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駅伝のこれほど惹かれるのはなぜなのだろう。素朴で本質的な疑問のまえで逡巡しているうちに、同じロードの競技であるマラソンと較べて、つねに真剣勝負の気迫がみなぎっているからだろうと思い当たった。 深夜1時50分からビデオ放映の北陸女子駅伝を見ようなどという酔狂ぶりを発揮してしまったのは、ひとえにワコールの福士加代子の走りをみたかったからである。まだ20歳という新鋭ランナーで、これほどオーラーを放つランナーは、かつて存在しただろうか。 社会人2年目の福士は今期絶好調である。夏の海外遠征で日本歴代3位にあたる15分10秒23をマーク、9月15日のヨコハマ・スーパー陸上の5000Mでは、エドモントン世界陸上の金メダリスト、オルガ・エゴロワを向こうに回して、終始集団をひっぱるという積極的な走りで3位にとびこんだ。弘山晴美や小崎まりなどをあっさり抑えて大物の片鱗をみせた。先の全日本実業団選手権(9/28.29 金沢)でも、5000Mと10000Mに出場、ふたたび弘山晴美などトップクラスを寄せ付けなかった。11月4日の淡路駅伝でも2区で区間賞を獲得、ワコールの全日本への出場を確かなものにした。 3千、5千、1万のジュニア記録保持者だが、現在の女子長距離界をみわたしても福士に勝てる選手はいるのだろうか。とにかく勢いではいま一番の選手である。もしこの大会に福士が出場しなかったら、きわめて盛りあがりを欠く、凡々としたレースになっていただろう。
福井でおこなわれる北陸女子駅伝は今年で17回目である。東日本女子駅伝は都道府県対抗形式だが、この大会は実業団、大學、地域選抜の24チーム(1部)が、6区間30キロのコースで覇を競った。 出場チームの主だったところをひろうと、昨年優勝のサニックス、ラ・ラ・ラ、ワコール、スズキ、東海銀行など実業団チーム、過去において優勝経験のある京都産業大学、立命館、名城大など全日本大學駅伝に出場するチームなども顔をみせていた。 優勝を争うとみられたのは、やはり実業団チームで、今回エントリーされた顔ぶれからみて、サニックス、ワコール、ラ・ラ・ラ、スズキの争いであることは明白であった。実業団チームはいずれも淡路駅伝から1週間で出場してきているが、東海銀行をのぞいて、ほとんどが主力クラスを投入してきた。この大会が岐阜の全日本までの調整プロセスにしっかり組み込まれているということの証だろう。 大學勢では京都産業大、立命館と名城大などの仕上がりに注目して観戦した。中部、関西のチームに果たして関東の雄・筑波大、城西大を追うだけの勢いがあるのか。よく見きわめておきたいと思ったからである。
レースは1区から波乱含みだった。サニックスの尾崎佐知恵が後手を踏んだ。12秒遅れでまさかの4位、ワコールは片渕恭子のピッチがあがらず34秒も遅れてしまったのである。先行したのはラ・ラ・ラの桐原三和である。実績のある尾崎や躍進ワコールの斬り込み隊長に成長した片渕を相手にしても怯まない。終始先頭集団をひっぱる積極性に若さを見る思いがした。ラ・ラ・ラにつづいては実業団チームよりも名城大、立命館の大學勢力が健闘して2位、3位につけた。 ワコールは2区でも伸びなかった。3区をおわったところでは、なんとトップから1分5秒遅れの5位に甘んじていた。この時点で優勝争いは24秒以内につけているラ・ラ・ラ、スズキ、サニックスの三つどもえの様相、さしものワコールは圏外に去ったかにみえた。 トップから1分もおかれてはテレビにも映らないだろう。思わずためいき出たが、福士は期待を裏切らなかった。2,7キロ付近ではサニックスをとらえて3位にあがると、もう先頭をゆくラ・ラ・ラとスズキを視野におさめていた。テレビ画面のなかにも福士はとびこんできて、橋をくだってくるチョンマゲヘアーが影絵のように映えている。 固唾をのむうちにチョンマゲヘヤーはみるみる追いすがる。まるで獲物を追う鷹のような鋭い眼光、射すくめられたらひとたまりもないだろう。走りそのものはスピード感というよりも、むしろ力強さが際立っている。福士は残り1キロ地点であっさりとスズキ、ラ・ラ・ラを交わしてしまうのだが、並びかけることもない。適度の間隔をとったまま、相手を一瞥することもない。まるでスポーツカーが軽自動車を追いぬくように、われ関せずという雰囲気で、かたわらを一気に擦りぬけていった。区間記録を41秒も更新するという爆走であった。
ワコールは4区の福士ひとりで1分あまりの差をつめて逆転、たちまちトップに立ってしまう。だが、1区から流れにのっているラ・ラ・ラの粘りも執拗だった。5区の藤川亜希が区間賞の走りでワコールを追っかけ、アンカー勝負にもつれこんだ。最終区は最長の8キロだが、ワコール新田百恵とラ・ラ・ラの前田明香のガチンコ対決も、このレースの見どころのひとつで、目がはなせなかった。 終始びっしりと肩を接して、おたがいに一歩も譲らない。熱っぽさがそのまま伝わってくるような吐息が聞こえてくる。そんな錯覚すら覚えた。 トラックにおけるタイムからみれば、新田のほうがはるかに上回るのだが、彼女はあえて前に出ることはない。相手との間合いを計りながら、幾分でも余裕を持っておこうという腹なのか。それとも危険をともなう攻めを避けて、あくまで受けに徹する道を選んだというのか。中盤は新田の底意を図りかねていた。 相手のエネルギーの残量をうかがうかのように、なんども前田がちらと新田に視線を投げる。まるで動じない新田に心理的なペースを乱されたのか、7キロ付近から前田はなんども仕掛ける。その心理的な駆け引きは見応えがあった。 新田は実に辛抱強い勝負師だった。もしかしたら最初からトラック勝負で決着をつけようと考えていたのか。競技場で一気に前に出ると、もう前田の追従をゆるさなかった。区間賞は前田譲ったものの、チームの勝利を確実に手中におさめたのである。 どこかあどけなさの残る容貌の裏側に、強かな勝負師の貌がある。 ☆ワコール(片渕恭子、新垣茜、金田真沙美、福士加代子、中嶋絵美、新田百恵)
区 間 最 高
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