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身体をやや斜めに傾けて、ときおり、ちらと足もとに視線を落とす。背後から急追してくる筑波の足音を耳にして集中力を失ったのか。逃げる城西の平山めぐみの額の汗が、にわかにはげしくなったのは5キロをすぎたあたりからだった。 最終区の5.8キロ地点といえば、残り3.3キロの地点である。正念場というべき区間の中盤でペースが落ち始めれば、ゴールまではまさに茨の道というほかはない。 「2強対決」といわれていた本大会は、大方の予想通りに2区から昨年優勝の城西大学と一昨年の覇者・筑波大学のマッチレースになった。5区を終わった時点でトップをゆく城西大と追いかける筑波大学との差はわずか26秒であった。およそ110メートルの差といえば、最終区の距離(9.1キロ)からして十分に逆転可能である。逃げる平山めぐみも追う山嵜麻子も、タスキをもらった瞬間から、そういう緊張感をひとしく背負いながらゴールをめざしたのである。 追う者と逃げる者、序盤は一進一退を繰り返したが、4キロをすぎて平山のペースが鈍りはじめた。5キロになると追ってくる山嵜の影が一気に近づいてきた。山嵜は今年のユニバシアードではハーフマラソンに出場(8位)するなど長いところには自信を持っている。 そして5.8キロ……。 山嵜は並ぶまもなく、あっさりと平山を置き去りにした。 苦渋にあふれた顔で追いすがる平山、ほんのりと赤みをさす頬にのたうつ悔しさに思わず眼を奪われたのは、その切なげな瞳に競技者には似つかぬ無垢のやさしさを垣間見たせいだろう。 平山とは対照的に山嵜はあふれる闘志をあえて抑えようともしない。小柄ながら力感あふれるフォームで、あくまで冷静にそのままゴールまで小気味のいいピッチをきざんでいった。
駅伝はエース区間の流れが勝負を決する。本大会になぞらえていえば、前回までは第6区(9キロ)に次いで距離が長い第1区(8.5キロ)がエース区間に位置づけられていた。初っぱなのエース対決で始まるのが本大会の特徴だった。ところが今回から1、2、6区の走行距離が変更された。1区は8.5キロから6.3キロへ、2区は6.2キロから8.3キロへ、そして最終6区は9.0キロから9.1キロになった。コース変更が優勝争いにも微妙な影響をあたえる局面も予想された。 コースがもし昨年通りだったら、初っぱなの第1区から筑波と城西がきびすを接してのマッチレースになり、他のチームは弾きとばされていただろう。第1区に準エースクラスが出てきたことによって、たとえば玉川大学が突っ走ったように、思いがけない波乱をまきおこすことになった。 昨年の雪辱をめざす筑波は1区に実績にある菅野勝子をつかってきた。気持ちを前面に出す性質の菅野はつねにトップ集団をひっぱり、4.3キロ地点で抜けだしを図ろうとしたが、思いがけず玉川大の小田麻友子にスパートをゆるしてしまう。 足もとをすくわれた菅野は猛烈な形相とでも形容すべき表情でけんめいに前を追ってゆく。苦渋にゆがんだ顔から、こんなはずではないという呻きがもれてくるようで、自らの油断をきびしく悔やんでいるかに見えた。インターハイの結果からして、明らかに格下の小田に32秒も先んじられたのは陣営にとっても菅野にとっても大きな誤算だったろう。 4年生の小田麻友子は区間賞でラストランをしめくくつたが、まさか自らの激走がチームの3位につながるとは思いもよらなかったのではないか。 筑波と城西は牽制し合ったせいとはいえないが、1区でまんまと玉川大をのせてしまった。玉川大の2区は5千メートルで藤永佳子を破った斉藤由貴がひかえていた。学生界のエース赤羽と藤永に追撃されたが、きわどく粘って抜かせはしなかった。玉川大がまさかの3位と大健闘したのは、この1〜2区でトップに立ったことの効果によるものだろう。調子に乗せればブタでも木に登るようなところがあるから、駅伝は面白い。
