ロードではいまひとつ実績があがっていない。トラックは超一流、ロードは2流以下である。高校時代から駅伝では取りこぼしが多い。大学生になった現在も、駅伝ではいぜん2流ランナーである。今回の好走をきっかけになんとか脱皮してほしいものである。
 後半のみどころは5区の渋井陽子であった。「30分台で走る……」と豪語するなど、渋井がいつになく熱くなっていたのは、全国女子駅伝の1区で、山中美和子に負けたからだろう。同年齢ゆえに、たがいにライバル視するのは当然のなりゆきである。その山中美和子が1区で区間新記録にひとし走りで快走、さらに2区ではすでにしてライバルに成長した感のある福士が区間新記録で突っ走った。渋井にとって、両者の走りがいい意味で刺激になったのではあるまいか。
 渋井はハナから突っ走った。1キロ2分59秒のペースで押してゆく。4キロ=12分15秒、5キロ=15分27秒である。渋井にしてみれば、きわめてクソ真面目な形相とでも形容すべき神経を顔中にはりつめながら、ひたすら体を前に前にと運んでいった。区間新記録など眼中にはないという豪放な走りである。
 とくにラストの1キロからは鬼気迫るものがあった。おそらく渋井の目には白い一本の道しかみえていなかっただろう。猛烈な形相をあらわにして、ひたすら神経を集中させていた。
 あくまで30分台にこだわったのは、世界選手権代表のプライドゆえにだろう。そして、新しく台頭してきた新勢力、なかでも福士加代子と山中美和子を暗に威圧するという底意がこめられていたとみる。何よりもシーズン最後の駅伝レースで、ひたすらモーティべーションを高めて、自らにチャレンジする精神はみごとというほかない。
 30分台へは、わずか10秒届かなかったが、渋井本人が左腕に墨書していたように「爆走」であった。だが、右腕に「4U(余裕)」と書いていたほど、それほど、ゆとりがあったかどうか……。


20回の節目
大会そのものに転機が切迫?

 記念大会というわけで、例年になく見どころの多い大会になるだろうと思っていたが、海外からのチームはわずか6チーム、これはいったいどういうことなのだろうか。横浜国際は千葉国際にくらべて、いつも出場チームが少ないが、それでも例年は9〜10チームがやってくる。
 主宰者側はメダリスト・チームを編成するなど、記念大会らしい企画で盛り上げようとしているのだが、主力をなすナショナルチームが大幅に減少してしまっている。地域選抜を加えても15チームしかない。これではレースとしてはなんとも物足りない。
 記念大会にもかかわらずナショナルチームがなぜ減少してしまったのか。仔細はつまびらかではないが、20回目という節目を迎えて、大会そのものの位置づけや意味合いに変化が兆しているとみるべきなのだろう。あるいは20年という時を経て、大会そのものが、ひとつの役割を終えたことを示唆しているのかもしれない。大会そのものの新しい展開をを模索すべき時期にきている。
 それはともかくシーズン最後の駅伝大会というわけで、今年はナショナルチームだけでなく、地域選抜のほうも、メンバーの顔ぶれが充実していた。たとえば1区で区間3位と健闘した斉藤由貴(関東・東京選抜)、2区で区間4位にきた真鍋裕子(中国・四国選抜)、さらに最終6区では高校生の池田恵美(近畿選抜)が区間3位と元気な姿をみせてくれたことも収穫のひとつにあげられる。
 今シーズンのロード、駅伝で活躍したトップ選手たちの競演、さらには次代を担うであろう若い選手たちも次につながる走りをみせてくれた。そういう意味ではシーズン最後をしめくくるにふさわしい大会であった。


☆2002年2月24日(日) 横浜スタジアム発着 6区間、42.195ロ 
☆日本(山中美和子、福士加代子、小崎まり、藤永佳子、渋井陽子、坂下奈穂美)

☆天候・晴、気温11.01度、湿度27%、北東の風3.3メートル(正午)


 最 終 成 績
順位 チーム名 記  録
日  本 2時間12分05秒
メダリスト 2時間16分37秒
ロシア 2時間16分44秒
ルーマニア 2時間19分42秒
九州選抜 2時間20分10秒
東海・北陸選抜 2時間21分28秒
関東・東京選抜 2時間21分59秒
中国・四国選抜 2時間22分02秒
近畿選抜 2時間22分13秒
10 中  国 2時間22分32秒
11 北海道・東北選抜 2時間23分22秒
12 ケニア 2時間25分24秒
13 神奈川 2時間26分05秒
14 オーストラリア 2時間26分31秒
15 カナダ 2時間27分40秒



区 間 最 高
区間 距離 選手名 所属 タイム
05.0 山中美和子 日本(ダイハツ)  15:30
10.0 福士加代子 日本(ワコール)  31:22
06.0 小崎 まり 日本〈ノーリツ〉  19:20
06.195 タチアナ・トマチュア ロシア  19:01
10.0 渋井 陽子 日本(三井住友海上)  31:10
05.0 アナスタシア・ヅボワ ロシア  15:21



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