藤永佳子というのは不思議なランナーである。エドモントン世界選手権の代表になるなどトラックでは日本でもトップランナーだが、駅伝になると凡走してしまうケースが多い。いったいどういうことなのだろう。昨年も1区に登場したが、トラックでは負けるはずのない赤羽有紀子に軽く一蹴されてしまった。 エース藤永が赤羽に負けたことにより、大本命の呼び声のたかかった筑波大は、流れに乗り損なって、城西大に名をなさしめただけでなく、立命館にさえも先んじられてしまったのである。 今年も藤永佳子と赤羽有紀子は第2区で激突した。本命の筑波と城西大がトップをゆく玉川大の斉藤由貴を追いかける展開、観戦するぼくたちにとっては、まさに最大の見どころとなった。 藤永と赤羽はほとんど同時にスタートしたが、昨年の無念を一気に晴らすかのように、藤永は先に仕掛けた。2.5キロで飛び出した藤永は、赤羽を一時は20秒近くも引き離し、トップの斉藤に迫る勢いだった。ところがである。なぜか5キロすぎからにわかに失速してしまったのである。 赤羽はさすがロード巧者である。藤永に先に行かれても動じなかった。むしろじっくりとかまえて、5キロすぎからペースをあげて、6.2キロで藤永を一気に抜き去ってしまう。藤永は昨年と同じように、最初からハイペースで突っ込んで、同じ相手にまたしても敗れたのである。 虚ろな視線をどこか遠くに這わせ、口を半分ひらいてもがく藤永、思わぬ陥穽に愕然としながら、激しい悔恨にさいなまれてでもいるかのように呆然としている姿が印象的だった。 ペース配分を誤ったというのはかんたんだが、もともと最初からオーバーペース気味にぶっとばすのが藤永のレースパターンである。駅伝で結果が出ないのは、トラックとロードのちがいによるものかもしれないが、同じパターンで2度まで同じ相手に敗れるというのは、よほど人が良いか、あるいはランナーとして決定的に創造力が欠如しているか、のどちらかである。
藤永がつぶされても今年の筑波は沈まなかった。3区から5区まで、つねにライバルの城西とは22〜26秒差をキープしつづけた。昨年の失敗を学習効果にした執拗な粘りが、最終区の逆転をもたらした。総合力にまさる筑波の優勝は順当な結果だが、それにしても区間賞が一つもないというのは、何とも皮肉な結果である。 3区でトップに立った城西は各ランナーが堅実な走りで繋いでいた。死力をつくしながらあと一歩およばなかったが、レースのほとんどを支配した戦いぶりには眼をみはらされた。駅伝の戦い方というものを熟知しているチームである。 優勝した筑波大、きわどく迫った城西大、初の3位と大健闘した玉川大、昨年から台頭してきた名城大、立命館大、さらにかつての王者・京都産業大、以上6校がシードチームとなるが、大学女子駅伝も年ごとに実力接近でハイレベルの対決になりつつある。 皮肉にもそれはバブルが弾けて「実業団システム」が崩壊したからである。これまで有望な高校生のほとんどは実業団を競技生活の場にえらぶ傾向にあった。だが、昨今は大学にくるケースが多くなっている。それはひとえに一方の受け皿が破れはじめたからである。 どつちのルートがランナーとして成功するかは本人の資質と自覚によって異るから,いちがいには言えないだろう。だが、個人として将来を見すえ、人生の選択肢をひろげるという意味では、陸上をやるだけに実業団にゆくよりも、大学ルートを選ぶほうがはるかに可能性があるかもしれない。 それはともかく、たとえば藤永佳子のような高校駅伝のスター級ランナーが、ほんとうの意味で積極的に大学陸上に眼を向けるようになってくれば、大学女子駅伝も男子と同じように、活気をおびてくるだろう。 ☆筑波大学(菅野勝子 藤永佳子 田上麻衣 吉田郁子 小栗千枝 山嵜麻子) ☆11月25日 大阪・長居陸上競技場を発着、新橋を折り返す39キロのコース ☆気温17.3度 湿度56% 南南西の風1.3M
区 間 最 高
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